冒険者見習いになれました
「ミミリー」
「はい」
「これ、絶対に口外するな。そこの3人もだ。あと坊主、それ誰彼構わず見せるな」
「それは構いませんが、なぜですか?」
「俺みたいなやつに軟禁される恐れがある」
「へっ?」
なんでそんな話に!?ミミリーさんは分かっている風だけど、コパールさん、ミラルダさん、ラミネさんは僕と同じように分かってないみたい。なんでだろう。
「坊主はちょっとこっち来い」
そういってボーグさんは階段を登っていく。2回にはギルドマスターの部屋と資料室と会議室がある。迷わずギルドマスターの部屋「ゴルドル、入るぞ」と言ってさっさと入っていった。僕もそれに続く。
「おう、良く帰ったな、ボーグ。お、クロウもいるのか」
「あぁ。早速ですまんがゴルドル、こいつの扱いはどうなっている」
「む?ギルド職員の見習いとして登録はしたが、特になにもないぞ。・・・何かあったのか?」
「あぁ。・・・坊主、こっちへ来い」
ボーグさんの表情から、重大な問題があることだけは分かるけど、一体何が・・・。僕が不思議がっていると、ボーグさんは1枚の紙を取り出した。不思議な模様が書いてある・・・いや、文字なのかなこれ?なんとなく規則性があるからそんな気がする。
「こいつを転写してくれるか?インクは色付き・・・いや、インクに魔力を込める感じでやれるか?」
「多分出来ると思います。・・・では、『転写』・・・っ」
意識して魔力を込めようとしたら、予想以上に魔力が僕から抜け出ていく・・・くっ・・・危ない、もう少し持っていかれたら、また意識を失うところだった。いつ起きるか分からないから怖いんだよね。
「ッハッハ・・・結構ギリギリでした・・・これなんなんですか」
「ちょっと待て・・・ゴルドル、水はあるか?」
「・・・今飲もうと思っていたこれくらいしかないが」
そういって大きめのコップに注がれた水を指さした。すると、ボーグさんはコップに先ほど僕が転写した紙を巻きつけた。何をしてるんだろう。
「どれ・・・発ッ!」
ボーグさんが魔力を込めた!すると、部屋の中が急激に冷えていく!なに?なにが起こってるの!?
「おいおいマジかよ・・・」
ボーグさんが小さく呟いた気がしたけど余りよく聞こえなかった。
「ゴルドル!」
「あぁ、やべぇな。ウチでどうにかできる気がしねぇ。とりあえずギルド内に箝口令(箝口令)は敷いておくしかねぇな」
「はぁ・・・休みに来たはずなんだがな、俺しかいねぇか」
「あぁ。戻ってきて早々にすまんな、ボーグ」
「いやなに、悪いことばかりじゃぁないさ。こいつは使える」
ボーグさんはそう言うとニヤッと笑った。ゴルドルさんは呆れたように「ほどほどにしとけよ」と言っている。
「あの・・・そろそろ説明が欲しいのですが・・・僕またなんか拙いことでも?」
僕がそう聞くと、ボーグさんはさらに笑う。
「いいや、最高に良いことさ。お前さんの立ち位置さえしっかりしていれば、な。」
ボーグさんは続けてこう言った。
「坊主・・・いや、クロウ。俺が今日からお前さんの師匠だ。拒否はできんぞ、決定事項だ」
あの『魔弾のボーグ』が僕の師匠・・・!これで浮かれずにどこで浮かれろっていうんだろう!冒険者の中でもトップクラスの実績をもつボーグさんに師事できるなんて、幸運なんてもんじゃない。36層まで降りるボーグさんのダンジョンアタックは、最長で2か月にも及ぶ。なので、そもそも見習いの師匠になるには適したとは言い難いのだけど、その短い時間に僕を指導してくれるというのだ。こんなに嬉しいことはない。
でも、喜んでばかりもいられない。まだ『なぜそうなってしまったのか』を聞いていない。一体僕に何を見ているのか。
「さて、そろそろクロウの疑問に答えないといけないな」
「少し聞くのが怖いんですが・・・お願いします」
ほんとに怖い。だって箝口令って・・・怖すぎ!!
