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MEGA LEGEND  作者: 伊建天
3、初めての実習
18/18

3ー5

「……世話に、なったな」


 ひとしきり涙を流したシロガネと獅丸の祖母だったが、しばらくして互いの体を離した。


「恥ずかしい場面を見せたわね」

「いや、2人が仲直りできて良かったよ」


 少しはにかみ頬を染めながら、獅丸の祖母は孫と向き合う。しかしその表情は、つきものが落ちたかのように晴れやかだった。


「皆さんも、ご迷惑をおかけしました」


 今度は龍登たち新月学園の面々(プラス)初利の方に向き合い、頭を下げる。


「いえ」

「私たちも、獅丸君と同じ気持ちです」


 代表してそう返す龍登と姫花。シロガネも恥ずかしそうにしていたが、獅丸の祖母と同じような気持ちなのだろう。

 この空気が耐えられなかったのか、シロガネは少し慌てたように話題を変える。


「しかしチカちゃんも大変だったじゃろう。当時は嫌なことばっかで辛くはなかったか?」

「あぁ、確かに嫌なこともたくさんあったけど、それだけじゃないから。覚えてる? 正義の味方の男の子の話」

「ん? イジメから助けてくれる男の友達が最近できたと言っていたヤツか? それがどうした?」

「その子にもお別れの挨拶が出来なかったんだけど、どこからか聞きつけたのかその子、周りの大人を巻き込んで私の両親に『アンタのやっていることはおかしい!』って啖呵切ったらしいの。最初はウチの親も子供の言うことだって聞く耳持たなかったんだけど、他の大人たちも男の子の味方しだしたから逃げるように引っ越していったわ。なのに引っ越し先でもしつこく言及する物だからとうとうウチの親も根負けしたわ。それ以降丸くなって、それ以降私にとってその男の子は誰よりもカッコいいヒーローになったの」

