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師匠になってくれそうな人が現れました

「あ~~。こんなにまったりしていいんだろうか」

「いいのよいいのよ。日が沈み始めたら冒険者がこぞってくるんだから。今のうちから英気を養ってるのよ」

「それに、ちゃんと勉強もしてるんにゃよー。クッキーさくさく美味しいにゃー」

 勉強といいつつもクッキーの感想をいってますけど。そしてまだ日は高い。この時間を使って色々と聞いてきた身としてはありがたかったのだけど、冒険者ギルド的にはありなんだろうか。


「ありよ」

「ありね~♪」

「(コクリ)」

「ありにゃー」

 ・・・なるほど、冒険者ギルドも奥が深い。僕は本の複写を時にはお茶やお菓子は禁止だ。紙が汚れるので。


そんな話をしていたら、冒険者ギルドの扉がギィッと音を立てた。中に入ってきたのは・・・どこか力の抜けたような表情の中年の男性だった。屈強な身体をもった人が多い中、珍しい体躯の人だなぁと見ていたら、コパールさんが声をあげた。


「いらっしゃい~お待ちしてました♪ご無理を言ってすみませんネ」

「いやいや、休暇ってことでこっちに戻ってきたけどホームだからね。問題ないさ。美しい花も多いことだし俺は構わないよ」

 彼の発言で、僕以外の空気が固まる。花?花はおいてないけど、女性がキレイってこと?僕が?ハテナマークを浮かべていると、ミラルダさんに「覚えなくていい。戯言」というので、多分怒らせるようなことなんだろう。詳しくは聞かないでおこう。


「花は売ってないにゃ」

「じょ、冗談だよ、冗談。お願いだからその棍棒を置いてくれないかな?」

 ラミネさんの顔から表情がスッと消えて、気が付けばミミリーさんが棍棒をもって佇んでいた。こわっ!


「冗談は顔だけにしといてくださいね」

「ひどっ!これでもセントラルではそこそこ人気あるんだけどなぁ。ん?そこの坊主は新しい見習いか?ははっ、カッコ悪いところみせちまったなぁ」

 頭をボリボリとバツが悪そうな表情を見せる男性。確かにミミリーさん相手に後ずさる姿はカッコ良くはなかったけど、なんとなく余裕があったように見えた。


「初めまして、クロウといいます。本日からこちらに不定期ではありますがお世話になることになっています」

「クロちゃんは将来有望な職員なのよ♪」

「クロウは優秀」

「出世は間違いないにゃー」

 みなさんが僕を誉めちぎり、相手の冒険者の人も「ほぅ」と言う反応をしているけど、違う、そうじゃない。


「あの・・・何度も言ってますが、僕は冒険者志望なんですけど」

「にゃんだってー!?(棒読み)」

「知ってる」

「でも優秀だと思ってるのはホントよ♪」

 からかわれてはいるのだけど、同時に評価もされているので、怒るべきか喜ぶべきか、なんとも言えずに押し黙ってしまう。


「坊主・・・お前さんは冒険者になりたいのに職員になったのか?ふむ・・・よく分からん奴だな。誰かに騙されたりしたのか?例えばそこの・・・ひっ!」

 こん棒をまだ手から放していないミミリーさんと目が合ったみたい。何も言わないのが逆に怖い。


「きっかけは僕の勘違いからでしたが、悪くないと思ってますから大丈夫です」

 僕がそういうと、「ほぅ」と一言こぼし、顎で続きを促された。


「伝手がないんです。冒険者の。なので顔を売ると考えると最善ではないかなと。それにここでしか触れられないことも沢山ありますので」

「例えば?」

「ここで仕事をすれば、冒険者の腕前を見ることができます。依頼達成時の評価がそれです。引き受けてくれるかは分かりませんが、自分の師匠は自分で選びたいです。あと資料室の閲覧ができれば役立つ知識が沢山得られそうだと思いましたので」

 僕がそう言うと、冒険者の男性はニヤリと笑った。爺ちゃんが交渉の時によく見せる悪戯っぽいやつだ。この人は明らかに僕を値踏みしている。ここからが正念場らしい。


「それじゃあ俺はどうだい?お前さんが望めば師匠になってやらんこともないぞ」

 急な申し出に僕は頭の中が真っ白になった。え?今なんて・・・?


「どうした?師匠を探してるんだろう?」

 目の前の男性は、答えを急かしてくるが、待ってほしい。この人は明らかに僕を試している。でも僕は答えに困っていた。あのニヤリとした笑みが、どうにも引っ掛かって、安易に答えをだせずにいた。


「お前さんは随分と慎重なようだ。でもいいのか。そんな悠長にしていたら、チャンスを掴み損なうんじゃないのか。」

 尚もニヤニヤと笑いながら言葉を投げられた。つくづく爺ちゃんみたいな顔だなと思う。そう考えていると、だんだん冷静になってきた気がする。多分焦って飛びついたらゴルドルさんの時と同じになってしまう。


「・・・貴方は師匠になれないのではないですか?」

 僕の答えに何かしら思うところがあったのか、男性はニヤァと笑みを深めた。


「なぜそう考えたんだ?」

「先ほどの会話で『休暇』でこちらに来たとおっしゃいました。ですので期間の問題があると思いました。あと、そもそもの話なのですが・・・貴方の名前も、冒険者かどうかも僕は分からないのです。冒険者じゃないって言われた方が驚きなんですけど」

 僕の答えに満足したのか、うんうんと頷いているので、とりあえずは及第点なのかな?


