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MEGA LEGEND  作者: 伊建天
2、異国の姫
13/18

2-4

「が……、ふっ」


 焼かれた痛みのせいかは不明だが、そんな声を出しながら古椿は気を失った。それを確認した龍登は、気魄を解く。


「ふぅー」

「お疲れ、龍登」

「助けてくれてありがとう、リュート」

「いや、気にするな」

「でも、あれだね。花が化けたとはいえ、女の人に躊躇なく火を向けるとか、リュートって意外とヒドイ戦い方するのね」

「おいっ、助けてもらっておいていきなりそれはないだろう」


 そんなことを言いつつもクスクス笑っているミクト。

 龍登は、そんな彼女の表情を見て、今の発言が心からの物ではなく、からかわれたのだと気づき、苦笑する。


「う、うぅ」


 そんなことをしているうちに、倒れていた男――ミクトがフランコと呼んでいた人物が目を覚ます。


「お、おぉミクト様! ご無事でしたか」


そして起き上がりミクトの姿をその目で確認したフランコはそんな大声を上げる。


「ん?」


 その発言に妙な違和感を覚える龍登だったが、それに気づくより前にミクトがフランコの元に駆けだす。


「フランコ! 意識が戻ったのね、よかった」

「いえ、ミクト様こそご無事で何より」


 そうして近寄ったミクトにフランコが手を伸ばしたその時――、


 ドンッ。


「キャッ!」


 猛スピードでミクトに向かって走り出していた()()()が、ミクトをあらぬ方向に突き飛ばしていた。

 突然のことに驚き、固まる龍登と姫花。

 そして当然、突き飛ばされたミクトも声を荒げる。


「何するのよ、セピ…ア……?」


 しかしその声も尻すぼみの物となる。


 何故か――。


 セピアの脇腹に赤い液体が流れており、そこにはフランコの握ったナイフがあったからである。


「ふん。どこの生まれとも知らぬ孤児風情が、せっかくのチャンスを邪魔しおって」


 そして崩れ落ちるセピアを抱きかかえたフランコは、冷たい目でセピアを睨みながらそう言い放った。


「そんな……。なんで、フランコ?」


 とっさの判断で駆け寄った龍登と姫花に守られながら、フランコに距離をとるように下がりつつミクトはそう呟いた。

 その声は震えていて目じりには涙を浮かべていたがそれは仕方のないことだろう。


「どうしたもこうしたも、やはり気づいていなかったのですね。私は貴族派の人間ですよ、お・う・じょ・さ・ま」

「!! まさか、あなたこの前のクーデターを起こした……」

「ええ。その件には私の家も一枚噛んでおりましてね」

「…………どういうことだ?」


 ここで龍登が声を上げる。


「黙れ小僧。我が国の崇高な計画だ。口を挟むな」

「国の汚点についてだから、あまり話したくはないんだけど、……実はつい最近、オルドスティア王国(ウチ)の王室にクーデターが起こったの」

「! どうして……」

「オルドスティア王国は知っての通り王制で、王族の次に貴族が来るんだけど、最近日本の民主制を取り入れようって話になって、その結果貴族の地位が下がっちゃって一部から反発が起きてるの」

「……ふん。まぁそういうことだ」


 鼻を鳴らしたフランコが、不機嫌そうに肯定する。


「まったく。私はこの国が本当にいけ好かん。こんな青臭い島国に貴族の血の尊さを踏みにじられるなど……。だいたい私という隠し玉も本来は必要なかったのだ、あのような……」


 そうブツブツ言うフランコに対しスキを探ろうとする龍登と姫花。しかしつい力んでしまったのか、足元がザザッと鳴ってしまう。


「おおっと。変な動きを見せるなよ。この女は急所を外されているからまだ助かる。しかし、お前たちが妙な動きを見せたら……どうなるかな? それにお前たちは既に囲まれているのだ。逃げ場もないぞ」


