第二十一話 PC
「お前、これ……、犯罪じゃね?」
「いや、だから説明したでしょ?! これは僕が盗んだとかでも、欲しいとかって言ったわけでもなくて、向こうが渡してきたんだって!」
「いやあ、それ厳しいわ」
「ああもう!」
場所は梃徒の部屋。
そこで梃徒と真澄は、机の上に置かれたなんとも如何わしいものを見ながら、会話していた。
それを真澄は見て、梃徒に非難の意思を込めた顔を向けていた。
梃徒は顔を真っ赤にしながら、それを否定する。
「とりあえず! これが彼女からのメッセージなんだって」
「お前がそう思いたいとかじゃなくてか?」
梃徒はその内の一つを手に取った。
パンツだ。
黒いパンツ。
しかも女性用。
梃徒はそれに、手に持っているペンの先から出る青白い光で、あらゆるところを照らし始めた。
一見するとそれは、警察の鑑識が何か作業をしているかのような絵であり、高校生がパンツに対してやっていると、明らかに変態のそれだ。
梃徒はもちろん、そんなことはわかりながらも、羞恥心など捨てて作業に没頭する。
「あった……」
梃徒は目的のものをパンツに見つける。
パンツの表面、おしりに当たる部分にペンの光を当てられて発光する文字がある。
梃徒はその文字、いや数字を真澄に見せて、真澄がそれを写真に取った。
梃徒は次の作業に入る。
今度はブラジャーを手に取った。
「入るわね」
「「え!?」」
梃徒の部屋にお茶とお菓子を持った、梃徒の母、才華が急に入ってきた。
彼女は、今日はパートが休みだったために家にいた。
いつもならノックを一度してから入る彼女だが、今回は両手が塞がっているために、体でドアノブを器用に回しながら入ってきた。
才華の視線が、机に置かれたそれへと注がれる。
梃徒と真澄は、自分たちの顔から血の気が引いていくのを実感した。
「い、いや母さんこれは!」
「いいのよ。梃徒、男の子だもの。それが犯罪に関わらなければね。お茶とかここに置いておくわね」
「いや! 少し話を!」
「ごゆっくり」
バタン。
才華は一礼をして部屋から出た。
呆然となり梃徒の肩に手が置かれる。
「どんまい」
真澄の表情は、梃徒をこれでもかというほど哀れんでいた。
梃徒たちは先ほどのハプニングから開き直りに入り、無心で桿那から梃徒が預かっている(梃徒はそう思っている)物に書いてあるだろう、数字を探した。
梃徒が桿那の荷物に、手がかりがあると気が付いたのは、テレビ局に送られてきた暗号文の回答を見てだった。
一通目こそ何か意味がありそうな内容ではあったが、二通目からはまるで内容が変わっている。
二通目からの回答はこうだ。
パンツ
ブラ
タオル
ヘアゴム
五通目の最後がヘアゴムで終わっている。
梃徒はこれを見たときピンときた。
これは桿那が梃徒に渡してきたものの順番だと。
そして、先ほど六通目の暗号文が紹介されていた。
すべの物にある数字。
それは光で照らされる。
PbT
―
hhSe
最後に失われえた数字が君たちをエデンに導いてくれる。
これはまだ回答が出されていない。
しかし、おそらく誰も回答を出すことはできない。
梃徒は最初の行の、すべての物にある文字、から桿那の荷物に文字が書かれている可能性を考えた。
そして二行目にある、それは光で照らされる。
桿那が梃徒の部屋に来たとき、消えるペンの使い方を見せてくれたことがあった。
梃徒はそれを思い出し、もしかしたらと思って、今の作業をしてみるとビンゴだったわけである。
「全部終わったな」
「うん」
ノートにはそれぞれの荷物から読み取った数字が書かれている。
パンツ 6
ブラジャー 5
タオル 0
髪留め 0
髪ゴム 0
シャーペン 4
消しゴム 7
「この数字をどうすればいいんだ?」
「多分この六通目にある三行目から先が、ヒントだと思う。思うのはpbTは、パンツとブラジャーとタオル。hhseは、それぞれ髪留めと髪ゴムとシャーペンと消しゴム。それぞれ英語にしたときの、頭文字だよ」
梃徒はノートに、それを書きながら説明した。
「多分それぞれを、組み合わせろってことだとは思うんだけど」
途中で入っている棒線も気になる。
梃徒は棒線が入るものを想像した。
(何かあるか?)
例えば携帯電話や固定電話を書くときには横棒を使うし、住所だって省略するときは棒線を使う。
ん?
住所?
