4 うそつき
う・・・うそつき!!!!
木佐西都について4
その日は朝から雨だった。
「百合、木佐と付き合ってるの?」
「はあ!?」
朝のホームルーム前、絵梨がいきなりかましてきた。
「チャラ男にふざけんなって殴ったって、言ったじゃん」
「だよね〜。百合じゃ釣り合わないよね」
どういう意味じゃ。それは!!?
「中間試験の日程は・・・」
気怠げな空気の中、滝口の声が響く。
まあ、確かに。釣り合わないよね。
木佐はかわいい系だし。わたしはスポーツ?系だし。
逆ならどうか?っていうのもなんかしっくりこないような・・・まっちょじゃないしなあ。
「おい、クラス委員! 2名」
う〜ん、なんかすっきりしないなあ
「はーいい」滝口うっせー。
「あとで、範囲と日程、後ろの黒板にかいとけよ」
プリント見りゃさ、分かるって。
「はい、わかりました」嶸山はなんとも思わないのかなあ。
教卓に近い席で、もう一人のクラス委員がはきはき返していた。
「そこまで、思ったことはないけど。野辺山さんが頼み易いんじゃない?」
「ええ〜」
1限目あとの休み時間。黒板に碁盤目を描く。
「滝口に好かれるとかぞっとしないわあ」
「野辺山さん優しいから」
「わたしは嶸山くんのほうが取っ付き易いと思うよ」
現国、古語、数学、選択理科・・・、項目を入れる。
「そうかな〜」
56〜120、97〜135、ページ数を入れて行く。
「はい、終了!!」
はあ、意味ないことはしたくない。
「そうそう、そういうところ」
「え?」
得心顔でわたしの顔を見る嶸山くん。
「文句言っても、納得できないことでも、面倒なことでもちゃんとやってくれるから、やっぱり優しいんだよ」
「普通じゃない? にこにこしながらやる嶸山くんのほうが優しいよ」
「そうかな〜」
「そうだよ」
くるっと振り返って伸びしたわたしの目に、はしゃぐ木佐が映った。
あいつはいったい何がいいんだろ? 告られてから今までの木佐とのやりとりを思い出す。
やっぱりわたし優しくないよね?
昼休み。
「夏樹の卵焼き、ちょっと頂戴!」
「じゃあさ、百合の春巻きととっかえて!」
「いいよ」
「里緒菜〜これかわいくない?」
「絵梨、きっと似合うよ〜。このウェア来てラケット振ったら、イチコロだよ!!」
「何がイチコロなのよ」
はあ、落ち着くわあ、やっぱり持つべきは、運動部女子友だよね〜。
夏樹はバスケ
里緒菜は合気道
絵梨はテニス
筋トレの話でもなんでも盛り上がれるからサイコー!!!
あ、クラシックは無理か・・・
「今日は陸部とおんなじメニューかも」絵梨
「雨だもんね。はあユーツ」百合
「今日は校舎中、地震だね」夏樹
「体育館チームは気楽で良いなあ」絵梨
「そうでもないよ、湿度高いと滑るし、べたべたするしね」里緒菜
「ましだよ〜〜」百合
「真夏なんて最悪だって!!」夏樹
ダン!
教室の扉がいきなり開いた。
「副部長!?」
「あ!いたいた。野辺山、ちょっと来い」
貴重な女子のお喋りタイムに何を!!
「はい! あ、ごめんね皆」
「うん行っといでよ」夏樹
「ご飯食べ終わってて良かったね」里緒菜
「うん、行って来る」
教室を出ると、副部長が何故か廊下の端っこで待っていた。
「はい、なんでしょうか?」
「買い出しのことなんだけど」
「なにか間違えてましたか?」
「スポーツ飲料のメーカー違ってる」
「・・・メモにはメーカー名書いてませんでしたけど」
「いつも飲んでる奴にしてよ。あの味好きなんだよね」
くだんねえええ!
「あ〜はいはい、次は気をつけます」
「あとさ、お前さ。クラスの男子とつきあってんの?」
はい!?
「威が一緒にいるの見たって」
あ、あれか!!
