□第七話□ 火と油
ベルデン伯は予想外に話術巧みな男だった。
王都の流行りものから、他国の国情までを、飽きさせずに聞かせる。
ティナも面白くなっていろいろ質問するものだから、ベルデン伯の口はますます滑らかになった。
ルシオは従者として、ティナの一歩後ろに立って控える。
特に何も言葉を挟んでこないところを見ると、今のところ、ティナの言動に注意すべき点はない、ということなのだろう。
マナーも完璧。
敵と言われたベルデン伯の好意的な態度にも後押しされ、レスリーとしての成果に手応えを感じる。
「随分、日が傾いて参りましたな。長居をしてしまったようで、大変申し訳ない」
中庭に面したテラスにも、そっと冷たい風が吹き始めていた。
気持ちが高揚しているせいか、風を心地よく感じる。
「殿下とのお話が大変楽しく、時が経つのを忘れてしまいました」
立ち上がったベルデン伯は、空を仰ぎ見て言う。
ティナも会わせて立ち上がった。
「いや、俺こそ、初めて聞く話もあれば、懐かしい話もあって……。祭りの影絵など、あんなに退屈なものをこれほど楽しそうに説明されると、もう一度見たくなって仕方ない」
祭りで出される影絵は、大体が聖書を題材にとっている。大がかりな影絵になると、舞台を設置し、専門の興行師が様々な仕掛けを駆使して行うという。
だが、ティナが知っている影絵は、小さな木枠の中で、たった一人の流浪の民が行うものだ。
幼い頃は飽かずに眺めていたが、大きくなってくると、同じ話ばかりが続いて、とてもおとなしく見ていられなかった。
聖女が祈り、その命を神に捧げ、神から英雄が遣わされる。英雄は、炎や水、風を操り、悪鬼のような敵軍を一掃し、平和をとり戻す。
同じ力が自分にもあったなんて……。
「退屈になるほど、何度もご覧になられましたので?」
ベルデン伯が問う。
記憶に沈み込んでいたティナは、深く考えずに頷いた。
「そりゃぁ、なん……」
「レスリー殿下、お時間です」
ルシオがぴしゃりと割ってはいる。
「伯、我らが幼き頃、お忍びでバーナビーに出ていたことは他言無用に願います。三人だけの秘密、ということで」
「あ、あぁ。ルシオ殿がそう仰られるなら。そうですな。両王子殿下の秘密、しっかりお守りいたしましょう。
三人の秘密、とは、……何とも艶めいて甘美だ」
ベルデン伯はふくよかな頬で目が隠れるほど微笑んで、もったいぶって頷いた。
蒼白になっていたティナは、辛うじて、ぎこちない笑みを返す。
「すまない、ルシオ。ベルデン伯も」
ルシオはティナを振り返らず、近くのベルを鳴らした。
「殿下、顔色が優れないようですぞ」
いつの間にか間近にいたベルデン伯が、ティナの顔をのぞき込んでくる。
ふくよかな手が伸びてティナに触れようとした。
その手を払うべきか、とっさに迷う。
ルシオの言ったとおりだった。そう言う状況を作ってはダメなのだ。
触れれば、わかる。わかってしまう。
もう、遅い。
「ベルデン伯、殿下は長く臥せってらして、まだ体力が十分とは言えません。
殿下を速やかに休ませて差し上げてください」
いつの間にかしっかりと閉じていた目をそっと開くと、目前に黒い後頭部がある。
その向こうに、ベルデン伯の体があった。
「確かに、確かに。私はすぐにも退散することといたしましょう。
殿下がまた賦せられでもして、それがベルデンの長話のせいだ、などと言われてはたまりませんからな」
礼をしたベルデンの姿は、ルシオに遮られて見えない。
ティナは立っているのがやっとで、返事もままならない。
リヒトとルシオが伯を部屋から連れ出すと、糸の切れた人形のように床に座り込んだ。
ベルデン伯を見送ったルシオは、常にない早足で廊下を歩いていた。
「ルシオ様、レスリー様に何か?」
リヒトが問いかけるのも無視する。
猛烈に腹が立っていたのだ。
危ないところだった。
あのまま、会話を続けていれば、どこまで話したことか!
