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王子殿下は従者様  作者: 東風
第六章 古の民
31/33

□第31話□ 幕間

大変お待たせいたしました。

まだまだ続きます。頑張ります。

 馬を単騎で走らせ目的の屋敷に着くと、驚く馬丁に手綱を預ける。

 「お帰りなさいませ、サウロ様」

 深く腰を折る執事に一瞥もくれず、サウロはまっすぐに父の執務室に向かった。

 無礼であろうが何だろうが、急ぎ用事を済ませ、自分の主の元へ戻りたかった。


 重い両開きの扉を前に、何の躊躇もなくノックすると、奥から若い声が入るように促す。

 サウロは渋面を作って、乱暴に扉を押し開けた。

 「親父殿、二人でお話しいただきたい、と文をお送りしたはずですが?」

 サウロが声を険しくすると、初老の男はサウロによく似た顔を不機嫌そうにゆがめ、サウロよりもやや年上の男が肩を怒らせた。

 「王都において、辺境伯名代はこの俺だ。話があるのなら、まず、俺に話すべきだろう」

 部屋にいたのは、父ジョン・オーウェル辺境伯と、サウロの一番上の兄キーラス・オーウェルの二人であった。


 ジョンは、白が混ざった銀髪を丁寧になでつけ上品な装いではあるが、地位だけで辺境を支配しているわけではないと知れる、鋭い青い瞳が特徴的な、厳めしい顔つきの男だった。

 一方、そんな父の横に立つキーラスは、細身の優男と言う言葉がぴったりの、柔らかい金髪に優しい面立ちの男だ。

 しかし、弟であるサウロを睨み付ける青い目は、明らかな非難を宿している。


 「それとも、兄には話せない内容なのか?

 王太子の私兵となった言い訳を、俺も聞きたかったのだがな?」

 「……言い訳? 俺が何の言い訳をしなければならないんだ?

 キーラス、俺は急いでいるんだ。

 こんな言葉遊びに時間を費やしている暇はない」

 あんたみたいに、という言葉は辛うじて飲み込んだものの、サウロの眼差しはそれを雄弁に語っていた。

 勿論、付き合いの長い兄はその空気を敏感に感じ取り、優しげなまなじりをキッとつり上げる。


 一触即発の場を納めたのは、父ジョンだった。


 もっとも、初老の辺境伯は何か言葉を発したのではない。

 足を組み直しただけだ。

 それでも息子二人はにじみ出る苛立ちを感じ取り、二人で視線を合わせて黙り込んだ。

 その仕草だけを見ると、容姿がどれほどかけ離れていても、確かに兄弟であることを感じさせた。


 「キーラス、私はまだ全権をおまえに譲ったつもりはない。私よりも先に発言することの意味を考えろ」

 「あっ……は、はい」

 キーラスは直立で深く頭を垂れた。


 次に来るのは自分だ。

 サウロは兄と同じ直立に居住まいを正し、父の言葉を待った。

 しかし、ジョンは何も言わず、深く椅子に座ったまま、サウロを睨みつける。

 サウロは急に喉の渇きを感じ、つばを飲み込んだ。


 そのまま数瞬。

 こらえきれなかったのは、当然サウロだ。

 「親父殿の許しもなく、近衛隊を辞したこと、大変申し訳なく思っております。

 しかし、王太子の私兵となったことは、私に必要なことでした。

 例え、親父殿の許可がなくても……」

 いつになく長々と言い訳じみた言い方をしたのは、心のどこかにやましい思いがあったからか。

 黙って父の言葉を待つものの、ジョンはまだ何も言おうとしない。

 見かねたのか、キーラスが再び口を開いた。

 「近衛隊に入ることまでは、辺境の益になると黙っていたが、な。

 王太子の私兵などと。

 そこまで宰相に飼い慣らされたか?」

 軽蔑を込めた眼差しが、弟に降り注ぐ。サウロは両手をぎゅっと握りしめた。

 「いつ俺が、宰相の傀儡になったって?

