番外編2
真白、と呼ばれて振り返ると、雪乃がいた。
真白は約束通り、雪乃を迎えに行くことができたのだった。
もうすぐ二人は祝言をあげる。
また一緒に暮らすことが出来るのだ。
雪乃は嬉しくてたまらなかった。
顔がゆるみっぱなしだ。
そんな雪乃を真白は呆れて見た。
「だってずっと待っていたのよ?
だから本当に嬉しいの!」
雪乃は真白に抱きついた。
ずっと我慢してきたのだ。
こうして触れることも、笑いあうことも、喧嘩することも、これからは毎日出来る。
それが本当に嬉しいのだ。
真白は雪乃を優しく抱きしめた。
「もうすぐ六条の桜が咲くよ。
今日、信春から手紙が来た。
皆でお花見をしようって」
「いいわね。去年はとても楽しかったもの、きっと今年も楽しいわね!」
春は人を明るくさせる。
しんしんと降る雪の間中、我慢していた人々は桜がほころぶ頃になると騒ぎ出す。
雪乃は真白を見上げた。
「桜子様にややが出来たって聞いた?」
「ああ」
「羨ましいわ~私もややが欲しい!」
「…まあ、そのうちに授かるよ」
真白は雪乃を抱きしめた。
雪乃は嬉しくなってクスクス笑った。
「あなたに似たややが欲しいわ。
沢山欲しいわね。
そうして楽しく暮らすの」
雪乃の言葉に真白は微笑んだ。
二人の前には幸せな未来が待っているのだ。
「相変わらずラブラブだな」
声に振り向くと呆れた顔の夏野がいた。
「お邪魔なようなら出直すが」
夏野の言葉に雪乃は慌てて答える。
「そんなことないよ!気にしないで」
出て行こうとする雪乃に夏野は声をかける。
「出て行かなくていい。
話は花見のことだから。
ちょっと相談しようと思って」
相談?と真白は首をかしげる。
「今年は桜子様も懐妊中だし、信春は色々と大変だろう。
だから我が屋敷で花見をしようと思っているんだ。どうだ?」
「そうだね、それなら桜子様も安心だろうし」
真白が頷く。
私もいいと思うわ、と雪乃も頷いた。
「それじゃあ、決定でいいかな。
今年の花見は夜にやるぞ」
夏野はそう言ってニヤリと笑った。
「夜桜か。それはいいな」
漆黒の闇の中を咲き誇る淡いピンクの桜。
申し分ない。
「信春には言った?」
真白の言葉に夏野は首を縦に振った。
「蛍が行って伝えているだろう。
これから俺も行くつもりだ」
僕たちも手伝うよ、と真白が言った。
もちろんそのつもりだ、と夏野は笑った。
「失礼します」
蛍は信春の屋敷に来ていた。
「蛍、相変わらず美しいね」
紅葉は笑って蛍に近寄った。
「ありがとうございます。
それより信春様、夏野様よりご伝言を預かってまいりました」
蛍はさらりと紅葉をかわし、信春に近寄った。
「夏野から?何だい?」
「今回の花見の件、夏野様と真白様で準備をさせて頂きます。
信春様と紅葉様はゆっくりとお待ち下さい、との仰せ。
花見は三日後でよろしいでしょうか?」
「いいけど、手伝わなくて大丈夫なのかい?」
「はい、すでに準備を整えておりますから」
蛍は頷いた。
それじゃあ、頼もうか、と信春は言った。
「では三日後に夏野様のお屋敷にお越し下さい」
「夏野の屋敷?六条の森ではないのか?」
紅葉が声をかける。
蛍は頷いて答える。
「はい。今年はお屋敷にて宴を行います。
どうか楽しみにしていてください」
蛍はお辞儀をすると信春たちに背を向けた。
屋敷を出て、向かうのは夏野の元だ。
きっと今頃は花見の話をしているだろう。
長い冬があけ、暖かい春が来た。
それだけで蛍はワクワクした。
これから待っているであろう未来にワクワクしていた。
蛍と夏野の関係は相変わらずだ。
それでもこれから何かが起こるかもしれない。
そう思えるから楽しいのだ。
蛍は真白の屋敷に向かった。
夏野が行っているからだ。
そうして屋敷の門の前で夏野を見つけ声をかける。
夏野が振り向き、笑う。
蛍はその瞬間が好きだった。
夏野の隣には真白と雪乃がいる。
「信春様には話してきました。
さあ、準備を始めましょう」
楽しい花見のために。
漆黒の闇を振り払うように庭には松明が焚かれた。
桜の周りがほんのり明るくなり、桜が浮かび上がって見えた。
綺麗、と桜子は感嘆の声を上げた。
夜桜を見るのは初めてだった。
「お気に召していただけましたか?
生憎と桜の木は一本しかありませんが、それでも美しい枝垂れ桜なのです」
夏野と蛍が桜子に声をかける。
ほんのりと頬を桜色に染め、桜子は頷いた。
「もちろん!こんなに美しいなんて知らなかったわ。
とても最高よ」
嬉しそうな桜子の笑顔に夏野も笑う。
「気を使ってくれてありがとう、夏野」
後ろから信春が桜を見ながら言う。
桜子の体を労わってくれる友人たち。
信春は心から感謝した。
そうして庭の桜を見る。
ヒラヒラと舞い落ちる桜は綺麗だった。
隣にいる桜子のお腹を見つめる。
最近は頻繁に蹴っているようだった。
元気な子が生まれるといい。
信春はそっと桜子を抱き寄せた。
どうしたの?と桜子が信春を見る。
信春は柔らかく微笑んだ。
幸せをかみ締め、桜子も微笑んだ。
「来年もこうしてお花見しようね」
来年は家族が増えている。
もしかしたら雪乃だって蛍だって萩だって子を生んでいるかもしれない。
そう考えると楽しくなる。
「夜はまた違った景色に見えるんだな」
紅葉も酒を片手に呟く。
どうやら気に入ってくれたようだった。
ええ本当に、と萩は紅葉に酒を注ぎながら答える。
はかなく散る桜を美しいと思う。
こうして大切な人と過ごす時間を愛おしいと思う。
「喜んでくれて良かったね」
雪乃も庭を見ながら真白に言った。
ああ、と答えて真白も庭を見た。
雪乃がそっと真白の手を取る。
「これからもこうして一緒に桜を見ようね。
寂しい夜も怖くないわ」
こんなに美しい夜があるなんて知らなかった。
パチパチと松明が爆ぜる音がする。
それ以外の音はこの庭にはない。
時折、風が吹いて桜の散る音がするくらいだ。
桜子と信春は寄り添い桜を眺めている。
紅葉と萩は酒を飲みながら話をしている。
雪乃と真白は手を繋ぎ笑い合っている。
夏野は蛍の膝枕でうたた寝をしている。
そうして静かな夜は更けていった。




