1-8
――翌日、
昨晩、高等部2年を騒がせた妖怪『枕返し』は無事捕まり、教師陣に引き渡された。
本来ならこの件、子供だけで対処するのは問題なのだが、肝心の教師人が枕返しによって気づかぬうちに眠らされていたこともあり、罰は軽いものとなった。
しかし、ここで別の問題が発生する。
昨晩見せた、龍登の今までとは段違いの気魄師のとしての実力である。
瀬東龍登という生徒の実力は、自身の気魄の型すら顕現できない、練度の低いものだという認識だった。
それが昨日の対枕返し戦では打って変わり、気魄師全体でも数の少ない聖獣種『龍』の型を顕現させ、さらに多彩な属性を使いこなす器用さをも見せつけた。
この圧倒的な実力の乖離は何なのか、学生の間で知らぬ者はいないほどの話題となってしまったのである。
「まったく、厄介なことをしてくれたね。この収集をつけなきゃいけないのはあたしなんだよ」
「そうは言っても、あれはほとんど枕返しのせいだろ。それに昨日夢の中でオレの過去を見られたからもう言い逃れはできないぞ。むしろ大勢に過去を暴露された俺の気持ちにもなってみろ」
「まぁそうだねぇ、昨日の矢馬の襲撃もあって多田正にもアンタがここにいるのバレちまったし、隠す意味もないか……。ハァ、昨日1日でこうも立て続けに事が起こるなんて、アンタ、呪われてるんじゃあないかい?」
「まさか」
「まあまあ学園長、龍登に当たりたい気持ちもわからなくはないですが、それじゃただのイジメですよ。それに龍登も。昨日は大介の転校から始まったし、もしかしたら“運命”ってやつが動き出してるんじゃない?」
「オレのせいかよ!?」
「無駄口を叩かないでおくれ。それより瀬東、例のリミッター制作の件だが……」
「はいはい、もちろん引き続き協力しますよ。気魄師の力を封じるリミッター。数は少ないとはいえ、気魄師の力を悪用する犯罪者もいるし、そういう連中のためにもより強力なリミッターを開発しなきゃですからね」
「あれ? それって多田正から龍登の存在を隠すため龍登の実力を封印させる建前じゃなかったのか?」
「いや、もちろんその考えは否定しないがリミッター制作は本当の話だよ。もっとも、今こちらが開発できるリミッターの上限より、そこの瀬東の気魄の力の方が強力だから全力を出せば壊れるけどね。おかげで瀬東にはリミッターを壊さないギリギリの力加減を要求するハメになっちまったがね」
「でもそのおかげで気魄のコントロールはかなり良くなったんだ。学園長、そこも狙っていたんでしょう?」
「ほえー、よく考えているんですね。学園長」
「大介、この程度でこの人を褒めちゃダメよ。この人は油断したところを容赦なく食ってくる人なんだから」
「美桜、アンタねぇ……。まあいい、瀬東の事情は学園側からちゃんと告知しておくよ」
「それなんですけど学園長。実は龍登の本当の実力を見てみたいという声が学園内で大量に挙がっていて……、リミッターの意見はもちろん承知していますけど、それとは別に龍登の他生徒との模擬戦も企画できませんか?」
「え?」
「お、それいいな。オレも今の龍登の実力見てみたい」
「……アンタたち、それ本気で言ってんのかい? 今のコイツと他の連中の実力差は相当なモンだよ」
「それでも、何とかできませんか」
「いやちょっと待て、オレはやるとは言ってないぞ」
「あら、やらないの?」
「そりゃ……」
「大丈夫よ、龍登ってなんだかんだで勝負事が好きだし、いざ本番になったら本気になるって」
「間違いない」
「はぁ、しょうがないねぇ。となると……、せっかくだからこの小僧にも負担をかけるくらいでいいか。ルールは――」
* * *
「高等部2年全員vs瀬東1人~~~!!? なんだその模擬戦!」
「知らないわよ! これも学園長が決めたことなんだから。まったくあのばあさん、70過ぎだっていうのにまったく考えが読めないんだから……」
そういう訳で急遽決まった――決まってしまった対瀬東龍登の模擬戦。その内容に新月学園内は大荒れしていた。
「そりゃ、あの夜の瀬東の実力はなかなかだったけどよ、だからって新月学園高等部の2年全員ったら600人近くいるぜ。さすがに勝負にならねぇだろ」
「それとも学園長は私たちのことを見下しているのかしらね? アタシたち位の実力じゃ瀬東には束になっても敵わないって」
「……だとしたらちょっと許せねぇなぁ。瀬東には恨みはないが、学園長にオレたちの実力を改めて認識してもらうためにも、しっかりと勝ちにいかねぇと」
* * *
パンパン!!
