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MEGA LEGEND  作者: 伊建天
1、運命の始動
6/18

1-6

 新月学園は全寮制だ。しかもその寮の設備は非常に良い。

 まず部屋。各部屋にはベッドやトイレはもちろんシャワー、キッチン、冷蔵庫も完備している。

 そして部屋の鍵。これはちょっとやそっとじゃこじ開けることのできない、セキュリティ面においてひたすらに優れた物を使用している。

 というのも、新月学園の寮には男子寮、女子寮という概念がなく、男子生徒の隣の部屋が女子生徒の部屋というのが珍しくない。

 そのため各部屋のプライバシーを守るため防犯などはしっかりとした物を利用しているのだ。


 さらに部屋のシャワーとは別に大浴場も存在する。

 シャワーだけでいいという生徒は部屋で済ますものの、足を伸ばせるほど広い風呂というのは、生徒達の間でも魅力を感じるようで、頻繁に大浴場を利用する生徒も多い。


 そして瀬東龍登はその中で後者、大浴場を多用する生徒である。


 夕食後、大浴場にて1日の疲れを流した龍登は、いまだ乾ききっていない髪を肩に乗せたタオルで軽く拭きながら自室に戻ってきた。

 しかし今日はいろいろあった。

 大介の転校に始まり、矢馬の襲撃、そのせいか学園内は大混乱に陥り、そのゴタゴタで今日はバイトに行けなかった。

 まぁそのおかげで今日出るはずだった課題も流れたためトントンといったところか。

 ベッドに倒れこむように横になる。やはり疲れが溜まっていたのだろう、すぐに意識が朦朧としてきた。


(あれ? この香り、どこ……か……で……)


 あまりにも眠く、部屋の中に漂っていたにおいがどこで嗅いだものかを思い出す前に龍登の意識は深い闇へと落ちていった。


 ――だから当然、同様の香りが他の部屋にもしていたなんて、龍登は知る由もなかった。






  *  *  *






「ん、ここはどこだ?」


 ふと龍登は、自分が見たこともない空間にいることに気づく。


(オレ……さっきまで自分の部屋にいて……、それでベッドに横になって…………、え、じゃぁこれ夢の中? これって『明晰夢』ってヤツか!?)


 明晰夢とは、自分が夢の中にいるのだとわかる夢のことである。初めての経験に驚きを隠せない龍登。

 と、同時に眠る前にしたにおいが漂ってくる。


「よぉ、来たみたいだな」


 そして香りのする方からのそりと姿を現す影があった。その高さは目測でおよそ3m。相当に大きい。


「……枕返(まくらがえ)し、か」


 そこにいたのは『枕返し』、眠っている人間の枕を動かすことでその人の夢を操ることが出来る妖怪だ。


「それで、何の用だ? 今夜枕返しが夢に出てくるなんて学園側から聞いてないぞ」


 新月学園では時々、授業の一環で妖怪を呼ぶことがある。

 気魄師として妖怪と関わることが多いため、直に妖怪と触れ合うことでその妖怪の理解を深めようと意図されているのだ。

 しかしその場合、あくまで授業中の時間に限られ、こんな夜中に現れることはない。あるとしたら事前に通知があるだろう。

 つまりこの枕返しは、新月学園の意図とは無関係に現れた可能性がある。その場合、学園に不法侵入したということだ。今日は昼間に多田正グループの矢馬が侵入してきた件もあった。何か良からぬ事を企んでいるのでは、というか、コイツも多田正グループからの刺客なのでは、と龍登が警戒するのには十分な理由だった。


(しかしどういうことだ? 枕返しは夢を操る能力はあるが()()()()()()()()()()()()()()


 偶然バイト先の関係で別の枕返しの知り合いがいる龍登は、そこから得た情報を引き出しながら、ふと枕返しが左手に持っている白い袋に目を移す。

 思えば眠りに落ちる前、部屋の中に何かのにおいがした――いや、昼間矢馬に逃げられた時にも同様のにおいがした。

 そしていずれも、そのにおいがすると簡単に意識が沈んだ。そのにおいが今目に前にいる枕返しから、正確には枕返しの左手にある袋から漂ってきていないだろうか。


「あぁ、これか? これは『(しん)(あん)()(そう)』っちゅう植物の花を特殊な方法で処理した眠り粉だ。においが眠気を呼び覚ますんだ。手に入れるのに苦労したぜ」


 龍登が何を見つめているのか気づいた枕返しは、その袋を掲げ、龍登の疑問に対し簡単にネタ晴らしをした。


「それで何の用か、だっけ? それはなぁ、お前に見てもらいたいものがあってな。そのためにわざわざ来たんだよ」

「見せたいもの? お前も多田正グループの勧誘に来たんじゃないのか?」

「タダマサグループ? なんだそれ」

「? お前、何でこの新月学園に来たんだ?」

「たまたま入った場所にちょうどいい獲物がいたから来ただけだ。あとコイツの実験もしたかったんでな」


 そう言って眠り粉が入った袋を一瞥したあと、枕返しはその巨大な牙を覗かせた口をニタァっといやらしく歪ませた。


「では、イッツ・ショォタイム」






 そこは巨大なビルだった。

 その中に保育園のような施設があった。

 そこにいたのは幼い少年。それは間違いなく、5歳の頃の龍登であった。今と違い非常に明るく笑顔に満ち、このころから付き合いのあった姫花や大介を引っぱていく力強さがあった。


