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MEGA LEGEND  作者: 伊建天
3、初めての実習
16/18

3ー3


 ――放課後。


 授業が終わると集まった一同は、先日まで警察の捜査が行われていた場所へと来ていた。

 めぼしい成果を見つけられなかったのか、捜査は引き払われ、一帯が立ち入り制限されている様子もない。


「ま、一通り調べ終わった後だから、何か出るとも思えないけどな」

「気分よ、気分! ほら、『少年探偵団、出動ー!!』ってカンジで」


 すっかり童心に帰っているミクトにつられ、捜査を開始する面々。


 しかし――、


「予想通りだけど、やっぱり何もないわね」


 15分くらいだろうか。ごくわずかな時間で、早速捜査が終了しようとしていた。


「当然っちゃ当然だけどな」

「でもこんだけ早く終わるのは、何か寂しいなー」


 提案者のミクトも口ではぶう垂れながらも表情は諦め顔だ。

 ひょっとしたこうなることが予想できたから、ミクトの安全に人一倍気を使うはずのミクトの護衛たちが何も言ってこなかったのかもしれない――と、付き人のセピアを見ながらふと思う姫花だったが、龍登があらぬところに気を配っているのに気づいた。


「龍登? 塀なんか気にしてどうしたの」

「ん? あぁ、昨日偶然聞いた話なんだが……」


 そこで龍登は、昨日バイト先のラーメン屋で聞いた、塀の上の妖気の痕跡の話をした。


「何それ!? 進展アリじゃない!!」


 途端、目を輝かせるミクトだったが、近くにある塀を見つめ、龍登が溜め息を漏らす。


「でも、だから何だって話なんだよな。もう件の痕跡だって残ってないし、そもそもこの塀、人が歩ける代物じゃないぞ」


 龍登が言った通り、近隣にある塀は皆、大介の身長くらいの高さがあり家の中を見えないようにしていた。しかも塀の幅も細く、足が片方乗るかどうかといったくらいだ。子供ならこのくらいの細さならよじ登って歩きそうだが、それには高すぎる。かといって、よじ登れる人はこんなところ歩かないだろう。


「でもこの塀の上に続くように妖気の痕跡が確認されたんだろ? だったらそれを追えば何かしらのヒントに繋がりそうだけどな」


 大介の言い分はもっともだが、それで見つかればこの事件はとっくに解決している。

 皆でうーんと唸っていると、


「お前ら、こんなところで何してるんだ?」


 昨日お世話になった、出良初利に見つかってしまった。






  *  *  *






「ふーん、捜査の終わった現場を独自で調べる、ねぇ」


 見つかった以上、黙っていても仕方ないので、事の顛末を話す龍登たち。

 それに腕を組んで相槌を打つ初利。相変わらず上半身裸だが、もうそこを気にするのはやめることにする。


「危ないから手を引け、……と言いたいところだが、確かにお前たちの言った通りここはひとしきり調べ終わってるから特に危険はない、か。ま、俺から注意することは特にないわな」

「ふぅ。……ところで初利さんは何でここへ来たんですか? 昨日の事件でここを調べに来たわけでもないでしょう?」

「もちろん。ここに来たのは、この近くで庭の木の実を奪われているという被害を聞いたからだ」

「…………何ですか、それ?」

「言葉の通りだ。この先にあるいくつかの住宅で庭に生えている木の実なんかが盗られるという被害を聞いてな。もぎ方から人為的なものだろうと判断され、依頼を受けに来たんだ」