 話をかき混ぜることしかできないなら、キーラスは黙っていろよ。

 俺は、宰相じゃない、王太子の私兵になったんだ!」

 兄はいつだって、サウロの判断を誤っていると決めつける。それは幼い頃からのことで、だからこそ、サウロは辺境を飛び出たのだ。

 なのに、未だにキーラスは、べそをかいていた頃のサウロのままに扱ってくる。

 「その王太子は宰相の傀儡くぐつじゃないか!」

 サウロは思わずキーラスの胸をつかんだ。

 「違う! レスリー様は傀儡などではない!」

 上げた拳を、驚きに固まるキーラスに振り下ろす。


 ガン!

 という音ともに、拳は堅い剣に阻まれた。


 腰を抜かしたキーラスと、そのキーラスに覆い被さるサウロの間に、辺境伯しか持つことを許されない大剣が差し込まれていた。

 「父上……」

 「親父殿!」

 安堵と、驚愕の声が、同時に父を呼ぶ。

 「愚か者」

 静かな声と剣の平がサウロを強かに打ちのめし、床に転がした。

 「少しは男になったかと思ったが。

 サウロ、失望させるな」

 「申し訳……ありません、親父殿」

 苦しい息の下から謝ると、押さえつけていた剣がなくなった。

 サウロは大きく息を整えて、もう一度直立した。

 ジョンは立ち上がった気配さえなく、元の椅子に深々と座っていた。

 ただ、先ほどまではなかった大剣が、その膝には置かれている。

 幼い頃から、その大剣は父の象徴であり、畏怖の対象であった。

 大軍を指揮する父の背に下がるそれを見る度に、父の偉大さに打ちのめされたものだ。

 しかし、ここで怖じ気づくわけにはいかない。サウロの恥は、王太子の恥となるのだから。


 サウロは姿勢を正し、ジョンを揺るがぬ視線で見下ろした。

 「いずれ王宮内が大きく動きます。

 その時、王太子殿下は、宰相閣下とたもとを分かたれるでしょう」

 「はぁ? あんな成人間もない王太子が?」

 キーラスが驚きに声を上げるが、父・ジョンはまるでサウロを試すように、サウロから僅かばかりも視線を動かそうとしない。

 サウロも、ここが正念場と、その視線をしっかり受け止め続けた。

 燃えるようなレスリー(ティナ)の目を思い浮かべる。年若い主は、決して目をそらさない。そして、今ここにいる自分は、王太子の名を背負っているのだ。

 「名代、お言葉を慎まれよ。

 殿下はその力を昨日示された。並ぶものなき存在だ」

 兄には視線を向けずに、きっぱりとその言を切り捨てる。

 キーラスは反論しようとしたが、父に鋭く睨まれ、唾と一緒に言葉を飲み込んだ。

 緊張感をはらんだ空気に気づき、キーラスはそっと後ずさる。


 「本日は辺境伯にお願いがあって参りました」

 サウロは自分の剣を鞘ごと父の目の前に置き、片膝をついた。

 「来たるべき日に、何卒、王太子へのご助力をお願いいたします」

 懐から書状を出し、辺境伯ジョン・オーウェンへと捧げ持つ。

 絶句するキーラスを尻目に、ジョンは書状を無造作に開くと、厳しい顔のまま視線を書面に走らせた。


 書状はあらかじめルシオが用意したものであった。

 昨夜、気を失ったティナを連れて一度別宅に身を寄せる、とルシオに提案した際、渡されたものだ。いつから用意されていたものかはわからない。

 ただ、サウロが王太子の懐に入った時点で考えていたのだろう。

 ルシオの先回りには舌を巻く。

