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11、柏木沙羅と秘密の部屋




「そそそそそんなの知らないわ」

「なななななんのことかしら?」


 やっぱりだ。やっぱりおかしい。


 色々な生徒に不動さんと生徒会のことを聞いて回ったが、素直に「知らない」と言われるか挙動不審に「知らない」と言われるかの二択であった。

 どうやら俺が思っている以上に生徒会の抱える闇と権力は大きなものであるらしい。


 もしかして俺はとんでもない組織を敵に回してしまったのか。


「くそっ……カズちゃんも口を割らないし」

「あのう、柏木さん?」


 名を呼ばれ振り向くと、妙に色の白いやや小柄な女装男子が歩いてくるのが見えた。


「ええと……ああ、鮫島さん!」


 その顔をまじまじ見て、ようやく思い出す。生徒会室で生徒会にボロボロにされていた生徒だ。

 ずいぶんと表情が明るくなったから一瞬分からなかった。

 生徒会室を一緒に出た後、保健室に預けて以来会っていなかったが。


「あの後大丈夫だった? ずいぶんショックを受けてたみたいだけど」

「うん。あの時は助けてくれてありがとう。私、お礼も言えなくて」


 もじもじしながら申し訳なさそうに言う鮫島さんに、俺は笑って手を振ってみせる。


「良いよ良いよ。あんな状態じゃ仕方な」


 そこまで言って、俺はハッとする。

 そうだ、彼もまた生徒会の被害者の一人じゃないか。

 なら何か知っているかも。


「あの……嫌なこと思い出させちゃったら悪いんだけど、生徒会のことで知ってることあったら教えてほしいの。怪しい動きとか噂とか。知らない?」

「え、生徒会の? ……私、あまり生徒会に近付かないようにしてるからなぁ」

「そっか、そうだよね」

「あ、でもこの前生徒会メンバーが空き教室へ入っていくのを見たよ」

「空き教室?」

「北校舎五階の隅っこにある空き教室。行事の飾りとかが置いてあるだけの部屋なのに、妙に人の気配がしてて不思議だったんだよね」


 生徒会メンバーが行事の飾りを保管してる教室に入っていくのは別に不思議でも何でもないのではなかろうか。

 彼らの仕事は良く知らないが、一般的に生徒会というのは学校行事のあれこれを取り仕切っているものだ。体育祭実行委員とかと一緒に、校庭の飾りつけのセッティングでもしていたのでは?


 なんて考えは、彼の次の一言で吹き飛んだ。


「そういえば、あの子も一緒にいたよ。柏木さんと同じクラスの、ええと……不動さん?」




*****




 北校舎五階。

 図工室や映像室のほか、使われなくなった空き教室などが立ち並ぶこのフロアは、放課後になると人気がほとんどなくなる。

 誰ともすれ違わない廊下、笑い声の聞こえてこない教室。良く知っている学校のはずなのに、まるで知らない世界に迷い込んだみたいだ。


 得体のしれない不気味さと少しのワクワク感を噛み締めながら、俺は静かな廊下を進んでいく。

 目標はもちろん北校舎五階最奥の空き教室。


 だが俺は目的地に着く直前で足を止めることとなった。

 誰もいないかに思われたこのフロアに人影があったからである。それも俺の目的地であるフロア最奥の空き教室の前だ。

 セーラー服の上からパーカーを羽織り、人目を避けるようにフードを目深に被った生徒。彼の濃いアイシャドーに彩られた鋭い目には見覚えがあった。


「あれは……カズちゃん?」


 俺は消火器になった気分で、柱の陰からカズちゃんの様子を伺う。

 いつもと同じように彼の肩を叩いて挨拶ができなかったのは、彼の眼光がいつにもまして鋭かったからである。触れれば切れてしまいそうなその視線は、まっすぐに空き教室の扉へ向けられている。

 そして彼はゆっくりとその手を持ち上げ、軽く握った手の甲で扉を叩く。


 コン、コン、コン、コン。


 面接でしか聞かないような、極めて丁寧なノック。

 そしてカズちゃんは続けて口を開く。


「チンジャオロース定食大盛」


 ……カズちゃん、ピーマン嫌いなんじゃ?


 なんて思ったのも束の間。


「入れ」


 そんな声とともに突然扉が開き、カズちゃんを招く手が教室からぬっと突き出した。

 カズちゃんは驚く様子もなく、当然のように教室へと入っていく。


「……なるほど、合言葉ってわけ」


 中で何が行われているのか。

 俺には見当もつかないし、扉についた小窓は中から布で目隠しされており、その様子をうかがう事もできない。


 なら、中に入ってみるしかあるまい!


 俺は教室から溢れ出て廊下に積まれたダンボールからピンクのパーカーを引っ張り出し、フードを目深に被る。

 埃っぽくてくしゃみが出そうだが、我慢我慢。


 呼吸を整え、扉の前にゆっくりと歩みよる。

 そして四回、丁寧にノックをする。


「チンジャオロース定食大盛り」


 緊張と興奮を抑えながら魔法の言葉を唱えると、奴らは拍子抜けするほどあっさりと俺を教室へ招き入れた。





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