「…………八影さんの依頼は放っておいていいんですか?」

「現場の捜査以降進展がなくてな、足止め食らった形だ。それならボーっとしてるよりも体を動かしていた方がよほどいい」

「そんなんでいいんですか……」

「あきらめろ、この男はそうやって何故かいつも事件を解決しているんだ」

「あ、ダルマさん」


 背後から一緒にやって来たダルマに止められる。


「何でかわからんが、頭動かさないで体だけ動かしてるのに最終的に解決へ持っていく、謎の才を持っているからな」

「そ、そうなんですか……」

「っと、無駄話をしてる間に着いちまったな」

「え?」


 どうやら、初利と軽く話しながら共に歩いていたら件の現場に到着してしまっていたらしい。本当に目と鼻の先だった。


「さて、オレたちは自身の事件を調査するが、お前さんたちはどうする?」

「…………まぁこちらも少し気になりますし」

「アタシたちの調査はもう終わっちゃったようなもんだしねー」

「ここまでついて来たのも何かの縁」

「よろしければご一緒させてください。何か手伝えるかもしれませんし」


 順に龍登、ミクト、大介、姫花と答える。


「ま、手伝ってもらうことは何もねぇと思うけどな。わかったぜ」


 こうして、龍登たちは初利の調査に付き合ことにしたのだった。






  *  *  *






「にしても、この庭にあるの、立派な木ですねー」


 見上げた姫花がつぶやく。その視線の先には、本人の言う通り、立派な大木が生えていた。

 むしろ森の中に生えていそうな貫禄は、ともすれば人の家の庭に生えているのは場所的に不自然に思えたほどだ。


「この辺りを中心に、庭先の木の実やら何やらが奪われているらしいな。よし、イッチョこの木を調べてみるか!」


 そう言うと拳をコキコキと鳴らしだす初利。


「って初利さん、この木殴る気なんですか!?」

「おうよ。これが調査の第一歩だ」

「いや、おかしいですよ! 何で木を殴る必要があるんですか!?」


 いきなり人の家の大木を殴りかかろうとする半裸の男。傍から見ると問題だらけにしか見えない。


「落ち着け龍登。相手はプロの探偵だぞ? 何か理由があっての行動に決まってるだろ?」

「いや、理由なんてないぞ? なんとなくこうしてみようってだけだ」

「ないの!?」


 龍登をなだめる大介だが、返ってきた初利の発言に龍登と同じテンションで返してしまう。


「まあ見てなって。どっせえぇぇーーーーーーい!!!」

「「――――」」


 止める間もなく、大木に拳を打ち付ける初利。

 拳と木の幹がぶつかる鈍い音が響き、木がミシミシと揺れる。

 こんなことをして何があるんだ、と思う龍登たちであったが、


 ドサッ。


 何の因果か、ナニカが降ってきた。


「「「「「「「え?」」」」」」」


 龍登たちはもちろん、ダルマも、拳を打ち付けた初利さえも困惑で目が点になる。


「あっぶねぇ。振り落とされるほどの振動を放つなんて、オッサンの怪力どうなってやがんだ……?」


 落ちてきたソレは、少年だった。

 いや、よく見るとその少年は何だか変だった。

 歳は見た目的に龍登たちと同じくらい。どちらかと言えば黒より茶色な髪の毛は、しかしミクトなどとは違って純日本人を思わせるものだ。

 しかし問題は、その髪色に対し、いや、髪の色以前に全体的に不自然な、真っ白いネコミミと尻尾が生えている点だった。


「っていけね!」


 見られていることを自覚した少年は、まるで本当にネコであるかのような俊敏さを見せ、逃げ出そうとする――が、


「待て」


 ガシッ。

 それよりも先に動き出していた初利に腕を掴まれ、逃げることが出来なくなる。


「君、八影さんところの八影(はちかげ)獅丸(しがん)君だな?」






  *  *  *






 初利にあっけなく捕まった獅丸は逃亡を諦め、開き直ったかのようにその場でどっかりと座り込んでいる。

 ただ流石に、アキバにいるネコのコスプレとしか思えないような自身の姿は恥ずかしいようで、頬を赤く染めている。


「あぁ、間違いないよ。オレが八影(はっかげ)獅丸だ」


 自分の名字であるにもかかわらず、微妙に間違った発音をする獅丸。実はこれ、本人の癖なのだが、そのことを龍登たちが知るのはまだ先の話。


「なんとなくで木を殴って、本当に探し人見つけ出したぞ」

「ホント何なのこの人…………」

「この男はこういう星のもとに生まれているんだ。そう割り切らんとやってられんぞ」


 初利が獅丸に事情聴取を行っている間、その後方でヒソヒソと話す龍登たちと、それに割り込んでくるダルマ。

 その様子が嫌な感じに映ったのか、獅丸は声を荒げる。


「あーそうだよ! 家に帰らなかったのはこの耳と尻尾のせいだ。こんなモンつけて家に帰れるかよっ、いいとこ町中の笑いものになるだけだ。そこでくすくす笑ってる連中みたいにな!!!」


 どうやら会話の内容までは耳に届いていなかったらしく、獅丸は龍登たちが自分のことを笑っていると勘違いしていた。受け答えこそ初利の問いに答えていたが、その目はハッキリと龍登たちを見据え、憤怒の情で睨みつけていた。


「どうせ『なんでそんな似合わないものつけてるの? www』とでも思っているんだろ、クソがっ」


 それに対し龍登は、獅丸に聞こえるよう音量を上げて答えた。


「あー、いや…………、その耳と尻尾についてはオレたちは見当がついてる。妖怪にとり憑かれているんだろ?」

「え?」


 想定外の返しに思わず目が点になって返す獅丸。


「いや、耳とかから妖気感じるし。たぶんネコ系の妖怪にとり憑かれて元に戻れなくなったんだろ? そういう訳だからオレたちは別に君のことを笑ってたわけじゃないよ」

「まぁとり憑かれてるはずなのに意識がはっきりしているみたいだから、そこのところは不思議に思ってるけど」


 自分の怒りが勘違いによるものだとわかった獅丸は押し黙る。やはりこう怒りに任せて暴走しない辺り、とても憑りつかれている人間には思えないと、改めて思う龍登たち(気魄師としての能力や経験値が著しく低いミクトのみ「え、そうだったの!?」と驚いていたが)。


