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王子殿下は従者様  作者: 東風
第五章 お披露目
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□第二八話□ こぼれ落ちたもの

 階段を駆けるように上がり、王太子に用意された部屋に乱暴に突き入れられる。

 廊下で苛々としながら待っていたサウロが、ルシオのあまりに乱暴な様子に目をむいた。

 「殿下! 大丈……こ、これは……一体、何が?」

 サウロは目を丸くして、表情を落とした人形のようにティナを見下ろした。限界まで見開かれた目が怖い。

 ティナはまだ被っていた公爵のマントの合わせ目を慌てて抑えた。

 リヒトは血の気を失い呆然としているし、不機嫌にしていたロイドまですっ飛んできてティナの頬をまじまじと眺めた。

 「あんた、一人で、どこで何してんだよ……」

 呆れたような少年の声に、一層、居たたまれなくなる。

 だが、ティナが一番気にしていたのは、勿論ルシオだった。

 「あの、ルシオ、本当に……」

 追い縋るように伸ばした左手が、あっさりと払われる。

 「リヒト!」

 ルシオの声が鞭のようにぴしりとその場を打つ。

 リヒトは片膝をついて、沈痛な面もちのまま、目を閉じてルシオの前に顔を差し出した。


 「やめて!」


 ティナが割って入ろうとする前に、ルシオの拳が老執事の頬に打ち込まれた。

 リヒトはぐらりと揺れて、片手で体を支えた。

 「なんで……なんで? 悪いのは私じゃない! なんでリヒトが殴られるのよ!」

 リヒトは何も言わず俯いている。サウロがティナを止めようとしたが、それよりも早くルシオが怒鳴った。

 「まだわからないのか! 君がレスリーだからだ!」

 ティナは、胸に針で刺されたような痛みを感じ、ルシオを見返した。

 ルシオの青い瞳は、確かな怒りを秘めて、ティナに向けられていた。

 「今まで黙ってきたが、限界だ!

 陛下への謁見の時、サウロを仲間にする時、そして今回!

 僕は死に急ぐ奴のフォローなんかできない!」

 肩を怒らせ、ぎりりと歯ぎしりし、自分を睨みつけるルシオ。

 ティナはぎゅっとマントを握りしめ、唇をかみしめた。

 「いいか! その足りない頭に良くたたき込んでおけ! 今後一切、僕の指示なく部屋を出ることを禁じる!

 君の一挙手一投足まで僕が管理する! 一切の自由を認めないからな!」


 怒りを秘めた黒にも見える青い瞳に一瞬ひるんだティナは、負けじと目を怒らせ、マントを勢いよく脱ぎ捨てた。


 その下から現れた惨状に、知っていたはずのルシオでさえ目をそらす。

 唇は切れ、両頬を腫れ上がらせ、首からウェストまでのワンピースは裂け、七分丈の袖からのぞく両腕にはきつく戒められた痕がある。

 何が起こっていたのかも知らない後の三人は固まったままだ。


 ティナはルシオをまっすぐに睨みつけ、怒鳴り返した。

 「心配をかけたのは悪かったと思ってる! やり方に反省もしている!

 でも、悪いことをしたとは思ってないわ! 私は何も恥じることはしていない! これは人を助けることができたという証よ!

 私は…………私は………………あなたたちに心まで縛られているわけじゃないわ!」

 室温が高くなり、周囲には火の玉が浮かび上がる。

 「君は……………………僕のものだ」

 地を這うような低い声、鋭く睨みつける闇色の瞳。

 ティナは額に汗を浮かべて、何とか心を落ち着かせようと努力したが、無理だった。

 苛立ちが、焦燥が、出口のない迷路の中にあるような不安が、口からあふれる。

 「違う! 私は私自身のものよ!」

 自らの胸を叩き、ダン!と足を踏み鳴らした。

 クラレンスの前で「僕のものだ」と言われた時は、あれほど甘やかな温かさを感じたというのに、今のルシオの言葉には反発しか感じない。

 「ずっと、ずぅ~っと黙っていたけど、勉強なんて嫌い! 剣の練習だって好きじゃない! 魔方陣なんて見るのもイヤだわ!

