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第一話 生暖かさ

 戦争が終わりもう数十年が経った。

 そしてこの世の中は今、ある程度平和と呼ばれているだろう。

 確かに、多少の火種はあらゆる社会で発生している。

 しかし、それは今までの社会からすれば、微々たるもので。

 一応世界は平和を保っている。

 そう誰もが心の中では思っている。

 昔に比べれば便利になった。

 それが、大人が子供に対して言う言葉だ。

 彼らは、またこうも言う。                                    最近の若いもんは、道徳がなってない。

 人との繋がりが薄い。

 昔はよかった。

 と。

 だが、彼らは若者に嫉妬しているだけなのだ。

 自分たちが見てこなかった景色を見て。

 そして、自分たちよりも急激に成長してくる得体の知れないものを。

 そして、若者も言う。

 俺たちの時代のほうがすばらしいと。

 つまり、みな。自分の世代、世界、時代が一番だと言いたいわけだ。

 いや、思いたいといったほうが適切かもしれない。

 これは、おそらく全世界的にそうだろう。

 統計は取ったことはないが。

 人間はみな同じだからだ。

 だから、世界が移り変わったからといって

 特に何かが変わるとは思わないから

 悲観も楽観もしない。

 どうせ人間の本質が変わらないのだから

 世界は変わらないと思うからだ。

 だから、なんてことない世界を生きよう。

 なんてことない人になろう。

 どうせ、誰も自分以外、興味がないのだから。

 そう。どうせ。

 生きるときも、死ぬときも

 一人だ。







「はあああああああああああああああああ」


 難梃徒ナダ・テイトは、担任の矢場居人駄ヤバイ・ジンタに本当に長いため息を目の前で付かれていた。

 梃徒は今まで吐かれた、ため息の中で最長記録だなと冷静に思っていた。


「これは?」

「え?」

「だから、これは?」

「えっと、課題ですけど?」


 梃徒は、首をかしげる。

 確かにちゃんと提出したはずだ。だって、担任の矢場居が手に持っているのだから、それは揺るぎない事実である。

 そう。春休みの課題である。少子高齢社会に関するレポートを……。


「はあああああああああああああ」


 矢場居はまた長いため息を付いた。今度は二番目に長いな。と梃徒は思った。


「お前は俺を困らせたいのか?」

「いえ、そんなことは、真剣に書きました」

「先生、君の将来が心配で仕方がないよ」

「ご心配ありがとうございます」

「じゃあ、このレポートで君は何が言いたい?」


 矢場居は梃徒のレポートを丸めて肩を叩きながら聞く。


「所詮人は一人だ。的な? いて!」

「的な? じゃないんだよ」


 矢場居がレポートを持っていない手に持っている竹刀で梃徒の頭を軽く小突いた。


「これ、やり直しな」

「え、まじですか?」

「逆に、なんでこれでいけると思ったのか、先生不思議だよ。最近の若者怖い」

「あ、そのことに対する意見もレポートの中に、いて!」


 矢場居は再度梃徒を小突く。


「これ以上生意気言うと、ペナルティーつけるぞ? 再提出で許してやるんだから、感謝しろ」

「わかりました。でもこれ、僕体罰で先生訴えたら逆に先生にペナル――」

「ああん?」

「いえ、なんでもありません! すぐに書き直してきます!」

「おう。来週までな」


 あ、結構やさしい。梃徒は思った。


「ったく、もういい。早く帰れ、今日はもう一人お前みたいなやつがいるんだよ。そいつとも話しせにゃならん」

「あ、はい」


 梃徒は、頭を軽く下げて、職員室を後にしようとした。

 そのとき、ある一人の人物とすれ違った。

 梃徒は、その人物を目で追う。

 すると、その人物は矢場居の前で止まり、梃徒と同じように頭を小突かれていた。

(もう一人って彼女なんだ……)

 この学校のカースト上位に君臨する人物。

 高校二年生になって梃徒は彼女と同じクラスになった。

 彼女が街中で歩けば、十人中八人は振り向くだろう。

 その美貌に、さらにスポーツ万能であり勉学も優秀の秀才。

 まさに、誰もが認める完璧美少女。

(まさか、彼女が再提出なんてね)

 梃徒は少し不思議に思ったが、すぐに気に留めなくなった。

 住む世界がまったく違う人種だ。

 考えるだけ無駄というものだ。

 そう……。

 そのとき、梃徒は、おそらくこの先の人生で、彼女とはまったく関わりを持たないであろうと確信をしていた。そして今でもその気持ちは変わらない。

 なのに。どうして、どうしてだ?


「はい。これあげる」


 梃徒は今、目の前に美少女からあるものを差し出されていた。


「えっと……」


 目の前に居る人物の名は灘桿那ナダ・カンナだ。

 そう。梃徒が一番関わることがないと思っていた人物である。


「もう! はいこれ」


 桿那は梃徒の手に、持っているそれを握らせてくる。

 生暖かさを梃徒は感じた。

 その生々しい感触に、梃徒の顔は赤味を帯びていく。


「はは、梃徒君エッチだあ」


 そんな梃徒に桿那はなんとも可愛らしい笑みを向けてきた。


「い、いやだって……」

「何よ? うれしくないの? これで私のこと信用してね。なんてね」

「いや、うれしいも何も――」

「多分、学校中の誰もが欲しがるものだよ。それ、もしかしたら女子にも欲しがる子がいるかもしれない。やったね。梃徒君!」


 桿那は意地悪そうな笑みを見せる。

 それがなんともこの状況とリンクしないので、梃徒の頭はさらに混乱した。

(この子はいったい何を考えているんだ?!)


「ちゃんと持って帰ってね。私の脱ぎたてパンツ」


 桿那はそう言うと、体を半身にして左目を瞑ってウインクした。


お読みいただきありがとうございます!

他の作品もぜひご一読ください!

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