(あれは、昔のオレ? ということはこのビルはかつての多田正グループの本拠地。ここはその中の施設“御国”か)


 それは一見すると会社が敷地内の空いたスペースで営業している保育園のようであった。

 実際龍登たちは、昼間は基本同じ施設にいる友達と目一杯遊び、日が暮れたら母親に迎えに来てもらっている。そんな光景が龍登の目の前で繰り広げられる。


(……母さん)


 しかし時々、龍登たちは5歳の幼子にさせるには無理のあるトレーニングを施されていた。

 実はこれ、多田正グループが行っていた法律違反行為の1つである。

 気魄師は小学校に入るより前の、非常に幼い頃から気魄師としての素質を開花させることがままある。当然、その頃から訓練を積ませれば、将来強力な力を持った気魄師となる。

 しかしまだ体の未発達な幼少の子供たちに過度な負担のかかる訓練を施すと、下手をすれば成長を阻害してしまうことがある。

 よって子供を守るため、本格的な気魄師としての訓練を行うのは肉体がある程度出来上がる高校生からと定められ、幼いうちから気魄師の訓練を積ませることを法律で全面的に禁止されているのだ。

 実際龍登たちの友達の中に、トレーニングについて行けず施設を離れていく子たちもいた。

 当時は大人たちから、彼らはどこか遠くに行ったとだけ聞かされ、幼かったが故に特に疑うこともなくその言を信じたが、今思うと彼らのうち何人かは体を動かすこともできないほど重体になっていたのかもしれない。

 逆に、それほどの重傷を引き起こすトレーニングを笑顔でこなしている、今目の前に映っている龍登の姿はある種異様な光景なのだが。


 そしてその見ている光景の月日が流れたある日、事件が起きた。

 多田正グループの汚職事件が公になったのだ。


(! こっ、この日は……)


 御国に我が子を通わせていた保護者からも批判が殺到、逃げ場を無くした社長多田正は会社を爆破し、そのいざこざに紛れ、行方をくらましたのだ。


 ――しかし龍登にとっては、この日はまた別の意味を持つ。


「やめろ、やめてくれっ!」


 かつての記憶が呼び覚まされる龍登。それは龍登にとってトラウマであり、もう二度と見たくない光景であった。

 しかし龍登の悲痛な叫びに関係なく、無情にも目の前の光景は進んでいく。


 その日、龍登はいつも通り御国にいた。その日の朝、まだ多田正グループの悪事が発覚していなかったため龍登は他の子たち同様母親に送られて御国に通っていたのである。

 その後、多田正グループの悪事を知った保護者たちが我が子を迎えに多田正グループの会社に殺到したところで、多田正は自身の本拠地のビルを爆破したのだ。


 その時、龍登たちは、そのビルの中にいた。


 多くの人を巻き込んだビル爆破。しかし龍登は運よくこの爆破の中生きていた。しかし辺りは爆破の余波で火の海となったビルの中。

 幼き龍登は、恐怖に泣き崩れながらその中を彷徨った。

 そして見つけたのだ、横たわっている大人の女性を――。


「う、う、うあああぁぁぁぁーーーーーーー!!!!!」


 自分の腕の中で女性が死ぬ、その光景を目の前で強制的に見せつけられる龍登。

 このことは龍登のトラウマとなり、今でも悪夢として夢に見る光景で、このことが原因で龍登は“人の死”という光景に過剰に反応し、恐怖を感じてしまうようになっている。

 夢の中のせいか、目を閉じようが手で塞ごうが目に見えて繰り広げられてしまうその光景に龍登は膝を折ってしまう。






「ヒャッハーーーーー!! その絶望する顔が見たかったぁーーーーーーーー!!!」


 突如大声で叫び出す枕返し。しかし龍登はそれに反応しない。いや、もはやそこから立ち上がる気力すらないのだ。


「オレはな、そうやって人が絶望する表情を見るのがだぁい好きなんだよぉ」


 そうやって気持ち悪い口調で喋り続ける枕返し。


「せっかく人を眠らせる粉を手に入れたんだけどよぉ、使いどころが難しくてな。いろいろ試してどうすれば簡単に夢の世界に連れていけるかいろいろ試してたんだ。そんな中、こうやってあの変な男がちょうどよく騒ぎを起こしてくれたんでなぁ、それに紛れることで簡単にこの建物に潜入できた」