「はい、全員私語は慎んで! そろそろ始まるから準備は怠らないでね」
手を叩き、2年生に声をかける姫花。今回の龍登対他の2年生の模擬戦では、当然姫花や大介も龍登と敵対する側である。
そして、生徒会長という肩書きもあって、今回姫花は総指揮を務めることとなった。そもそも姫花の指令なら基本的にどの生徒も文句なく従う。
「いい? チャイムが鳴ったら戦闘開始、場所は模擬戦用に作られたこの仮想ルーム内で作られた新月学園、その敷地内。戦闘不能となった者に対する追撃は禁止よ」
姫花が模擬戦のルールを説明していく。しかし基本的にいつも学園で行っているものと同じルールであるため、ほとんどの生徒は聞き流しているが。
ちなみにこの仮想ルーム、大規模の模擬戦のために特殊な部屋で、内部に新月学園の校舎など様々な空間を作り出すことが出来る。開発した学園長、円城火織がいかに凄い人物かを内外に表しているものでもある。
「もうすぐ開始時刻ね。いい? 龍登の属性はこの前も言った『万能』、型は――」
「そんなのいいからとっとと始めましょう美桜さん! オレごちゃごちゃ考えるより体動かしてたいッス」
姫花が重要なことを言い出そうとしたところで、遮る声が。龍登たちのクラスメート、沢村豪一である。彼の発言に2人の生徒がそうだそうだと騒ぎだす。沢村と特に仲のいい生徒、『大方ノ島晴一』『野々一歌郎』である。
「ちょっとそこのバカ3人! 今から美桜さんが大事な情報を言おうと『キーンコーンカーンコーン』……あ」
女子生徒が騒ぎ出す沢村たちを注意しようとするところで、無情にも鳴り響く模擬戦の開始を知らせるチャイム音。
それを聞いた沢村たちは「ヒャッホーーー!!!」と叫びながら飛び出してしまった。
「……ごめんなさい美桜さん。沢村・大方ノ島・野々一のバカ3人、作戦も聞かず飛び出していきました」
「しょうがないわね、あの3人は捨てゴ……、コホン、切り込み隊長として、龍登の戦力を分析します」
「素直に捨て駒と言っていいですよ会長」
言いつつ、沢村たちを追いかける姫花たち。とはいえ、あまりにも人数が多すぎるためいくつか別動隊を作り、別途に動いてもらっているが。
すると、
「「「うわああぁぁぁーーー」」」
沢村たちの情けない悲鳴が聞こえてきた。次いで聞こえてくる爆発音。早速龍登とかち合ったようだ。
そしてその場所にたどり着いた生徒たちが見たものは――
「全身に気魄を実体化させて装備!? まさか、『武装召喚型』!!」
龍の顔を模した仮面――目の部分は隠れているが、鼻から下が露出しており頭の部分がすっぽり覆われているので、ヘルメットに近いかもしれない――をつけ、手足には龍のものと思われる爪、その他の体には龍の鱗を彷彿とさせる鎧を身にまとった、龍登の姿であった。ご丁寧に尻尾までついている。
「全員戦闘準備! 龍登は見ての通り『武装召喚型』、気魄の型は神獣種『青龍』よ!!」
「「「!!!」」」
「神獣種!? ってあの、同時期に1人しかいないっていう」
「聖獣種よりさらに希少、神と呼ばれし、神格を持つ獣……」
「おいおいマジかよ」
姫花の発言に戦慄が走る生徒たち。自分たちが想像していたよりもさらに高い位の獣に、動揺を隠せない。
と、そこに――
ドガガァァァン!!!
