第十九話 八方塞
翌日、梃徒は学校である行動に出た。
「ねえ、聞きたいことがあるんだけど」
梃徒はチャイムが鳴ると、教室を勢い良く出てあるとこに来ていた。
「なんだお前?」
そこは、かつて彼が呼び出された場所だ。
そこにいる梃徒とは見るからに相容れない集団に、彼は話しかけている。
「一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「はあ?」
この前のことで、梃徒はみんなの記憶から桿那の記憶だけが、ないことを確信した。
しかし、同様であった梃徒が彼女のことを、きっかけがあり思い出した。
ということは、自分以外の誰かもそうなる可能性があるということだ。
「灘桿那って名前に覚えないかな?」
「なだかんな?」
「うん」
「それを聞くことが、俺たちを呼び出し理由かよ?」
梃徒は首肯した。
彼は何人かの伝をたどって、桿那と仲がよかった(少なくとも彼女のことを知っていたはずである)人を、屋上に続く階段前に呼び出したわけだ。
もしきっかけを与えて、記憶が戻る人物がいるとしたら、その絶対数を増やせばその可能性が高まる。
梃徒は今のこの状況に少なからずビビッていたが、なんとか踏ん張っていた。
(僕は、もう赤い糸を見ないふりはしない)
「それで、灘桿那に心辺りはある?」
「ねえよ。そんなもん。ったく、こんなところに呼び出されたから何かと思えば、しょうもないことしてんじゃねえよ!」
バスケ部エースの長身が、梃徒に圧を掛けてきた。
その他にもその場には梃徒に対する罵声が、飛び交ったが、梃徒はそれに耐えた。
しばらくして、その場に梃徒しかいなくなり場が静まる。
「はあ……」
梃徒は上を見て、ため息を吐いた。
「よし!」
彼は両頬をおもいっきり引っぱたく。
梃徒の表情は気合十分になった。
梃徒は、それからもできるだけ、いろいろな人の耳に、桿那の名前が入るように行動した。
テストの打ち上げでは、最初から参加して、今まで特に話をしたことがなかった人たちにも話しかけて、できるだけ桿那に関わりがある話をしながら、それとなく彼女のことを聞いてみたり、名前を言ってみたりしてみた。
それは生徒だけではなく。もちろん教師にも行った。
職員室に行き、いろいろな担当の先生に、わからないところがあるから教えてくれ、と言って、教えてもらいながら、桿那の名前を聞いたりした。
そんなことをしていると、いつのまにか学校は明日で終業式という時期になっていた。
(いったい、どうすれば……)
梃徒は、校舎から、校門に向かって歩いている。
学校が夏休みに入れば、情報を伝えることも、仕入れることも、難しくなる。
そうなれば誰かに桿那のことを思い出してもらうのは、より困難だ。
それなら、一人一人とこれから夏休みに遊ぶ予定を入れて、これよりもより詳しく聞いてみるか? それとも、学校に来て先生の方を重点的に当たるか?
(駄目だ……)
正直、すでに八方塞なのは事実だ。
今までに誰も桿那を思い出した者は、いない。
それに、今思えば、もし仮に思い出した人物が現れたとしても、それからどうする? もっと桿那のことを伝えて全員の記憶を呼び起こすのか?
それをしたところで、桿那の居場所がわかるわけじゃない。
確かに仲間が増える、ということになるなら良いが、桿那を思い出しても、梃徒と一緒に彼女を探してくれるとは限らない。梃徒にとって彼女がもう一度会いたい人物であったとしても、それが他の人も同じとはならないからだ。
もしかすると、桿那を思い出している人はいるかもしれないが、みな黙っているだけかもしれない。
それとも、彼女のこと自体を消す、大きな理由が実はこの町にはあったりするのか?
そんな風に思えてきていた。
しかし、彼女が存在していなかった、という考えにはならなかった。
梃徒の中にある彼女の記憶が確かであることは、確信ができていた。
それは、あのカギの付いた引き出しのおかげだ。
(とりあえずやれることをやっていくしかないか)
「おい!」
梃徒が校門から出ようとしたとき、後ろでその声がした。
梃徒は自分に対して掛けられた言葉ではないと思い。無視する。
「おいってば!」
梃徒の肩が引っ張られる。
「え…僕?」
「ああ、お前以外に誰がいるんだよ」
周りを見ると、校門周辺には、梃徒と肩を掴んでいる目の前の人物しかいなかった。
「ちょっと面かせや」
「え」
梃徒はバスケ部エースである。碇真澄に校門から腕を掴まれ連れて行かれた。
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