「お前さん・・・クロウといったね。とりあえず合格かな。君の言うようにさすがに後見人になるには時間が足りないんだよね。ある程度教えることはできるけど、期間限定の見習いってことになるかな」

 やっぱり一人前になるまでは見られないみたいだ。そんな風に評価している隣から横槍がはいった。


「まったく、副ギルドマスターも人が悪いわ~。いたいけな少年にいじわるして何が楽しいのかしら」

「そうにゃ、そうにゃ」

「・・・悪趣味」

 え、副ギルドマスターだったの!?ということはこの人は・・・!


「すまんな、坊主。子供相手でもどんなやつなのか確認はしておかんいかんからな。騙し討ちみたいになったのは悪かったよ」

罰の悪そうに頭をボリボリと掻きながら彼は続けた。


「ライラック冒険者ギルド 副ギルドマスターのボーグだ。『魔弾のボーグ』と言えば分かるか?」


『魔弾のボーグ』


 最古のダンジョンと言われているメルトダンジョンの第一線で活動する冒険者だ。初の36層到達したチームの一員であるために、その名前を知っている人の方が多い。

知識と機転、索敵能力も高く、彼がいなければ36層の到達はなかっただろうと言われるほどの立役者だ。


 軽薄な空気は演技だったのか、今目の前にいるボーグさんかは、偉業を成したと実感させるような威厳あるオーラだった。


 そんな大物だったとは思わず、酸欠の魚のように口をパクパクさせることしかできなくなっていた僕の肩を叩き、彼はこう言った。


「無鉄砲に、闇雲に突っ込むこたしか脳がないやつらが増えてきた中、お前さんのやうに慎重なやつは貴重だ。俺も期待しておくぜ。なんならほんとに師匠になってやっても」

「本当ですかっ!!お願いします!!」

「おい、話は最後まで聞け」

 頭を小突かれた。慎重すぎてチャンスを失うのは今だと思ったのに違ったようだ。


「慎重なのか大胆なのか分かんなくなっちまったぜ・・・ったく」

「ふふ、そりゃそうですよ。あのケヴィネンさんのお孫さんですから」

「あの業突く張りのジジイのかっ!坊主・・・苦労してんだな・・・」

「爺ちゃんに苦労させられたことはないですよ?たまにちょっと意地悪ですけど・・・」

 爺ちゃんに言われようが気になるけど、実際苦労はさせられた記憶はない。普段は優しい爺ちゃんですよ。まぁ商談相手には容赦ないんだね、うん。よくわかったよ。僕もある意味商談相手みたいなもんだけど、勉強のためにって感じもするもんな。


「そうかそうか、ずいぶん子供っぽくないなと思ってはいたが、あのジジイの孫とはね・・・」

 あれ、なんか凄い人当たりが良くなったような・・・爺ちゃんが一体何をしてきたのかきになるところだけど、完全に藪蛇になりそうだよね、これ。うわぁ・・・どんな顔して会おう。まぁそれは置いといて。


「で、本当に師匠になっていただけるんですか?ボーグさん!」

 なんと言われようと、このチャンスを逃すわけにはいかないのだ。この街の冒険者は基本的にダンジョンに潜った経験が少なく、町周辺の討伐がメインの冒険者が多く、荒っぽい人が多いのだ。そのうえ酒癖も悪い。冒険者ギルドに通い続けている僕が、いまだに師匠に巡り合えないのはつまりはそういうことなのだ。師匠になってほしいと思える人が1人もいなかったのである。ギルドマスターのゴルドルさんの提案に飛びついてしまったのはちょっと失敗だったけど、今回はダンジョン攻略の第一線で活躍しており、『魔弾のボーグ』という異名まで広まっているほどの冒険者。しかも副ギルドマスター。飛びつかないほうがおかしいよ。うん。


「まぁ坊主の気持ちは分からんでもないけどな。俺としても、最近威勢ばっかりで突っ込むことしか知らんような奴よりも、お前さんのような慎重な奴の方がダンジョンには合うだろう。俺の回りはがさつなのがおおくてなぁ ・・・っと、それは今は置いておくか」

 ボーグさんは、ふぅっと息を吐くと、僕をしっかりと見据えて問いかけてきた。


「お前さんが言う通り、俺がここに居れる期間は長くない。それでも俺を選ぶ理由を聞きたい。下らん理由なら認めん」

 まだ試練は終わらないみたいだ。


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