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第十二話 親離れ

『現在、婦女暴行事件が全国で多発しております。どうしてこのようなことが起きているのでしょうか?』

『それはですね。やはり、漫画やアニメなどにある奇抜な描写や、登場人物などが持っている特殊な考え方などが原因ではないかと――』


 梃徒は日曜日の朝の討論形式の番組を見ていた。

 そこでは、高学歴な芸能人や、社会のエリート街道を歩んできた人間、また、何かしらで成功した人などが討論している。 

 番組は生放送で、こんな朝からよくもこんな血圧を上げるようなことができるなと、梃徒は感心していた。

 家には今一人である。

 母親はご近所さんと朝から出かけた。

 父親は朝からゴルフだ。

 梃徒の父親は、基本平日は帰りが遅い。

 なので、休みの日くらいはゆっくりとすれば良いと思うのだが、社会では、休みの日まで会社のために使わないといけないらしい。

 そう父親は接待に出かけたわけだ。

 父がその言葉を言って出かけたわけではないが、雰囲気からそう思った。

 テレビでは先ほどの話題が広がり、最近の若者の犯罪についての話になっていた。

 しかし、そこでも結局サブカルチャー文化に対する意見や、スマホなどの普及による若者の道徳観の欠如がどうのという話になっていた。

 人間っていうのは、いつだって自分たちが過ごした時代を素敵だと思いたい、生き物なのだろう。

 そして、常に自分の優位性を保ちたい。

 今の時代は昔よりも情報が仕入れ易い。

 つまり、今まで入ってこなかったはずの情報が入ってくるのだ。

 それは普通に暮らしていれば逃れることはできない。

 だから、世の中が悪くなったとか、繋がりが薄れたとか、頭が悪くなったとか言うんだ。

 江戸時代が一番よかったという人がいたりするけど、江戸時代にはそれはそれで犯罪があったはずだし、今に比べれば食料も少なかった。

 その証拠に江戸時代には飢、餓でたくさん死んでいるし、寿命も短い。

 それに階級だって明確に定められている。

 そんな社会を本当に誰もが望んでいるのだろうか?

 明治や大正などの時代が良いという人には、その時代の犯罪がどれほど残忍か知っているのか聞きたいくらいだ。

 今の犯罪とは比べ物にならないくらい残忍なものが起きている。

 だからといって、今の時代がいいとは言わない。

 要はどの時代にも確かにいいところはあるが、悪いところもある。

 そして、これからもそうであり、序所にその比率を良くしていこうということだ。と梃徒はいつも思っていた。

 それが大切だと。

 梃徒はリビングから、自分の部屋に戻った。

 そしてベッドに突っ伏す。


(なんか疲れたな)


 世の中は、後ろ向きなことばかりだ。

 生きているということが、すばらしいということは、誰もが知っている。頭では理解している。

 しかし、社会を生きているとその感情はどこかに隠れてしまい、視野が狭くなる。

 そして、既成概念にとらわれ始める。

 思考は平均化して、深く沈む。

 それはもしかしたら、自分を守るための防衛本能なのかもしれない。

 自分を普通の人間としてしまえば、見なくていい景色は見なければ、人は考えなくていい。

 そうすることで、自分を襲ってくる荒波から自己を防衛する。

 そんな社会に、世界に何があるというんだろうか。


「はあ」


 社会を嘆いたところで、自分も同じだ。

 自己防衛に必死で、相手に気持ちなど考えていない。

 偉そうに社会に対して、意見している自分が愚か者以外の何者でもない。

 梃徒はうつ伏せから仰向けになった。


(テスト勉強しないとな……)


 時刻はすでに昼時だ。

 梃徒はとりあえず昼食を食べてからにしようと思い、財布を掴んで部屋を出た。


 梃徒が出た後の勉強机の上で残されたスマホのバイブ音が部屋に響く。





 その日の夜、久しぶりに灘家は、家族が全員揃っての夕食となった。


「梃徒、お前勉強はどうなんだ? 来週からテストだろ?」

「まあまあかな」

「まあまあか、いい点が取れるといいな」

「そうだね」

「梃徒なら大丈夫よ。ちょうど平均点プラス十五くらの点数取ってくるわ」


 梃徒の父、梃汰テイタに対して母、才華が特に表情を変えないで言う。

 一見すると、仲が悪そうに見えるがこれが平常運伝だ。


「そういえば梃徒、お前彼女ができたんだって?」

「ぶふっ!」


 梃徒は飲みかけの味噌汁を盛大にこぼした。

 すかさず才華が、ふきんを梃徒に手渡す。


「な、なんだよ急に!」

「あれ? 違うのか? 才華から聞いたんだけど」

「母さん!」


 梃徒はこぼれた味噌汁を拭きながら、才華を見た。

 才華はそっぽを向いて梃徒と顔を合わさない。


(もう……)


「別にそんな相手はいないよ。母さんのただの勘違い」

「なんだ。そうだったのか、もしできたら教えてくれ」

「やだよ」

「どうしてだよ! もう親離れなのか? そんな年なのか?!」

「そんな年だよ」

「そうなのか? 才華!?」

「彼女ができるくらいだからね」

「そうか……、って、やっぱり彼女?!」

「できてないから!」


 梃徒はそれから急いで夕食を食べて、すぐに自室に戻った。

 彼の父は仕事で、子供との時間をあまり持てなかったため、まだ梃徒のことを小さい子供のように扱う。

 いわゆる子離れができていないわけだ。

 自分の部屋に戻った梃徒はスマホを朝触ったとき以来触った。

 今日はかなり勉強に集中できたので、今まで存在自体を忘れていた。


「ん?」


 そこには、桿那からのメッセージが昼に来ていた。

 それを開いてみると、こう来ていた。


 Sixteen nb きみのことをしんじている。

 Sixteen nb せかいを救うのは誰?

 世界の中で、誰よりも二乗で呼ばれて愛を知っているのは?

 Aから始まる世界の中で静止時間の間で揺れる君

  on off off on 世界は無限大を直角に変える。

 愛が世界を救う。


「なんだこれ?」


 梃徒は、それに「これ何?」という返事を送った。

 本当に変な子だ。

 初めて会話をしてパンツを貰い、それからブラジャーも貰った。

 彼女は事ある事に何かを渡してきた。

 タオルに、髪留め、髪ゴムに、シャーペンに消しゴム。

 彼女から貰ったものは、例に及ばずすべてカギのついた引き出しの中に入れてある。

 何かもらって、そこを開けるたびに中に入っているものに、目がいってしまっていたが、何かそこ以外に置いて置くのも、万が一、どれか返す予定がきた時に、場所がわからないと面倒だと思い。そうしていた。


(はたして返すときが来るのかどうか……)


 死は突然来ると誰もが知っているけれど、死が来たときにその言葉で納得できる人間がどれほどいるのだろうか。


お読みいただきありがとうございます!

他の作品もぜひご一読ください!

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