第四話 混ぜるな危険
「いただきまーす!」
「はい。召し上がれ」
才華が冷静すぎるのも問題があるな。
梃徒はこのとき初めて、自分の母親の冷静さが、自分の人生でマイナスに働いたと思った。
先ほど桿那が外で出てきてとわめくので、ドアを開けに行くと、急に晩御飯を食べに行こうと言われた。
梃徒が自宅で食事をするから駄目だと断ると後ろから才華が出てきて「だったら、一緒に家で食べればいいじゃない」と提案して来たのだ。
もちろん梃徒は反対しようとしたが、その前に桿那に自宅に入られてなし崩し的に現在に至る。
(まあ、仕方がない。ご飯を食べたら早く帰ってもらおう。疲れる)
「桿那ちゃん、どんどん食べてもいいからね。梃徒はあまり食べないから」
「はい! 育ち盛りなので、どんどん行きます!」
梃徒はそういう桿那の胸を見て、いったい栄養はどこへ行くんだろうなと思った。
「それにしても、どうして制服なの?」
「え? ああ、梃徒君が制服フェチだって聞いて」
「そうなの? 梃徒」
「い、いや違うから、やめてよ桿那さん」
「あ、はじめて名前で呼んでくれた! 感動!」
「いつもはこの子なんて呼んでるの?」
「灘さんって言うんですよ。自分の名前も灘なのにい」
「あらそうなの。変な子ね」
梃徒はこの二人は合わせるべきではないと思った。
混ぜるな危険である。
適当な桿那の言葉に冷静な才華の言葉、才華も才華で冷静な感じではあるが冷淡ではなく。少し天然で抜けているところもある。
つまり、この二人を混ぜてしまえば、梃徒にとってこの先、混沌とした状況になることが予見される。
「そ、そんなことは良くて! 本当の理由を教えてよ」
このままでは不利になるばかりだと思って無理やり話題を戻した。
「休日なのにどうして、制服なのかってこと? もう、乙女の秘密を知ろうなんてエッチだね。梃徒君は」
いきなり目の前でパンツを脱いできたやつには言われたくない。と梃徒は思った。
「エッチなの? 梃徒」
「だから、違うってば、桿那さんの言葉はほとんど嘘だと思っていいからね。母さん」
「うわあ、ひどいなあ、梃徒君。私傷ついちゃったよ」
「え、そ、それはごめん」
(どうして僕が謝らないといけないんだ)
「じゃあさ、お詫びにこの後、梃徒君の部屋に行きたいな」
「え、そ、それは」
「入れてくれなきゃ、私、あのこと言っちゃおっかなあ。あの日の放課後、梃徒君が手にしたものとか……ね」
「わああああ、わかった。わかったよ。少し掃除する時間くれるなら、その要求を呑むよ」
桿那はいじめっ子のような笑みからひまわりのような笑顔に変わった。
「うん。それは許そう」
「よかったわね。梃徒、許されて」
「はは、そうだね」
(やっぱり混ぜるな危険だ)
まさか、自分の母親の冷静さがこんなにも自分にダメージを与える日が来るとは思ってもいなかった梃徒であった。
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