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王子殿下は従者様  作者: 東風
第六章 古の民
32/33

□第32話□ 囚われたもの

暫くはティナのターンです。…いやむしろ、サウロのターンなのか…。

 強制的に排出させられる魔力と、乱暴な馬車の運転に、ティナは吐き気を覚えてた。


 前日は状況が目まぐるしく変わり、かつ、正妃によって奪われた魔力はまだ、回復しきっていない。そこに、魔力を吸い上げる腕輪だ。

 世界はぐるぐると回っていて、身体を立てておくことさえ出来ない。

 ティナはぐったりとしたまま、ロランに抱きかかえられ運ばれた。


 頭の上で、誰かが会話しているのを聞くともなしに聞く。

 ティナと行動を共にしているのは、ロランを始めとしたほんの数名のようだ。

 人を拐かしておきつつ、大人数で移動するには無理があるからだろう。

 分散していったいどこを目指しているのか。

 ぐらぐらと回る視界を堪えながら、じっと時を待ち続ける。

 訥々と語られる男達の言葉には、僅かだが訛りがある。

 家族のこと、畑のこと、天候のこと、内容はどこにでもありふれたことばかりだ。

 山の民と名乗る彼らが、王族に、この国に、ケンカを売るようにはとても思えない長閑さ。

 ティナはひどく不思議に思った。


 「私に対する手段の強引さに比べて、この人達はとっても無害に見えるわ。なんでかしら」


 たまに聞こえてくる低い歌声は誰のものか。

 旋律には、どこかで聞いたことがあるような懐かしさがあった。

 目眩と頭痛は消え、うとうとと微睡む。


 どれくらいそうしていたのか。

 衝撃に瞼を上げると、山の稜線は黒々と空に溶け、瞬く星達が頭上を照らしていた。

 ぼーっと見上げていると、それを遮るように誰かがのぞき込んでくる。

 薄明かりの中に朧気に見える相貌に、懐かしい面影が重なった。

 「目を覚まされましたか?」

 つかみかけた記憶は、ロランの声にかき消される。

 「……私、寝起きは悪いのよ。近づかないでもらえる?」

 精一杯のトゲを言葉に含ませても、ロランは柔らかく笑うばかり。

 ぐったりとしたティナの身体を抱き上げ、馬車から降ろした。

 「自分で歩きたいんだけど?」

 「あなたは随分とお転婆でいらっしゃるから。

 間もなく自由を差し上げますから、今はまだ、お待ちください」

 お姫様のように横抱きにされ、姿勢の不安定さからティナは仕方なくロランの首に手を回した。

 ロランが面白そうに口の端をあげ、それがまたしゃくに障る。


 ティナが連れてこられたのは、王都からさほど離れていない小さな岩山の麓だった。

 松明に照らされた大きな岩を、数人の男達が協力して押すと、その奥に洞窟が姿を現した。

 「……ここは?」

 「内緒です」

 ティナが不機嫌に唇をとがらせると、ロランはぷっと吹き出す。

 「すぐにわかりますよ、姫君」

 「何それ。嫌み?」

 「まさか! あなたの名を呼んでも?」

 「……ティナよ。それ以外は受け付けないから」

 「ありがとうございます、ティナ」


 歩き始めてそれほど進まないうちに、数人の人間が入ればいっぱいになりそうな狭い空洞が現れる。

 等間隔に置かれた松明が、その空洞の中にも設置されていて、揺らめいて地面に描かれた複雑で巨大な魔方陣を照らしていた。

 目をこらして見てみても、何を表す魔方陣なのかさっぱりとわからない。

 所々、距離、方角を表しているのはわかるが、それだけだ。

 ここにロイドがいてくれれば、すぐに魔方陣を読み解いてくれるのだろうが。


 じっと睨み付けていると、ロランはティナを抱えたまま、その魔方陣の中央に歩を進めた。

 「何をするの?」

 「……隠れ里に行きます。我々の。…………あなたの」

 三人の男が魔方陣に力を込めていく。

 淡く輝く中央で、ロランは真っ直ぐに前を見つめていた。

 「あなたはあまりにも何も知らない。彼らによって、あなたは隔離されてきた。

 ……あなたには是非、山の民を、我々を見ていただきたいのです」


 魔方陣からあふれ出る光の粒が、周囲の景色を溶かしていく。

 無機質な反響とゴツゴツとした岩肌は、ヴェールを剥ぐように、柔らかな木々のざわめき、夜鳴き鳥の沈黙を深めるさえずり、湧きいづる清流のせせらぎへと変わっていった。

 登り始めた月に照らされ、ティナはいつの間にかつめていた息を吐いた。


 山にへばりつくように、粗末な家々が軒を連ねている。

 窓にガラスはなく、屋根には朽ちた草を敷いているようだった。

 倒れそうな小屋もある。

 背後にある建物だけが、辛うじて少し大きめで立派だ。


 目前にはぽっかりと開けた広場。

 そこここに、緊張感を持った人々。

 百名もいないように感じる。

 子どもや女性が少ないが、いないわけではない。


 彼らは黙り込んでこちら(・・・)を見ていた。


 「山の娘のご帰還です」

 ロランが戦利品のように、ティナを高く掲げると、人々の歓声が爆発した。

 踊り出す人。泣き出す人。ティナに向かって祈る人。

 ティナはその狂乱をしばし眺めていたが、誰一人、ティナと目が合わないことで気付いた。

 彼は山の娘(・・・)の帰還を喜んでいる。

 誰一人、ティナ(・・・)を求めていない。


 もし、ティナが山の娘(・・・)ではなかったら、どうするのだろうか?

 ロランの勘違いであれば?