(そういえば、前に灘さんがすべては数字で置き換えることができるって……)
もしも、桿那が梃徒に自分の居場所の手がかりを残したとするなら、それは抽象的な表現じゃなくてもっと具体的なものなはず。
とすると…。
「650―0047で、検索掛けてみて!」
梃徒は興奮して言う。
真澄はそれに少し驚いたが、すぐにスマホでその番号を入れた。
「出たぞ」
真澄は梃徒にその画面を向ける。
兵庫県 神戸市中央区 港島南町(ヒョウゴケン コウベシチュウオウク ミナトジマミナミマチ)
それが検索結果の一番上に出ているものだった。
「なんで、こんな番号で県から市町村まで出るんだ?」
「郵便番号だよ。都道府県から市町村までは、郵便番号でわかるんだよ」
郵便番号が、住所をどこまで表しているのか、ちゃんと知っている人は少ないだろう。
桿那との会話から気になっていろいろと調べていたことが幸いした。
「ここにあいつが、いるってことなのか?」
「多分……、でもそれだけだとまだ詳しい場所まではわからない」
「この最後の失われた数字ってやつが手がかりなんじゃねえのか?」
「多分、それは本当に最後だと思う」
梃徒もそれを考えた。
でも、予想される失われた数字では、何を示しているのかまるでわからなかった。
(これまでのことを考えると、彼女との会話の中に何かヒントが……)
梃徒は腕を組んで考え込んだ。
真澄は彼を見て、出てきた住所周辺の地図を見る。
「大学とかが周りにあるみたいだな。なんか京コンピューター前駅ってのがあるみたいだぞ。京って聞いたことあるな」
「京?」
確かに、聞き覚えがある。
梃徒は京についてスマホで調べる。
出てきたものを見ると、それが、スーパーコンピュータであるということがわかった。所在地も兵庫県 神戸市中央区 港島南町にある。
(コンピュータで演算能力が高いか……)
「計算かな!」
そのとき桿那の言葉が頭に響いた。
(確か聞いたことがある。コンピュータは単純計算しかできないって!)
「わかった」
「何が?」
「桿那さんの居場所がだよ!」
「ほんとか?!」
「うん。確証があるわけじゃないけど、考えられるのは一つしかない」
梃徒は立ち上がる。
「でも、もうちょっと考えてみよう。もしかしたら何か、見落としている可能性もあるから」
梃徒は飲みのもがなくなったので、真澄にリビングまで取ってくると言って部屋を出た。
『謎のサイバー攻撃を受けていると、現在政府当局が発表を行っております
ただ今、入った情報によりますと、重要機密に関する情報や、各軍事施設内にあるあらゆるインフラ網がすでに乗っ取られており、その中でも原子力発電所がハッキングされ、いつ臨界点を越すかわからない状況となりました。
このハッキングは、企業などを狙った者と同様の者である可能性が高いと警察は判断している模様です』
梃徒がリビングに入ると、ちょうどその速報ニュースが、流れているところだった。
それを才華がコーヒーを飲みながら見ている。
「あら、どうしたの?」
「飲み物をちょっとね」
梃徒は冷蔵庫を開けて、持ってきたコップにウーロン茶を注いだ。
「何かあったの?」
「ハッキングがあったらしいわ。それでその相手が声明文をテレビ局に送ってきたって」
「声明文?」
梃徒はコップを持って才華の近くまで行き、テレビを見る。
コップはテーブルに置いた。
テレビにはその声明文が表示されているところだった。
我々がこの世界の乗っ取るときがきた。
その手始めにこの国を手中に収める。
我々を止めることは誰にもできない。
今はその予行に過ぎない。
本格的な攻撃は明日、七月二十一日より開始する。
では、君たちの健闘を祈る。
21の戦士より。
「これから大丈夫なのかしらね」
才華が言う。
テレビでは、こんなことをしている犯人に対しての怒りの声や、相手の考えを認めつつもテレビ越しに諭す声などが流れていた。
梃徒は目を見開き、呆然としている。
そんな梃徒を見て、才華が心配そうな顔をした。
「ただいまあ!」
玄関から陽気な声が聞こえてきた。
そのまま、その声はリビングに真っ直ぐ入ってくる。
「今日は早いのね」
「あ、ほら、このハッキングのおかげだよ。なんかうちの大元の会社が見事被害にあったみたいでさ。もう仕事できないから、帰っていいってなったんだ」
「そう」
「梃徒、どうしたんだよ。こんなところで突っ立って」
「父さん……」
「ん?」
「お金貸してくれない?」
「何か欲しいものでもあるのか?」
「いや」
梃徒は梃汰に真剣な眼差しを向けた。
決意のこもった目だ。
「今から神戸に行ってくる」
「それはまたどうして?」
梃汰の声が低くなった。
「どうしても会わなくちゃいけない人がいるんだ」
「それは今すぐ行かないと駄目なのか? 明日終業式だろ?」
「今、行かないといけない」
「そうか……」
梃徒は両親を信じた。
彼らなら、自分の意思を組んでくれると。
「これで足りるか?」
梃徒の前には五万円もの大金が差し出される。
給料日前のこの時期のこれだけの大金、おそらく今持っている全財産だろう。
「いいの?」
「当たり前だ。青春しろよ青年!」
梃徒はそれを受け取って、頭を下げる。
「気を引き締めて行きなさい」
才華が声を掛ける。
梃徒はそれに力強くうなずいた。
「ところで梃徒……」
「何?」
「相手は女の子か?」
「うん。そうだね」
「そうか、ならこれも持っていけ」
「これは?」
梃徒の手にお守りが握られる。
「俺が才華にプロポーズしたときに持っていたお守りだ。これでお前の告白もばっちりさ!」
梃汰が親指を突き立てた。
「ありがとう。でもこれ安産祈願だよね」
「なんでも先を見越さないとな」
梃汰の笑顔は眩しかった。
そこで初めて梃徒は彼が高校時代にモテていたということが、少し信じることができた。
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