ダンジョン産のアイテムです
「おじいちゃん。クロウさんになにさせようとしてるのです?」
少し怒気を帯びたルムルからの質問に、バドルさんは少し冷や汗を流しはじめた。おいおい、ルムルが聞いてくれてよかった。何の警戒心もなかった自分を反省してバドルさんの回答を待つ。
一息深く「はぁぁぁぁ」と長い息を吐いてから、観念したようにバドルさんは言った。
「ダンジョン産の出土品の格付けだ」
「ダンジョン産っ!!!!やります!やらせてください!!」
「ぬおっ!お、おぅ、そのつもりだからそんなに鼻息荒くせんでいい」
「ほへぇ・・・ク、クロウさん急にどうしたのです?」
食い気味に行き過ぎた。反省。ちょっとルムルにも心配されるが大丈夫。俺は正常だ。そんなやり取りをしていたら、ミミリーさんが戻ってきた。早いな。
「クロウ君・・・聞いちゃったのね。」
僕の様子を見て、ミミリーさんは察したようだ。はい、聞いちゃいました。ダンジョンから出てきたアイテム!ワクワクが止まらないとはこのことだ。
「ホントにダンジョンが好きなのねぇ・・・。好きもここまで行けばもう病気よ」
「病気でいいですから早く見せてください。その箱の中身を」
早く早くと急かすと、手のひらを見せるように前に差し出される。待てということですね。いえ、待てません。早く!
「こんなに聞き分けの悪いクロウ君は初めてだわ・・・。バドルさん、お願いしますね」
「うむ」
箱は僕ではなく、バドルさんの手に渡された。残念だけど、もうしばらくの辛抱・・・のはず。一体何が入っているんだろう。ダンジョン産ということは、見たことのないような物ということは分かるけど、わざわざこのギルドに持ち込まれたというのが気になる。
ダンジョンのある町は『バダン』は、ここから3つほど町を挟んだところにあるダンジョン街。そこで回収されたものが、どうしてわざわざここまで 持ち込まれたんだろうか?
「さて、坊主。この箱の中身はさっきも言ったようにダンジョン産だ。・・・だが、少々わけありでな。こいつを見つけた冒険者も、ダンジョン街でも査定してもらったらしいんだが、どうにも用途が分からんのでその価値を知ることが出来んかったようだ。で、買い取りも拒否されてしまってな」
「そういうこともあるのですね・・・調査対象としても買い取ることはされないんですか?」
「うーん・・・そういうこともあるんだが、こいつはそこまでの物ではないと判断されたんだろう。少々訳ありの冒険者でな。俺が個人的に買い取らせてもらった。」
「わけあり?」
「そこは気にするな。まぁ隠すような理由でもないんだが、一応個人情報だからな。
そういうわけで、ココにあるのはそういう事情だが、見てもさっぱり分からん。王都にその手の優秀な研究員を派遣をしようかという話も出ているんじゃが、費用が賄えんでな。手をこまねいた」
訳ありと聞いて少し心配したけど、あっさり流されたので、純粋に金に困った感じなんだろう。で、見かねて買い取りはしたけどどうにか有用性を見出したいって感じなのかな?