 そうなったとき、今、目の前で歓喜している人々にとって、ティナ(・・・)の命はどれほどの軽さだろう。

 宰相の前に引きずり出されたときと同じ空気を感じ、ティナは恐怖に身をすくめた。


 ロランが、掲げていたティナを下げる。

 下賜品よろしく、近くの男にティナを渡そうとしていた。

 そんな数瞬の静けさの中、突然、異音が響いた。


 「ゲフッ」


 ロランの背後、淡く光る魔方陣から現れた男が一人、身を二つに折って蹲っている。

 瞬間、銀の光が走った。


 「娘を!」

 ロランが隣にいた男にティナを押しつけ片手を上げるのと、その銀の光がロランに迫ったのは同時だった。


 「サウロ?!」

 動きをつめた騎士は、その切っ先をロランの喉に突きつけている。

 あと一歩と言うところで、サウロは動きを止め、口を盛んに開閉する。

 何か言っているようだが、音がティナに届かない。

 「止めて!」

 ティナは慌ててロランに縋ろうとしたが、振り払われた。


 間違いない。

 エレクトラにした何か(・・)を、ロランはサウロにもしたのだ。

 だが、一瞬眉をひそめたサウロは、そのまま踏み込んだ。

 ぎょっとしたロランが後ずさり、突き刺さる先を失った切っ先は、喉に赤い線を刻みつける。

 「まさか、まだ動けるのですか?」

 サウロが顔をゆがめ、大きく口を開く。

 獣のように叫んでいるのか。

 しかし、音はない。

 表情や動きとはかけ離れた静かさで、サウロの剣がロランを追い詰めていく。


 「おい、やべぇぞ。誰か、加勢だ! ロランを助けろ! 侵入者を殺せ!」


 女や子ども、老人を下がらせ、男達が前に出る。

 圧倒的に多勢に無勢だが、サウロに迷いはない。

 氷の矢、緑の蔦、炎の弾。

 多彩なそれらをことごとく避け、ただ一人、ロランに肉薄する。


 「……こうなれば!」

 ロランが両手をかざしたところで、背後の茂みが動いた。

 「なっ!」

 「ひぃっ!」

 四、五歳程度の子どもが、頭を抱えて座り込む。

 ロランは悔しげに眉をひそめ、サウロを睨み付けたまま、子どもをかばうように抱きかかえた。


 「サウロ! 止まって!」

 振り上げられた剣は、髪一本ほどの距離で、ロランの額の上に止まった。

 だが、その制止は限界ギリギリのようで、サウロの太い首にはいくつも血管が浮かび上がっていた。


 「ロラン、サウロの術を解いて」

 「しかし……」

 迷うそぶりを見せるロランを促すように、ティナはサウロの胸を押し、二人の間に出来た隙間に身を滑らせた。

 「次は、私でも止められないよ」

 「……娘が、…………仰るなら」

 ロランが空中に魔方陣を描く。パァンッ、と破裂音が響いた。

 「かはっ」

 サウロが勢いよくむせ、引きつるように呼吸を繰り返す。

 「……なるほど、貴様、空気を操るのか……」

 咳が治まったところで、サウロはあふれ出た唾を袖で拭う。

 ロランはその様を、心底嫌そうに、顔をゆがめて見ていた。

 「あなたには効かなかったようですが?」

 サウロはにやりと笑っただけで、その問いを無視した。

 剣を持たぬ方の腕で、ティナを後ろから抱き込む。

 「さぁ、帰りましょう」

 耳元で吐息とともに吹き込まれた美声に、背筋がぞわっとしたが、何とかそれを押さえ込み、ティナは首を振った。

 「帰らないよ」

 「何故です? ルシオ様からの援軍もそのうち参ります。

 それまで、私一人でも十分にあなたを守ることが出来る」

 サウロが威嚇するように、ロングソードを片腕で振る。

 ロラン達、山の男の殺気が膨れ上がった。

 背後に身を寄せ合っていた女や子ども達は、これから起こるだろう修羅場を避け、背後に下がっていく。


 「援軍は来ないよ」

 ティナには確信があった。

 「殿下?」

 訝しむサウロの手を取り、剣を封じる。

 「援軍は来ない。サウロ、私はティナ(・・・)だから」

 サウロは暗い青い瞳を大きく見開いた。


 ティナはティナとして浚われた(こうなった)

