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王子殿下は従者様  作者: 東風
第二章 春遠からじ
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□第五話□ 王子としての出発

20180321 離宮に側妃も一緒に来ていたという部分を、双子王子のみに変更いたしました。

 「このペンダントは、その中に封じ込めた記憶を元に、装着する者の魔力を糧にして姿を変えたように見せる、という代物だ。僕のレスリーに関する記憶を封じ込める。

 僕の額にペンダントの宝石部分を触れさせてくれ」

 ルシオの説明に頷きながら、首からかけたペンダントを持ち上げる。

 ティナの前に頭をつきだしたルシオは、前髪を無造作に持ち上げ、白くきれいな額をむき出しにした。

 伏せられた睫毛と露わになった額にドキッとする。

 「どうした。早くしてくれ」

 体勢がきついのか、ルシオは眉間にしわを寄せてしまい、無垢な子供のような額が跡形もなくなってしまう。

 ティナは、先ほどのドキッが何なのか頭を傾げながらも、急かされるままにペンダントをルシオの額に押しつけた。

 宝石は、朝焼けの太陽よりも赤く煌めき、ゆらゆらと揺れる真紅の光が室内を余すところなく照らし出す。同時に、体中から強引に力を引き出されていくような、激しい目眩を感じた。

 イスに座っていながらもよろめくティナに、ルシオは「我慢しろ」とだけ告げて、光が収まるまで、その姿勢を貫いた。

 激しく不快な頭痛と吐き気を堪えていると、光はいつの間にか収まり、気がつくとティナはソファに寝かされていた。

 ルシオが静かに見下ろしている。

 「ペンダントは長らく誰も使っていなかったから、魔力は空っぽだったはずだ。それを全て、君一人の力で補った。

 驚嘆すべき魔力量だ。多分、レスリーにこのペンダントを渡しても、四分の一にも満たない魔力を注いだだけで、昏倒していただろう」

 「……毎日、こんなに吸われるの?」

 「いや、一度入れてしまえば、後は僅かな補充を続けるだけで十分なはずだ。

 ……それでも、毎日四六時中つけて利用することが想定されているものではないからな。

 君の負担は大きいだろう」

 頭を振りながら身を起こすティナの背中に、大きめなクッションを添え、ルシオは説明を終えた。

 「それは随分と、心強いお言葉だわ」

 ティナは弱々しく微笑みながら、クッションに背を預ける。

 何か、ルシオの説明に引っかかる箇所があった気がしたが、頭に霞がかかったようで、うまく働かない。

 盛んに頭を振るティナを見て、ルシオは暫しの休憩を申し渡す。


 マナーの訓練もかねた夕食後、就寝するまでの間に設けられたのは、レスリーの仕草、思い出を聞く時間だった。

 ルシオに言わせると、レスリーは「普通の子」だったそうだ。

 冷淡で感情の起伏に乏しいルシオに対し、レスリーは元気で人なつっこく、勉強嫌いな子供だった。

 いたずらを思いつくのはいつもレスリーだった。

 ルシオと入れ替わったり、衛兵やメイド、執事らから逃げ回り、「勝手にかくれんぼ」を楽しんだり。

 朝、双子を起こしに来たメイドが、シーツをまくった瞬間に飛び上がった無数のカエルに悲鳴を上げたことも何度もあった。

 その度に、双子は仲良く叱られた。

 「僕は巻き込まれただけだったんだが、誰もそんなことは聞いてくれなかったな。寧ろ、何でちゃんと止めなかったんだ、とよけい怒られた」

 ルシオはすっかり見慣れた渋面を浮かべて、今でも納得いっていない、と言わんばかりに呟く。

 ティナは神妙に頷いたが、笑いを堪えた唇がもにょもにょするのは止められなかった。


 ルシオには言っていなかったが、ペンダントにルシオの記憶を流し込んだ時、幼い頃の姿もティナの脳裏には映し出されていた。

 同じ顔、同じ服装の双子の王子は、とてもやんちゃだった。

 離宮のあちこちを走り回り、隠れ、暴き、離宮に住む者達に叱られ、笑われ、呆れられていたようだ。

 多くの温かい眼差しが注がれていた。父も母もいなかったが、その分、手をさしのべてくれる者はたくさんいた。

 離宮の中には、老人や老女が大勢働いていた。未来のない王子達の世話を率先して行うような若者は多くはなかったのだろうことが、ちょっと悲しい。

 老人達もそれを感じていたのだろう。彼らは思っていた以上に双子の世話を焼き、追い回し、叱っていた。

 双子の王子は、可能な限りの愛情を受けて、真っ直ぐに育てられてきたのだ。

 その息づかいは、そこかしこに残っているようで。

 今にも、クローゼットの奥から、可愛らしい双子王子が飛び出してきそうだった。

 いつでも、二人は楽しそうで、幼いルシオはいつもレスリーにつられるようにして笑っていた。

 笑顔になると、本当に二人は全く見分けがつかないほどそっくりだった。


 あれ、とティナは、ルシオの説明を聞きながら首を傾げた。

 ルシオの記憶を流し込まれたはずのペンダントは、レスリーとルシオ、両方の姿をティナに見せていた。

 これはどういうことなんだろうか?

 ペンダントにまだ何か秘密があるのだろうか?


