14.私の事意識してくれてるの?
『ピーンポーン』
インターホンの音が鳴り俺はカバンを持って靴を履きドアを開ける。ドアを開けると目の前にはいつもと変わらず笑顔な琴音がいた。
「あ!おはよ!灯夜く~ん!」
そう言って俺の腕に抱き着いて離そうとしない琴音。
『え?ちょっと何で急に抱き着いてくるの?』
そんな琴音に困っていると、後ろからものすごい負のオーラを感じた。そのオーラを感じる方を向くとそこには、制服姿の鈴谷がものすごい目で睨んできていた。
「えっと…これはだなぁ…」
特に何も追及もされていないけど、この状況について俺は無実なんだということを言わないと後で怒られそうな気がしたので、俺はてきとうに弁明しようとする。
「鈴谷…これは…えっと…」
すると、鈴谷はさらに不機嫌な顔で俺を見てきた。え?俺なんかまずいこと言ったのかな?
「ねぇ!私の名前は鈴谷じゃないんだけど…」
俺は今日の朝の出来事を思い出す。あ…そういえば…そうだったような。実は今日の朝あの恥ずかしすぎる催促の後、ソファーに座っていたら寝てしまったのだ。あ~、まってめっちゃ鈴谷…あ、眞尋怒ってんじゃん!俺に近づいてきて琴音のいないもう片方の腕の袖を引っ張って頬膨らませてるし…
「そうだったな…ごめんな眞尋…」
俺が訂正して呼び直すと眞尋は何故か俺の制服の袖を引っ張るのをやめて、腕に抱き着いてきて俺の方を向いて、満面の笑みを浮かべてきた。眞尋まで抱き着かないでくれよ…
そして、部活の用事でいない冬雪を除く俺と琴音と眞尋の三人で登校するために歩き始めた訳なんだけど…
「あのさ、抱き着かれながら学校に行きたくないんだけど…」
この、両手に花のような状況を人が(特に同じ学校の生徒が)見たらどんな反応をするだろうか…きっと妬まれたり恨まれたりするに違いない…だって眞尋と琴音は俺の学校の中でも可愛いと人気の高い女子なのだから…という訳で離してもらいたいんだけど、どうにも離してくれそうにない。
「琴音さんが離したら私も離すよ」
「それじゃあ、私も眞尋さんが離したら離すよ」
いや、離してほしいとお願いしているのに二人とも俺の腕に抱き着く力が強まっているのは何故なんでしょうか…ていうか、もしかしてこのまま学校に行くつもりなのか?この二人は…
「まさか、このまま学校に行くわけないよな…?」
「え、うん、それは流石に______」
眞尋の言葉を遮るかのように琴音は『え?何言ってるの』という目で俺を見てくる。
「私は最初からそのつもりだよ?」
「_______私も本当はそのつもりだったから…」
笑い半分というか冗談半分で質問したんだけど、少なくとも琴音は本気で言っていたらしい…というか、眞尋の場合絶対にこの状態で学校に行こうとしてなかったよね!?『うん』って言っちゃってるし…眞尋は無駄に琴音に対抗しようとしなくていいから!
「本当に…頼むからそれだけはやめてくれ…」
面倒なことになりそうなことくらい、俺にも分かっているので、絶対にこの状態で学校には向かいたくない。
「イヤだよ、灯夜くんとこうする機会なんてそうそうないわけだし!そんな機会を逃す人この世にいないと思うよ!?」
そう言って琴音は俺の腕に更に密着してくる…ん?あれ?今、何かが俺の腕に当たっているような…この感触は一体何なんだ?
そう思い俺はその感触のする方、つまり琴音の方を見る。
「おい!ちょっと何やってんだよ!」
琴音は俺の腕に思いっきり胸を押し付けていたのだ………って、おい!何でそんなことしてんだよ!
「ちょっと…琴音、何して…」
胸を当てられて顔の赤い俺を見て笑っているのか琴音は上目遣いで俺のことを見てきた。
「ふふっ、灯夜くん、そんなに恥ずかしがるってことは私の事意識してくれてるんだね!?」
『そんなわけないだろ』と俺がそのことを否定しようとするともう片方の俺の腕に抱き着いている眞尋の目つきが急に鋭くなった…
「何してんの!そんな…胸を…押し付けるなんて…」
突然のことに頭が働いていないのか『あわわわわ………』と言って眞尋は俺の腕からそっと離れた。
「私が離れたんだから、琴音さんも早く離れて!」
琴音の行動を見て顔を真っ赤にした眞尋は、俺の腕にぴったりとくっつき、胸を押し付けている琴音に
指をさしながら言った。
「えぇ…もう少しこのままがよかったのになぁ…」
『もう少しこのままがよかった』ってまさか本気じゃないよな?なんて恐ろしいことを言うんだ、俺の幼馴染は…だけど…そう言いながらも琴音は素直なので俺の腕から離れてくれた。
「というか、もう登校中に俺の腕に抱き着いてくるのはやめろよ!?」
周りの視線が恥ずかしくて死にそうなので、俺はやめるように言ったはずなんだけど…反省してる様子がどちらとも一切ないのは一体何故?その答えはどうも俺の言葉の中にあったらしい。
「登校中じゃなかったらしていいの?」
おい!何でここで二人ハモらせて言うんだよ!…そうか、俺のこの発言だと登校中以外なら別に抱き着かれても構わないという意味になるのか…普通にいつどの場面で抱き着かれてもイヤなものはイヤなんだけど…どうしよう。
「いや、決してそういうわけじゃ…」
そんな俺の抵抗を聞かずに、眞尋と琴音は二人そろって俺に耳打ちで喋ってきた。
「今の言葉、後悔しても知らないからね?灯夜くん…」←眞尋
「私の事好きになってもいいんだからね?」←琴音