「そういうことは早く言ってくれよ~~~」
情けない声を出しながら沢村が吹き飛んできた。どうやら龍登の攻撃を食らったようだ。
「アンタが聞く前に突撃していったんでしょうが!! というか、余裕あるわね……」
そのまま姫花率いる部隊は龍登との戦闘を開始する。
「ハッ! 『火竜将』」
まず龍登は近づいてきた生徒を3人ほどまとめて吹き飛ばす。
次いで別方向からやってきた生徒たちを風―『風竜将』で迎え撃つ。……のだが、やはりさらに別の方向から攻められる。
(やはり、相手の人数がな……、キリがない)
当然というか、やはり相手方は圧倒的な人数に物を言わせた物量作戦出来ている。
ハッキリ言って1対1でなら全く問題ないのだが、こうも数が多いとこっちの息切れでやられる。
そしてさらに面倒なのが……、
「『セイントウイング!』」
姫花の背中から純白の美しい翼が現れる。彼女の型から考えると、間違いなくペガサスの翼だろう。そして姫花の周辺にいた生徒たちの傷が回復していく。
姫花は、気魄師の中でもめずらしい、回復技の持ち主なのだ。
「傷ついた奴は美桜さんのところに行け!」
そのためいっこうに相手の人数が減らない。
「何というか、技が思ってた程のものじゃないね」
「あぁ、せいぜい上の下といったところだ。これなら……」
「「「戦える!」」」
加え、相手はこちらの弱点に気づき始めた。
そう、神獣種だ何だと言われているが、実は龍登の技は全体的に低い傾向にあるのだ。学生レベルで見れば高い部類に入るのだが、気魄師全体から見ればせいぜい中の上程度。目を見張るような威力は出せない。
とは言え気魄の型『青龍』は何も弱点ばかりではない。弱い部分もあればそれを補えるだけの長所もある。
ドッガアアァァァァーーーン!!!
「やった!」
多方向から龍登に無数の飛び道具技が炸裂する。中心地にいた龍登はただでは済まないだろう、そう思い誰ともなしに声が上がる。
「油断しないで!!」
しかしそんな生徒たちに姫花が一喝する。
ついで、攻撃によって生じた煙が晴れていく。そこにいた龍登は――、
「ウソでしょ!? 無傷!?」
「あれだけの数の砲撃を食らって、ピンピンしていやがるのか!?」
先ほど龍登を攻撃した生徒はざっと数えても10人はいた。それだけの数の攻撃を一度に食らっても龍登は倒れないのだ。
「気をつけて! 龍登は攻撃面こそ乏しいけど防御・スピードでは目を見張るものがあるわ。倒したなんて慢心しないで!」
思えば姫花が少し前にそんなことを言っていた。しかし生徒たちはこれほどの固さとは予想だにしていなかった。心のどこかで油断していたかもしれない。
と、思っていると、龍登の姿が消えている。「どこ!?」と探す暇もなく背後から強烈な一撃。龍登がその手についている爪で攻撃したのだと、その生徒は倒れながら理解する。
少しずつだが、龍登に戦局が傾いていく。その猛烈なスピードを解禁し、狙いを定めさせずに接近し、時折『火竜将』などを牽制や目くらましに用いつつ、手足の爪で攻撃する戦いへとシフトチェンジしたのだ。
「くっ、動きが速すぎる! 追いつけない」
見た目は鋭利に見える龍登の爪だが、実はこちらも龍登の攻撃力が低いという性質に含まれており、単純に攻撃するとそれほどダメージは受けない。
しかし龍登はそのスピードを生かし、相手の急所に的確に打ち込むのだ。さらに速い速度で撃たれるので結果威力も向上する。
「見切った! 『土竜将』」
「な!? 『土』属性……?」
しかも龍登は自身の持つ多彩な属性を駆使し、生徒によって苦手な属性を打ち分けるのだ。
「あいつ、さっきまであんなスピード出してたか……?」
「まさか……、こっちの手の内が割れるまで隠してたのか?」
「しかもその間にこっちの弱点まで分析してやがる……。なんてヤツだ!」
そうこうしているうちに、どんどん人数が減っていく。回復要因として後方に徹していた姫花もそろそろ動き出さないといけない……、そう思った時だった。
「随分と暴れてんな、龍登」
「大介!!」
別動隊として動いていた大介たちが合流したのである。生徒たちの間にワッと歓声が上がった。