表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/33

頼って欲しい。

大変長らくお待たせ致しました。

私は屋上へと歩を進める。

「ね、ねえお姉ちゃんどこに...」

由莉が不安げに声を出すが、私に答える余裕はなかった。

それどころじゃない。

なんで気づかなかった。なんで気づけなかった。

ずっと一緒だったはずなのに。

自分への嫌悪感と無力感がひたすらに溢れてくる。

繋いだ手はずっと震えている。

震えているのはどっちの手だろう。

由莉は一度死にかけた。能力を向けられるということ自体がトラウマになっても、何もおかしくない。

『能力はいとも簡単に命を奪います。決して使い方を間違えないように。』

いつだったか、授業で担任が言った言葉が頭をよぎる。

人間はもちろん、殆どの動物は能力を持つ。しかし彼等には理性が無い。

階段を登り切って屋上に出る。

空は澄み切って、憎たらしいほどに青かった。


振り返る。青い顔をした由莉と目が合う。

蒼色の右目と、橙色の左目。

綺麗な目。それが不安げに揺らいでいる。

由莉にそんな顔をしてほしくない。

なんて言おう。なんて言うのが正解なんだろう。言葉が浮かばない。

「お姉ちゃん」

由莉の声に、気づかぬ間に床まで落ちていた視線を上げる。

由莉は、ぎこちない笑顔で、

「私、大丈夫だよ。全然平気」

と言った。

「嘘。声が震えてるし、顔も真っ青」

私の言葉に由莉は、

「バレちゃうか。さすがに誤魔化せないよね」

と、少し笑った。

その表情に私はホッとする。

でも、本題はここからだ。

言いたい事は山程あった。でも、これだけ。

「ねえ、由莉。どうしようもない時は私を頼って欲しい。甘えて欲しい。今は...今のあなたは私の大切な妹なんだから」

後半は、少し冗談めかして言う。ちょっと照れくさかったから。

「ありがとうお姉ちゃん。じゃあ、お言葉に甘えて...」

由莉が私に抱きついてくる。その力はとても弱々しかった。

小さくて細くて、今にも折れて無くなってしまいそうな由莉の体を、力の限り抱き締める。

彼女の体の震えは少しずつ小さくなって、最後には無くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