 ベッドに深く入って、ペンダントを握りしめてみる。甲高い笑い声が二重になって、夢の中を駆け回った。


 翌朝からの授業も淡々とこなされる。

 最初の試すようなルシオの言動はなりを潜め、嫌みも微減した。

 代わりに、授業の内容は濃密になり、過酷さを極める。

 特にマナーや貴族とのやりとり、難しい言い回しなど、ティナの人生にこれまで欠片もなかった部分は、ペンダントへの魔力補充以上に、ティナの精神力を削るのだった。


 ルシオは、ティナでも一目見てわかりやすいように、と、一ヶ月後までに行っておくべき諸々を表にして、進捗度合いを書き込んでくれる。


 半月が過ぎた頃、ティナは「中間発表だ」と言われて、とある小部屋に通された。

 この半月、たまにルシオが一緒に外を歩いてくれる他は、全く他人と会話をしたことがなかったティナは、そこに見慣れない老人が立っていて驚いた。

 老人は、丸テーブルのそばにあった華奢なイスを引き、そこを指し示す。

 「どうぞ、レスリー様」

 ティナは慌てて周りを見回したが、ルシオの姿はない。ティナをこの部屋に放り込んだ後、さっさと出て行ってしまったのだ。

 「あぁ、すまないな」

 ティナは動揺を悟られないよう、イスとテーブルの間に立つ。

 老人の動作に注意を払いながら腰を下ろす。わずかにティナの方が早すぎたか、と思ったが、老人はごく自然にその早さを変える。

 イスは絶妙なタイミングで押し出され、ティナはごく自然な仕草でそこに座ることが出来た。

 「お茶をお入れしましょう。お砂糖とミルクはいかがなさいますか?」

 「ミルクを一杯。砂糖は不要だ」

 言葉少なに指示を出すと、老人はにっこりと微笑んだ。

 「ミルクはどちらのものを?」

 一瞬言葉に詰まる。だが、無理矢理笑顔を張り付け、老人を見返す。

 「おまえに任せるよ、リヒト」

 老人は笑みを浮かべて、深く頷く。皺深い目の縁に、きらりと光ったものがあったが、ティナは見なかったことにした。

 老人が思った通りの人物であれば、それを指摘されたくないだろうと思ったからだ。

 「かしこまりました。お待ちくださいませ」

 暫く、茶器の音だけが室内に響く。

 用意されたのは芳醇な香りのミルク入りのお茶に、ナッツや干しぶどうがたっぷり入ったパウンドケーキだった。

 添えてある生クリームには手をつけず、ティナはケーキとお茶をいただく。

 「いつもありがとう。美味しかったよ。やっぱり、リヒトの用意するお茶とケーキは最高だね」

 「過分なお言葉、ありがとうございます」

 リヒトが深く腰を折る。ティナの目の前に来た白髪が混ざった焦げ茶色の髪は、優しさの象徴のようだった。

 まさに、彼が入れてくれたミルク入りのお茶のように、優しい色合い。

 ティナは目を細めてその髪を眺めた後、リヒトの肩に手を起き、頭を上げるよう促す。

 再び直立に戻った老人に、今度はティナが頭を下げた。

 「ごめんなさい」

 「何を……お謝りになっているのですか?」

 リヒトの深く豊かな声が、温かく降り注ぐ。

 ティナは頭を上げ、真っ直ぐにリヒトを見つめた。

 「あなたはご存じのはずだ。俺が、何者なのか」

 リヒトは首を一振りし、ティナの前に跪く。そして、白い手袋に覆われた手で、ティナの両手をすくいあげた。

 「勿論、存じ上げております。レスリー殿下。私の悪戯好きな双子。

 あの時、あなたの姿を池に見て、私は胸がつぶれる思いがいたしました。

 殿下、私からこそ謝罪と、そして、分を弁えぬ願いを、お許しください」

 ティナの両手を自らの額に押し抱く。神像の前で懺悔する罪人のようで、それでいてとても尊い姿のようで。

 ティナは言葉もなく頷いた。

 「冷たかったでございましょう? 痛かったでございましょう?

 何かあれば、じいにはすぐに分かる、と申しておきながら、殿下が一番私を必要としていたときに、お側に侍ることかないませんでした。その上、私はルシオ様を置いて行こうとした……。

 大変申し訳なく、苦しく思っております。

 ……殿下、殿下、あなたがどなたなのか存じておきながら、こう申し上げることをお許しください。

 今度こそ、両殿下をお守りさせてください、と」

 ティナは薄く開いた扉の向こうに、ルシオが立っているのを見つけた。

 青い目は、老人を見守っている。

 ティナが頷くと、ルシオも頷いて返した。


 ティナは大きく深呼吸した後、リヒトの手をぎゅっと握り返した。

 「リヒト、今までのおまえの行いには感謝しかない。それはこれからも同じだ。

 俺からもお願いしていいだろうか?