 生クリームたっぷりつけてケーキを食べたい!

 お茶には砂糖とミルクを三杯は入れたい!

 お肉はもう少し量を減らして欲しいし、野菜スープの根菜は形がわからないくらいどろどろにしてくれなきゃ食べたくない!

 男の子の服は着やすいけど、可愛い女の子の服を見たらいいな、って思う!

 髪を伸ばしたい!

 ……こんなところにいたくない…………」

 限界の限りに声を張り上げ、怒鳴っていたはずの声は、最後まで調子を保つことなく、それと一緒にティナも床に腰を落とした。

 周囲に浮かんでいた炎は、いつの間にか消えていた。


 「……こんなところに、いたくない………………」


 ティナが力なく呟いた言葉に、ルシオは鋭く息を吸う。

 口を開きかけて、閉じる。

 「だったら………………」

 言いかけて、しかし、何を続ければいいのかわからなくなる。

 周囲を見回すと、サウロと視線があった。

 騎士はティナの傍らに膝をつき、少女のか細い背を優しく撫で、視線は明確な非難を込めてルシオを睨みつけてくる。

 我知らずと胸の前で片手をぎゅっと握りしめた。

 「…………だったら、出て行けばいい」

 絞り出した声は無様なほどかすれ、抑揚を失っている。

 ティナがキッと顔を上げた。

 何よりも雄弁に、その茶色の瞳が抗議してくる。

 縁を赤らめ、透明な雫をたたえ。

 ティナをここ(・・)に繋ぎ止めるものに。



 ルシオがくるりと踵を返し、部屋から出て行ってしまう。

 その背を睨みつけていたものの、パタン、と後ろ手に閉められた扉に、ティナはルシオの拒絶を感じて、腹の底から冷えていくのを感じた。

 こぼれたミルクは戻らない。

 自分の口から落ちた言葉の数々が、今になって頭に染み込んてきた。

 「私……何を…………」

 それは確かにずっと秘めてきた本音たちだった。

 でも、ルシオにぶつけていいことではない。

 ティナだけではない。ルシオだって様々なものを失い、ティナ同様にここに縫い止められてきたのだ。

 「ご、ごめ……」

 青ざめて立ち上がろうとしても、足に力が入らない。

 身体がかしいだところで、力強い手が彼女を抱きとめ、膝裏をすくった。

 「なっ?!」

 「失礼いたします。どうかお静かに。

 ロイド殿、ルシオ殿を追ってください。継承権がないとはいえ、兄王子の利用価値は高い」

 「貸し一つ、な」

 ロイドは呆れたように肩をすくめた後、ティナにウィンクして見せる。

 「あ、あの、ごめん!

 全部話す約束なのに……」

 ロイドは可愛らしい顔に似合わない、皮肉めいた笑顔を浮かべ、変身のペンダントを目の高さに持ち上げる。

 「だいたいのことは理解した。

 ま、契約しちまったしな。俺は頭でっかち(ルシオ)を追う。

 それにしても、これ(ペンダント)、本当にえげつないな。体、しっかり休めろよ」

 無造作にペンダントを身につけ、再びレスリーになったロイドは、ティナの髪をクシャッと撫でるとドアから飛び出していった。

 王太子(レスリー)がそんなに身軽に歩きまわっていいものだろうか?