今日のティナが妙に浮ついているのは気付いていた。どこかでしっかり手綱を締め直さなければ、と思っていたのも確かだ。
だが、それが危うく致命傷になるところだったのだ。
「ルシオ様!」
「うるさいぞ、リヒト!」
正面に回り込み、ルシオの進路を妨害する老人に、ルシオは怒鳴った。
「怒っておいでですか?」
「あぁ、当たり前だろう。よもやこんな簡単なところでボロを出すなんて!」
リヒトを脇に追いやろうとするが、老人はびくともしない。
返って、ルシオを正面から睨みつけてくる。
「何を怒っているのですか?」
「わからないのか? あいつが……」
「そばにつき従い、主を守る。それがあなたの役割では?」
「だからっ!」
「レスリー様がミスをしたのなら、それはあなたのミスです。
……あなたは、何に対して怒っているのですか?」
リヒトに両肩を掴まれる。
ルシオは瞬きを繰り返した。リヒトの手が、痛いほど肩に食い込んでいた。
途端に、燃え上がっていた感情が沈静化する。
「私は一つ、言い間違いをしていました」
「言い間違い?」
脈絡なく話が変わって、ルシオは面食らう。
その様を面白そうにリヒトは笑い、少年の肩から手をはずした。
「私は、ルシオ様とレスリー様は、水と油だ、と申しました」
「交わらない、全く違うもの、と言うことだろう?」
リヒトは悪戯っぽく笑い、首を振る。
「そこが間違いだったのですよ。
今のレスリー様は水ではない。火です。
だから、レスリー様とあなたは火と油なのです。レスリー様を燃え上がらせ、押さえを利かなくしたのは、あなたなのですよ、ルシオ様」
背の高い老人は厳しい顔でルシオを見下ろしていた。
「あの方は、あなたではない。今までのレスリー様でもない。
もっと、あの方ご自身をご覧になってください」
穏やかな言い方にも関わらず、ルシオはむち打たれたような衝撃を感じ、リヒトから視線をはずす。
リヒトは少年の肩を掴み直すと、くるりと向きを変えてやり、その背を軽く押す。前へ、レスリーの待つ部屋へ向かうように。
ルシオはのろのろと足を進め、テラスのある部屋へと向かった。
リヒトはついてこない。「あの」レスリーに、一人で向き合え、と言うことなのだろう。
冷静になって考えてみると、自分の言葉が自分に突き刺さった。
「そう言う状況にならないように、頭を働かせろ、か」
確かに、リヒトの指摘通りだ。従者としてそばにいたルシオこそが、あの会話の流れを変えるべきであったのだ。
そのために、ルシオがいるのだから。
だとすれば、先ほどの怒りはルシオ自身に向くべきものだ。
反省を促すことは必要だが、そこに怒りは必要ない。あの少女に向けられるものでもない。
気付いてしまった自分の未熟さに苛立ちを抱え、ルシオはおざなりなノックをして、返事を待たずに開けた。
「先ほどだが……おい! 大丈夫か!」
話し出そうとして、床に倒れているティナを見つける。
辺りに人の気配はない。
慌てて駆け寄り抱き上げると、ティナは顔を真っ赤にして、荒い息を吐いていた。
額に手を当てると、驚くほど熱い。
「バカか、君は! 具合が悪いなら悪いと……」
「ルシオ……さっきはゴメン。本当、バカだ、私……」
「わかったなら、さっさとベッドに入……」
「殺されちゃうかな」
「…………何?」
呼び鈴を鳴らそうとして、手が止まる。