「あれはたまたま会って荷物持ち手伝ってもらっただけですよ〜、やだなあ」
「あ、そっか」
ふうう。
「それで、つきあうことにしたのか」
げえっ!?
「先々週、電車の下りで男と乗ってるの見たぞ」
「ええ?」
下り? クラシック・・・帰りか!?
「気のせいじゃないですか?」
「コート両方にかけてたろ」
副部長の顔が・・・にやけてる!?
「そんなん好きな男としかしないよなああ?」
どうするどうする。木佐のせいだ! 手繋ぎたいなんていうから。あの適当口先八寸がああああああ!
そうだ木佐なら!!
「コート、本当に両方にかかってました?」
「ええ?」
「遠出して疲れてたんで、そんな細かいとこまで、わたしも覚えてないですよ。もうびっくりしましたよ。となりのヒト迷惑だったろうなあ」
「すっとぼけんのか?」
「第一、考えてみて下さいよ。隣の人、どんなヒトでした?」
「顔いいやつだったな」
「どんな?」
「かわいい感じ。まあイケメン的な」
「じゃあ、絶対違いますよ。釣り合わないじゃないですか?」
「ああ!」
「そんな人がわたしと付き合うと思います??」
「あ、成る程。聖堂先輩が好みなんだったよな。確か」
え? 聖堂先輩? まあ、筋肉隆々でかっこいいと言ったことはあったけど。
「ああ。了解オッケー。疑問氷解したわ。いや、まさか、ありえないとは思ってたんだよ。ああ人類の危機は回避された。ああ、よかったよかった」
「どういういみですか?」
「ごめんごめん。また放課後に」
階段を頷きながらで登って行く。視界から消えた。
・・・はあああああ。
まじあせったわああ。
掃除時間。
「野辺山さん。巻き地図、三沢先生が資料室に返しておいてくれって」
おう。
「槙野先生、分かりました。ちょっといってくんね」
黒板の上にかかったまんまの社会科資料を取り外し、図書館や学習室などもある通称研究棟へ向かう。あんまり、図書館の先生がうるさくないんで
「ここの掃除担当ぜったいさぼってる」掃除時間に人がいない。
資料室は日の光で劣化しちゃうものも多いんで、暗いからすぐわかる。
ガチャ
遮光カーテンで晴れていても真っ暗。すぐ灯りをつける。
パチ
「ここかな? よっと」本棚の隙間に立てかける。
さてと戻る・・・
パチ
か!?
灯りが?
「なに!?」
「だ〜れだ?」
「きさああああ! なんだよ、いきなり!!」
まったく驚かせるな!!
「はやく電気つけてよ!」
只でさえ今日は雨で暗いのに。
「おっとっと」
足音が近づいて来る。
「前、ここの掃除担当だったんだ。明るくなくてもどこに机があるのかとか分かるよ」
ちょいまてや。あかるくしろーいい!
ガラガラ・・・・遠雷だ!!
「ほら、き、木佐! かみなり・・・」
「へえ 百合ちゃん、雷怖いの??」
「えっ?」
だまされた!?
「ひどいよ。なんで否定したの?・・・昼休み」
聴かれてた?
「秘密だっていったじゃん。条件!」
「もうちょっとごまかし方あるんじゃない?すっごく傷ついたよ。僕」
ち、ちかいちかい!!
「いくら秘密って言ったってね」
「!!」
灯りがない資料室。手で後ろを探る。本棚で絶体絶命。本、でかくて取れないし! 殴れないし。
「謝るからさ。木佐。!?・・・返してよ!!」
只でさえ暗いのに!
目の前が見えない。
「眼鏡返して!」
木佐が眼鏡を取った。
バンっ!
「壁ドンだっけ。こういうの?」
息が。
「百合ちゃん」
こわい。目をぎゅっと閉じて背けた。
「んん」
「はい、おしおき終了」
「へ?」
額になんか感触が残っている。
あれ、まさか。
「ごめんね」
「心臓止まるかと思った」
「うん、百合ちゃんが死んじゃうと困るからね」
いつも通りの木佐。
「もう、本当に止めてよ」眼鏡を返して貰う。
扉をあける。
もう、最悪。
ガラガラガラ、ドーン!!
「うそつき」
雷と一緒に、
絵梨が立っていた。