□第二六話□ 運命の女
「レスリーの評判を落とすな。それがおまえの役割だ。理解したか?」
耳元で囁くと、緊張した面持ちのレスリーが、嫌そうに頷く。
盛んに左手首をゴシゴシとこすっているのは、袖の下にある【誓約の紋章】を気にしてのことだろう。
自らの左手首を見下ろしつつも、ルシオは言葉を飲み込んで、大広間を見渡した。
「サウロ、後ろを頼む」
騎士も深く頷き、さり気なく腰に吊るした鞘を握る。
先程までの牽制が嘘のように、大小様々な貴族たちがあっという間に三人を取り囲んだ。
ロイドは曖昧に笑って、質問はすべてルシオになすりつけていく。当初の予定通りではあるが、同時にルシオは風向きの変わり具合を訝しんでいた。
愛想笑いを貼り付け、どうでもいい話題を提供し、何処かを気にする。
ルシオは、そんな貴族の一人が宰相に視線を走らせたのを確かに見た。
誘導されるようにそちらを見ると、枯れ枝のような老人は杖につかまりつつも、不敵に嗤っていた。
派閥をつついて、王太子の周囲を賑やかにするつもりらしい。姑息な宰相らしい手段だ。
しかし、宰相の計らいは、はっきり言ってありがた迷惑以外の何ものでもない。
ロイドの不機嫌づらは、レスリーの表情にも出てしまっている。一々の貴族を小馬鹿にするような目つきも隠しおおせていない。
体型が似ているからこその抜擢であったが、素質に問題がありすぎた。
「サウロ、そろそろ下がろう。王太子はお疲れだ」
周囲に聞こえるようにルシオが言うと、サウロは深々と頭を下げた。予定の衣装替えも全て行っている。王族が最後までいる必要はない。
ロイドもホッとしたように表情をゆるめ、歩き出そうとする。
そこに金切り声が割って入った。
「わたくしは認めない! 王太子はプルデンシオこそがふさわしいのよ!」
そこで思わずロイドが歩を止めてしまったのは仕方のないことではあったが、同時に悪い選択でもあった。
振り返ったレスリーに向かって、人垣からほっそりとした手が伸びる。
すかさずサウロが間に入り、しっかりと腕を掴んだが、そのあまりの細さにサウロの方がたじろぐ。
騎士の手がわずかにゆるんだ隙に、腕の持ち主はもう片方の手をレスリーに向かって振りかぶっていた。
「わたくしのプルデンシオが、このような忌み子に負けるなどあってはならないのです!
卑怯者! 一体、どのような手を使った!」
叫び、髪を振り乱す女性は、側妃アデリタ・レディントンその人であった。
かつて中庭であった優雅な様子は欠片もなく、目は血走り、頬がこけている。
王宮の二大美女と歌われた美姫は、そこにはいなかった。
「卑怯者! 宰相の犬! 姑息な手を使ってでも王位がほしいのか!
生まれと同じく浅ましい畜生め!」
アデリタのもう片方の手が、サウロの頬にかかる。
鋭い爪が、端正な騎士の顔に、三条の傷をつけた。
「この方は王太子殿下であらせられます。
側妃様でございましても、これ以上の狼藉はお控えください」
サウロは静かに目前の女を見下ろす。傷をものともしない姿勢は、いっそ気高く見えた。
しかし、周囲が息を呑む中、アデリタだけは口を閉じない。
「騎士の中の騎士とまで言われたそなたまで騙されるか?!
法王猊下が仰ったであろう!
国を滅ぼすつもりか!
騎士たちよ、そなた等の忠誠心が本物であるなら、この畜生共をさっさと始末なさい!」
片腕をサウロに掴まれたまま、側妃が叫び続ける。
サウロは困惑してルシオを振り返った。
「殿下はご自身の力でその正当性を示された。
魔力の高さで王位を得るのは、英雄レイゼルからの伝統。違いますか、レディ・レディントン?」
凛と響く、しかし感情を感じさせない声に、アデリタは美しく整えられた眉を跳ね上げた。
「悪魔の双子! 陛下はなぜ、そなたらに温情をかけたのか?! 優しさに付け込まれたのです!