ルシオは目を見開いて、腕の中の少女を見下ろした。
「私、失敗したから、……殺されるのかな。やだな……死にたくないよ……」
少女は潤む焦げ茶色の瞳を、ルシオに合わせる。
力ない手がルシオの服をつかみ、目尻から透明な滴が、頬を伝ってルシオの胸に落ちた。
服の上からなのに、とても、熱い。
ルシオは言い返そうとしたが、何も言葉がでない。ただ、ティナの手をぎゅっと握りしめた。
同じような体格だと思っていたが、ティナの手は思っていたよりも小さく、すがりつくように、弱々しく握り返してくる。心持ち、少女の表情が緩んだように見えた。
ティナが気を失ったところで、今度こそルシオは呼び鈴を鳴らし、家人を呼ぶ。
真っ先に駆けつけたリヒトに寝室の用意を言いつけ、ティナを抱き上げる。
予想以上に柔らかい感触によろめきかけるのをぐっと堪えた。
「私がお運びいたしましょうか?」
指示を出した後、戻ってきたリヒトは心配顔で問いかけてきたが、ルシオは断った。
「僕の責務だ。かまうな」
それほど違いがない体格の少女を運ぶのに、かなり腕が震えてしまう。
結局ルシオは、心配のあまり心臓が止まりそうなリヒトを目にして、横抱きを断念。リヒトに手伝ってもらって背中に負い、ベッドまで運ぶのであった。
「侍医を呼んで参りますか?」
「いや……、もう少し様子を見よう。リヒトも席を外してくれ。
僕が呼ぶまでは、誰もこの部屋に入れてはならない」
「……後ほど、ルシオ様のお部屋に食事と氷をお持ちいたします」
リヒトは心配そうな一瞥をベッドに向け、深く腰を折って出て行った。
足音が遠ざかり、ルシオの部屋の扉が閉じる音も確認する。
しんと静まった部屋には、ティナの荒い呼吸だけが響いていた。
誰の気配も近くにないことを確認し、ルシオはベッドに近づいた。
亜麻色の髪は汗に塗れて額や頬に張り付き、眉間には深いしわが寄っている。
ルシオは自分の胸ポケットからハンカチを取り出すと、ティナの額や頬をそっと拭った。
続いて、詰め襟のボタンをはずし、喉元を露わにする。盛んに上下する白い胸元に息をのみ、視線をはずした。
震える指先を、細い首に沿わせる。見ることに罪悪感を覚えてしまったから、指先で探るしかない。
熱い肌に触れるか触れないかで指を沿わせ、それ、を見つけた。
そっと奥から引っ張り出し、ルシオはほっと息をついた。
体中が熱い。
風邪を引いているのだと、頭のどこかで理解する。
同時に、死が身近にいることにも気付く。
もうすぐ春なのに……。
涙がこぼれて頬をぬらした。
昔から、冬は嫌いだ。特に、熱で火照った体を抱えて、一人で眠る冬が……。
冬を越せない子は大勢いた。
多くは体力がない、幼い子供達だ。
他の子にうつると大変だということで、体調を崩した子はいつも屋根裏に隔離される。
ティナも、体調を崩す度に屋根裏に放り込まれた。
嫌われていたから、シスター達が見に来ることも滅多にない。ベレンも屋根裏に近づかないよう見張られている。
熱いか寒いかわからない自分を持て余し、薄い布団にひたすらくるまる。
小さな棺をみる度に、次は自分の番かもしれない、と苦しくなる。
小さい小さい棺。あれは赤ん坊用の棺だろうか。
あぁ、泣き声が聞こえる。
ダメ、その子はまだ生きている。埋めないで。出してあげて。
棺の蓋を叩いて何とかそれを開く。
そこにいたのは!
