9、不動灯の女子校無双(物理)
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。
「おうおうおうおう、不動じゃねぇの」
「お? 柏木さんに告白したって馬鹿か。まだ柏木さんのまわりウロチョロしてるらしいなぁ」
「身の程知らずにも程があるぜぇ」
泥水啜って、すべてを投げうって、悪魔と契約して手に入れた最終兵器は、俺の手の中でクシャクシャに潰れている。
「見ろよ、こいつ泣いてやがる」
「柏木さんに振られたのがよほどショックだったんだろうなぁ」
「お? こいつなんか持ってんぞ。なんだその箱――」
うるさいな、誰だ叫んでるのは。耳が痛くなる。
こいつか? いや……白目向いて倒れてる。
じゃあ……あいつか?
「ひゃあああぁぁぁ……ご、ごめんなさいごめんなさい助けてくださいごめんなさい」
蚊の鳴くような声を上げながら額を地面に擦り付けてる。鬱陶しいには鬱陶しいがうるさくはない。
じゃあ、あい……あれ、三人いたはずなのに一人いなくなってやがるな。
おいおい、じゃあ誰だよ。
――あ、俺か。
「ごめんなさ、ご、ごめんなさいごめんなさい……あああッ!?」
あああ鬱陶しい鬱陶しい。
っていうかお前なんでこんな服着てるんだよ、男だろ。
「た、たすけ……ひいい」
襟をつかみ、ぶん投げてやる。宙を舞うセーラー服の男。
長い髪が風に靡き、男の顔を隠す。
あっ……こうやって見ると柏木沙羅に似てる……かも……
だが地面にたたきつけられたその生徒の顔は、紛れもなく男のそれであった。
「紛らわしい格好するなあああぁぁぁぁぁッ!」
「ひいいいッ、なんだよ一体!? なんなんだよぉ!?」
喚くそいつに飛び乗り、俺は拳を握りしめる。掌の中の箱がますます小さく潰れる。
だがその拳を振り下ろすことはかなわなかった。
細く長い指が、俺の手首を掴んだからだ。
「その辺にしなさい。この学校を殺人現場にする気なの?」
「あ、ああ……かい、ちょう……」
その顔を見るなり、全身の力が抜けていくのを感じる。
人形のような顔をした、生気の感じられない女。
彼女は俺の拳をゆっくりと開かせ、クシャクシャになった青い箱だったものを見るなり目を細める。
「ふうん、ブランドアクセサリーも受け取らなかったのね。あの子の好きそうなデザインを選んだつもりだったのだけど……ふふ、興味深いわ。それにしても――」
彼女は地面に這いつくばる俺を見下ろし、口元を歪めた。
「生徒会があれだけバックアップしてあげたのに、また振られちゃったのね?」
「う、ううう……」
「さ、バックアップの対価を払ってもらうわよ。うふふ、ごめんなさいね。成功したか否かは関係ないの」
ああ、始まる。始まるんだ。
悪魔の取り立てが。