第十話 数字
「世界はね。なんでも文字に置き換えることができるんだよ!」
「どうしたの、急に」
場所はいつもの中庭に花壇の横にあるベンチ。
梃徒と桿那は最近そこで朝食を食べる機会が増えていた。
最初は梃徒も、これに対しては抵抗の意思を示した。
流石に友達を裏切ってまで、女子と食事をしようとは思わない。
それに相手が相手だ。
また何を言われるか、わかったものじゃなかった。
しかし、彼の友達は彼を送り出した。
なんでも、梃徒が冴えない男の星らしい。
「お前何言ってんだよ! 友達と女どっちを取るかっていったら、女に決まってんだろ! 俺たちみたいな冴えない男どもはな! 数少ないチャンスを物にしないといけないんだよ! 不釣合いだと何いわれても気にすんなよ! そんなもん他人が決めることじゃねえんだ! 大切なのは心なんだよ!」
と熱く語られてしまい。
もしも桿那からの誘いを断ったら、絶好だと言われてしまったので、仕方なく彼女の誘いを受けることにした。
「数字が世界なのよ!」
「それは極論すぎない?」
「今はね。でも将来的に必ずそうなるよ。人だって、もう番号が割り振られているわけだしね。住所だってすべてを番号で表そうとすればできるし、結局は電波だって数字の羅列だしね」
桿那は感情がまるでないかのようにそれを話した。
たまに彼女は、心がどこかに言ってしまったような話し方をする。
「難しい話だね」
「こういう話は嫌い?」
「うーん。嫌いではないけど、得意でもないかな」
「うふふ、私も」
桿那がにっこりと頬む。
感情が戻ったみたいだ。
「梃徒君はさ、何か得意なことってあるの?」
「それはまるで、僕にそんなものないんじゃないか、みたいな言い方だね」
「そんなんじゃないよお! 私、梃徒君のことならなんでも知りたいの!」
「君は何が得意なの?」
「計算かな!」
「足し算とか?」
「うん!」
(お、おう……)
まさかの同意に梃徒はひるむ。
「で、梃徒君は?」
桿那の顔がぐいっと近寄ってきた。
「そ、そうだな。あれかな。空気と一体になることかな」
「…………」
乾いた風が、二人をすり抜けた。
「ぶふっ! ふふふはははははははははははははーーーー」
しばらくして桿那が噴き出し、大声で笑い出した。
「ははははは、何それ! 最高!!」
「はは、それはよかったよ……」
「あーあ、お腹痛い。ははは」
確かにボケたつもりはあった。
だが、そこまで大うけされると、心持ちとしては複雑だ。
それから桿那は梃徒を見てそれを思い出しては「空気と一体…」とつぶやいて笑うという一日だった。
(そんなにおもしろいのか?)
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