 フランコは抱えているセピアをおもむろに見せつけてくる。

 それに周りに気を配れば、確かにさっきまで倒れていた男たちも起き上がって、こちらを取り囲んでいる。


「ここにいる奴らは全員アンタの仲間って訳か……。まさか、その古椿も!?」

「うん? あぁ、こいつのことか。名前など知らん。まぁこんな田舎の島国の妖怪でも役に立つかと利用してみたが、あんまり使えなかったな」


 いまだ起きる気配のない古椿を一瞥し、龍登に答えるフランコ。


「さて王女様、この娘の命が惜しかったら、……わかってますね? 無駄な抵抗をせずこちらに来てください」


 ミクトは少しの間押し黙ったが、一歩を踏み出した。

 止めようとする龍登と姫花を手だけで制する。その動きには、どこか決意じみたものが感じられ、龍登たちは止められなくなってしまった。


「しかしクーデター対策に一時的に日本に逃れた私に付いてきたあなたが、クーデター派だったとは驚きですね」


 ミクトは震えながらもゆっくりと歩き、同時に言葉を紡ぎだした。


「言ったでしょう、私は隠し玉だと。本来は私が出る幕など必要なかったんですよ」

「先のクーデターが失敗した時のもう一つの隠し刀、それがあなたという訳ですか」

「えぇ。……やはり私はこの国が嫌いだ。この女の黒髪も日本(ココ)を連想させて虫唾が走る」

「! やめなさい、その子は私の大事な友達――」

「へぇ、この薄汚い孤児を友達、ねぇ。まったく、あなたには王族としての誇りがないんですか。こんなどこの国が混じっているかも分からない混血の孤児など、掃いて捨てる雑巾のようなものでしょう」

「! そんな訳ないでしょう!!」


「いいえ」


 ミクトの言い分をキッパリと否定するフランコ。その声は決して大きなものではなかったが、あまりに堂々としていたせいか、ミクトは一瞬怯んでしまう。


「そんなだからあなた方王族には血という最も誇り高きものへの執着が薄くなるのです! もうそんな者たちには国を任せておけない」

「もういいでしょう! この通り私は来ました。早くセピアを解放しなさい!」

「……そんなに、この薄汚い黒髪が大事ですか。いいでしょう、ほら」


 そう言うとフランコはセピアを目の前に投げ捨てる。

 すでに息も絶え絶えなセピアは、ろくに受け身もとることもできず地面に倒れこんだ。


「さぁ、お前たち! やってしまいなさい」


 そしてセピアが倒れこむと同時に、フランコは叫んだ。

 号令と共に、取り囲んでいた男たちが一斉に龍登と姫花に向かって走り出した。

 人質がいるせいでろくに動き出せないでいた龍登と姫花は、反応が遅れてしまう。


「! フランコ、あなたって人は……!」

「ふん、さっきも言ったでしょう。私はこの国が嫌いなんだ。だからそこにいる日本人を目に入れるだけで虫唾が走る。だいたい、あのクーデターだって、あの時に日本人のガキが出しゃばって変なことをしなければうまくいってたんだ――」






「そうかい。だったら、今回もお前たちの企みは潰さないといけないな」






 次の瞬間、龍登たちに襲い掛かった男たちの頭に野球ボール位の大きさをした金塊がぶつかってきた。

 あまりの突然なことに、直撃を避けられず昏倒する男たち。

 その金塊が飛んできた方向を見てみると――、


「「大介!!?」」


 龍登、姫花に並ぶ第3の幼馴染が立っていた。






「何だかよくわからない状況になってるけど、とりあえず――」


 辺りを一瞥した大介はおもむろに口を開くと、


「真っ先に何とかするなら、お前だな」


 そう言いながら、フランコに焦点を定め、その身に金色のオーラをまといだした。


「!!!」

「無駄だよおじさん。このオーラに魅入られた人はよほどの存在でない限り精神を持っていかれる――、って言っても、もう放心してオレの声も届いていないみたいだけどね」


 大介はフランコの前まで来ると黄金に輝くオーラを収束させる。その眼前には、大介の気魄の効果によってすでに心ここにあらずといったフランコが立ち尽くしていた。






  *  *  *






 「大介! お前何でここに――「大介ぇーーー!!!」!!?」


 龍登の疑問を遮るように大声を上げながら、ミクトが大介に抱き着く。

 なんだかよくわからない状況に目が点になってしまう龍登と姫花。

 しかし、大介がとりあえずで放った言葉に、我を取り戻す。


「ええっと、とりあえずこの倒れている人たちをどうにかしない?」






 しばらくして、警察がフランコたちクーデター派の人間を、気魄師が古椿の拘束を無事に終え、龍登たちも束の間の安息を得ることが出来た。

 ちなみに、事が事なので、後日フランコたちはオルドスティア王国に引き渡される予定だ。セピアはフランコの言ったとおり、急所を外されていたのですぐに回復するとのことだ。


「――つまり大介、お前が始業式が過ぎた1週間後という変なタイミングで転校してきたのは、オルドスティア王国で起きたクーデターの解決に尽力し、その結果後始末などに巻き込まれて日本への帰国が遅くなったと……」

「あはは、うん、まぁ……。本当はお父さんの短期の海外出張について行く形で春休みまでに日本に帰れるつもりだったんだけど、クーデター事件に巻き込まれた結果、いろいろと足止めされちゃって」