体を小さく折り畳み、窮屈な棺の中に詰め込まれたティナの姿。
眠っているようなのに、後頭部がぐしゃぐしゃで。
悲鳴すら喉を通らず、後ずさる。すると、棺の中のティナの目が開いた。
茶色い瞳でじっと「こちら」を見る。
「あなたは何故、そこにいるの? 死ぬんじゃないの? 死んだんじゃないの? こちらに来て? だってここは、あなたの場所だから」
ティナは首を振り、さらに後ずさる。だが、棺から伸びた手がティナを掴み、じりじりと棺に引き寄せていく。
「ここはあなたの場所。あなたの棺。さぁ、入れ替わろう。そこは俺の場所だ!」
間近に寄せられた顔は、いつの間にかいつも見ている顔で、でも表情が違って……。
「おい、しっかりしろ! ティナ!」
夢から覚めても同じ顔が目の前にあり、ティナは今度こそ悲鳴を上げた。
「いやぁ!」
「落ち着け。ほら、深呼吸をするんだ。大丈夫、大丈夫だ。僕がいる」
ひんやりした手で頬を挟まれ、俯こうとする顔を強引に上げられる。
「僕を見るんだ、ティナ。僕は誰だ?」
強引な手の割に、声はとても優しい。青いはずの瞳は、炎に照らされてオレンジ色に煌めいていた。
「僕は誰だ?」
「……ルシオ?」
「そう、ルシオだ。ティナ、周りが見えるか?」
「え?」
ルシオが手を離し、ティナは周囲をゆっくりと見回した。オレンジ色の明かりがあちこちに灯っている。随分と蝋燭の本数が多い、と思ったところで、違うことに気付く。
宙のあちこちに大小さまざまな火が浮かんでいたのだ。
「ルシオ、これ!」
「大丈夫だ。ティナ、心を落ち着けて。元の静かな部屋を思い出すんだ」
またパニックに陥りそうになったティナの頭を強く胸に抱き、ルシオは小さい子供をあやすように、ティナの背中をぽんぽんと叩く。
「額の真ん中に力が集まっているのがわかるか? まずはそこに集中して。額に角があると思って、その先を見る、感じる。そんな風に。うん、上手だ。大丈夫。そこまで出来たら、次も出来る。深く深く息を吐いて。
角が溶けていく。吐く息と一緒に、角がどんどん小さくなる。どんどん、どんどん……」
不思議なことに、ルシオが触れているところからじんわりと温かさが体に入り込み、額に集っていくようだった。そして、少年の言葉と同時に、ルシオの温かさがティナの炎を溶かしていく。
周り中に感じていた熱さが、ルシオの言葉と共に消えていく。
気がつくと、ルシオはティナを抱く腕をゆるめ、顔をのぞき込んでいた。いつになく心配そうな表情に驚く。
ティナが首を傾げると、ルシオはふるふると首を振って、額をこつんとティナのそれにぶつけてきた。
「僕が悪かった。……君がそれほどに思い詰めているとは思わなかったんだ」
「ん? 何の話?」
伯爵と話している途中辺りからの記憶が曖昧だ。自分が失言したこと、ルシオがフォローしてくれたことは覚えていたが、ベルデン伯を見送ったのが現実だったのか、夢だったのか、判然としない。
「君は、自分が殺されるのではないか、と怯えていた」
ルシオの声は囁きのようで、よく耳を傾けなければ聞こえなかった。
ティナはその元気のない様を不思議に思いつつ、答える。
「あぁ、そっか。そうだね。……要らなくなったら、捨てられるか、殺されるかの二択だと思ったから」
おぼろげだが記憶がよみがえり、思わず乾いた笑いを響かせる。こうして元気にベッドの上に座っていると、「殺される」と怯えていたことがバカみたいだった。
「笑い事じゃないだろう!」
かなり強い反応が返ってきて面食らう。黙り込んでいると、ルシオは気まずそうにティナから離れ、ベッドから足を下ろした。
「いや、すまない。僕が怒るようなことじゃない。そう思わせていたのは僕だ」
