7 懐かしい音
フランス語ありますが・・・
まったくわかりません。
辞書ひいて??な状態で使っています。劇中の方たちもよくわかっていないということで。
ポーーーーーーーーン
懐かしいあの響き
木佐西都について7
木佐のバカ
なんで教えてくんないのよ!!
さっさといっちゃうし、ムカつく
駅の周囲はもうすっかりネオンや店の灯りが溢れていて、近頃、木佐と帰るのが普通になっていたと気付く。
木佐は話上手いんだなあ。
駅まで本当に直ぐだった。こんなに明るく光ってたことに初めて気付いた。でも
駅はもう目の前。
木佐と駅でかち合いたくない・・・。ちょっと寄り道しよう。
会社帰りの人達とか、飲み屋さんから有線の音とか、意外と夜の街って騒がしい。
ゴロゴロ
おお、大荷物を引く人達が。避けねば。
「すみません。あれ?」
あれ?って。
顔を上げる。
「円山恭のコンサートにいた人だよね?」
「あああああ」
バイオリンのお兄さん!?
「あれ? 月城、知り合い?」
「ああ、このあいだのクラシックコンサートで会った子」
「この間と雰囲気違いますね」
全身黒の、ベストにシャツに、うわあ、男の人のロングスカート初めて見た。似合ってる。
「ん、これからリハなんだ。わざわざ訪ねて来てくれたんだ?」
「え、いやたまたま」
「そうなんだ。”ここ”だよ」
ここ? お兄さんが右手で看板を指差す。
”O'v Soul.”
「おーぶい・・・?」
「オブソールって読むんだ。名刺見なかった?」
名刺。コンサート言った後、家で探したんだけど、
「すいません。なんか無くしちゃったみたいで。せっかく戴いたのに」
「いや、いいよ。勝手に渡したし」
看板の下には地下への入口が続いている。
「なんか独特の雰囲気ですね」
例え、名刺持ってても入れたかどうか。
「リハ見てく?」
「いいんですか?」
「いいよ」
お兄さん達は階段をずんずん下りてってしまう。
「よいしょっと」「おっとっと」
他のお兄さん二人の荷物は大きいなあ。狭い階段の壁にちょこちょこぶつける音がする。
「早くおいで」
「は、はい!」
急いで薄暗い階段を下りた。
「わああ」
狭い空間に、古めかしい椅子に机がいくつか。奥は半円状の舞台が床と一体化して存在している。
本物のライブハウス。
「ここはお兄さんたちの・・・」
「専属ってわけじゃないけど、オーナーと契約して演奏させてもらっている」
「流石に、ハコは持てないよ」
大きな荷物を開けているお兄さんが言った。
「ハコ?」
「まあ、専用のライブ会場のことかな?よっと」
取り出したのは、大きな
「コンバス!」
「ベースって言った方がしっくりくるかな」
「良く知ってるね」
もう一人のお兄さんも、
「チェロだあ」
「じゃあ、やる?」
気付くと、お兄さんもバイオリンを構えてた。
「座って座って」
「は、はい」
バイオリンが真ん中でチェロが向かって右、ベースが左。
ドキドキするなあ。
「se soumettre le son」
え、聞き取れなかった。
「”音に隷属”のプライベートコンサートにようこそ」
「・・・どうだった?」
涙出そう。演奏の余韻で体が震える。
「うらやましい・・・」
「え?」
「すごいすごいです。すっごくいいです。オリジナルですよね。CDとかだと聴いたことないし、なんかもう、弾き方とかメリハリあるし、聴いてて鳥肌立って来たっていうか、もうどきどきして、チェロの音の伸び方素敵だし、ベースも会場全体から響くし、バイオリンのソロもすんごくすんごく・・・」
良いなあ・・・。
「本当にうらやましい・・・」
なんでこんなに弾けるんだろ。
「はい」目の前にハンカチが?
「へ」
「涙拭いて」
泣いてる?
「ごご、ごめんなさい」
なにやってんだろ、わたし。ああ、他のお兄さんも変な顔してる。
「本当にごめんなさい」お兄さんのハンカチで顔を擦る。
「もし、良かったら、来てよ。お金かかるけど」
ポケットの中から折り畳まれたチラシ。
『se soumettre le sonライブ』
「土曜だったら来れる? 平日よりも早くはじまるから」
「ひあ。あ、はい。ありがとうございます」
階段を駆け上がる。
「気を付けてね」
お兄さん達の声が下から聞こえる。
ずずっ
泣いちゃうなんてはずかしい。
早く行かなきゃ。電車。
駅まで鼻をすすりながらダッシュした。
「月城さんっていうのかあ」
チラシにはそれぞれの顔写真と楽器のことや
「やっぱり、そうだよね」
音大の名前が書いてあった。
自分の部屋を見回す。もうピアノはない。
辛くって辛くって、頼んで処分してもらった。
もう忘れたと思ったのに
(ポーーーーーン)
幻の音色が聞こえる。
土曜日
来ちゃった。ポケットの中の財布を握りしめる。あの日はお兄さんたちがいたから下りられたけど、
(一歩踏み出すんだ自分!!)