 是非、俺達を助けてほしい、お願いだ」

 リヒトは声もなく、ぽろぽろと涙をこぼし続ける。

 ティナは老人の手を握りしめながら、静かに時が過ぎるのを待った。


 お茶の時間の後、ルシオが迎えにくる。

 ティナと二人で、レスリー王子の部屋に戻って来るなり、ルシオはティナを振り返った。

 「及第点すれすれというところだ。特に注意したいのは、手を握る行為、いわば接触だな。

 これは避けろ、と言ったはずだ。声や容姿を変えているが、触れた感触までごまかしている訳ではない。

 信じ込んでいるうちは良いが、疑っている者に接触を許すと、見破られる」

 「何よ、それ! 泣いているおじいさんを振り払えとでもいうの? そんなこと、レスリーとして出来る? 私はあんたになった訳じゃないのよ? レスリーになったのよ?」

 うまく行ったと思い満足しているところに冷水を浴びせられ、ティナはすこぶる機嫌を悪くした。

 言い返されて、ルシオも眉根を寄せる。

 「振り払うことが許されないなら、そういう状況にならないように頭を働かせろ。その頭は飾りか? 重要なことがすぐに抜け落ちるようだな。

 正体を見破られて、一番大変な目に遭うのは君なんだぞ? 覚えていないのか? 物覚えが悪いのにも限度がある」

 そこを突かれると弱い。ティナは、だって、と口ごもり、面を背けた。

 だが、今のティナの力量で、あの場面で手を握られないようにするのは難しかった。何より、震えるリヒトの手を握り返して上げたい、と強く思ってしまったのだ。

 言われてみると、あの場面はティナが望んで行われたものだった。

 ばつが悪くなり、小さくなってしまう。

 意気消沈するティナを見て、ルシオはため息をついた。

 「……だが、リヒトのことは感謝する。恐らく、レスリーも一番気にかかっていただろう。

 じい……リヒトは、僕たちが小さな頃からずっとこの離宮に勤めてくれている執事だ。母を亡くした後は特に、親のように、厳しく、優しく、導いてくれた。

 事故の後、リヒトはとても自分を責めた。自死しようとしているのを見つけたときは、思わず、僕を一人にする気か、と詰め寄ったほどだ。

 じいの関心がわずかでも僕に残っていて助かったよ」

 離宮に勤める人々の中で、ルシオが一番力を入れて説明してくれたのが、リヒトだった。

 その熱の入り様から、一番最初に会うことになるのは、この人だろうな、と思っていた。

 想像に誤りはなかったが、ルシオの物言いからすると、リヒトの関心は全てレスリーにあったように聞こえる。だが、リヒトの言葉を間近で受け取ったティナの考えは異なった。

 「両殿下をお守りさせてください」という、老人の声が、耳の奥にまだ残っている。少し、いや、かなり羨ましくなるほどに。


 この日を境に、ティナの身の回りの世話には、リヒトも加わるようになった。

 「変なことを聞くが、わ……俺が誰なのか、直ぐに分かったかい?」

 ティナが問いかけると、リヒトは淡く笑った。

 「最初は……無事でいらしたのか、と。しかしながら、イスの位置が異なりましたもので」

 リヒトもまた、言葉少なく答える。