わたくしにはわかっています!
そなた達こそが国を滅ぼすのです!
陛下の血を引いているかさえ怪しい!」
サウロがつかむ腕に力を込めても、アデリタは止まらない。それどころか、腕がもげることさえ厭わないかのような身のよじりようで、サウロは困り切っていた。斬って捨てるのは簡単だが、相手は王の妻、側妃だ。それでも、ロイドにわずかも近づけるわけにはいかず、サウロは側妃を抱きとめるような体制になっていた。
「死ねばよかったのに!
あの事故で、死ねばよかったのに!」
場が凍りつく。
広間にいる何割かはそれを切実に願っていただろうが、口に出すものはいない。
その暗黙の了解を、側妃アデリタはあっさりと飛び越えた。
ルシオは、動けなくなっているサウロと、黙りこんで指示を待つロイドを見た。
視界の端で、宰相が側近に何事かを囁いている。その皺深い顔に浮かんだ舌なめずりするような笑みに、ルシオはこの場を宰相に任せるのを諦めた。
「誰か! 側妃様を控えの間へお連れしろ!
随分とお疲れのご様子だ」
ルシオの声に合わせて、壁際に控えていた衛兵たちがバラバラと動き出す。
近づいてくる衛兵に、側妃は目をつり上げた。
「わたくしを誰と心得る!
我が身に触れることを許されるのは……」
「母上、そこまでです」
騒然とした広間に、落ち着いた声が響き、青いさざなみを連れてなお青い衣の青年が現れた。
高位司祭たちを引き連れた、プルデンシオ・レデイントン、その人であった。
母によく似た女性的と言っても良い柔和な容貌と、肩の上でゆらゆらと揺れる金の髪、晴れ渡った空のような瞳。
だが物語の王子然としたそれらは、禁欲的な司教服に包まれ、どこかアンバランスにも見えた。
危うい均衡は、場がもたらすものか、第一王子のもたらすものか。
敵意を向けられることを予測して睨みつけていたルシオは、プルデンシオが軽い目礼だけで通り過ぎていくのを驚いて目でおった。
「母上、どうぞこちらへ。
マリア、母上を」
優雅に手を差し伸べつつ、第一王子が小声で指示を出すと、司祭たちの中から小柄な女性が飛び出てきた。
「アデリタ様! さぁ、ご一緒に! ここはあまりにも辛うございます」
中庭でもアデリタと一緒にいた侍女だ。
「お前たちが不甲斐ないから、このようなことになっているのです!
わたくしのことを思うならば、今すぐこの場でっ……」
その先を側妃が音にすることはなかった。
悲しげに目を細めたプルデンシオが惻妃の口をふさぎ、真綿でくるむようにその華奢な体を抱きしめてしまったのだ。
アデリタは自分の息子を血走った目で睨みつけると、その一瞬後に崩折れる。
気を失った側妃は力なく仰け反り、ルシオは第一王子の手の中に、薬を仕込ませてあったのだろうハンカチを見つけた。
「アデリタ様、なんてお労しい」
涙ぐみながら、マリアがアデリタの手を握りしめる。
気を失った母を見下ろすには些か平坦すぎる眼であった第一王子は、侍女には柔らかく表情を緩めて頷いてみせた。
マリアは、王妃によく似た空色の目を涙にうるませ、こっくりとプルデンシオに頷く。
「あなたには苦労をかける」
プルデンシオは小声で侍女に囁くと、続いて背後を振り返った。
司祭の波から、きらびやかな儀礼用の鎧をつけた男が現れる。
教会騎士だろうその人物に母を預けると、母と侍女、そして騎士が去るのも見届けずに、プルデンシオはレスリーとルシオに向き直った。
青い司祭衣を広げ、青年は床に膝をつき、陽の光のような頭を垂れた。