「あの時の大介はそれはもう八面六臂の大活躍だったの! それにしても、キーホルダーの件でもしやとは思ったけど、本当にあなたたち大介の幼馴染だったのね」


 なんかもう、いろいろと衝撃である。

 自分たちの幼馴染が知らぬ間に一国を救った英雄になっていたとか――。

 心なしか大介に話しかけるミクトのテンションが高い気がする。


「あの大介。実は今回の来日、あなたを探すという目的もあって――、どうしてもあなたにもう一度会って、直接お礼を言いたかった」


 頬を赤く染めながら、熱っぽい視線を向けて大介に話すミクト。

 「どうしてこの場所にたどり着いたんだ?」など、いろいろと聞きたかった龍登と姫花だが、ミクトのその表情を見た後顔を見合わせ――、この場においては空気の如く何もしないで突っ立ているのが正解だと感じ、静観を決めるのであった。






 後で聞いた話だが、ミクトの発言によってケータイの操作を遮られた時、実は龍登は動揺のため操作をミスして、大介にメールを誤送信していたのだ。


「件名もない上に意味不明な文字列が並んでて、それと一緒にこの近くのGPSの位置情報が貼ってあったから訳分からなかったよ。ここに来たのはたまたまだったけど、本当助けられて良かった」


 と、大介は語っていた。






  *  *  *






「何か、昨日は本当に濃い1日だったな」


 翌朝、教室に着いた龍登は姫花に話しかけていた。


「えぇホント。まさか大介が、ねぇ」

「あの姫様も、オレたちの前では大人しかったけど猫被ってたのかねぇ」

「いやぁ、どちらかというと大介の前だから暴走して――、と大介、おはよう」

「おう、おはよう2人とも。昨日はミクトを助けてくれてありがとうな。それとセピアだけど、傷も順調に治ってるし近いうちに業務に戻れるってさ」

「そう、よかった。でも業務って……、やっぱりメイドさん?」

「あれ、聞いてなかったのか?」

「直接はね、そうなのかなーって、予想はしてたけど」

「っと、先生来たぞ。話は後でな」


 キーンコーンカーン。

 こうして、担任が入室し朝礼が始まる。

 いつも通りの朝の会になるかと思いきや、


「――以上だ。あと、最後に1つ。このクラスに新たに1人仲間が加わることになった」


 前回の大介の時と違い、一切の事前情報がなかったため、一気にざわめきだすクラス内。


「じゃ、入ってきてくれー」


 そして入室してきた少女は、朝日が反射してキラキラと輝く金髪をなびかせ、優雅に歩を進ませて教卓の前で停止した。


「初めまして、皆様。アタシ、ミクト・オルドスティアと申します。気軽に『ミクト』と呼んでください。皆様と仲良くできると嬉しいです」

「と、いう訳でオルドスティア王国第1王女、ミクト・オルドスティア様だ。気魄はあまり使えないらしいが、日本の気魄師養成学校を視察したいということで、ウチに留学することになった。お前たち、粗相のないようになー」

「「「………………」」」


 一瞬の静寂の後――、


「「「「「ええええぇぇぇぇぇ~~~~~!!!??」」」」」


 もの凄い衝撃、に例えたくなるほどの声がクラス内から生じた。

 一国の王女様がクラスメートに、その事実に驚きを隠せないのは、まぁそれはしょうがないことなのだろう。

 ちなみに、この大音量に交じって「あ~、何でこのクラスにはこうも厄介ごとが集中して舞い込むのかねぇ」という担任の声がしたのだが、それが誰かの耳に入ることはなかった。

 そんな中、ミクトは目当ての人物を見つけると歓喜の声を上げた。


「あ、大介!!! アタシの王子様」


 ――ピシッ。


 そんな音が聞こえたかのようにクラス内は一瞬にして静寂に包まれる。

 それほどまでに、今のミクトの発言は衝撃があった。


「大介、アタシやっぱりあなたのこと忘れられないし諦められない。だって、こんなにもあなたのことが大好きなんだもの」


 ザワザワ。ザワザワ。

 静寂に返った教室が今一度、だんだんと音に包まれる。

しかしそれらの音をしてもミクトを止めることはできない。


「待っててね、大介。アタシ、あなたにアタシのこと好きにさせてみせるし、これからもっともっと、あなたのこと好きになって見せるから」


 最後にウインクと共に、指でピストルを作り、バーンと打つマネをするミクト。

 教室内は、嵐に包まれた。


 そして、その嵐の中心にいた男、大介は――、


「あ、あはは」


 力なく苦笑するしかなかった。

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