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3、柏木沙羅の困惑と焦燥




 あの悪夢のような入学式から数日。


 学校の雰囲気は、率直に言って最悪だ。

 まぁそりゃそうだよ。女子高生だらけの環境だと思って入学したのに、蓋を開けてみたら男子校状態。


 “こんなはずじゃなかった”ってヤツ。


 もう自暴自棄になっているヤツが相当数いるようだ。退学者こそ出ていないようだが、それも時間の問題かもしれない。

 つい先日も校則違反を咎められた末に逆切れして“禁止ワード”を口にしようとした奴を止めたところである。


「ねぇねぇ。このリップ可愛くない?」


 どういうわけか、そいつは今俺の隣でファッション誌を読んでいる。


 まぁ俺のような美少女と屋上デートできたのだ。そりゃあ退学する気も失せるだろう。

 っていうか女子高生と屋上デートとか俺がやりたかったわふざけんな!

 あーあー、ホント“こんなはずじゃなかった”だよ。


「サラに似合うだろうなぁ……ねぇ聞いてる?」


 紫のアイシャドウが輝く目でこちらを見上げ、コーラルピンクの唇を尖らせて拗ねたような表情を作る鬼頭和子。

 メイク技術やそのレパートリーはすでに俺のそれを凌駕しているかもしれない。

 まぁ恵まれた体格とその不良少年然とした厳つい顔のせいでどう頑張ってもオネェのメイクアップアーティストにしか見えないが……


 とはいえ、退学寸前だった彼もすっかりこの学校の生徒らしくなった。

 破れた夢の残骸で同志を救えたんだ。

 こんなに素晴らしい事はないよ。ないよな? うん……ない。うん。


「ねぇねぇねぇ、サラってば」

「聞いてるよ。っていうかカズちゃん、雑誌なんてどこで買ったの?」

「購買にあったよ。ゴツいピアスとかスカートの下にジャージ履くのは怒られるのに、ファッション誌とかある程度のメイクは許されるなんてな」

「ほんとにねぇ」


 俺はそう呟きながら、黒板の上に飾られた額縁を見上げる。

 『白薔薇高校の生徒たるもの、美しくあれ』

 生徒手帳にも記載のあるれっきとした校則。


 なんて皮肉な言葉だろう!

 お前ら、せめてムダ毛の処理はしっかりやろうな!


「サラ! 危ない!」

「うひゃあっ!? な、なに?」


 リングにタオルを投げ入れるセコンドの如き動きで、カズちゃんが俺の脚に膝掛けを叩き付ける。


「気を付けろ……油断してると、サラの脚にたかってくる連中が現れるかもしれないわ」

「そんな、虫じゃあるまいし」


 と言いつつあたりを見回す。

 何人かの男たちが露骨に顔を逸した。


「……そ、それにここ女子校だから安心だよね! 私、男の人怖くて! 本当ムリだからここに受かってよかったーっ!」


 俺の牽制に教室中の男たちがビクリと体を震わせる。

 そんな彼らを、殺し屋のような目で睨みつけるカズちゃん。


 そうだよなぁ。

 事実はどうあれ、男子校に一人だけ女子が混ざってるようなもんだからなぁ。

 飢えたライオンの檻にウサギをブチ込んだようなもんだよな。


 ……怖えええええええぇぇッ!

 なんで女子校で男に怯えなきゃなんねぇんだ!


 ほんとだったら今頃、いい匂いのする女子高生に囲まれて、スカートから覗く太ももにドキドキしたり、男だってバレそうになってヒヤヒヤしたりしてるハズだったのに。

 なんで俺は汗臭い男たちに囲まれて、スカートから覗く太ももに生えた毛にギョッとして、男たちのギラついた視線に怯えているんだ?


 こんなはずじゃ……こんなはずじゃなかったのに!



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