5 絵梨
その日は、朝から雨だった。
木佐西都について5
「うそつき」
「絵梨」
仁王立ちの友人。とまどうわたし。後ろから木佐。
「あれ? 絵梨ちゃん? 今の資料室のこと? やだなあ。男子に免疫のない百合ちゃん、からかってただけだよ」
木佐が絵梨に笑いながら、言う。
「今流行りでしょ? 壁ドン」
睨んだままの絵梨。
「いいよ、おなじようなことしてあげようか?」
木佐? なにをおお
一気に絵梨に近づく。壁際まで。
バン!!
思わず耳を塞いだ。研究棟全体に響く様な大きな音。
リアル壁ドン
ちかいちかい!!
数センチもないような近い距離に木佐と絵梨の互いの顔があった。
え?
こんなんだった? わたし
眼鏡なくてよくわかんなかったけど。
改めて
はずかしー!!
絵梨がうつむいて、ひざがゆっくり折れる。
ずる〜と、床に座り込んだ。
「はい、満足した?」
絵梨は応えない。
木佐は背を向けて研究棟と本棟を結ぶ渡り廊下へ歩いて行く。
急いで追いかける。
「木佐!」
「ほっとけば?」
「なんで?」
「一応ばれちゃったみたいだし? 今戻っても火に油を注ぐだけだよ。女子の嫉妬って複雑だから」
絵梨の気持ちを考えると、戻んない方がいいのか?わたしが言ったら迷惑? でも・・・
回れ右して走り出す。
「でも、絵梨は友達だから!」
ごめんごめん,嫌な想いさせちゃったらごめん。でも
「絵梨!!」
泣いてたよね?
「・・・百合。ん、うう」
わたしを見上げて、絵梨は隠しもせずに涙をいっぱい溜めていた。
絶対、絵梨の方が釣り合ってるってわたしも思うよ。
膝着いて、ゆっくり絵梨の肩を抱いた。
なんて言ったらいいか全然わかんないよ。
「うう・・・あのね。こわかったの。わたしふられちゃったんだよね。きらわれたかなあ」
うう。
「どうしよう、どうしよう。百合。どうしよう」
ぎゅーっと絵梨を抱締めた。何にも言えない。癒して上げられる言葉なんてなんにも浮かんで来ないよ。ごめんごめん、気付けなくてごめん。何もできなくてごめん!!
「ああーーーん。木佐、木佐くん。うううんんんんんーーー、ああああ」
絵梨はわたしにしがみついて、チャイムがなるまで泣き続けた。
放課後
「えっせえっせ。ほら一年遅いぞ!!!!」
通称 無間地獄。階段ひたすら往復メニュー。
「いい加減にしろっつの。マジ足壊れる」
うん。うん同じく。でもさ
「威、つらいつらいいいながら、よくしゃ、べ、るね」
「小言でもいわんと耐え切れん!」
部長が叫んだ。
「列崩れている!右によれ! テニス部きた!!」
あ、絵梨!?
勢い良く登って行く。テニス部。
絵梨は赤い目のまま前をきっと見据えて階段を駆け上ってきた。
5時間目
「絵梨大丈夫?」
「お腹なおった?」
絵梨は、あのあと保健室に行った。
「ごめん、ごめん、急にお腹痛くなっちゃって、涙とまんなくて」
こんな目や瞼じゃ教室戻れない、戻りたくないというので、連れて行ったのだ。
絵梨の目はまだ真っ赤で、でも
「心配かけちゃってごめんね」
ちゃんと笑ってた。
「百合」
「大丈夫。絵梨」
「うん。ありがと」
ちょっと、うつむいた。そして小声で
「今はちょっと、あれだから。ごめんねって言っておいて」
絵梨は席に戻った。
わたしより前の席の木佐は、前を向いたまま。
走っている時。
階段で擦れ違った時、絵梨はわたしに気付いた。
笑ってくれた。
やっぱり、戻って良かったんだ!!
下校時
「ゆーりちゃん」
無視
「百合ちゃん?」
ガン無視
「ゆりりん!」
おい!
「聞こえない? じゃあ、もっと大きく・・・」
「やめんか! わたし怒ってるんだからね」
きょとんとしている木佐。
「嘘ついたことと、絵梨を泣かせたから!」
もう、絶対!!
「謝るまで許さない!!」
「ほとぼり冷めるまで待った方が」
「ちゃあんと、明日絵梨に謝ってね!!」
「えええ〜?!」
「そうしないと一緒に帰らないからね!」
納得してないって態度ムカつく
「さっさといけ!」
木佐を突き飛ばす。
「謝ってないから、一緒に歩くな!!」
「そんな〜百合ちゃん!!」