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14、芥川晶香は怒られたくない




 あー、ヤダなぁヤダなぁ。

 気が重いよホント。急に熊とかが学校に侵入してこの件有耶無耶にならんかな。


 とか思ってる間についちゃった。

 扉に取り付けられた、俺が腕につけた腕章と同じ紫色の重厚な札。金色の線が描き出すのは、もちろん「風紀委員室」の文字だ。

 いつもはうっきうきでこの教室の扉をくぐるのだが、今日だけは足が重い。


「し、失礼しまーす」


 俺はゆっくりと扉を開け、教室に足を踏み入れる。

 重厚な椅子の背もたれから大きなリボンの端と小さな後頭部が見えた。

 くそっ、留守ならそのまま帰っちまおうと思ったのに。


「あー……すみれさん、お呼びですか?」


 呼びかけると、革張りの重厚な椅子がくるりと回転する。

 ――ああ、我が委員長は今日も相変わらず可愛らしい。


 ふわふわした雰囲気、少し垂れ気味の大きな目、ハーフアップにした栗色の髪と大きな青いリボンが彼女の可愛さを引き立てる。

 単純な容姿の美しさで言えば生徒会長の白森百合ほどではないが、俺は彼女の優しい雰囲気と穏やかな眼差しが好きなんだ。

 いくら美人でも、人間に乗って移動するようなサディストに付き従うなんて理解できない。


 だが、今日の委員長の眼差しはいつもと少し違う。


「よく来てくれましたね芥川さん。先日の第197回生徒会殲滅作戦、ご苦労さまでした」


 うへぇ、やっぱその話か。

 委員長は柔らかな笑みを浮かべながら言う。


「みなさんの協力のおかげで生徒会の悪事をまた一つ潰すことができました。ですが客や従業員をみすみす逃すとはどういう事です? これをきっかけにヤツを潰せたかもしれないのに」


 できるわけねぇだろ。どうせまたトカゲの尻尾きりだよ。

 あー、でもそんなこと言えねぇしなぁ。委員長の目が笑ってないもん。

 とりあえず説明しなきゃ。


「それがですねぇ、あー……ええと、なんて言えばいいか」


 ……あれ、マジでなんて言えばいいんだ?

 言葉が浮かばねぇ。

 っていうかあれを強引に言葉にすると意味不明な感じになるだろ。


「どうしました?」


 あー、ヤバいよぉ。委員長めっちゃこっち見てるよぉ。心なしか目つきがさっきより険しくなってるよぉ。

 でも下手なこと言うとますます状況が悪くなりそうだし……

 仕方ねぇ。百聞は一見に如かず。


「その、この子がいたんですよ、会場に」


 俺は委員長に一枚の写真を差し出す。委員長は俺の突飛な行動に怪訝な表情を浮かべていたが、写真の中の美少女に視線を落とすなり目の色が変わった。


「この子……うちの生徒?」

「ひっ」


 俺は思わず息を飲む。

 なんて顔だ。いつものホンワカした委員長の姿からは想像できない、まるで般若の面。

 こんな表情の委員長は見たことが――


 いや、あるな。

 生徒会長のことを話すとき、委員長はこの顔をするんだ。

 写真に生徒会長の顔なんて映っていないはずだが。


 ま、まさか委員長、俺が他の女の写真を大事に持っていることに嫉妬して!?


「大丈夫ですよ、すみれさん! この写真はその……そう、拾ったんです。決して写真部から盗撮写真を買ったわけでは――」

「委員会を招集します」

「……え?」

「なにもたもたしているの、早く人を集めなさい!」

「ひゃ、ひゃいっ!」


 いつになく強い委員長の語気に、俺は尻を蹴り上げられたように飛び上がる。

 早くしないと、本当に殺されそうだ!


 ――でも、なんだろ。

 そんなに悪くないな、人に命令されるって。

 生徒会長の犬の気持ちが少し分かったような……


「ちょっと聞いてるの!?」

「はい!?」

「名前よ、名前」

「あ……は、はい! 風紀委員執行部隊長、芥川晶香であります!」

「誰がお前の名前なんてくだらない事を聞いたのよ。この子の名前よ、この子の!」

「ふえ? あ、えっと、失礼しました……柏木沙羅です。一年の」

「ふうん……柏木さん、ね」


 委員長はそう言って、写真の中の後輩を睨みつける。一体柏木沙羅に何をするつもりなのか。


 考えただけでゾクゾクするぜ!




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