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同僚に挨拶します

 コンコン


 バドルさんの声に負けてしまいそうなほど控えめなノックの音が聞こえた気がする。気のせいかと思ったけど、ミミリーさんから「どうぞ」という声が発せられて、扉が開かれた。


「おはようございま・・・っ」


 そう言いながら入ってきたのは僕よりも少し小さいくらいの女の子・・・だったんだけど、僕を見るなり外にでてしまった。えっ、どういうことなの。初対面で避けられるのって初めてで結構ショックなんだけど・・・。

 僕が呆然としていたら、ミミリーさんが扉に声をかけた。


「ルーちゃん。この子は大丈夫だから入ってらっしゃい」

「で、でも・・・知らない子が・・・」

「この子は大丈夫よ。何かあっても私が間に入ってあげるから。」

 ミミリーさんの説得により、扉の隙間からルーちゃんと呼ばれた女の子が顔をのぞかせた。妹のネルよりは少し大きいけど僕よりはおそらく年下の女の子。茶色の髪を左右ちょんと縛っている。まだ不安が残っているのか、目元が潤んで見える。

 怯えた様子の原因はやっぱり僕だった。人に嫌われるのってこんなに悲しいことなんだ・・・どうしよ、妹にそんな風にされたら僕は泣く自信がある。

 ミミリーさんの呼びかけが功を奏したのか、身体を隠していた扉から姿を現した。まだ不安そうにこちらを見ているけれど、初対面だし警戒されるのはしょうがないと気持ちを切り替える。


「初めまして。驚かしちゃってごめんね。僕はクロウ。えぇっと・・・あれ?ミミリーさん、僕ってなんで来たんでしたっけ?」

 そんな僕のおどけたような物言いに、ミミリーさんはクスっと笑って女の子に話しかける。


「もうっ、クロウ君ったら。そんなに気を使わなくっていいのに。本当に子供っぽくない子ねぇ。ルムルちゃん、挨拶をされたらどうするのかしら?」

 女の子はハッとなった僕にペコリとお辞儀をしてくれた。


「はっ、はじめまして。ルムルなのです・・・。見習い査定士をしていましゅ。」

 あ、噛んだ。顔がだんだんと赤く染まっていき、ミミリーさんの影に隠れてしまった。恥ずかしがり屋っぽいもんなぁ。こういう可愛い失敗は指摘しないようにしようと心に決めた。きっと彼女は僕の仕事仲間になるはずなのだから。


「ごめんね。ルーちゃんは色々あって男性がちょっと苦手なの。冒険者がらみでちょっとね。」

 ミミリーさんのフォローでなんとなく分かってしまった。きっと荒っぽい男の冒険者で嫌な目にあったことがあるんだろう。・・・僕みたいに。そう知ると、先ほどまでの行動もしょうがないなと思う。

 なおもミミリーさんの影からこちらを覗くルムル。なんというかこう・・・保護欲をそそるな。そういえば妹にもこんな時期があったなとなごんでいると、僕の頭がワッシと捕まれた。そんな大きな手を持つのはバドルさんしかいない。


「おぅ、ちっこいの。うちの可愛い孫を怖がらせるのはどういう了見だ」

「いたっ、いたたっ、痛いですバドルさん、落ち着いてください!」

 締め付けられるような痛みが走って思わず声を上げた。ひょっとしたらこのまま頭を潰されてしまうんじゃないかと思っていたら、思わぬところから助けが入った。


「おじいちゃん!その人痛がってるよっ!」

「しかしこ奴がお前のことを泣かしておる」

「な、泣いてないもん!泣いてないけどその人の所為じゃないの!」

 先ほどまでのおどおどした雰囲気はどこえやら、筋肉ダルマのバドルさんに食って掛かるルムルに驚きを覚えた僕と、急にドモリ始めるバドルさん。どうやら孫には非常に弱いらしい。


「し、しかしだな」

「おじいちゃんは悪くない人でもそうやってするのです?わたし、おじいちゃんのそういうところが嫌いっ」

 すっと僕の頭を締め付けるものが無くなり、余りの痛みから膝をついて頭を振る。同時にドスンという音が後ろから聞こえた。振り向くとバドルさんが膝から崩れ落ちていた。それだけ的確に急所に届く一撃だった。


「はぁ・・・なるほど、バドルさんは孫バカなのですね・・・あいたた。」

 バドルさんから解放されて、頭を押さえていた僕に、心配そうにルムルが近づいてきた。


「あの!大丈夫なのですっ!?」

 ルムルが慌てて僕に駆け寄ってきてくれた。「大丈夫だよ」とつたえるが、どうにも心配性なようで、腰につけていたバッグから何かを取り出した、黄緑色の粉末が入った瓶が取り出される。これはたしかヒールリーフを乾燥させた物のはず。少量の水を加えれ練り合わせると、傷口に塗ることで治りが早くなるだけではなく、痛みを緩和させる軟膏になる。少々値が張るポーションよりもご家庭に流通している塗り薬だ。まぁ今回は傷にはなっていないので効果は無いのだけれど。ミミリーさんもそれに気づいたのか、水を取り出そうとしていたルムルを止めてくれた。


「ルーちゃん、大丈夫だから落ち着いて。それは裂傷とかにしか効かないって習わなかった?」

「はっ・・・そうなのでした。でも痛いって・・・あわ、あわわ」

 僕はひらひらと片手を振って、なおも大丈夫アピールをしていたのだけれど、気が動転しているのか全く気が付かれていないようだった。


「ミミリーさん。僕は大丈夫なんですけど、どうすればいいでしょう」

 目に生気が無くなっているバドルさんには期待できないので、さらにミミリーさんに助け舟をお願いしてみる。「うーん・・・」と、こちらも解決策は特に思いつかないようだ。・・・仕方ない。妹をあやすときにいつもやっているようにするしかないか。後で怒られるかもしれないけど。なおもあわあわしているルムルをそっと抱き寄せる。


「大丈夫。大丈夫だからね。」

 そういいながら背中をポンポンと優しく叩く。うちの可愛い妹のネルは、これで大概落ち着いてくれるのだけれど、さすがにダメかな?・・と思っていたのだけど、ルムルの動きがぴたりと止まった。なので落ち着いたのだと思って身体を放してみたのだけど・・・あれ?これは・・・。


「・・・ルーちゃん、気絶してるわね。クロウ君、やるじゃない。」

 ニヤニヤと、爺ちゃんみたいな悪い笑みを浮かべて僕を見るミミリーさん。やるじゃないって気絶しちゃってるんですけど!?今度は僕があわあわする番だった。妹の場合はそのまま寝ちゃうこともあったけど、気絶させたことなんてないよ!


「ふふふっ。大丈夫よ、そのうち目を覚ますわ。とんだ顔合わせになったわね、クロウ君。君ってこんなに面白い子だったのね」

 からかうように笑うミミリーさんを恨みがましく見た後、ルムルをこのままにはしておくことはできないので、僕が来るまでバドルさんが寝ていたソファーへと横たえる。顔も真っ赤で熱そうだ。僕は鞄に入れていたタオルに水をかけて湿らせて彼女の額に当てておく。熱でも上がってしまったんだろうか?アースフラワーもあれば良かったんだけど。


「クロウ君ってやっぱりちょっとズレてるわよねぇ・・・。」

 ミミリーさんになにか失礼なことを言われた気がする。


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