 ここにいるのは、レスリーではない。


 「いや、しかし……」

 「ルシオに会った?」

 「いえ……急いでおりましたので、報告は姉に……」


 戸惑いを見せるサウロと、それを見守るロランを、ティナは順番に見回す。

 周囲の人間達も、固唾を呑んで見守っているようだ。


 ティナはできるだけ、威厳を示せるように、背筋を伸ばした。

 脳裏にルシオの姿を思い描く。

 偉そうに、冷徹に、見下すように。


 ティナの雰囲気が変わったことに、サウロはすぐに気付いた。

 片膝をついて、主の傍らに侍る。


 肩に掛かる程度の亜麻色の髪に、焦げ茶色の瞳。

 幼さを残した面立ちを見ても、どこにでもいる平凡な少女にしか見えない。

 なのに、周囲を睥睨するティナを、誰も無視できない。

 先ほどまで殺意をまき散らしていたロランまで、じりっと後ずさっていた。


 「聞きなさい。

 私は、あなたたちが私を害すことがないことを知っている。

 でも、それがどのような理由か、私は知らない。

 だから、私はその理由を知るために、ここに留まろうと思う」


 はっきりと言い切られた内容に、サウロの肩がはねたが、ティナは騎士の肩を片手でつかみ、軽く押さえつけた。

 サウロの動きが止まる。


 息をつめていた人々が、安堵故か、一斉に息を吐いた。

 空気が緩むのを感じる。


 「ロラン。そういうことだから、速やかにこの腕輪を外し、私とサウロに部屋を用意してちょうだい。

 隣り合った部屋か、同じ部屋でいいから。

 ……サウロを傷つければ、貴方たちは私を永遠に失うと知りなさい」


 男達、とりわけロランは再び緊張したようだが、ティナは無視して歩き出した。

 サウロもともに歩き始める。

 目配せをし合った後、ロランがため息とともに頷いた。

 男達が一斉に動き出し、一人がティナを先導する。


 標高のためか、空気は固く澄んでいる。

 粗末ながらも、ベッドと暖炉がある部屋に通され、ティナはようやく肩の力を抜いた。

 足がもつれ、身体が傾ぐと、それを力強い腕が支える。

 「サウロ……来てくれてありがとう」

 腕に縋るように体重を預ける。

 サウロは軽く笑った。

 「ルシオ殿とて、可能であれば、何を置いてもいらっしゃったでしょう」

 「……可能であれば、ね」

 苦い思いを込めて、先ほどまで封印の腕輪をはめていた手首をさすっていると、サウロは彼女をベッドの上に下ろし、ブーツを脱がし出した。

 恥ずかしさのあまり足を引っ込めようとする足首を掴み、ティナを間近から見上げる。

 強い意志を感じさせる深く暗い青い瞳。

 男らしい眉をしかめ、不満を表明する様はどこか幼い。

 ティナは足を取り戻すことを諦め、ぷはっと笑い声を弾けさせた。

 「笑い事ではありません」

 「でも、おかしいでしょ」

 「……あなたが自分を惜しまないから、私やルシオ殿がそうするしかないのです」


 昨夜のことまでも含め、暗に責められ、ティナはたじろいだ。

 そこを、サウロが見逃すはずもない。


 「何故、ここに滞在を?」

 ティナの口ぶりからして、この地に根を下ろし、彼らのために生きることを選んだとは到底思えない。

 そんな疑問を込めて見上げると、ティナは周囲を見回した。


 見える範囲には誰もいない。

 しかし、ここには魔法を使う大勢いる。

 誰かに聞かれているかも知れない。

 そう考えて、ティナは思い直した。

 誰が聞いていても、何が変わるわけでもない。

 それに……。