 ポカンとしているうちに、サウロも何事かをリヒトと話し合っていたらしい。

 サウロにお姫様抱っこされたままのティナに近づき、リヒトはシワ深い顔を歪め、まだ腫れたままの頬をなでた。

 傷にさわって肩を跳ね上げると、リヒトが項垂れた。

 「本当に申し訳ございません。私がいながら……」

 「違うよ! 私が勝手に抜けだしたんだよ。

 リヒトは何も悪くない」

 マントを抑えながら右手を出し、リヒトと同じように、ティナもリヒトの頬を撫でる。

 唇の端が切れ、血がにじみ、ほほ全体はどす黒く腫れ上がっている。ティナよりよほど痛そうだ。

 それはそのまま、ルシオがティナに向けた怒りだ。

 「私が殴られればよかったのに……」

 「いいえ、違います。

 私には王太子殿下を一人にした咎があります。

 それだけはしてはならなかった」

 リヒトの目に映る後悔は、レスリーの姿をしているのだろう。

 ティナを見ているようで、遠くを見る眼差しは、癒えない傷を思わせるように深く暗い。

 「……お願いです。あなたを縛ろうとは思わない。

 でも、せめて、何かをなさる時には、あなたを気遣うものがいるのだと思い出してください」

 ティナはきしむ胸を抱えながら、こっくりと頷いた。

 それしか、リヒトのために出来ることがなかったからだ。


 静かに二人を見守っていたサウロは、二人の会話が途切れたタイミングで、ティナを抱え直した。

 「わわっ!」

 バランスを崩しそうになり、思わず近場にあったものに抱きつくと、予想以上近くにサウロの整った顔があった。

 「え? あっ!」

 「おっと。危ないですよ? しっかりつかまっていてくださいね」

 吐く息さえ感じられそうな近さに、ティナは何も言えなくなり、顔に集まってくる熱をなんとかしようと、サウロの肌触りの良いマントの中に顔を埋めた。

 このまま王太子棟に行くとか、誰かに見られたら!

 そこまで考えて、自分がレスリーではないことを思い出す。ヤバイ! 余計恥ずかしい!

 ティナがもじもじと悶えている間に、頭上ではティナを蚊帳の外に会話がなされていた。

 「では、今宵はよろしくお願いいたします。

 ルシオ殿にはよしなに」

 「畏まりました。

 お二人ともお気をつけて」

 言葉の意味を図りかねてマントから顔を上げると、すべてを封殺するようにサウロが優しく微笑んだ。

 「さぁ、参りましょう。我が君」



 ペンダントの重さを胸に感じながら、息を切らせる。

 ロイドは悪態をつきなつつ、王太子棟を走り回っていた。

 ふと、自分の左手を見下ろす。刻みつけられた黒いレースのような文様は、ずっと前からそこにあったかのように、馴染んでいる。傷みはない。

 しかし、先ほどまではなかった疼きがそこにはあった。ほんの僅かなそれにロイドは眉をしかめ、疼きが強くなる方に向かってもう一度、走り出す。

 王太子の執務室にたどり着き、わずかに開いたそこから魔法光が漏れ出ているのを見つけた。

 「っざけんな!」

 汗を拭い、ロイドは迷わずドアを蹴り開けた。


 広いそこは書架と重厚なマホガニー製の机、そして繊細な飾りとふかふかのクッションで誂えられた椅子があった。

 椅子のそばには、黒い影のような男が一人立っていて、ゼーハーと肩で息をするロイドを無感動に見返してきた。

 「何故ここに来た?

 アレはどうしている?」

 その言葉だけで、ロイドは、ルシオが目の前にいるレスリーが誰であるのかわかっている、ということを知った。

 「よくわかるな? 何が違うんだ?」

 「全部」

 詳細を説明する気は端からないらしく、ルシオはロイドから目をそらしてしまう。

 黒いつややかな髪に隠れた表情はよくわからないが、機嫌が最悪なことだけはしっかり伝わってくる。

 ロイドはわき出る怒りを何とか押しとどめて、ルシオに歩み寄った。

 案の定、左手の疼きがなくなる。

 右手で左手首をきつく握りしめ、今は目前に立っている兄王子を見つめた。

 「アレは脳筋騎士に任せてきた。随分と落ち込んでいたぞ」

 ルシオは感情の薄い目で頷き、王太子専用のイスの空っぽな座面を見下ろした。

 「すまなかったな。アレから全部説明する予定だったが……」

 「あいつにも言ったけどな。大体理解した」

 周囲を素早く見回し、ロイドは壁際にあった観葉植物に魔法をかける。

 淡い小さな魔方陣が現れ、消える。

 すると、植木鉢から溢れた蔦がうねうねと壁を伝い、部屋はあっと言う間に緑に覆われた。

 「ドアの外にも蔦が結界を作っている。誰も近づいてこれないし、誰も中の様子をうかがうことは出来ない」

 珍しくルシオは賞賛を込めて、レスリー(ロイド)を見つめた。

 「随分、器用なことが出来るんだな」

 「目に見えない方法がないから、そこで何かしているってのはばればれなんだけどな。ま、室内だし。ここは王太子棟だ。大丈夫だろう。

 ……な、これ、外して良いか?

