仕事の説明を受けます
「う・・・うぅん・・・」
ソファーから身じろぎするような音と、声が聞こえた。ルムルが気が付いたようだ。5分くらいで気が付いてくれたのは何よりだ。なお、バドルさんは再起動していない。相当なクリティカルヒットだったようだ。効果は抜群すぎて困ったものだ。
「ルーちゃんおはよう。気分はどう?」
「・・・あっ、ミミリーさん。おはようございますです?わたしはどうして・・・っ!」
状態を起こしたルムルと目が合った。ペコリと僕は会釈をして顔を上げたときには彼女の顔はまた真っ赤に染まっていた。やはりアースフラワーが必要なのでは・・・?
「クロウ君。大丈夫だからその辺りの物は触らないでね」
「あ、はい。分かりました」
身を乗り出して、周囲から納品されたアースフラアワーが無いか探そうとしたのだが、ミミリーさんに止められてしまった。確かに、勝手に備品などを触るのは確かに良くない。反省しよう。
「もう・・・しょうがないわね。ルーちゃんはソファーの上でいいから聞いてね。冒険者ギルドからの連絡事項を伝えます。楽にしてていいからちゃんと聞いてね?」
「はひ、わかりました」
色々あったがようやく本題に入れるみたいだ。まだバドルさんが身動き一つしてないけど大丈夫なんだろうか。ミミリーさんが慌てた様子が無いので大丈夫ということにしておこう。きっとよくあることなんだ。うん。
「本日より、査定部に見習いの人員増加となります。クロウ君、改めて自己紹介を。」
「はい。本日より、冒険者ギルドライラック支店でお世話になります、クロウと言います。冒険者を目指しています。よろしくお願いします。」
ペコリとお辞儀。
「クロウ君は、事情により不定期の参加となります。すでに文筆家としての実績もあるため、兼務扱いとなるために毎日の業務従事を義務付けられていません。来たり来なかったりになりますけど、顔だけは覚えておいてね、ルーちゃん。」
「あ、はい。分かったのです・・・・あの・・・すみません、質問いいです?」
「なにかしら?」
「冒険者になりたいのにギルド職員になるのです???」
ルムルの頭に?マークが浮かんでいる。うん、確かにそう思うよね、うん。僕もそう思ってた。
「僕にとって都合が良かったんだよ。最初はだまされた!って思ったんだけど、ギルドマスターとミミリーさんの話を聞いて、納得してここにいるから大丈夫だよ。簡単に言っちゃうと冒険者との伝手を作りたかったんだ。」
それ以外にも冒険者の知識を得るにはココが一番良いという利点もあるけど、一番はやっぱり伝手つくり。僕には現役冒険者の知り合いがいないからね。本を書くだけの今の生活では冒険者になること自体が難しいんだ。
僕の答えにルムルは「そういうのもあるのですね」と納得してくれたみたいだ。
「ルムルなのです。バドルおじいちゃんの下で見習いの査定士をしているのです。さっきはお見苦しいところをお見せしましたのです。」
ペコリとお辞儀をしてくれたのでこちらからもペコリ。顔を上げるとお互いに目が合う形となり、なんとなくフッと笑ってしまう。
「っ!」
再び赤くなってしまった。本当に恥ずかしがり屋さんなんだなぁ。ついつい妹のことを思い出してしまう。なんだか可愛いな。
「はい、挨拶はこのくらいにして、お仕事の説明しましょうか・・・って言ってもバドルさんがこの調子なので私が説明するしかないですよね。・・・はぁ。」
えっ、バドルさん放置?ひょっとして嫌われてるの・・・?ミミリーさんもそんなに説明するの嫌なの?