 「そうか……もっと、気をつけねばならないね」

 「いいえ、十分でございますよ。そうあろうとするあまり、ぎこちなくなる方が不自然でしょう。

 あなた様は、あなた様のままで。

 雰囲気がとても、似ていらっしゃいます」

 落ち込んだ様子のティナに、リヒトは温かいお茶を注ぎながら言い添えてくれた。


 そして、リヒトからもレスリーの思い出を聞く。

 ルシオから聞いた以上の悪戯の数々。

 「お二人は暇を持て余していたんですよ」

 リヒトは、ティナのティーカップに二杯目のお茶を注ぎながら、懐かしむ眼差しで言葉を紡ぐ。

 「双子の王子は縁起が悪いと言われております。慣例では、どちらかのお子様が捨てられるか、殺されるか……。

 国王陛下は血を厭われる優しい方です。双子王子だけ、この離宮に隠されました。

 ……ただ、双子王子は王宮に関わることは許されず、公務も与えられず、永遠に目を閉じられるまで、この離宮で過ごすことを決められていたのです。

 物静かで学究肌のルシオ様ならともかく、元気いっぱいのレスリー様には、この離宮は狭すぎました。

 文句も言わず過ごしていらっしゃいましたが、鬱憤は溜まっていたのでしょう。

 悪戯はエスカレートする一方でございましたよ」

 豊かなあごひげを撫でつけながら、庭園を見下ろす。

 老人の眼差しには、ありありとかつての光景がよみがえっているのだろう、と分かった。

 「何故、王太子に?」

 主語を省いて問いかける。

 リヒトはしわに隠れた細い目をめいっぱい丸くした後、悪戯っぽく微笑んだ。

 「それが、この離宮の語りぐさになっておりましてね。

 ……離宮から出られなかったら、死んでやると仰せになったレスリー様がハンガーストライキをなさいましてね。

 でも、どうにもお腹が空いて我慢できなくなったらしく、夜中にレスリー様はルシオ様をつれて、食料庫においでになったのです。

 そこで満足するまで食された両殿下は、二人で遊ばれた。

 詳細は分かりかねますが、その時、レスリー様の魔力が解放され、離宮が半分吹っ飛んだのです」

 「ここが?!」

 これほど大きな離宮の半分が吹っ飛んだと聞き、ティナは驚いた。

 ティナの全魔力を集めても、三分の一程度を吹き飛ばすのが関の山だろうと思われたのだ。もっと幼い頃なら、大きな石を一つ吹き飛ばすにも、疲労困憊だったものだ。

 リヒトは誇らしげに大きく頷く。

 「幸い、夜中と言う時間が遅かったこともあり、その棟には誰もおりませんでした。死者はなく、負傷者は王子二人のみ。

 離宮を半分吹き飛ばした光は、王都でも見えたと申します。

 直ぐに陛下からの御使いがお越しになり、両王子への聴取の結果と、その後のテストを経て、レスリー様に尋常ではない魔力が認められ、一躍王太子候補に躍り出たのです」

 捨てられていた双子の王子。

 一人は表舞台に躍り出て王太子候補に。

 残された一人はどう思ったのだろうか……。

 大勢の人に囲まれ日の当たる場所にいるレスリーと、たった一人で影にひっそり佇むルシオ。互いの視線が交錯し、無言のまま、面を背けあう。

 見たこともない光景が脳裏をよぎる。

