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第二十話 カフェ

「えっと、話って?」


 場所はなぜかオシャレなカフェ。

 梃徒が予想していた、荒っぽい現場とは正反対だった。


「とりあえず。何か頼め。ここは俺のおごりだ」

「え、あ、ありがとう」


 梃徒は、促されるままアイスティーを頼んだ。

 真澄は、キャラメル抹茶ラテを頼んでいた。

 二人とも、注文した飲み物が運ばれてくるまで、黙っていた。


「お待たせしました」


 二人がカフェに座って数分、やっと飲み物が運ばれてくる。

 梃徒は、カラカラに乾いた喉を飲み物で一気に潤す。


「お前に話ってのは他でもねえ」


 真澄は、キャラメル抹茶ラテを一口飲んでから話し出した。


「桿那のことだよ」

「え……」


 梃徒の目は見開かれる。


「今、なんて!」

「だから、桿那のことを聞きたくて、お前を呼んだんだ」


(思い出した人がいた!!)


 梃徒は机の下でガッツポーズをした。


「いったいどうなってるんだ? 誰も桿那のこと覚えてるやつがいねえ。いや、そもそも俺もあいつのこと忘れてた。お前は何かこのことについて、知ってるのか?」


 真澄は明らかに、混乱しているようだった。

 梃徒は、慎重に言葉を選ぶ。


「僕も正直何も知らない」


 梃徒は冷静に言う。


「でも、君よりかは、多少知っていることがある」

「それはなんなんだ? 教えてくれ!」


 真澄の目は懇願している。

 梃徒はもう一度アイスティーを一口飲んで、話し始めた。

 梃徒も桿那に関する記憶がなくなっていたこと、そして、それをレポートの一件で思い出したこと、それから、梃徒は彼女のことをみなが自分と同じように、思い出すのではないかと思い。いろいろな行動を取っていたことなどだ。