 だからこそ、父である辺境伯を、サウロ自身の手で王太子の後見人としたかった。


 「……以前、リヒトという男が、双子王子の執事を務めている、と文をよこしたな……随分と手練れであったとか…………」

 目を通し終わったジョンは、それを丁寧にたたみキーラスに渡すと、そんなことを言い出す。

 虚を突かれたサウロは言葉に詰まったが、確かにそのような手紙を送ったことがあったので、無言のまま頷いた。


 リヒトには、サウロが気配を知ることもなく、後ろをとられた。辺境伯である父でさえも、サウロにそのようなことはできない。

 さぞ名のある武人なのだろうと思っていたのだが。

 ジョンは、そうか、と言ったきり、口をつぐんでしまう。

 先を促して良いのか、書状に話を戻すべきか、悩んだ末にサウロは沈黙を続けた。


 ジョンは何を思い出したのか、険しい表情のまま目を閉じ、椅子の背に体を預けた。

 その横に立つキーラスは不思議そうに父を眺めていたが、リヒトの名前を口の中で数回転がし、はっと目を見開いた。

 「湖の一族! 湖の一族のリヒトか?

 彼がまだ生きていたのか?」

 「キーラス、リヒトを知っているのか?」

 思わず兄に向き直ると、キーラスはなんでそんなこともわからないのか、という侮蔑の表情を浮かべた後、もう一度表情を変えた。

 「そうか、おまえはあの頃生まれて間もない。知らずとも仕方ないのか」

 「私が生まれた頃?」

 「あぁ、そうだ。湖の一族は流浪の傭兵軍団だ。その軍団長がリヒトと名乗る男だった。

 父上と剣を打ち合っているのを何度も見たことがある。

 そうですよね、父上?」

 キーラスはサウロを出し抜いたことが喜ばしいのか、やたら饒舌に機嫌良く語り出した。

 「俺は練習とは言え父上が倒されるのを初めて見て、びっくりしたよ。

 懐かしいな。

 ……黒の姫君はご存命なのだろうか?

 セリス殿と幸せに暮らしていらっしゃると良いのだが」

 懐古に目を細める兄に、サウロはたまらず声をかける。

 「黒の姫君? 一体、誰だ?」

 「湖の一族は元々流浪の民でな、……国を失った一族だったんだ。

 だが、総領娘である黒の姫君が、傭兵団をその細腕でまとめていらっしゃった。

 幼いながらも美しく可憐な方だった。

 軍団長として先頭の指揮を執っていたのはリヒト殿であったが、彼らの精神的な支柱が黒の姫君だ。

 ……あのようなことがなければ、ずっと我が領地に居ていただきたかったのだが」

 苦い表情を浮かべたキーラスが喋るのを、ジョンは止めようとしない。

 眉をしかめ、辺境伯の証たる大剣を、親の敵のように睨み付けている。

 「よもや、我が国内にいたとは。

 父上が逃がされた後、舞い戻ったのでしょうか?」

 キーラスが無邪気に問いかけると、ジョンは重々しく吐息した。

 そこで初めて、長兄は、父の刺々しい雰囲気を感じ取ったようだ。

 狼狽えたように、体を揺らしだす。

 「あぁ、いや、勿論、戦場でまみえれば、湖の一族のリヒトとは言え、父上にかなうはずもないでしょう」

 悪い男ではないのだが、思い込みが強い上に察しが悪い。

 ポイントはそこではないだろう、という部分で兄は言い訳を続ける。

 サウロはため息をつきつつ、助け舟を出すことにした。

 「黒の姫君が、レスリー王子とルシオ王子のお母君なのですね?