 これは夢? それとも、ペンダントが見せる記憶?


 軽い頭痛を感じ、ティナはお茶の時間を早めに終えた。

 食事のマナーも頓珍漢になり、ルシオに何度となく叱られる。

 それでも何とか一日の日課をこなし、ベッドに入ろうと言う頃にソレが来た。


 翌日の予定表を確認しているところで、控えめなノックの音が聞こえる。

 いつもの不必要なほど溢れている、扉を壊さんばかりのノックではなく、淑女のような控えめなノック。

 返って無視できなくなり、ルシオは「どうぞ」と声をかけた。

 レスリーの部屋へ続く扉が開き、薄暗い中でも分かるほどに真っ青な顔のティナが顔を覗かせる。

 ティナはお腹を押さえ、体を曲げるようにして、扉の枠に縋って立っていた。

 ただならぬ様子に、ルシオは慌てて立ち上がると、ティナに駆け寄った。


 「どうしたんだ? 腹痛か?」

 「あのね……あの……言いにくいんだけど……」

 「腹を下したのか? 下痢? 立てないほど? 何をつまみ食いしたんだ?」

 「あ、いや……だから……その……で」

 「ん? よく聞こえない。具合が悪くて声がでないんだな。直ぐにイスと便壷の用意をするから待ってい」

 「だから……話を聞いてよ! 下痢じゃないし! 生理だし!」

 言われた瞬間、ルシオは時が止まったように、目を丸くしたまま固まる。

 ティナは涙目になって、ルシオを見上げていた。

 「その……レスリーとしての自分を忘れた訳じゃないけど、生理用の布や油紙とか、あの……自分で洗いたいからお水を入れた瓶とか、用意してほしいんだけど」

 こんなこと、ベレンにだって言ったことはなかった。

 いや、そもそも集団生活をしている孤児院では、男の子も女の子の生理についてはある程度の知識を持ち、いつもはいじめられているティナでさえ、そういう時期には茶化されることもなく、他の女の子にも労ってもらえたものだ。

 恥ずかしさのあまり、死にたくなってくる。

 何故、こんな夜更けに、絵画にでもなりそうなイケメンに、自分は生理の用意をお願いしなければならないのか。

 あれもこれも全部、ティナがレスリーになることを選んだから、と言われればそれまでなのだが。

 自分の覚悟が足りないことが、こんなところでもあからさまになる……。

 ティナは自分が情けなくて、泣きそうになった。

 そんな風に、ティナが自己嫌悪に陥っている最中に、ルシオは何とか自分を取り戻し、開ききっていた目をいつも通りの半眼に戻すことに成功した。

 「わかった。僕もそのあたりはよくわからない。もう一度、必要なものと枚数や量を言ってくれ。リヒトに相談しよう」

 ティナはこれまでの気の強さが嘘のように、うつむき加減でこっくりと頷く。

 短く切りそろえられた亜麻色の髪の間から、健康的に日に焼けたうなじが覗いている。

 ティナは気付いていなかった。これ以上、恥の上塗りをしないようにするので精一杯で、ルシオが驚きながらも、顔を赤らめていることになど気付きようもなかった。


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