第六話 スケール
あの衝撃的な出来事があってから、桿那の梃徒に対する距離はさらに近くなった。
「梃徒君帰ろう!」
「あ、嫌です」
「辛らつ!!」
「どうせ、また家に上がろうって魂胆でしょ?」
「うっ! そんなわけないじゃないか少年。あは、あははははは」
それで隠せていると思っているのか? と梃徒は思った。
桿那は梃徒の後を付いてくる。
「梃徒君の許可がなくても付いていくけどね」
「それを本人の前で言ったらだめだよね」
「私は梃徒君の前じゃガバガバなので」
「その言葉の含みには無関心を宣言します」
「ええ、結構センスあると思うんだけどなあ」
「センスの定義をぜひ聞かせて欲しいね」
「あ、それはねえ――」
「やっぱいいや」
梃徒は桿那の前に手を出してそれを拒否した。
それに対して桿那が頬を膨らませる。
「いけないんだ! そういうことしたら私、拗ねちゃうからね!」
プン! と言って桿那はそっぽを向く。
梃徒は頭を掻いた。
(わがままだなあ)
梃徒は心の中で小さなため息を付いた。
「悪かったよ。ちょっと意地悪だったよ」
「許さない」
「ほんとこの通り」
梃徒は桿那に頭を下げる。
桿那はそれを横目で見て、にやりと微笑んだ。
「じゃあさ。一緒に――」
「それは駄目」
梃徒は間髪いれずに答える。
「なんでよお!」
「それとこれとは話が別だよ」
「ケチぃ!」
桿那はまた顔を背けた。
出会ってから、梃徒は彼女にやられっぱなしだったので、今の状況に少し気分が良くなった。
「ねえ」
彼女の雰囲気が変わる。
(ちょっとやりすぎたかな……)
「梃徒君はさ将来の夢とかないの?」
「え?」
突然の質問だったので聞き返してしまった。
「将来の夢の話だよ」
桿那が振り向き微笑む。
「特にはないかな」
「ふーん」
「君は?」
「うーん。そうだなあ、もしも、何もしたいことがなかったら、世界征服かな!」
満開の花がそこに咲いた。
(何もなかったときの、やることの内容がでかすぎる……)
世界征服はそんなテンションでやるものじゃないだろうに。
「それは早くやりたいことを、見つけて欲しいね」
「梃徒君次第だね!」
「え?」
世界の命運を勝手に背負わされては困る。
結局その日、桿那は梃徒のマンションの近くまで付いて来た。
自宅の中まで来ると思っていたが、意外にも桿那はすぐに別れを言って走っていった。
やはり、不思議な生物だな。と梃徒はその背中を見て思った。
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