頼って欲しい。
大変長らくお待たせ致しました。
私は屋上へと歩を進める。
「ね、ねえお姉ちゃんどこに...」
由莉が不安げに声を出すが、私に答える余裕はなかった。
それどころじゃない。
なんで気づかなかった。なんで気づけなかった。
ずっと一緒だったはずなのに。
自分への嫌悪感と無力感がひたすらに溢れてくる。
繋いだ手はずっと震えている。
震えているのはどっちの手だろう。
由莉は一度死にかけた。能力を向けられるということ自体がトラウマになっても、何もおかしくない。
『能力はいとも簡単に命を奪います。決して使い方を間違えないように。』
いつだったか、授業で担任が言った言葉が頭をよぎる。
人間はもちろん、殆どの動物は能力を持つ。しかし彼等には理性が無い。
階段を登り切って屋上に出る。
空は澄み切って、憎たらしいほどに青かった。
振り返る。青い顔をした由莉と目が合う。
蒼色の右目と、橙色の左目。
綺麗な目。それが不安げに揺らいでいる。
由莉にそんな顔をしてほしくない。
なんて言おう。なんて言うのが正解なんだろう。言葉が浮かばない。
「お姉ちゃん」
由莉の声に、気づかぬ間に床まで落ちていた視線を上げる。
由莉は、ぎこちない笑顔で、
「私、大丈夫だよ。全然平気」
と言った。
「嘘。声が震えてるし、顔も真っ青」
私の言葉に由莉は、
「バレちゃうか。さすがに誤魔化せないよね」
と、少し笑った。
その表情に私はホッとする。
でも、本題はここからだ。
言いたい事は山程あった。でも、これだけ。
「ねえ、由莉。どうしようもない時は私を頼って欲しい。甘えて欲しい。今は...今のあなたは私の大切な妹なんだから」
後半は、少し冗談めかして言う。ちょっと照れくさかったから。
「ありがとうお姉ちゃん。じゃあ、お言葉に甘えて...」
由莉が私に抱きついてくる。その力はとても弱々しかった。
小さくて細くて、今にも折れて無くなってしまいそうな由莉の体を、力の限り抱き締める。
彼女の体の震えは少しずつ小さくなって、最後には無くなっていた。