序章
序章
黄金の様な砂漠は、夜の満月の神秘的な輝きで昼間とは違う輝きを放ち風と一緒に流れる。砂漠の砂が舞い終わるのを見計ってか、1頭のラクダの背中に乗った黒いベールに身を包んだ男が広い砂漠の海を渡っていた。男はそのままラクダを連れて行くと、その先にはオアシスが潜んでいた。男は迷わずオアシスの中に入り、いつでも出発する様にラクダを側の木の枝で軽く紐を縛り大人しくさせる。そして男は左手を自分の前に出すと、不思議な光りの中からを出し手に取り、ガラスに息を吹きかけるとボッと火が点火し自分の周りを照らしてくれる。そして男は、一本道をランタンと一緒に闇の中へ溶けて消えた。
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「 」
さわさわと、緑が小さく揺れる。そして、闇を結うには似合わない小さな澄んだ音……否。声が聞こえる。それは、小鳥の歌声の様な可憐で美しい声。その声のリズムを取るように小さな淡いエメラルドの色がポツリ、ポツリと灯る。消えたり、光ったり。その繰り返しを続ける。そして男は、ピタリと立ち止まる。
「……美しい歓迎ありがたく思います。我が君」
低い。テノールよりも低い声が、優しい声で謝礼の言葉を発す。その声に答えるかのように、ざわざわと風が揺れる。そして男の姿を覆っていたベールが風と一緒に飛んでいく。
闇に薄く浮かぶ白い肌。美しく整った顔は女にも見え、男にも見える。綺麗に揃っている肩まで長い黒髪は風で優雅に靡き美しさを際立たせる。そして、瞳は闇色よりも深い色を表していた。
『ダルグよ……我が信頼出来る従者よ そなたを待っていたぞ』
「恐れ入ります。我が君よ」
風と一緒になって発せられた声は、とても美しく水晶を透き通るような、あたかも女神の様な優しさを持つ声が、美男のダルグという男に送られる。我が君と呼ばれるその声の主は姿を明かさず、声だけを風と一緒に運ばせて話を始める。
『ダルグよ 今、この世は血で穢れている。やがて、無益の血がこの砂漠とオアシスを真っ赤な血の池の如く染まるに違いない』
「仰る通りでございます。 現在ローシャナ王国と大国のレトーナル共和国が先月戦の真っ最中でございます。大国と違いローシャナ王国は小国。ローシャナに侵入しては残虐や虐待という行為を、無関係なローシャナ国民に被害を受け、1週間でローシャナ王国の人口の半分が亡くなっています」
ダルグは、闇色よりも深い色を悲しい色に染め、眉間に皺を寄せて語り始める。我が君の声は、まだ発せられない。
「当然。ローシャナ王国には戦う術は残されていません。昔 ローシャナ王国は金、銀、銅と言った鉱物を発掘し、それぞれを各国の国々に輸入し世界の金融の手助けをする歴史があります。その為世界はローシャナに戦をすることは一切なく、ローシャナもまた戦という事をしないと宣言し今日まで平和を保ちました。・・・・・・・されど、戦が始まる1ヶ月前。大国のレトーナル共和国で事件が起こりました。それは、レトーナル共和国の金貨の全てが偽物という事が発覚したのです。レトーナルはローシャナに大激怒し、それを訴えましたがローシャナは否定しています。何故ならローシャナから掘り出される金、銀、銅の鉱物の点検はとても手厳しく、輸入前、その各国の専門家も手厚く点検して自国に持ち帰り金貨として金融の平穏を保っていました。私の予測では、誰かが裏を斯いている様にしか思えません」
『・・・・・・ダルグよ。そなたがその様に思うならば、その原因を探りなさい。 お前の手で、無益な血の流れを食い止めるのです』
「御意」
ダルグは膝を地に付き風と流れる声に一礼をする。ランタンの火は揺ら揺らと震え、やがて消える。
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