「大変申し訳ございません、王太子殿下。
この祝うべき場にそぐわぬ母の無礼、いかようにお詫びすべきか」
戸惑いと反発を見せる司祭たちも、プルデンシオが立ち上がる様子がないのを見て取り、しぶしぶ姿勢を低くしていく。
ロイドが、何とかしろ、と言わんばかりに視線をよこすので、ルシオは一歩前に出た。
「頭をおあげください、プルデンシオ殿下。
レスリー様は、母の子を思う愛を無礼などとは思いません。アデリタ様も、日が経てば落ち着かれることでしょう。
本日は祝の席、咎めはいたしません」
暗に、二度目はない、と示すと、プルデンシオは更に深く頭を落としてから、ゆっくりと視線を上げた。
明るい空色の目が、僅かな陰りをそえて、ルシオとレスリーを見比べる。
「その通りだ……」
視線に居心地の悪さを感じたロイドが、やや性急にルシオの言葉を補強する。
プルデンシオはもう一度、しっかりルシオを見つめたあと、「感謝いたします」と立ち上がった。
絵に描いたように貴公子然としたプルデンシオは、薄い色味と相まって、どこか現実から乖離しているように見える。
ルシオは間近で初めて見た兄を、不躾なほどまじまじと見上げた。
空色の瞳と深い青の瞳が意志を持ってぶつかった。
「改めまして、レスリー殿下、ルシオ殿、立太子おめでとうございます。
ウィンベリー公を遥かに凌ぐ魔力には驚かされました」
ルシオの視線をものともせず、プルデンシオは穏やかに言葉をつぐ。
何事かが起こるようには見えず、サウロはルシオに目配せすると、一歩下がった。
「あの程度、どうってことはない」
レスリーが嘯く。
ルシオには、ロイドがティナの真の力を思い浮かべてそのように言っているのだろうとわかるが、プルデンシオはそうはいかない。
相当な自信家に見えたのだろう、兄王子は苦笑を浮かべた。
「まだ上があるのだとしたら、恐ろしいことです」
「王太子のお力は、御身に牙を向ける方にのみ向けられましょう。
プルデンシオ殿下のお力添えもいただければ、刃向かう愚か者など、現れることはございません」
「ウィンベリー公に続いて、教会派の私の力も手に入れられれば、確かに、国家の半分を掌握したことになるでしょうね。…………」
プルデンシオは思わせぶりに言葉を切ったが、その目線は、ルシオやロイドを超えた向こうを見ているようだった。
ルシオがそちらを確認すると、ぞろぞろとした取り巻きを連れた宰相その人が、こちらに向かって歩いてくる最中であった。
権勢の頂点。国王ですらその影響力の下に置き、数多の有力貴族を取り込んだ最大派閥。
宰相エドムンドは、その手中に【王太子】という駒まで手に入れ、まさに我が世の春であった。
「恐れながら王太子は……」
同じ方向をみるプルデンシオを意識しつつ、ルシオは囁くように小さな声で言った。
「宰相閣下と同じ理想を抱くことは難しいでしょう」
「…………それは、君も同じ?」
同じように囁いてくる兄の声は、意外なことに、どこかレスリーに似ていた。
血のつながりを確かに感じつつ、ルシオは迫り来る宰相をにらみ続ける。
「僕は王太子の従者です。殿下の敵は、僕の敵です」
言い切ってから振り返ると、プルデンシオが複雑な表情をして、ルシオを見返していた。
もの問いたげな空色の瞳が瞬きを繰り返し、口が開きかけたところで、プルデンシオの動きが止まった。
「今宵はなんとすばらしい夜でございましょうな、レスリー殿下!