「まずはこれの説明からだよな」
そういってボーグさんが取り出したのは、僕に転写させた謎の模様が描かれた紙。魔力が込められているのは分かるけど、一体何なんだろうね。
「これは俺の趣味と実益を兼ねた魔導具の1つでな。ダンジョンの探索にも使っている。俺は『魔符』と呼んでいるが、分かっていると思うが冷気を出す魔導具だ」
さっき急に室温が下がったのはその魔導具の効果らしい。ちなみにゴルドルさんのコップの中身はカチンコチンに凍り付いていた。
「見ての通りの効果でな。36層に到達したときにもコイツがあったおかげで全滅しなかったと言ってもいい。魔導具ってのは冒険者の生き死にを左右する。その分高価だがな、命には変えられん」
そうか・・・噂で聞いた36層は灼熱地帯。ジッとしているだけでも熱さで肌が焼け、モンスターも当然燃え盛る炎を纏ったり、ブレスを吐いてきたりと一歩間違えば壊滅していたらしい。そんな時に助けになったのがこの魔符だそうだ。
「でだ。この魔符の出所はどこだと思う?」
「どこって・・・」
魔導具と言えば『錬金スキル』で直接生み出すか、『付与スキル』で後から付け足すかの2択のはず。
「錬金スキル保持者が作ったものですか?確かセントラルには高名な方がいらっしゃったはず。確か・・・『クラリネス=パラケス』」
僕の答えに「ほぅ」とゴルドルさんもボーグさんも軽く息を吐いた。
「期待されているだけはあるな。クラリネスの名を知っているか。奴の名前がここまで広まってるとは思えんが」
「爺ちゃんから借りた本に、錬金スキルの新たな可能性という感じで紹介されたものがありました」
『錬金スキル』は魔導具だけでなく、薬や毒薬、料理を作るスキルだ。その中で近年、別の角度から検証した錬金師がおり、その人物こそがクラリネスだ。初めは異端児として受け入れられなかったのだが、成果をあげ、錬金の新たな道を示した結構有名な人らしい。僕の答えに納得したのか、ボーグさんは納得した顔になったが・・・
「まぁこれは不正解だけどな」
「ということは、付与ですか?」
「それも違う」
僕の用意した答えは2つとも間違っていた。となるといったい・・・。
「これはな、錬金スキルでも付与スキルでもない。ダンジョン産の魔導具だ」
ダンジョンからは未知の物が度々発掘するとは聞いていたけど、これが・・・でもそれにしては効果が弱いような。
「まぁコイツは何度も使って、残りカスみたいな魔力しか残ってなかったんだけどな。・・・そこでお前だ、クロウ」
ようやくわかった。隠しておかなきゃいけないのは、この『転写』だ。
「もしかしてこれ・・・いろんな人から狙われますか?」
「そうだな」
あぁ、やっぱり・・・。『魔導具の効果を写し取れる』なんて、騒動の種にしかならない。しかも錬金スキルなどで人が作ったものではなく、まだ研究が進んでおらず、未知の存在であるダンジョンさんの魔導具となれば、いくらでも利用価値が出てくる。
「だから『俺』だ。冒険者の中でもそれなりの地位も名誉も頂いているからな。バレたときでもある程度ごまかしは効くようになってるだろっていう保険だ。」
「ワシからもよろしく頼むぞ、ボーグ。スキル云々を抜きにしても優秀な奴じゃ。貴族に飼い殺しになんぞさせたくない」
うげ、貴族まで絡んできかねない物なのか、これ。ボーグさんに会えなかったらこれどうなってたんだ・・・。思わず背筋が震えた。
僕が不安になっていると、ボーグさんが声をかけてくれた。
「まぁバレなきゃいいんだ、バレなきゃな。お前さんさえ使わなければバレる心配もない。少なくとも一人前になるまでは人前で使うんじゃねぇぞ」
一人前に・・・。でもボーグさんは2か月もしないうちにセントラルへ戻るはず。ボーグさん抜きでは一人前になんてなれそうもない。
「心配せんでいいぞい。ワシから『依頼』という形でお前に師匠をつけてやる。ちゃんと信頼できる奴を呼んでおくから大丈夫じゃ」
僕の懸念については、すでに対策済みだった。さすがはギルドマスター。筋肉は脳まで達していなかったみたいだ。
「そういうわけだから、この師弟関係は強制だ。子供には過分すぎる力だ。ギルドの管理下に置かせてもらうぞ」
ことの重要性を理解したので、僕はコクリと頷いた。
「・・・でだ。その才能を腐らせるのも惜しい。伸ばすことで、お前さんの将来にもプラスになるだろう』
「え、でもさっきは使うなって・・・」
「人前ではな。だが使わんことにはどこまでできて、どこから出来ないのかもわからん。少なくとも検証だけはしておきたい」
管理下に置かれる立場なのだから、確かに効果範囲を知る必要がある。どんな危険があるかは確認しなければならないのは分かる。でもなんか嫌な感じだ、誰かに僕のことを管理されるというのは。
「おいおい、ボーグ。子供をそんなに怖がらせることないじゃろう。クロウが不安がっておるぞ」
「いや、しかし建前は必要だろうが。なにかあったときの保険はいくらでもあった方がいいだろ」
「んなもん子供を恐がらせる理由にはならんわ。いいか、クロウ。ボーグはひねたやつじゃからな。言葉をそのまま受けとらんでいい」
「え・・・どういうことですか?」
キョトンとしている僕に楽しそうに笑いながらゴルドルさんは言い放った。
「こいつは自分の魔道具を増やしたいだけなのさ」
「そういう面も否定はできん」
そんなわけで、冒険者ギルドへ初出勤のその日に、僕はめでたく冒険者見習いになることになった。やったああぁぁぁぁ!
「冒険者見習いになっても、ギルド職員も兼務だからな」
うっそぉ・・・
これで2章終了です。3章の投稿までは、またしばらくかかると思います。