 なんか、息切れる……」

 「…………あぁ、いいだろう」

 周囲は蔦一色。静けさに支配された執務室で、ロイドはようやく重いペンダントを外した。

 差し出されたペンダントを受け取り、ルシオは机の上に静かに置いた。

 「本当に……化け物だな、あいつ。こんなモノ付けて、俺と戦ってたってのかよ」

 「ロイド……二度とその言葉をアレに向けるな。二度目はないぞ」

 それまでとは違う、ぞっとするような低い声に、ロイドは慌てて頷いた。

 「あ、あぁ、悪い。もう言わない。ただ、これだけは聞かせてくれ。

 あいつは、あの能力のために、金で買われてきたんだな?

 そうだろう?」

 肩で大きく息をしながら、床に座り込んだロイドが問うと、ルシオはしばしの沈黙の後、こっくりと頷いた。


 昨今の貴族の魔力の減少は、貴族界において問題になっていた。

 貴族達は、貴族が備えた魔力を聖なる力、庶民に現れる魔力を悪魔の力と言い表し、庶民から正しい情報を隔離してきた。

 これは、自分たちの血の正統性を示すとともに、庶民が力を持ち、貴族達を脅かすことがないようにとの思惑からでもあった。

 庶民の中の力を持つ者は淘汰され、貴族だけに魔力保持者が集中し、一見何も問題ないように見えた。

 しかし、である。

 重なる年月に伴い、貴族達は濃すぎる血族交配の結果、子孫を残す力を徐々に失い、また、生まれたとしても体が弱く成人まで持たない者も多くなってしまった。

 そこで目をつけられたのが、淘汰されていた庶民の中の魔力持ちである。

 貴族達は有り余る財を使い、各地から「悪魔つき」と称される子供達を、地域から排除の名目で狩り集め、貴族の館で飼い殺す。

 それは畜生と同じ扱いであり、人間としての尊厳など、どこにもなかった。


 「俺も……コルボーン家の直系じゃねぇ。庶民とまでいかねぇが、末端にある傍系の出自でさ、本家には養子で入ったんだ。

 あいつの境遇は……何となくわかる」

 離宮にいると世事に疎くなると自覚していたが、ロイドの独白めいた打ち明け話に、ルシオは嘆息した。

 「知らなかった」

 「むしろ、珍しいことじゃねぇからな。誰もそんな話題は持ち出さない。

 高位の貴族であればなおさらだ」

 コルボーン家は魔術師の中でも、数多くの天才を生みだしてきた家系だったので、尚更だった。

 兄も姉も血のつながらない、しかし一族の中でも優秀と言われた者達が集められ、その中で、ラングリッジ師の目にかなうだけの力を持った者はロイドだけであったのだ。

 「なるほど、おまえの性格がひねくれた理由がよくわかった」

 「…………俺にも、てめぇの性格の悪さが今、脳髄まで染み渡ったぜ」

 ふふふふふ、と互いに含み笑いをしてにらみ合う。


 先に吹き出したのは、意外なことにルシオだった。

 「くっ、ぷはっ!」

 いつも何か奥底にある感情を押し殺し続けているような、暗い不機嫌面のルシオが笑うと、意外にも幼さが際だつ。

 ロイドがまじまじと見上げてると、ルシオは片手で口元を拭いながら、空いた方の手を床に座ったままのロイドにさしのべる。

 「そろそろ息も整っただろう? 床に座り込んでいると、身体が冷えるぞ、お嬢さん?」

 「ほざけ、ブラコン王子。もう一度、俺を女扱いしてみろ。

 てめぇがデロデロに甘やかしたくて仕方ない女神様に、てめぇにいじめられたって泣きついてやるからな」

 「……それは怖いな。ますます収拾がつかなくなりそうだ」

 おどけたように肩をすくめながら、ルシオは意外な力強さでロイドを引っ張り立たせる。

 「これから、どうするんだ?」

 貴族界の取り替え子(チェンジリング)は有名だが、よもや王家までがそれを行うとはさすがに考えていなかった。