立太子、まことにめでたきことにございます!」
枯れ枝のような体のどこからでるのかと思えるような大声が、広間中に広がる。
緩やかに演奏を続けていた楽団も、柔らかな音色を止めた。
「宰相……エドムンド……」
ルシオが苦々しく呟き、巨大な壁のような貴族の固まりを見据えた。
一瞬、怯んだように見えたロイドを、ルシオは軽く小突いて奮い立たせる。
この場で立っているのは、王太子レスリーとルシオ、僧衣に身を包んだプルデンシオ、そして、杖にすがりつつも決して膝を折ろうとしない宰相エドムンドの四人のみ。
広間の誰もが膝をつき、頭を垂れ、王太子に向かって畏まっていた。サウロでさえ、僅かに姿勢を低くしている。立っているのは、王族と……宰相。
四者四様の眼差しが交差する。
機先を制して、ルシオが一歩前に出た。
「宰相エドムンド、何故頭を下げない?
王太子の御前だ」
強く睨みつけるルシオと、背をかがめて杖にすがる宰相の目線はほぼ同じ高さにあった。
エドムンドのシワに囲まれた目に、皮肉げな色が宿る。
カン!
宰相が、その証である杖を鋭く床に打ち付けた。
しんと静まった大広間に響き渡り、空気が凍りつく。
誰もが固唾をのみ込んで見守る中、ルシオは畳み掛けるように攻勢に出る。
「王太子、第一王子、第三王子の三人を前に、そなたは何故、膝を折らない?」
ルシオもレスリーも、宰相の傀儡である。
皆がそう考えている中で、反旗の狼煙があげられたかに見えた。
「そうだね、宰相。
臣に下ったとはいえ、第三王子は王族であることにかわりはないし、それは司祭位を頂いている私にも言えることだ。
あなたの掌中の珠にとっても、相応しいことではない」
ルシオとエドムンドの睨み合いが続いているところに、プルデンシオの加勢が入る。
宰相はルシオ、レスリー、プルデンシオの順に視線を回すと、苦笑に顔を歪めて、大仰に肩をすくめてみせた。
「無礼はご容赦くだされ、殿下がた。
杖に頼らざるを得ない老人に、膝をつくのは難儀に過ぎましてな。
陛下より、立礼の許可を頂いております」
申し訳程度に禿頭を下げ、真っ白な眉の下からギラギラした目でルシオを睨みつける。
「陛下はあなたには随分と甘い」
揶揄するようにプルデンシオが言うが、宰相はそれをあっさりと躱す。
「長年の功績故でしょうな。ありがたいことです。
それよりも、プルデンシオ殿下は、猊下のおもてなしをお願いしていたと存じますが、猊下は何処に?」
プルデンシオが眉をしかめた。
法王は目下のところ引きこもり中だ。
本来、このお披露目の席にも招かれていたはずだが、体調を理由に欠席している。
王太子を祝いたくないというのが本音だろうが、それをあからさまにするには、この国はやや強すぎる、というところだろう。
国内にある教会勢力は、法王の後ろ盾をなくすわけには行かないから、必死だ。
プルデンシオには、その教会勢力の期待があるわけだから、法王を蔑ろにするわけにも行かない。
「私は王太子へのご挨拶に参りましたまで。
……そのうち、教会にもお越し下さい。歓迎いたします」
ルシオとレスリーに再度頭を深く下げると、プルデンシオは青い法衣を翻し、この場を去っていった。
教会関係者を引き連れ、青い波が引いていく。
残ったのは、宰相一派とルシオ達。
これまでレスリーは【宰相の傀儡】と目されていた。
そこに、先ほどのルシオは一石を投じた形になる。
自らのくびきを外れようとするルシオに、宰相が何もしてこないはずがない。
ルシオは用心深く宰相に向き直った。
ルシオの空気の硬さに気づいたのだろう。
サウロは再びレスリーの前に出る。
宰相の眉の下で暗い目が光った。
「改めまして、殿下。
立太子、おめでとうございます」
『おめでとうございます!』
居合わせた大小の貴族たちが一斉に唱和する。