「あのちょっと、下りるなら早くして!」
知らぬ間にお客さんが来てたらしい。
「あ、はい、すみません!」
急いで階段を下りる。
入口にはお兄さん達ではない知らない男の人がいて、お金を徴収していた。
「あのお、学生一枚で!」
「おう! 学生さん、ありがとうね」
「はい」
ポン! 判子が手の甲に押された。なにこれ?
「ほい、出入りするときは見せてね」
「ありがとうございます」
混み合った店内。
大人ばっかだあ。どこに座ればいいんだろ。
「すいません」人を避けながら席を見るけど、
どこも誰かの荷物が置いてある〜?
「あ、えと」どうしたらいいんだろ。立ち見?
「桑原さーーん。椅子足りない!」壁際で誰かが叫んだ。
「だしていいぞ!」受付のおじさんが叫び返す。
「はーいい」
壁がひっくり返って椅子がでてきた。
うお? 固まって見ていたら、
「はいどうぞ」
「はい」椅子くれた。
「初めてですか?」「はい」
「どうしたら、いいんでしょうか?」
「ああ、そうですね。ドリンク一杯飲めるんで、カウンターで」
指差してもらった後ろのカウンターにはお酒の瓶しか見当たらない。
どうするどうしよ。
「ノンアルコールもありますよ」
よかった。椅子くれた人は他の椅子もって別の席へ。ああ、行っちゃう。
「あ、有り難う御座いました!」
一斉に、他のお客さんもこっち向いた。
おっきなこえでちゃった。
くすくすあちこちで笑い声が聞こえる。
すとん。椅子に座りこんで下を見た。顔上げらんない。はずかしーよー。
結局ドリンク貰いに行けないまま、俯いた耳に聞き覚えのある声が聞こえて来た。
あれ、もう始まり?
はっとして顔を上げると
既に舞台の準備は整っていた。
「こんばんは、初めての方も何度も入らして下さる方もありがとうございます」
月城さんが薄暗い空間の中、舞台の上で高めの椅子に座ってスポットライトを浴びていた。
「『se soumettre le son”音に隷属”ライブ』へようこそ」
一斉鳴る拍手。ワンテンポ遅れて拍手する。
雰囲気あるなあ。
「今夜は月は高く、星をよく見えるそうですよ」
声が良く通る。
「では、そんな今日の夜にふさわしい”etoile”から」
月城さんだけだったスポットが消えて、新たな柔らかい光が舞台の3人を映し出した。いや、違う4人だ。一番奥にピアノがいる。
ポーーーーーン
あ、指が踊っているみたい。
バイオリンが尾を引くほうき星のように、輝きがチェロに移って行く。ベースはまるで闇夜だ。
ああ、いいなあ。
ライブが終わって、ぼーっとしていた。普段のコンサートは広い会場で生音だったけど、狭くて薄暗い所為だろうか。もっと包まれるというか。音の一部のような・・・音になったような。
「もう、片付けるよ」
あ、月城さん。あれお兄さんたちだけ? 他のお客さんいない。
「は、はい」
「随分熱心聴いてたね」
「全然、普段行くコンサートと違ってて、いいですね。すごく」
「そう?」
月城さんは向かいに腰掛けた。
「はい、なんだか音になったみたいで、そのすごく!」
「弾きたくなった?」
弾きたくなった? あ、そうか。
「弾きたいのかな、わたし」
月城さんが体勢を変えて左へ向いた。指差す。
「弾いてみる?」舞台の先。グランドピアノ。
「いえいえ、素人だし」
「素人じゃないだろ?」
「え?」
「手」
手。思わず、自分の手を見る。夏樹に良く言われた。「手が大きいからバスケやれば良いのに」
「ピアニストの手。しかもそんなに昔じゃない。コンクールとかでてたんじゃないのか?」
手を握り込んで膝に下ろす。
「でも、全然だめで」中学時代、行ける行けると言われながらも箸にも棒にもかからなかった。
「オレもそうだよ。音大行ってもぜんぜん駄目」
「ええ?」
「楽団にも入れないし、かといって打ち込みやろうとも思えなかった。別の道も」
「でも月城さん、すごくすごく素敵でしたよ」
「ありがとう、経験者に言われると素直に嬉しいよ」
笑い方が優しい。
「ライブ出て見る?」
音楽室
ポーーーーーン
懐かしい音
よし!!!
一昨日
「ピアノのメンバーさんがいるんじゃ」
「ああ、彼女は別の所から頼んで出てもらってるんだ」
「うちは3人。トリオなんだよ」
チェロの風見さんが教えてくれた。
「でも、暫く弾いてないし」
「コンクールでろ!って言われる程の腕だったんだろ? まさかオレも本物のド素人に声かけるほどバカじゃないよ」
「そうそう」
片付けながらベースを弾く内藤さん。
「学生とコラボなんてなかなかできないし、こちらにも新しい風を吹き入れたいしね」
「まあ、考えてみてよ。野辺山さん」
ピアノの鍵盤はわたしの指をはじかなかった。よし!
まずは指の運動から!
やるぞーーーー!!!
音楽室の扉の硝子の向こうには
「百合ちゃん」
木佐が訝しげな顔しながらいることに
わたしは気付いていなかった。