 どうやら枕返しは矢馬の襲撃事件に便乗して新月学園に潜入しただけで多田正グループとは何の関係もないらしい。実際この事件により新月学園の警備は大混乱に陥っていた。

 実はこの事件、龍登たちが食堂にて矢馬と対峙していた時、教師たちはこの枕返しの『深闇花草』の実験のため眠らされていた。枕返し自身は、自身の実験のため動いていただけで、矢馬や多田正グループに協力する気は一切なかったのだが、結果として矢馬を逃がすのに一役買っていたのである。


「………………」


 しかし龍登は反応しない。その目からは光が失われ、もはやどこを見ているのかもわからない状態であった。


「いろいろ調べまわったんだぜ。絶望する顔、誰が一番見られるか、誰が一番心にそういった暗い闇を抱えてるか。知ってるかぁ? 夢っていうのはそこから人の記憶をある程度除くことが出来るんだ。オレは夢を通してその人の過去を調べられるんだ。その中でお前は一番最適だったぜぇ」


 笑いが抑えきれないといった具合に宣言して龍登に指をさす枕返し。ただしその表情はどこまでも邪悪一色に染まっていた。






「さらにぃ!」






 バンッと照明がつくような音と共に、枕返しが向けた腕の先が急に明るくなる。

 ほとんど死んだような状態で龍登は、首だけ動かしその方向を見る。しかしその目は相変わらず光を失ったままだった。

 そしてその光の中には、龍登の同級生たちがいた。最前線には、姫花や大介もいる。

 しかし、彼らの前にはよく見ると透明なガラスのような壁があった。どうやらここと向こうは隔離されており、お互いに手出しができないらしい。

 そして彼らの表情は、皆一様に引いていた。

 龍登の過去、特に多田正グループの組織に所属していた事、そして龍登の目の前で人が亡くなったという事実に、衝撃を受けていたのだ。


「でも、美桜さんも智立君も同じ組織にいたんだよね? 2人は大丈夫だったの?」


 しかしそんな中、1人の生徒が今見せつけられた光景に震えながら聞いてきた。


「……オレはこの事件が起きる前に引っ越してたんだ、親の仕事の都合でな。だからこの時その場にはいなかった。むしろ後になってニュースで知ったくらいだよ」


 本当ならすぐに龍登の元に駆けつけて励ましたい大介だが、見えない壁に阻まれてそれもできないため苦々しい表情を浮かべながらも質問に答えた。


「私はこの日、行かなかったの。偶然にも風邪で寝込んでてね」


 姫花はある種、大介以上に悔しそうな表情をして答えた。なぜあの時、龍登のそばにいなかったのか。いたとして当時の自分には何もできなかっただろうが、それでも姫花は、今でもそう思わずにはいられない。


 目の前の幼い龍登の光景は次の段階に進んでいた。そこには、()()()()の遺影を、今の龍登と同じ死んだ目で見つめる幼き龍登がいた。


「美桜さん、あの女の人って……、さっき、瀬東を迎えに行ってた…………」

「うん、()(ひがし)笑顔(えがお)さん。龍登のお母さんだよ。その名の通り、とても笑顔の素敵な女性(ヒト)だった……」


 姫花はこの頃の龍登をよく知っている。何せ、このことが原因で一時期自宅に引きこもってしまった龍登を懸命に励まし、世話し、外へと連れだしたのは姫花なのだから。

 だからこそ―、


(許せない……。龍登のつらい過去を見せつけて、あんなにも笑っていられるなんて)


 姫花はキッと枕返しを睨みつける。しかし枕返しは、それを意にも返さず、――いや、気づきもせずに龍登に語りかける。


「お前がこの連中からどのように扱われているかも知っている。そこらへんも調査したからな。あとはオレの能力で他の人間とお前の夢を連結させた。と言っても、このように隔たりを作ってだけどな。オレは枕返し。夢の中では無敵の存在だ」


 そして枕返しは大きく叫ぶ。今度は隔たりの向こう側にいる姫花たちにも聞こえるように言った。


「さぁ、今こそ龍登(ヤツ)を罵れ! 貶せ! 気持ち悪がれ! そうして見せるさらなる絶望の表情こそ我が望み!!」


 龍登は下を向いてうつむく。正直、彼らからどう思われようがもうどうでもよかった。1番つらい記憶を見せつけられたのだ。今更、彼らからの罵りなど、何も感じないだろう。龍登はすり減った心でそう思った。

 ―だからこそ。


「負けるなぁーーー! 瀬東ーーーーー!!!」


 同級生たちの励ましの叫びに、今までの龍登の扱いを知っているだけに目が点になっている姫花や大介、期待とは正反対の反応に何が起こっているのかわからないといった表情を浮かべている枕返し以上に、ある意味で龍登は1番驚いていた。

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