示し合わせたかのようなタイミングは、まるで演劇でも見ているようであった。
レスリーが目に見えて渋面を作るが、ルシオは注意しようとは思わなかった。
宰相も、そんなレスリーを気に留めてはいない。多くの者にとって、レスリーは人形でしかない。その人形の操者になろうとしている人物は二人いると目されている。
老人の目はひたとルシオに据えられている。
刃を合わせているかのような緊張感が漲っていた。
「此度のことは、我が生涯でも望外の喜びにございます。
我が国は、類稀なる魔力を有した王太子の元、さらに発展することでしょう」
宰相がと周囲を見渡すと、そこかしこに散っていた各国大使達がさりげなく視線をはずした。
国内外を牽制し、かつルシオの目を諸外国に向ける。
宰相は確かに有能であった。
まだ、その力に遠く及ばない。
やっと王太子まで来た。だが、王太子まででしかない。
ルシオは自分の手を見下ろし、ぎゅっとそれを握りしめた。
「宰相閣下自らお祝いくださるとは、殿下に代わってお礼申し上げます」
ルシオが深々と頭を下げると、レスリーもぴょこん、と頭を下げてみせる。
その横では、サウロも右手を胸に当て、騎士の礼をしてみせた。
「殿下も楽しんでおいでですかな?」
宰相が、レスリーを見つめる。
レスリーは視線を微妙にはずしながら、「それなりに」と口の中で呟いた。
普段のレスリーを宰相は知らない。
今のレスリーにも違和感を感じている素振りはなく、心中で安堵したルシオは、宰相の後ろに今まで気づかなかった二人連れを見つけ、眉をひそめた。
一人は、美しい黄金の髪を綺麗に結い上げた、碧眼の美少女。
その少女をエスコートするのは、同じく黄金の髪を緩く背中で縛った、碧眼の美青年。
どちらもよく似た美しい顔立ちをしていて、感情を感じさせない笑みを浮かべて、ルシオとレスリーを見比べているようだった。
「そういえば、発表がまだでしたな」
ルシオの視線に気づいた宰相が、ニヤリと笑う。
再び、宰相エドムンドの声が大きく響いた。
「この良き日に、さらに良き知らせがある!
王太子であるレスリー殿下と、我が孫娘エミリア・リジャールの婚約が交わされた!」
エミリア・リジャールであろう美少女がすっと腰を落として淑女の礼をし、青年の手を放れてレスリーに手をさしのべる。
驚愕に見開かれたレスリーの目が、ぎこちなくルシオを振り返る。
「エミリア・リジャールと申します、殿下。どうぞ、よしなに」
鈴をふったような美しい声に、皆が感嘆の声を上げ、うっとりと二人を祝福する。
それは、宰相の態とらしい演出よりも遙かに自然で、レスリーに拒否する道は残されていなかった。
ルシオは苦々しさを噛み殺して、わずかに頷いてみせた。
レスリーが顔を赤らめ、ふてくされたような顔をしながらも、エミリアの手を取る。
割れんばかりの拍手と歓声が当たりを埋め尽くした。
ルシオは唇を噛んだ。
どれだけあがいても、自分たちがまだ宰相の手の内にいることが悔しかった。
王太子の地位を手に入れた。しかし、それでも宰相には届かない。では、王位を手に入れれば?
ルシオは首を横に振った。
今までのままではダメなのだ。地位だけでは、あの宰相には敵わない。
無力感に苛まれていると、その横に、エミリアのエスコートをしていた青年がいやに体を寄せて立った。
「私は兄のマーヴィン・リジャールと申します。両殿下のサポートを仰せつかりました。
大丈夫、必要なことはすべて存じております。おまかせください」
青年の白い手が、ルシオの癖のない黒髪を一房掴み、口づけを落とす。碧い目がひたとルシオに据えられている。
ルシオはいい知れない悪寒を感じ、慌てて身を引いた。
くっくっくっと、マーヴィンが喉の奥で笑う。
目は鷹のようにルシオから離れない。
何故だかルシオは、今すぐに、ティナに会いたくて仕方なかった。




