1-9
「ヤッホ、お待たせ姫花」
「連愛!」
同じく別動隊として動いていた姫花の親友連愛も合流する。
「にしても彼、凄いわね。この山、全部犠牲者でしょ?」
「あなたにはちょくちょく龍登の気魄のこと話してたでしょ……」
「いや~、全部過去の話だったし伝聞だから実感わかなくて」
そう言いながら肩に乗せた自身の気魄であるリス――完全召喚型である彼女は召喚したリスを肩に乗せるのを定位置としている――を軽く撫でる。
「まぁ私もあそこまで強くなってるとはさすがに思わなかったけどね」
そう言う姫花の眼前には大介を含む数人と渡り合う龍登の姿があった。
「行け、『水竜将』!」
「させませんわ!」
大介に向かって水流を放つ龍登。しかしその攻撃は間に割り込んできた豊盾が展開した盾によって阻まれる。『金』属性の派生である『盾』を属性に持つ彼女は特に防御に特化した気魄師である。
「ありがとう、豊盾さん」
「い! いえ、大丈夫ですわ大介様! あ、あのあの、もしよかったらこの後一緒にお茶でも行きませんか? 駅前にすごくお勧めのコーヒーショップがありますの。コーヒーはもちろんそこのケーキがまた絶品であがぁっ!」
ドカン!
言い終わる前に龍登の攻撃によってダウンしてしまう豊盾。
「おいおい龍登、いくら何でも今のは不意打ちっつーか卑怯だろ――」
「スゥーハァー」
(あ、ダメだこれ。集中してるわ)
呼吸を整えながらも瞬きひとつせずこちらを睨みつけている龍登の姿に、極限まで戦闘に集中しているのだと悟る大介。今の龍登に少しでもスキを見せれば容赦なく突かれ、瞬く間に沈められてしまうだろう。
まぁ模擬戦とはいえ戦いの真っ最中にお茶に誘う豊盾も非常識といえば非常識だが。
しかしこれだけの人数差があるせいか龍登があそこまで没頭しているとは。これは相当気張らないとな、と改めて気を引き締めつつも大介は笑みがこぼれることを抑えられなかった。
(ハハッ、さすがに疲れてきたな)
一方、龍登も相当な集中状態でありながら心の中では笑っていた。
(いくら倒しても無尽蔵に湧き出てくる相手。それに引き換えこっちは消耗するばかり。状況は絶望的じゃないか。まったく――)
「――最っ高!」
どうやってこの状況をひっくり返してやろうか、その思いが龍登の中で溢れる。
龍登は、新月学園に来てから学園長の指示で本気を出さずに過ごしてきた。そのことは納得していたし、別に誰を恨んでいるわけでもない。しかしその状況に、心のどこかでうっ憤が溜まっていたのかもしれない。だからだろうか、今このように全力を出して戦うことが、不利な状況を自身の全力でひっくり返そうとすることが――
(楽しくて仕方ない!!)
龍登が一歩踏み出す。と、同時に踏み込んだ地面が爆発する。
(!!!)
とはいえ全身に鎧として召喚された気魄によって守られている龍登にはたいしてダメージが入らないが。それでも今までの攻撃よりは威力の高いものであった。
「『スーパーノヴァシード』……、やっぱりたいして入らないかぁ」
やはり姫花の設置型のトラップ技であったか。
先ほどまで回復役に徹していた彼女だが、その属性は『宇宙』、際限なく広がる宇宙の如く大量の気魄エネルギーを内包しており、実は消費の激しい高威力技や回復技をガンガン撃てる強力なものである。龍登・姫花・大介の3人の中で最も火力が高いのは姫花ではないか、という意見が3人の中であるほどだ。
「それじゃ、今度はこっちから行くよ! 『リトルスターショット』」
両手を発光させながら龍登に迫る姫花。
龍登は知っていた。その技が光っている部位に触れると爆発を起こす、姫花の近接戦闘用の技ということを。
最悪爆発自体は受けてもいいが、余波で発生する煙によって視界が封じられるのを嫌った龍登はなるたけ光っていない腕を捌きながら姫花を対処する。
「今よ!」
目の前にいる姫花との対戦に集中していると背後から連愛率いる部隊が攻撃を放ってくる。姫花の対処に手いっぱいだった龍登はそれを背中にモロに食らってしまう。
それでも武装召喚された気魄によって守られた龍登は背後を振り向かず尻尾を使って連愛たちをなぎ倒す。
「ぐっ。あの尻尾伸びるの!?」
何とか持ちこたえた連愛たちだが、その尻尾のあまりのリーチに驚く。ここにきて龍登はまだ武器を隠し持っていたようだ。
(警戒されたわね。また同じ攻撃法が通じない……!)