 彼は、こういうときが、あったときのために、常にこの事柄に関した事を頭で整理をしていたので、スムーズに話すことができた。


「そうだったのか……」


 真澄はすべてを聞き終えてそう言った。


「でもよかった。君だけでも思い出してくれて」


 梃徒は思っていたことを素直に言った。

 事実、彼が現れたことで、目の前の霧が一気になくなったような気持ちだった。


「でも、お前、みんなに桿那の記憶を取り戻したとして、何がしたいんだ?」

「もう一度彼女に会いたい」

「生きてるのか?!」


 真澄が大きな声を出す。

 それにより周りの視線が梃徒たちに集まった。


「す、すまん」

「いいよ。全然」

「で、どうなんだ?」


 真澄も記憶が戻ったということは、もちろん、桿那が亡くなったと言われたことも、思い出したわけだ。


「確信はない」


 梃徒は真澄を真っ直ぐ見据える。


「でも。彼女が生きている可能性は高いと思ってる」

「そうか……」

「それでこれから君にも、協力して欲しいんだけど……」


 これに関しては、相手がどう答えるかわからない。

 そもそも桿那が生きていると確信がない以上、こんなことに関わりたくない、と思うのが人の素直な気持ちだろう。

 断られても仕方がない。

 記憶が戻ることが、証明できただけで十分だ。

 梃徒は、拒否の反応を覚悟した。


「わかった。協力する」

「え?」

「だから、協力するって言ったんだ。俺も桿那と会えるなら、もう一度会いたいからな」

「そ、そう」


 予想外の反応に梃徒は一瞬たじろいだが、すぐに気持ちを落ち着けた。


「で、何かやろうとしてることは、あるのか?」

「もし協力してくれる人がいれば、これを解読したいと思ってたんだ」


 梃徒はスマホを取り出し、軽く操作してからそれを机の上に置く。

 そこには、例の桿那からの最後のメッセージが表示されていた。


「これが、最後に灘さんから送られてきたメッセージなんだけど、奇跡的に残ってたんだ」


 真澄をスマホを持ち上げて自分のほうに寄せる。


「その暗号みたいな文章を解読することができたら、何か手がかりになると思うんだけど」

「これ、多分解けるぞ」

「え?! 本当に?」

「ああ」


 真澄はそっけなく答える。


「ってか、多分これなら、テレビ見てるやつなら解けると思うぞ。お前テレビ見ない派なのか?」


 そういえば最近、これからどうするかばかり考えていて、テレビは見ていなかった。


「テレビに関係がある暗号なの?」

「いや、違う。テレビでこういう暗号の解き方をやってるんだ」

「どういうこと?」

「だからな――」


 それから、真澄は梃徒に、今テレビで話題となっている出来事について話をした。

 なんでも、各テレビ局に、最近の企業にハッキングをしているというやつから、ある手紙が送られてきた。

 それは謎の怪文書であり、特にその他に何か声明文などの文書があるわけでもなかったらしい。

 初めは誰もがただのイタズラだと思って、特に反応しなかった。

 しかし、二通目に送られてきた手紙には、一通目と同じ手紙と、もう一通が追加されていた。

 その同封されていた手紙は、まだ発表がされていない新たなハッキングによる大企業の盗まれた情報だった。

 それにより、その手紙が、本当の犯人からの手紙であることがわかった。

 そして、その暗号みたいな文書を、局がテレビで紹介した。

 巷を騒がしてるやつからの手紙だ。

 それは大反響を呼び、こぞってみながその文書の解読に取り掛かった。

 もしかしたら、ものすごい秘密のカギなんじゃないか、と誰もが期待を寄せた。

 しかし、とんだ拍子抜けで、それはただの駄洒落に過ぎなかったらしい。



「それが、この文書だ」


 Sixteen nb わたしは神だ人間はほろぼす

 Sixteen nb 君たちはもうこの世に必要ない

 Sixteen nb 人はゆうがいなだけだ

 舌を噛み切って死ね。


 それは文章としては、成り立っているように見えるものだった。

 おかしなところといえば、最初の三行の上にある英語で書かれた文字。

 それは、桿那からのメッセージにあるものと同じだった。


「結局どういう意味だったの?」

「ああ。この文章の意味は死だ」

「死?」


 それから真澄がこの文章の解き方を梃徒に説明した。

 まず、最初の三行にあるsixteen nbの意味、それは下の文章の文字数を数えて、それを十六進数に変えろという意味らいし、nbがnumberbaseで基数の意味と考えることができるからだ。