「だってクロウ君に説明するのよ。説明のし甲斐がないじゃないの」
「え、僕だから嫌なんですかっ!?」
ショック・・・これが職場でよくあるというイジメというやつか・・・なるほど、これは辛い。ストレスで禿げると聞いたときはそんなことあるわけないと思ったけど、この精神にかかるダメージは、確かに体のどこかに不調が来てしまってもおかしくない。
・・・ふとバドルさんの姿が目に入った。そうか、これも実例の1つなのかもしれない。
「ちょっと・・・私が悪いみたいじゃないの。何を説明してもクロウ君が『知ってます』みたいな顔ばっかりするからでしょ」
「えぇ~~!そんな顔してますか僕」
じとーっとした目で睨まれるけど、身に覚えがないんですけど。
「じゃぁヒールリーフの見分け方の説明しましょうか?」
「あ、はい、大丈夫です知ってます。・・・あ」
ミミリーさんの目が更に険しいものになった。・・・あはは・・・スイマセン。
「えっ?えっ?ど、どういうことなのです?クロウさんは今日から・・・なのですよね?」
「あー・・・うん。ルーちゃんには説明してないもんね。ごめんごめん。一応ギルドの秘匿事項に当たるからよく聞いてね」
「えっ・・・はい」
ルムルが息を飲んだのが分かった。納品数以上の数は作らないようにと釘を刺されてたけど、秘匿事項にまでなってたのは初耳。
「ルーちゃん。今あなたが教本代わりに使っている物は何かしら?」
「おじいちゃんから借りてるヒールリーフの査定表なのです。これのおかげでおじいちゃんからも怒られることが少なくなったのです」
「うん。バドルさんからも『見習いがこれで育てやすくなる』って聞いてるわ。ちょっとした革命って言ってもいいわね」
ミミリーさんの言葉に少し頬を紅潮させて、うんうんと首を縦に振るルムル。
「それを作ったのが、このクロウ君なのよ」
「えっ」
突然ルムルがフリーズした。魔力の切れかけたゴーレムみたいにギギギとこちらを見たので。肯定の意味で頷いた。
「ほ、ほんとなのです?」
「うん。元は冒険者見習いをしてる子に渡すために作ったんだけどね。使ってもらえてるみたいで嬉しいよ」
査定部の方でも見習いに渡されているようで、ルムルがしっかりと活用しているみたい。ちなみに、ギルドに卸された際の金額はまだ爺ちゃんから聞いてない。お金は僕のもとには銅貨1枚だって来ていないのだ。・・・このまま爺ちゃんに持ち逃げされないか心配になってきた。
「そういうわけで、あれを作ったクロウ君は、ヒールリーフの色分けは容易に出来きてしまうんです」
「いえ、色よりも詳しく魔力保有量で判別できますよ」
「・・・クロウ君、今なんて?」
あれ、言ってなかったかな?そうだ、言ってないや。基本的に聞くばかりで、自分のことはあまりしゃべっていない気がする。筆記スキルのことも言ってないな。母さんからスキルについては詮索しないようにって言われたから、自分からもあまり言わないようにしていたんだった。
「えっと・・・ヒールリーフが持っている回復作用は、葉が蓄えている魔力用に比例するという研究をまとめた本を読んだことがあってですね。魔力は多いほど黄色、つまり明るい色になる。つまりヒールリーフの魔力の属性は光ということを表しているのですが、これが時間がたつにつれて魔力が抜けてしまうのか、葉は徐々に黒ずんでいき、黒に近い深い緑色になる。その原因は一説には、ヒールリーフが元々持っている魔力を大地に・・・」
「ストップ!ストーーーーップ!!」
「えっ?」
これからがいいところだというのに。僕が今まで読んだ本の中で一二を争うくらいにとても感銘を受けた『ヒールリーフ研究マニアックス』著:マグナガルダ=ベスフーリ。薬草関連の書籍で彼以上に詳しく考察された本は僕は見たことがない。どうやら爺ちゃんが本人から買い取ったらしいけど、お貴族様らしい。でも研究にハマりすぎてしまって財政を傾けてしまって、研究の成果をまとめたレポートを本にまとめて爺ちゃんに売りつけてきたそうだ。その話をしたときの爺ちゃんは相当苦い顔をしていたので、結構な額で買い取らされたんだと思う。
「残念そうな顔しない。ほんっとにクロウ君は・・・自分が異常だってことにそろそろ気づこうね?」
「むぅ・・・僕なんて少し小賢しいだけの子供ですよ。」
「いやいや、そういうところよ?そろそろ気付こう?」
むむ、ミミリーさんの目・・・というか眉間がかなり険しいことに・・・。これは黙っておいた方が吉な気がする。僕の直感は当てにできないけど、これは経験則だからきっと正解のはず。
「ほへぇ・・・つまりどういうことなのです・・・」
ずっと静かだったルムルが気の抜けたような声を上げた。頭に浮かんでいたクエスチョンマークは消えるどころか増えてしまっている。
「え、えーっと・・・つまりクロウ君は優秀ってことなのよ。うん」
「・・・なるほどなのです!」
なんか雑にまとめられた気がする・・・。でも優秀と言われたのは嬉しい。思わずにやけそうになるのをグッとこらえる。そんな姿を晒せばミミリーさんにからかわれるからだ。