 「もし、聞いているとしたら、ロランだしね」


 「殿下?」

 口の中で消えていく言葉に、サウロが首を傾げる。


 「サウロは、山の民って知ってた?」

 「……そうですね。あまり得意ではありませんが、歴史で少し学びました。

 この地の先住民族で、まつろわぬ民。

 彼らは我らの王政を拒否し、山にこもっていると聞きます」

 「私はもっと知らない……」


 孤児院では、「山には悪魔に魅入られた蛮族が棲んでいて、悪いことをした子どもを浚って食べる」と言い聞かせられていた。

 離宮で学んだのは、建国神話。

 大陸の中央から逃れてきた人たちを助けてくれたのが、山の民だと聞いた。

 しかし、彼らは王による支配をよしとせず、聖女亡き後、英雄と袂を分かち山にこもってしまった、と。


 「彼らは何故、私を浚ったのかな?」

 「……力があるから、では?」

 「私が誰かも知らないで、力があったから、というだけだったら、そうかもしれない。

 でも、ロランは私を山の娘、と呼んだの」

 「山の娘?」

 「そう。それに……私がレスリーであることも、彼らは知っていた」

 「は? あ……いや、まさか……」

 思わずといったふうに声を漏らした後、サウロはそれでも戸惑いを隠せないようだ。

 ティナは薄く笑って、薄く開けられた鎧戸を見た。

 ゆっくりと身体を起こし、落ち着きをなくしたサウロをじっと見つめる。

 見つめているうちに、騎士は心を静めることが出来たようだった。

 「サウロがいれば、私は安全でしょ?」

 「勿論です」

 腰に佩いた大剣を、サウロは自信満々にチャリ、と鳴らす。

 こんな場合でも自身の強さに一切の疑いを持たない騎士に、頼もしいと思えばいいのか、呆れればいいのか。

 自身が誘導した状況にもかかわらず、ティナは苦笑を漏らす。

 「じゃぁ、もう少し付き合って。

 私、ここの人たちのことがもっと知りたい。ロランが何をしようとしているのか、知ってから……」

 戻りたい、と言う言葉は飲み込んだ。

 ルシオと派手にやり合っておいて、望んでいいのか、迷ったからだ。

 「そうですね。土産を持って戻らねば、ルシオ殿にどやされそうだ」

 目を細めたサウロに、ティナは居心地の悪さを感じる。

 時折、この年上の男が見せる、「わかっている」と言いたげな眼差しが辛い。


 「わかってるなら、今日はさっさと寝よう。

 明日はいっぱい働いてもらうから」

 薄い毛布を頭からかぶると、抑えた低い笑い声が響く。

 本当に、年上ぶるのを止めて欲しい。

 そう思うことこそが、年少者の証であることに気付くこともなく、ティナは布団にこもったまま、意識を失うように眠りについた。


 目が覚めると、ベッド脇の椅子にサウロが身を預け、目を閉じていた。

 そういえば、彼のベッドの用意をお願いしていなかった。

 疲れていたとは言え、申し訳なかった。

 詫びを込めて騎士を見つめていると、パチッと瞼が開き、深く青い目と目が合った。

 「おはようございます、殿下」

 甘く微笑まれ、朝から頭に血が上りそうになる。

 「いや、殿下とかないでしょ。今、私、殿下じゃないし」

 「では、名を呼ぶ許しがいただけるのですか?」

 貴婦人のごとく扱ってくるサウロに、ティナは慌てた。

 ベッドを飛び出て、サウロから距離をとる。

 「昨日、呼んでくれたじゃない。エレクトラから聞いたんでしょう?」

 外へのドアを開けようとした手が、サウロにより包まれる。

 驚いて振り返ると、サウロは驚くほど近くにいて、覆い被さるように見おろしてくる。