 こんなことがバレれば、王家全体が失墜しかねない。

 何と言っても、王家は始祖である英雄レイゼルの血を伝える家系であり、その血がなくなれば、告知の石も次代の王を選択出来なくなる、と言われている。

 レイゼルの血と、圧倒的な魔力。

 この二つがそろって初めて、告知の石は「王を告知」するのだ。


 「あ?」

 ロイドは進めていた思考の果てに違和感を感じ、首を傾げた。

 第一王子も、公爵も、条件をクリアしているからこそ、あの場に立っていたのだ。

 だが、あの少女(ティナ)は?

 圧倒的な魔力を持った少女は、王家の血を引かない。

 ロイドは机の上に無造作に置かれたままになっているペンダントを見下ろした。

 「宰相は……このペンダント(リアスフィア)の赤い石が、英雄の血で出来ていると考えている」

 ロイドの視線の意味を知ったのだろう。

 そして、ルシオもまた同じことを考えていたのだろう。

 ルシオの抑揚を欠いた声が、ロイドの耳に届いた。

 ロイドは赤い石をしばし手に持ち、ひっくり返したり、裏返してみたり、と様々な角度から眺めてみた。

 「ん? 魔方陣は……この中か?」

 石の下、台座の上に、緻密な見たこともない魔方陣が描かれているように見える。

 指先ほどの広さに、莫大な情報量の魔方陣だ。

 だが、石が邪魔で全容が見えない。

 目を眇めてみていると、耳元でルシオが囁いた。

 「君は……山の娘を知っているか?」

 「は? あんなおとぎ話、なんだって?」


 台座に気を取られていたロイドは、投げやりに返事をする。

 

 「その、おとぎ話の山の娘とは、どういう話だ? 離宮では聞いたことがなくて」


 石は欠片も揺らがない。だが、石があっては魔方陣を読みとけない。

 石を外すか?

 いや、それでは、ペンダントの持つ魔法がとけてしまう可能性が高い。

 ロイドは苛々としながら、全く深く考えずに答える。


 「この国が興る前、このあたり一帯は山に拠点を構える蛮族が支配していたんだ。その蛮族は女系家族で、首領が山の娘って呼ばれてるんだ」


 おそらく、魔方陣は石を台座にはめた瞬間から発動するように仕掛けられていたのだろう。

 何のために?

 お忍びで出かけるためにしたって、この魔力消費は異常だ。

 ロイドの勘では、このペンダントは、「姿を変える」以外のことにも、魔力を使っているはずだった。


 「俺たちの祖先は、大国に追われてこの地に流れ着いたものの、蛮族の手ひどい抵抗にあい二進も三進もいかなくなった。

 何度目かの交渉の時、襲ってきた大国の兵士達から、祖先は蛮族を守ったと言われている。その姿に山の娘が惚れて、山の一族は一帯を祖先に引き渡したそうだ。

 それからしばらく、山の娘と祖先は一緒にくらしていたらしいけど。

 山の娘は、自分はやはり山の神の娘だから、祖先達とは生きていけない、といって、子供を置いて山に去っていったんだとよ」


 悲恋として、また、祖先の公明正大さの証として、この物語は広く伝わっている。


 「おまえ達のいた離宮は、外国人が多かったからな。

 誰も知らなかったのかも知れないな」

 「外国人?」

 「あぁ、側妃様が外国から嫁いできた方だったし、一緒に外国から来たお着きの面々で離宮は固めていただろう?」

 「そう……かな。そう……だったのだろうな」


 魔方陣の中央部に、絶対中核となる呪文が書かれているはずなのだ。

 ロイドはルシオのそのときの表情など全く知らぬまま、ペンダントに夢中になっていたのだった。


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