連愛がそう考えていると、今まで接近戦を仕掛けていた姫花が後退しながら無数の小さな光の粒を振りまいた。
「輝け! 『コスモティンクル』」
するとその光弾たちが爆破、直撃こそしないものの幾重にも重なる閃光となって龍登の視界を奪う。
「うおおおおお! 『ゴールドラッシュ』!!」
そしてそのスキを逃すまいと大量の金塊をぶつけてくる。とっさに目をつぶってしまっていた龍登は『ゴールドラッシュ』をモロに食らってしまう。
「今よ、一斉攻撃!」
そして間髪入れずに姫花が周囲に攻撃を指示。何故かその間龍登はピクリとも動かず、すべての攻撃を受け、再び爆発と共に煙が舞う。
「うぅっ、『風竜将』!」
しかしそれも束の間、苦しそうにうめき声をあげながらも、龍登は風を起こし、煙ごと周囲の人間を吹き飛ばした。これにより数人生徒がダウンする。
「ハァッ、ハァッ」
かなりの数の生徒を倒してきた龍登だが、さすがに息が上がっている。
そしてその視線の先には、片膝を突き右手を地面に置いた姫花がいた。
(さっきの集中砲火、まさか姫花自身は攻撃に参加せず『スーパーノヴァシード』を設置していたのか!? ヤバい、数も位置も全然把握できていない)
龍登はその場から動けなくなってしまう。下手に動いてまた目くらましと共に集中砲火を食らうのはさすがに応えるし、何よりこれまで消耗が激しすぎる。
「行くわよ、連愛!」
姫花の掛け声とともに姫花、連愛が同時に攻撃を仕掛けてくる。2人は龍登を挟んで対角線上に位置し、しかも龍登は動けない身。辺りに姫花のトラップが置かれ、それでいて連愛の属性は『雷』、姫花も光弾を撃ってきており、思考する暇もないまま龍登はその両方の攻撃をまともに食らってしまう。
そしてその瞬間に生じたわずかなスキを逃がさず行動した者がいた。
「『王金の聖剣』ーーー!!!」
自身の気魄によって作り出した金色の剣を握った大介であった。
(何!? 下手に動いたら姫花のトラップに引っかかるはず。……まさか、あの姫花の『スーパーノヴァシード』を設置する動きはブラフ!?)
そう考えるものの、大介の剣撃を躱すこともできず、その剣筋が龍登に吸い込まれていった――。
* * *
「あ、智立くん、お疲れー」
龍登と他2年の模擬戦が行われた翌朝、何故か早く目覚めてしまった大介はいつもより早くに登校していた。するとあちこちから声がかけられるのである。
「聞いたよ。昨日の模擬戦、トドメを刺したの君なんだって? 僕は途中で気絶しちゃってリタイアしたから見ていないんだけどね。最後まで戦えなくて悔しいなー」
そう言いながらも笑っている、大介に話しかけてきた男子生徒。すると他の生徒達も話に交じってきた。
「でもオレたち、勝ったんだよな」
「あぁ」
「でもそれを言うと、瀬東ってスゲーな。あの人数相手にほとんど互角に立ち回ったんだろ?」
「オレたちにゃマネできないよな」
なんだかんだで敗北した龍登のことも称えだす生徒たち。それに大介も笑顔で頷く。
「さて、それじゃオレもそろそろ教室向かうわ」
「あ、うん。じゃあねー」
そう言って大介と別れる男子生徒たち。
彼の姿が見えなくなったところで、ふと呟く。
「あれ、でも……」
「うん、そうだよね」
「オレたち……」
「「「何で今まで瀬東のこと強く憎んでたんだっけ?」」」
* * *
「ほら、龍登。早く教室入ろー♪」
「うぅ、何か落ち着かなんだけど……」
「大丈夫大丈夫、ホラ」
ドンッ! 姫花に強く背中を押されなし崩し的に教室に入る龍登。
「あ、瀬東君。おは……よー……」
その姿を見た瞬間、クラスの生徒たち――主に女子生徒――が言葉を失った。
今まで龍登は両目が隠れるほど前髪を伸ばし、それに合わせ全体的に髪が長い状態であった。
それが今日、全体的に髪が短くなりスッキリした龍登がそこにいた。もちろん、いままでほとんど隠れていた顔もバッチリ確認できる。
「「「「「………」」」」」
そしてその顔立ちだが、不意打ち気味だがクラスの女子生徒たちが頬を赤く染めるくらい整っていた。言葉に表すならそう、“カッコいい”と“カワイイ”が奇跡的なレベルで共存、同居した顔と言えばいいか。そこまで高いとは言えない身長も相まって、おそらく年下からは「カッコいい」、年上からは「カワイイ」と言われそうな、そんな顔だった。
「よぉースッキリしたな龍登! そっちの方がイケてるぜ」
大介が龍登に近づき、笑いかける。
「大介! お前が昨日半ば強引に連れて行った美容院のせいでなんだか落ち着かねぇんだよ。引っ越してきたばかりなのに、なんであんな場所知ってんだよ」
「いやー、姫花があそこに連れて行きたいけど女子の自分が一緒に行ったら入りづらいから代わりに連れてって言われたんだよ。でもおかげですっきりしたじゃないか!」
「……まぁ、そうだけど」
カランカランと笑う大介と、少し恥ずかしながらもそれにつられるように軽く笑う龍登、。その後ろでは、姫花もクスクスと笑っていた。
(よかった。龍登、最近全然笑顔浮かべなかったけど、久々にすごく嬉しそうに笑ってる)
やっぱり笑っている方がいいですよね、笑顔さん――そう、心の中で思う姫花であった。
「「「「「…………」」」」」
一方、クラスメートたちはいまだ硬直が解けていなかった。
大介が来てから、驚きの連続であったが、多分これが、彼が落とした最大威力の爆弾――。