「そうか、良かった……」


 満面の笑みで話す獅丸の祖母に安堵に気を漏らすシロガネ。そこに話を聞いていた獅丸が混ざる。


「へー、ばーちゃんにそんな過去があったんだ。で、その男の子とはどうなったんだ?」

「ふふ、その男の子『衛護(えいご)』って言うんだけど。獅丸、わかる?」

「へっ? ……じーちゃん!?」


 どうやら、彼女が幸せを手に入れたのは本当のようだ。表情がそう物語っていた。






  *  *  *






「それにしても獅丸。あなた変わったわね。この数日で何があったの?」


 ある程度落ち着いたころ、獅丸の母がそう聞いてきた。


「え、変わった? どういうことですか、奥さん?」


 初利がそれに答える。


「いえ、もともとこの子、一人称が『ボク』のはずでしたし、もっと大人しかったです。それが、こう……少し攻撃的になったというかそんなカンジの印象を受けるんです」

「あぁ、それは私と一体化した影響じゃろう」


 そう答えたのはシロガネだった。


「一時的とは言え、そこそこ長い時間1つの肉体に2つの魂が入っていたのじゃ。双方が双方の影響を受けてもおかしくはあるまい」

「え? ってことはシロガネも獅丸の性格の影響受けたのか?」

「うむ、なんとなくじゃが前より落ち着けるようになった。以前の私はもっと感情むき出しで攻撃性があったのじゃが、一歩立ち止まれるようになった気がするぞ」

「なるほど、……シロガネの攻撃性が一部獅丸に移り、代わりに獅丸の大人しい性格がシロガネに移った訳か」


 突然の龍登の問いかけに素直に応えるシロガネ。


「あー、そういえば他にも獅丸の中に入って影響を受けた部分がある……気がする」

「え? どんな?」

「何となくじゃが、人間の体の構造を覚えた気がするのじゃ。今なら人間体に変化できるやもしれん」


 唐突にそんなことを言い出すシロガネ。


「へ~、面白そうだから見せてくれよ」

「うむ、心得た」


 そう言ったシロガネはすぐさま変身能力に挑戦してみた。

 結果――、


「! 龍登は見ちゃダメ!!!」

「ダイスケもダメだからね!」


 姫花、ミクトがそれぞれ龍登、大介の目を神速の速さで塞ぐこととなった。

 というのも、現れたシロガネの姿が、彼女の体毛を現したかのような白い髪の美少女だったからである。


 一糸まとわぬ姿で――。


「ぶっっっ!!?」

「シロちゃん!? 早く服着て!」

「? ネコは普通服なんて着ないでしょ。何を慌ててるの、チカちゃん?」

「人間の体になったんだから人間の常識に従いなさい!」


 獅丸の祖母に怒鳴られ、しぶしぶだが変化の術の要領で服を用意する。もっとも、ヘソ出しのタンクトップにホットパンツと、非常に露出の激しいものだったが。

 ……後で聞いたところ、服を着ることに慣れていないせいで必要最低限しか用意しなかったらしい。


「ふぅ、これでいい?」


 ともあれ、視界を解放された龍登と大介。

 改めて人間となったシロガネを見てみると、長身の白いセミロングの女性が立っていた。

 とり憑かれた獅丸の時のようにネコミミと尻尾があるが、彼女の髪色と同化した色をしているので獅丸の時のような違和感はない。

 それにしても、龍登より背が高い。龍登は身長167cmと、男子の中では若干低めに見られる身長だが、それと同じくらいの165cmの身長を持つ姫花が女子としては高めに見られるそうなので、それより大きいシロガネは相当背が高い部類だろう。明らかに170を超えている。

 それでいて体の起伏も激しく、それでいて露出の多い格好をしているものだから目のやり場に困る。


(いや、体の凹凸に関しては姫花の方が上か?)


 一瞬、そう頭によぎってしまった龍登は、すぐさま目線を切り離し無心になる。根拠はないが、何となく問題になりそうな気がした。






  *  *  *






「まぁともかく――。シロちゃん、あなたはこれからどうするの?」

「どうするって?」

「いえ、せっかくこうして仲直りできたし、せっかくだからうちで一緒に暮らさないかと思って、ね」

「それは嬉しいけど、……いいの?」

「もちろん。ただ、私は今、獅丸たちと一緒に暮らしているから、それでも良ければだけど……」

「私も獅丸は気に入っているから、まったく問題ないわ」


 そう言って獅丸に抱き着くシロガネ。もちろん人間体のままでだ。急のことで獅丸は顔を赤く染める。


「うわっ!? お前、人間体になってからちょっと口調違くないか!?」

「うん、そう? まぁどっちでもいいわ」

「おいっ! 離れろよ!!!」

「シロガネも獅丸のこと気に入っているみたいだし、決まりね。シロちゃん」

「おいばーちゃん! この状況を前にして何で平常運転なんだよ!?」


 いまだシロガネに抱き着かれたままなので、体の柔らかさ、温かさが直に伝わってきてしまう。


「獅丸のことは気に入ってるわ。体も含・め・て・ね?」

「「え゛」」

「おいシロガネ! それって単純にオレにとり憑いた際居心地が良かったってだけの話だろっ! 紛らわしい言い方するんじゃねぇ!!!」


 シロガネの爆弾発言に凍り付く獅丸の母と祖母。しかし獅丸の必死の叫びに自我を取り戻した。


「そ、そういう意味ね。まぁともかく、そういう訳で新月学園の皆様、それに出良様、シロちゃんはウチで引き取ります。重ね重ね、今回の件は本当にありがとうございました」

「いえいえ、お孫さんが無事で本当に良かった。それに、それ以外にもめでたいことがあったようですし……。さて、私も学校へ報告に向かおう。少年たち、ついて来てくれ」


 そう言って初利は龍登たちに声をかける。確かに、初めての実習にしてはやたら濃い経験をした気がするし、学園へ報告することも多そうだ。


「私は獅丸となら交わっても構わないわよ? 長い時間あなたの中に入って、だいぶ気に入っちゃったし」

「ここで変な方向に話を持っていくな~~~!!!」


 あと、これ以上この場にいると、ややこしいものに巻き込まれる気がするし……。






  *  *  *






 場所は変わり、ここはかつてミクトも降り立った空港。

 そこに、ある男が立っていた。


「さて……、留学でしばらく日本を空けていたが……」


 近くを通る女性の多くがチラチラと彼の盗み見てしまう。自身の意志とは無関係に視線が向くのは、それほどまでに彼の顔立ちが整っていたからだろう。

 加え、男はさらに長身だった。おそらくだが、大介より高い。だいたい185cmくらいだろうか。

 とにかく、一目見た印象は、女性の理想を体現しているような、そんな姿だった。


「我が愛しの新月学園は、どうなっているかな?」


 そう呟きながら、彼は空港第2ビルの出口へと足を向けた。

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