「彼らは新月学園の生徒だからな、こういった出来事には慣れてるんだ。ちなみに彼らの実習で知り合ったんだが、その最中に君の捜索依頼が舞い込んできたから、ある程度事情は把握してるぞ」

「…………だったら、さっき後ろでコソコソ話してたのは何だったんだよ」


 事情を説明する初利だが、対する獅丸は勢いこそ弱まったもののいまだ疑いの目を向けてくる。


「何ってその…………」

「安心しろ、そこにいる半裸の変態が変な人間だって話をしていただけだ。断じて君のことを悪く言ったわけではない」

「おぉいダルマっ!!?」


 思わぬところ(自身の相棒)からの裏切りに思わず叫ぶ初利。

 獅丸も今頃になって気づいたのか「そういえばこの人裸だ…………、えっ何で!?」と今更のように叫んだ。


「あ~~~、とりあえずオレたちの学園に来ないか? 新月学園なら妖怪にとり憑かれた人に対する対処法もしっかりしてるだろうから解決できると思うぞ」


 ギャーギャーとうるさくなりそうだったので、黙らせる意味も込めて龍登が少し声を大きくして提案をする。


「!!!」


 とたん押し黙る獅丸。

 何も聞かなくともその表情は「この状態から解放されるのか!!?」と期待しているようだった。

 やはりあの格好は恥ずかしくて仕方がなかったようだ。






  *  *  *






 新月学園到着後――、

 獅丸は校舎内のある一室に連れてこられていた。

 ただ、そこは学内施設というよりも、テレビなんかで見るような実験室のようで、ガラスの窓の向こうに研究者が観察するような隣室があった。学園の教員に交じって初利やダルマ、龍登たちは現在、その隣室にいる。


「何だこの部屋。ココ本当に学校か?」

「もちろんだとも。ここは妖術の解除法などを研究するための部屋だ。まぁ普段はあまり使わないでたまに外部からの申請があった場合に貸し出されることがほとんどだがな」


 初利からの連絡を受け対応に当たった解呪専門の先生が獅丸の問いに答える。


「しかしお前、本当にとり憑かれているのか? いや、その耳と尻尾から妖気が漏れてんのは確かだから間違いないんだが、こう意識がはっきりしている例は聞いたことがなくてな」

「専門家のアンタにもわからないことを素人のオレがわかる訳ないだろ。ま、この姿になる前に白いネコに襲われたのは確かだからその通りなんじゃないか。それよりとっとと始めてくれよ。この姿恥ずかしいんだ」

「そうか? まぁいい、分かった」


 こうして、獅丸の解呪の儀式が始まった――。






 …。

 ……。

 ………。






 結論から言おう。ソッコーで終わった。

 いや、ホント。特筆すべきことは何もなく、気づいたら獅丸のネコミミと尻尾はなくなっており、そのすぐ横には見事な白銀の毛並みをしたネコが、スヤスヤと眠っていた。

 この間、獅丸はそれこそ目を閉じヘタな精神統一の真似事のような呼吸しかしていない。普通なら憑りつかれた人間を元に戻すのはもっと苦労するはずだし、現に解呪を担当した先生もあまりのあっけなさに目が点になっている。


「………………なんだよ急に静かになって、――――って、もう終わったのか。たいしたことないんだな」

「い、いやいやいやいやいやいやいやいや!!! いくら何でもあっけなさすぎる!!? いったい何が起こったんだ!?」


 辛抱たまらず目を開けた獅丸だが、すぐ近くに白ネコがいるのに気づき、事態を把握する。

 対し、傍観者たちは何が起こったのか理解できず、パニックに陥っていた。


「何って……、解呪に成功したんだろ? もう用はないからオレは帰るぞ」

「…………いや、もう少し待ってくれ。思えばとり憑かれたわりに意識がはっきりしていたりと今回の件は腑に落ちない点がいくつかあった。せめて君がとり憑かれた状況を教えてくれ」


 真っ先に混乱から回復した龍登が隣の部屋からやって来て、帰ろうとした獅丸を引き留める。


「…………まぁいいだろ。でもそれなら、話す前に――おい、起きろ」


 そう言って獅丸は、丸まって眠っている白ネコを指先でつつく。

 ただしその白ネコは尻尾の先が分かれており、それがそのネコが妖怪であることを証明していた。

 尻尾が2つに分かれていれば“猫又”、しかしその白ネコは3つに分かれていた。

 猫又の上位に君臨する妖怪、“猫ショウ”という種であった。


「コイツも一緒にいた方が話が早いだろう。ほら、起きろ」

「――!!! おい、何バカなことしてんだ!? そいつは強力な力を持った妖怪なんだぞ。そんな簡単に起こしたら何をしでかすか――」


「んにゃぁ? なんじゃ、私の眠りを妨げるのは」


 龍登の制止むなしく、白ネコは目を覚ましてしまった。

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