 親父殿はそれをご存知でいらっしゃった?」

 父の鋭い視線が、自分に据えられたことを感じる。

 サウロは固唾をのんで、父の出方を見守った。

 「何? そう……なのか? いや、そうか。姫君も、美しい黒髪でいらっしゃった。

 我が国内にいらっしゃったのであれば……そうか」

 父と弟のにらみ合いにも気付かず、合点がいったと言いたげに、キーラスが深く頷く。

 「それにしても、何故、黒の姫君が側妃に? 私はあのまま、国を出られたものとばかり」

 「あのまま、とは?」

 話が見えず、サウロはイライラと兄を睨み付ける。

 キーラスはその視線には気付かず、首をひねり続けていた。

 「黒の姫君は先ほども言ったとおり、滅びた国の忘れ形見だ。

 そして、()の国を滅ぼした大国から追われ続けていた……。

 ガイゼングルクから」

 「ガイゼングルク? ガイゼングルクと言ったか?」

 サウロは驚いて、兄と父を交互に見やった。


 ガイゼングルク。

 それは恐怖とともに語られる、周辺国の中でも最大国であり、この国を滅びの直前まで追い込んだ国だ。伝説にある勇者の降臨で、辛うじてその猛攻を防ぐことが出来たのだ。


 「おまえが生まれた頃、辺境はガイゼングルク軍と対峙したことがあるんだ。

 奴らの大義名分は、ガイゼングルクでクーデターを企てた傭兵団を引き渡すこと」

 キーラスが苦々しい表情で黙り込むと、ジョンがようやく重い口を開いた。

 「……湖の国は一夜にして陥落した。押し寄せる軍勢は雲霞のごとく、ガイゼングルク軍は湖の民であれば女子どもでも容赦しなかったと言う。

 滅びる理由はたった一つ。湖の国は、秘めたる力を持つ姫を、ガイゼングルクに差し出さなかった。

 戦争は苛烈を極め、混乱の最中(さなか)、心ある家臣により、幼い姫は逃がされた。

 国を失った彼らは、流浪の果てに、ガイゼングルクを滅ぼすことを誓っている、と言われていた」

 「それが、湖の一族と呼ばれた傭兵団だった、と?

 では、生き延びた王族の姫が……?」


 辺境を守る軍事拠点であれば、傭兵団が集まってくるのは日常茶飯事だ。

 その中に、自国を滅ぼされた流浪の民がいても不思議ではない。

 だが……。

 ルシオの母親と、自分の家族の意外な接点に、サウロはどう考えればよいかわからなくなっていた。

 

 国を滅ぼされた一族が、その忘れ形見である姫を連れ、傭兵団になった。

 国を滅ぼした大国(ガイゼングルク)への復習を誓い流浪。

 辺境に来たものの、そのガイゼングルクに差し出すように要求され、再び流浪に戻る。

 しかし、その後、黒の姫君と呼ばれる少女は我が国の中枢に身を寄せ、国王の寵愛を受けた。


 サウロの知る限り、側妃ルイーサは、宰相の遠縁の娘で異国出身と言われていた。

 双子王子が、魔力なしと判断され、助命嘆願の末に離宮に追いやられた時も、当のルイーサ妃を除き、抗議の声はどこからも上がらなかった。

 そう、宰相家からさえも。

 そういうものなのだと今まで思い込んでいたが、真実、自身の血縁であれば、宰相が黙っているはずがない。

 身寄りのない傭兵団の総領姫が、国の中枢である宰相家に簡単に縁付くことができるとも思えない。

 だとすれば、そこに絡んでくるのが、辺境伯ジョン・オーウェルその人なのだろう。


 辺境伯と宰相、そして王家。

 一体、どのような密約があってこのようになっているのか。


 サウロの探るような眼差しの前で、ジョンは頑なに大剣から視線を上げようとしない。

 父への疑念を言葉にしようとしたところで、ノックの音が部屋に響いた。

 キーラスが返事をすると、困惑顔の家令の後ろに、主を預けていたはずの姉の姿があり、サウロは思わずキーラスと家令を跳ね飛ばした。

 「姉上! 何故、ここに? でん……あの方は?」

 「大変なの、サウロ! ティナが大変なの! 助けて!」


 ティナ?