 「しかし、あなたから直接許しをいただきたい」

 ルシオとは全く違う、腰に響くような低い声。

 「いや……あの……。ティ、ティナっていうの。

 前にも言ったと思うけど、特にこの姿の時は、私は殿下じゃないから。

 敬語とか、いらない……の」

 思わず言葉に詰まったのは、サウロの幸せが滲むような笑みを見たからだ。

 見てはいけないものを見せられている気がして、ティナは視線を外した。

 なのに、サウロは逃がしてくれない。

 硬い手のひらが、ティナの頬をなぞり、指先が目元に触れた。

 「そういえば……そうだったか……。

 俺とあなたは対等だったのだったか、ティナ……。

 ……まだ、疲れが残っている顔をしている。

 身体は大丈夫か?」

 「へぁ?」

 ティナが間抜けな声を上げている間に、いたずらな騎士の手が、ティナの顔を仰向かせる。

 蜜を垂れ流しているようないい男の顔は目に毒だ。

 理由もわからないまま、ティナは切羽詰まった焦燥感に煽られ、ぎゅっと目を閉じた。

 その瞬間、サウロの手が強張ったように感じた。

 唾を飲み込んだような気配。

 なのに、何も喋らないサウロ。

 目を開けるタイミングがわからなくなって、ティナは動揺したまま、自分のスカートをぎゅっと掴んだ。


 「朝食を用意しました、ティナ。

 すでに起きていらっしゃって助かりました」

 どこか芝居がかったロランの声が割り込み、ティナはつめていた息を吐き出した。

 いつの間にかドアが開いて、逆光の中、ロランが立っている。

 「反乱軍の首領自らメッセンジャーとは、随分と暇なのだな」

 「あなたほどの騎士がいるのなら、こちらも相応の者で対応するべきでしょう?」

 とげとげとした男二人の言葉の応酬をよそに、ティナはさっさと外に出た。


 二階建て以上の建物は、この集落にはないようだ。

 ティナ達が泊まったのも、一間しかないような土壁の小さな家だ。

 鬱蒼とした木々に囲まれ、点在する家々の間にも木があるものだから、遠くから見るとここに集落があることすらわからないだろう。


 小さい子どもが目の前を駆けていき、ティナを見つけると、目を輝かせて寄ってきた。

 「山の娘だ! ねぇ、僕たち、いつ、もっと広いところに行けるの?

 ()様とお話ししたんでしょう?

 いつ、街に行けるようになるの?」

 「え? は? 何の……」

 「山の娘は昨日ここに到着したばかりでしょう? 村の中を君たちが案内してくれますか?」

 戸惑うティナをよそに、ロランが子ども達を誘導する。

 その子ども達に手を引かれ、ティナは小さな村の中を引きずり回された。


 小さな広場。()の礼拝堂。

 畑。果樹園。川。

 一行を遠巻きに眺める大人達に、壮年の男達の姿は少ない。

 女性と子ども、老年の男性が、あちこちで働いていた。


 狭い世界。

 疲れるほどもなく、すべてを見終わり、礼拝堂に戻ってくる。


 昨夜、ティナが王都近くの岩山から転移させられてきたのが、この礼拝堂の中だったようだ。

 ロランは子ども達を返し、ティナとサウロを礼拝堂に招いた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ティナとロランの距離が少し縮まったようですが、状況が予断を許さないのは変わりませんね。 山の民の本意がどこにあるのか? それより、ルシオはまた不安とストレスが溜まりそう……。
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