第十三話 休み
月曜日になり、梃徒が学校に行くと、桿那が珍しく休んでいた。
そしてその次の日も彼女は休んだ。
日曜日に返信したメッセージの返事も来ない。
今思えば、高校二年生になってから、梃徒も桿那も学校を休んだことはなかったし、休みの日も何かと会うことがあったので、3日も連絡すら取らないのは知り合ってから初めてのことだ。
つまり、梃徒の生活が、ここまで静かになったのは、約一ヶ月ぶりだということだ。
そんな生活に何か物足りなさを感じている自分に対して、梃徒はその気持ちを意識的に抑えていた。
その理由はわかっているが、認めたくない気持ちが勝っている。
「おい男のほうの灘!」
火曜日の放課後、一人で帰り支度を終えて、帰ろうとしたとき、梃徒は担任の矢場居に引き止められた。
「何ですか? レポートならちゃんと再提出したと思うんですけど」
「ああ、それな。それはいいんだ」
「なら、なんですか?」
「そんなにあからさまに嫌な顔をするなよ」
矢場居は苦笑した。
「女のほうの灘のことなんだけどさ」
矢場居はそこで声を少し小さくして言ってきた。
「はあ、灘さんですか」
「なんか連絡とか来てないか?」
「連絡ですか?」
来たといえば来ていた。
謎のメッセージが。
しかし、あれはおそらく今回とは関係がないだろうなと思い。言わないことにする。
「ちょっと個人情報なんで、すみません」
「そりゃそうだが、まさかそんな言い方されると思わんかったわ」
「イテ!」
矢場居がトレードマークの竹刀で梃徒の頭を小突く。
「ほら、言え」
今の時代にこんなタイプの教師が生き残っているが梃徒には不思議だった。
(ある意味珍獣だよな)
「イテ! なんで叩くんですか?」
「なんか失礼なこと考えただろ」
(この人もエスパーか?!)
梃徒は、彼のことが嫌いなわけではない。
むしろこのように梃徒の言動に反応してくれるし、それが安定しているので、そういう意味では信用していた。
「連絡は来てないです」
梃徒は頭をさすりながら答える。
「そうか……」
「何かあったんですか?」
「うん? いやあ」
矢場居は梃徒を一瞥して「まあ、いいか」とつぶやいた。
「実はな。あいつ、ここ二日は無断欠席なんだよ。家に連絡しても繋がらんわけだ」
矢場居は周囲を見てから続きを話す。
「あいつは今まで無断欠席だけじゃなくて、欠席自体したことがなかったからな。ちょっと心配になったんだよ。最近、物騒な世の中だから余計にな」
「それで僕に?」
「ああ、最近じゃ、お前らは校内認定のカップルみたいなもんだからな。もしかしたらと思ったんだが」
「そうですか」
「悪かったな。引き止めちまって、もしなんか連絡があれば教えてくれ」
「わかりました」
梃徒は軽く一礼して、その場から歩き出した。
後ろでは矢場居が別の生徒に絡まれて、騒がしくなった。
梃徒は、ポケットからスマホを取り出す。
そして、指で軽く何回かタッチしてスワイプしてからまたポケットに戻した。
(何事もないといいけど)
学校の昇降口を出ると、梃徒の目に厳しい西日が突き刺さった。
梃徒は目を細める。
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