第三話 ー2ー
無事に新たな名前が決まり。
俺、瀬戸川由莉はリビングで蒼空と話していた。
「今日からは、私が兄さんのお世話するね」
「何で!?」
「だって女の子の体のこと、全然知らないでしょ?それに、これから兄さんは私の妹。そういうことになってるしね」
「まあ..それもそっか」
「それじゃあ由莉。服、買いにいこっか」
その後、自分の服に着替えようとすると蒼空が、
「絶対ダメ」
と言うので仕方なく蒼空が貸してくれた服に着替える。
蒼空が貸してくれた服は薄手で丈が短いワンピースだった。
...もう少し、女の子初心者に優しい服が良かったなぁ...なんて考えるが、仕方ない。他に着替えがある訳でもないのだ。
パジャマを脱ぎ捨てる。
上は肌着だけ。ブラはない。必要ない。胸がない。
ワンピースを着て、さすがにこの時期にワンピースだけは寒いだろうと上からお気に入りの少しくすんだ橙色のパーカーを羽織った。
男だった時はちょうど良いサイズだったのに今となってはダボダボで、袖が手を全て覆い隠してしまった。
部屋から出てリビングに戻ると、先に支度が済んでいたらしい蒼空がこちらを見て微笑んだ。
「やっぱり可愛いね」
「蒼空、やっぱりこんなに丈が短いワンピース、恥ずかしいよ」
「大丈夫だよ。...由莉は細いね。」
丈の短いワンピースの上にダボダボのパーカーを羽織っているから、前のファスナーを上げると下に何も履いてないように見えてしまう。
スカートはやっぱり心もとない、スースーする。
そんなことを考えながら、今日の行先を姉になってしまった妹に尋ねる。
「蒼空、服どこに買いに行くの?」
「ん~、ウニクロでいいかなぁ、今日のところは」
「え...?あんなに人が多い所に...?」
「そ。...そんな顔しなくても大丈夫だって」
「大丈夫...じゃない...」
大体今は終業式翌日、冬休み初日だ。絶対に人が多い。
この格好で行くなんて...。
「大丈夫、かわいいよ?」
蒼空が微笑みながら言う。ちょっとだけ、うちの姉は可愛いな、なんて思ってしまった。
「そうだ、私、兄さんのこと兄さんって呼ぶ訳にはいかないよね」
思い出したように蒼空が言う。
「そうだね。まぁ、由莉でも由莉ちゃんでも好きに呼んでよ」
「じゃあ...由莉かなぁ。ね、由莉」
「はいはい、何?お姉ちゃん」
蒼空が急に立ち止まる。
「...かわいい。もっかい言って!」
「お姉ちゃん?」
「もう1回!」
「しつこいよー」
「えぇー、ケチー」
そんな会話をしながら、こんな幸せな時間もそうそうないよな、なんて思った。
さて、ウニクロに到着したけれど。
服を選ぶのは私じゃないくて蒼空だ。
蒼空が選んだのはやはり丈の短いスカートと、タートルネックのだぼっとしたセーター。1番小さいサイズでも、私には大きい。
「お姉ちゃん、何でスカート?ジーンズとかで良いんじゃ...?」
「そっちのほうが似合うでしょ、由莉には」
蒼空が満面の笑みを浮かべてそう言った。
...ああもう、そんな顔されたら断れないじゃん。
「それじゃ、試着しにいこっか」
...その後、試着室で蒼空に散々着せ替え人形にされ、店を出たのはすっかり日が傾いてからだった。
店を出て次に向かったのは近所にある博多ラーメン屋、じゃじゃ馬。
メニュー自体は少ないながらも全てのメニューが洗練されていて、その上安いという店。旨くて安いは正義です。
「あ、来たよ!おーい、こっちこっち〜!」
「おいバカ、やめろ目立つだろ」
店に入ると、無邪気な声が聞こえた。
そっちを見ると、奥の方に座っている桜井が身を乗り出して手を振っている。
横には珠璃も居て、大声を出す桜井を制していた。
「やっほー、慧ちゃん、珠璃ちゃん」
「2人とも、久しぶり」
蒼空と私の挨拶に、珠璃は、
「よぉ、蒼空と...律?」
と戸惑ったように返事を返す。
「今は由莉だよ」
「そっか、由莉ちゃんって名前になったんだね」
蒼空の訂正に桜井がうんうんと頷く。
「やっぱり可愛いねぇ!」
がばっ、と桜井に抱き着かれる。
「ちょ...桜井やめて、抱きつくなぁ...!」
「照れてんのー?可愛い!」
私の抗議に聞く耳を持ってくれない...。
「いくらなんでも変わりすぎだろ...」
と、珠璃が困惑しながら呟いた。
「私もちょっと変わったんだよー」
蒼空がちょっと自慢げに胸を張った。
「どこがだよ」
「胸の大きさと身長!」
「ほう?具体的には?」
「胸はなんと!BカップからCカップへ!身長も2センチ伸びたんだよ!」
「うらやまけしからん!!揉ませろっ!」
「あんっ、慧ちゃんやめてぇ〜」
俺が目を逸らしていると、珠璃が
「お前は胸ないんだな」
と、ボソリと呟いた。悪かったな、胸なくて。
ちなみにこの中で1番胸が大きいのは珠璃だ。何か屈辱的。
覚えてろよ。