 基数はn進法のnの部分のことだ。

 そうすると、わたしは神だ人間はほろぼす。がD、君たちはもうこの世に必要ない、がE、人はゆうがいなだけだ。がAとなる。

 そして最後の、下を噛み切って死ね。

 これはこれまでの三文字がアルファベットであることから、これもそうだと考えられる。

 英語関連で下を噛むという動作、単語、それらを考えた末に先の三文字と合わせて意味が合うものとなると一つ、thの下を軽く噛む動作の意味なのではとなった。

 すべてを合わせると「DEATH」、死という意味になる。

 これは文章の内容とも合致する。


「でも、もう少し考えたら他の回答も出てきそうだけどね」


 内容を聞いて梃徒は素直に思った疑問を言った。


「それが、これが話題になった後、送ってきたやつから回答が送られてきたんだよ。それで、これが正解だってなったわけだ」

「へえ」

「それから、この暗号文は、種類を変えて何通かさらに送られてきて、そのすべての回答もみんなが解いた後に、送られてきてるらしいぞ」

「その内容を使えば、これが解ける?」

「多分な」

「今できる?」

「ちょっと時間があればな。やってみるか」


 真澄はカバンから筆記用具とノートを取り出した。

 梃徒は真澄が怪文書を解いている間に、うわさの暗号文についてスマホを使って調べようと思い、ネットを開いた。

 検索エンジンに、テレビ局、暗号、ハッカーと入れて検索ボタンを押す。

 数秒のタイムラグの後、スマホの画面いっぱいに検索内容が表示された。

 梃徒は一番最初に出てきた、テレビ局が作った暗号文についての特設ページに入る。

 そこには、今までの暗号文と、それの回答と解き方が載せられていた。

 そこには、すべてで五つの暗号が表示されていた。

 どれも奇抜な文章で、一見するとただのイタズラ文書だ。

 梃徒はその内容はあまり見ないで、回答ページに画面をスクロールする。


「できたぞ」


 そのとき、真澄が声を弾ませて言った。


「内容はどんなだった?」

「まったく憎たらしい内容だった」

「え?」


 真澄は、ノートに書いてある文字を梃徒に見せる。

 そこには、回答するために書いた数字やローマ字がいくつから書かれており、ノートの真ん中に大きく斜線の上の書かれた文字があった。

 最初から、D,A,I,S,K,I。


「文字足らずに見えるが、内容はちゃんとわかるだろ?」

「だいすき?」

「ああ、そういうことだ。あいつは最後にお前にこれを伝えたかったんだろうよ」


 真澄が拗ねた顔をした、ように見えた。


「でも、どうしてこんな回りくどい言い方を……」

「恥ずかしかったんじゃねえのか? あいつも、なんつうか……好きなやつには? 直接いえなかったんだろうよ」。

「気になるな」

「いいじゃねえか。少しくらい回りくどくてもよ! そんなこと気にしてやるなよ」

「そうじゃないよ」

「じゃあ、なんだよ?」

「暗号の解読方法が、一緒なのがだよ」


 梃徒はノートから目をはずし、真澄を見た。


「これが偶然なわけはないよね。これはテレビ局に送られてきた暗号文の複合問題になってるんでしょ?」

「ああ、いくつか組み合わせてるな」

「ということは、この文章は、その暗号文のいくつかを知っているか、それとも自分でそれを作った人物が、書いたってことになる」


 そこで漸く、真澄が梃徒が考えていることを理解する。


「そうか……、ってことは桿那は、この暗号文を作った張本人かもしれないってことか?」

「いや、それはまだわからない。もしかしたら、灘さんが作ったものかもしれないけど、それを誰かが引用したのかもしれないし、灘さんがたまたま何かで見たって可能性もある」

「だけど、この暗号文が桿那の手がかりなのは確かってことだな」


 梃徒は首肯した。

 やっと、何か筋道が見えてきた。

 まだ、か細く、先は暗い道だが、歩む価値はありそうだ。


「それじゃ、どうするよ。とりあえずテレビ局にでも乗り込むか?」

「それは無謀だよ。どうせ何も見せてもらえないだろうしね。それよりも、碇君は灘さんの家知ってる?」

「家か? いや、行ったことねえな。いつも皆で遊ぶときにはゲーセンとかだったからな」

「そっか。もしも、みんなの記憶が何かの理由で消えてるとしたら、家族のほうはどうなったんだろうって思ったんだけど、そっちの線は知れそうにないね」


 梃徒はあごに手をやり考える。


(もっとないか? 手がかりになりそうなものは……)


 最後に送られてきたメッセージが、桿那に対する手がかりなのかは、わからない。

 だが、メッセージが消えたのに写真として残っていたり、テレビの暗号文と解き方が同じだったり、何か偶然でない必然があるはずだ。

 梃徒は眉間にしわを寄せて、無い知恵を必死に搾り出していた。


「なら、全部関係あるんじゃないか?」

「え?」


 真澄は特に考えなしに言った。


「何かが関係してるとかじゃなくてさ。全部関わりあると思って考えてみようぜ」

「すべてが関係してる?」

「ああ」


 真澄はスマホを梃徒に見せてくる。


「テレビ局に送られてきた暗号文は全部、桿那からのメッセージって考えんだよ」


 スマホの画面には、すべての暗号の回答が、載っているページが表示されていた。

 それは、先ほどまで梃徒が見ていたページだ。

 梃徒は、そのスマホの画面をじっくりと見る。


「え……」

「どうした?」


 梃徒はあわてて、自分のスマホの画面を見た。

 まだ、ページは移動していないので先ほどと同じページだ。

 彼は一つずつ回答を見ていく。


(まさか、いや、確かにそうか!)


 梃徒は立ち上がった。


「おいおい、どうしたんだよ!」

「手がかりあったよ!」

「まじか!」

「うん。それは僕の家にある。……えっと、時間は大丈夫?」

「ああ、今日は部活休んだからな。こんな状況で暢気に部活なんてやってられねえ」

「よし。じゃあ、一緒に行こう」


 二人は急いで会計を済ませて店を出た。


お読みいただきありがとうございます!

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