「というわけで、待たせたな。箱の中に入っている。見てみるといい」
バドルさんから箱を受け取り、蓋を開け中を覗き込む。小指の爪くらいの大きさの球状の物体がいくつか並んでいる。じっと集中してみると、魔力が内包されているのはよくわかった。ヒールリーフよりもかなり濃密な・・・ん?これって・・・。
「種・・・ですか?」
「ワシに聞くな、分からん。逆に聞くがどうしてそう思った?」
どうして・・・うーん。なんでだろう・・・。
なんとなくで言葉にした言葉だけど、それにはきっと理由があるはず。少しずつ紐解いていけば分かるかもしれない。うーん・・・
「本当になんとなくなんですが、ヒールリーフに似ています。・・・あ、似ているといっても性質は全然違うんですけど」
「どういうことだ?もう少し分かるように言ってくれんか。まずヒールリーフと似ている部分から頼む」
それから僕はバドルさんに1時間以上にも及ぶ説明をした。説明をし始めて「ちょ、ちょっと待て!ミミリーちゃんヘルプ!」と、なぜかすぐに根を上げたバドルさん。ヘルプに呼んだはずのミミリーさんから「バドルさんの問題なのですから」と、退席を許されず涙目になっていた。
「と、いうわけで、僕はこれを植物の種と判断したのだと思います。確証はないですけど、そんな感じがするんです」
説明を終えると、ぐったりしていたバドルさんの目に光が戻った。ルムルは終始、目を輝かせながら元気にメモをしながら聞いていたというのに、トップに立つのがこんなのでいいんだろうか・・・。
「・・・ミミリーちゃん、解説お願いできる?」
「嫌です」
バッサリ言った!あれ、ホントにバドルさんって嫌われてるの?この人が僕の上司になるんじゃないの?すごく不安になってきたんですけど・・・。
「クロウさん凄いのです!植物に造詣が深いのですね!尊敬です!」
一方のルムルちゃんは、しっかりと聞いてくれていたのか、僕の説明がしっかりと植物の性質について触れていたことにちゃんと気づいていたみたい。バドルさん・・・お孫さんの方がしっかりしていませんか?大丈夫ですか?
「つまりヒールリーフの魔力の躍動みたいなものを感じるということなのですよね?」
「そうだね、ルムルはよく聞いていたみたいだね」
「ルーちゃんは勉強熱心で偉いわ。それに比べて・・・」
あまりに冷たい視線に僕までゾクッとした。その視線を受けたバドルさんは冷や汗をだらだらと流している。もうこの人のことは反面教師にしよう、そうしよう。
「薬になる植物に魔力があるのは知っていたけれど、まさか共通性があるだなんてね。つくづくクロウ君には驚かされるわ」
「すごいのです!」
「とはいえ種の比較は出来ていませんでしたが、こちらのザクランシードと比較できたのが大きかったですね」
箱に入った種っぽいものはは、どうにも魔力を読み取りづらかったのだが、植物の魔力の波動と同じようなものを感じたのだが自信がいまいちモテなかった。そこで、同じ植物で種であるザクランシードと比較させてもらったのだ。ザクランシードも硬い殻で覆われている。その殻が魔力をにじませることなく中に閉じ込めていることがわかり、これが種なのだという確信につながった。よかったよかった・・・では終わらない。
「種子というからには栽培しないといけない」
そう、それが一番の問題だった。普通に土に埋めても大丈夫なのか。水のなかでしか育たない水草という可能性もある。僕やミミリーさん、ルムルが頭を悩ませているというのに、バドルさんは「とりあえず何でも試してみりゃぁいい」と、なんとも脳筋発現。さすがゴルドルさんの弟さん。でも全くの未知に対してはそれしかないというのも分かるんだよなぁ。
「僕からはこれ以上の情報は出せませんから、バドルさんの判断でよいと思います。」
「よし!では早速っ!」
と言って駆けだしたバドルさんの足目掛けて、見覚えのある棍棒が差し込まれ、気持ちがいいくらいに見事に転倒した。ミミリーさんは棍棒使いの何かスキルでも持っているのだろうか。とても鮮やかな動きだった。
「なにすんじゃ!」
「サボろうとした職員を止めただけですが何か問題でも?」
「ぬぐっ・・・」
ミミリーさん強い・・・。もしかして結構偉いポジションなのかな?すっごく気軽に話を聞かせてもらってたけど大丈夫だったのかな。急に不安になってきた。
「今日はバドルさんしかいないんですから本当にダメですからね。さぁ、クロウ君。受付も落ち着いたでしょうから、あちらにも顔合わせに行きましょう。まぁ知った顔ばかりだとは思いますけど念のためです。」
「分かりました。皆さんにはいつもお世話になってますからね」
何度も冒険者ギルドには通っているので、ミミリーさん以外にもお世話になっている。気のいいお姉さんはお菓子なんかもくれたりして、見習いの子と一緒にお茶を頂いたりなんかもしている。
「ではバドルさん。明日からたまにお手伝いに来ますので、色々教えてください」
「おう、こき使ってやるから期待しとけ」
「はは・・・お手柔らかにお願いしまね」
ペコリと頭を下げて退室する。ルムルもペコリと返してくれた。