「ちょ、ちょっと待って! ルシオが悪い訳じゃないでしょ? ……孤児で生きていくのって、いろいろ覚悟を重ねていくことなんだよ。ちゃんとわかってるから」
「そういうことじゃないんだ」
体だけをもう一度ティナに向け、今度はもっと穏やかに言葉を紡ぎ出す。
いつもは冷たい青い瞳が、何故かとても温かくティナに向けられている。胸がざわめき、いたたまれない。
「僕は君の従者だ。従者とは、君を助け、ともにあるもの、だ。
僕は全力で君を助ける。
僕を頼れ。僕を利用しろ」
ティナは戸惑い、胸元に手をやる。
あるはずのペンダントがそこにはない。周囲を見回すと、ベッド脇のサイドボードに置いてあった。
「君の負担になると思ったから外した」
視線の意味に気づき、ルシオが説明してくれる。
すごくすごく、いたたまれない。そわそわしながら、指先で髪を引っ張る。
「なんか、起きたらすごく優しいとか、ルシオ、変。あ、あれ! 死刑になる前に出される最後の晩餐的な!」
「バカ」
勢いよく額を小突かれる。痛い。夢ではないようだ。
ジト目で見返すと、ルシオは苦笑した。
「君が精一杯、生きることが出来るように、フォローすることも従者としての僕の役目だ。
僕らは運命共同体なんだ」
「ウンメイキョウドウタイ……って何?」
またバカにされるかと思いつつ、今のルシオながら答えてくれるのかもしれない、と思って問いかける。
ルシオは眉間にしわを寄せ、少し考え込んだ。
「何というのが一番いいのか……そうだな、共にあり、共に苦難に立ち向かい、……倒れるときは一緒……と言うことかな」
考えつつ捻りだされた言葉に、うっかり笑ってしまう。
「いいね、それ。幸せも、不幸も、手を携え、分かち合い、共にあらんことを」
途端に、ルシオがぎょっとした顔で振り返った。
「そ、それは、結婚の誓約だろう!」
「だって、似たようなものでしょ? そっか……ルシオと私は家族になったんだね。知らなかった。血がつながってなくても、結婚しなくても、家族になれるんだ」
ティナは噛みしめるように呟き、慌てるルシオから離れて、ベッドに倒れ込む。
その顔は、まだ疲労の色が濃かったものの、どこかこれまでよりも力が抜けて、幸せそうだった。
だから、だろう。
ルシオは何も言えなくなる。
代わりに、引っ張り上げた毛布をティナにかぶせ、ベッドに押さえつけた。
「ひどい、何するのよ!」
「いいから、寝ろ。僕の仕事を増やすな、バカ」
乱暴な言葉遣いで、優しさが注がれる。
ティナは毛布の端から目を覗かせる。ルシオが上からのぞき込んでいた。
「おやすみなさい、ルシオ」
「はいはい、休め休め。もう少し残ってるけど、大丈夫そうなら、僕も部屋に戻るからな」
「うん。……ありがとう。ねぇ、ルシオ?」
「何だよ、うるさいな」
いちいち律儀に応えてくれる。トゲトゲした言葉に隠された、少年の優しさがくすぐったい。
「おやすみなさい、のハグとキスは?」
幼い頃のうっすらと残る記憶の中で、母の優しい眼差しが蘇るから、うっかり調子に乗ってみる。
「いいから、寝ろ。バカ」
案の定、温度のない台詞が返ってきて、ティナは笑いながら毛布の中に潜り込んだ。
程なくして、健やかな寝息が聞こえ出す。
「苦しくないのか?」
ルシオが毛布を顔まで下げてやると、ティナはもにょもにょ唇を動かしながら、寝返りを打った。
だらしない口からは涎が垂れている。
うっかり吹き出しそうになって、何とかこらえると、自然とため息がでた。
「ハグとキスねぇ」
呟きながら、亜麻色の髪を撫でつける。
「つけあがるな、バカ」
ルシオは小声で呟き、えへへ、と笑いながら寝ているティナの額に、そっと唇を落とした。
「おやすみ、ティナ。よい夢を」