 一瞬、謎に感じた名称は、すぐにストンと胸に落ちた。

 あの方(・・・)はティナというのか。


 だが、理由不明の感動は、姉の拳が胸に打ち込まれたことで霧散する。

 「サウロ! ティナがさらわれたのよ!」

 「っ!」

 衝撃は、姉の拳か、叫ばれた内容か。

 「サウロ? ティナというのは?」

 キーラスが後ろから肩を掴んでくるのを乱暴に振り払い、サウロは姉を横抱きにして走り出した。

 「サウロ?!」

 「親父殿、御前を失礼する!」


 胸に抱き込んだエレクトラは、厳しい顔のまま、サウロにしがみついている。

 いつも母親のように接する姉の珍しく殊勝な様子も、事態の深刻さを物語っているようだった。

 「何故、さらわれたんだ? 強襲が?」

 軍閥トップの辺境伯邸に賊が押し入るなど考えもしなかったが、一応聞いてみると、エレクトラは気まずい顔をした。

 「貧民街なの」

 「は?」

 姉が乗ってきたと思われる馬車に姉を押し込んだところで、サウロは動きを止めた。

 「貧民……は?」

 「ごめんなさい、サウロ。私、あの子を外に連れ出してしまったのよ」

 「何故、そのようなことを!」

 怒鳴った瞬間、落ち込む姉を見て、そうじゃない、と自分を止める。

 そもそも、あの少女が何者なのか、姉には何も伝えていない。

 伝えることも出来ない。

 ボロボロになった少女を姉に任せ、自分はこうして外出しまっている。


 「何故、貧民街に?」

 「最初は街を見て回って、すぐに戻るつもりだったの」

 エレクトラは、スカートがしわになるほど両手で握りしめつつ、状況を説明してくれた。

 それを聞いても、サウロには今ひとつ納得がいかない。

 あの方(ティナ)の正体を知っているものが、王宮の外にいるなど聞いていない。

 知っている宰相一派が、誘拐する意味もない。

 それに……。

 「山の一族?」

 「えぇ、そう。彼らはそう名乗っていたわ」


 全く意味がわからない。

 似たような言葉を、さっき聞いたばかりだ。

 ルシオは湖の一族の生き残り。

 そして、(ティナ)は山の一族の重要人物。

 剣で人生を切り開いてきたサウロは、何が何だかわからなかった。

 唯一理解出来るのが、(ティナ)の危機である、その一点だ。


 「姉上、あなたはこれを持って、このまま王城へ向かってください。そして、王太子殿下の兄君ルシオ様へ、起こったことすべてをお伝えください」

 紋章が入った自らのマントをちぎって渡すと、言われた内容にエレクトラが躊躇する。

 「王城に私一人で? サウロ、あなたはどうするの?」

 「俺は……」

 この屋敷まで乗ってきた自らの馬を引き出させ、ひらりとまたがる。

 「勿論、あの方をお救いいたします」

 エレクトラは、戸惑い弟を見上げたが、一度(かぶり)を振ると、泥とかぎ裂きだらけのドレスのポケットから、ペンダントを取り出した。

 「これ、迷子ワッペンの片割れなの。

 市場ではぐれた時用に買っておいたのよ。使い方はわかるでしょう?」

 「では、あの方がもう片方を持っていると?

 姉上、あなたは天才だ!」

 サウロはうけとったペンダントを胸ポケットにしまい込み、エレクトラの頬に軽くキスをした。

 エレクトラはようやくうっすらと微笑み、緊張を僅かに解いたようだった。

 「えぇ、だからお願い、ティナを助けて。

 あの子、私の命と引き換えに、連れて行かれてしまったの」

 懇願する姉の手は震えていて、サウロは申し訳なさでいっぱいになった。

 「大丈夫です、姉上。

 あの方(・・・)にこれ以上、傷一つ負わせはしません」

 サウロのギラリと光った目に、エレクトラが僅かにのけぞった。

 いつも自分を慕い笑顔を絶やさない弟の、殺意を漲らせた視線を受け止めたのは初めてだったのだ。


 別れの挨拶一つなく、サウロは馬を飛ばして去って行く。

 後ろでキーラスの怒鳴り声が聞こえたが、エレクトラもその声を無視した。

 御者に王城へ急ぐよう命じる。

 「ティナを、あの方(・・・)だなんて。

 ティナ、あなたは何者なの? あんな普通の女の子なのに。お願い、無事でいてちょうだい」

 まさか、自分までが国家規模の事件に巻き込まれることなどつゆ知らず、ただただ、エレクトラはティナを心配していた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱり、迷子ワッペンは大事ですね。 その昔、「パパとおでかけ」した息子が迷子になったとき、良人は館内放送で呼び出されましたとさ。 [一言] 過去の因縁が、ティナとルシオにも降りかかってき…
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