月魔石(ルナンマギア)伯爵夫妻の優雅で甘い輝きの朝
愛し合う二人に幸福を。
窓を覆う布の隙間から、柔らかな陽光が差し込んでくる朝。
この家の当主夫妻にとっては毎日の恒例となる、目覚めの時間がやってきた。
「すぅ……すぅ……」
穏やかな吐息と共に、いまだ深い眠りの中にあるのは、妻。
ゆるやかにウェーブを描く白銀の髪を流し、幼げな可愛らしさの残る美貌にそろう瞳を閉じたまま、至福に微笑み眠っている。
「ん……」
わずかな身じろぎの後、水石の瞳をうっすらと開いたのは、夫。
水属性の魔法を得意とすることを示すその瞳は、実に温かな愛情を宿し、自らの腕の中で眠る人へとそそがれた。
癖の無い銀の髪に、穏やかな美貌。中性的な美青年と言える彼は、そっともち上げた片手で、愛しき人の髪を撫でる。ふわふわと流れる姿に相応しいやわらかなその感触を、起こさぬように配慮した優しい手つきで梳くと、不思議と彼女の笑みが深まった。
そうして、愛する人の健やかな寝顔を温かな眼差しで眺めた彼は、そっと彼女の頬へと唇を寄せる。ちゅっ、と可愛らしい音がひとつ、綺麗に整頓された部屋に響いた。
優しい口付けに、わずかな身じろぎをする彼女へと、甘く穏やかな声がささやく。
「――朝だよ、フィオナ」
「ぅん……ラズ?」
うっすらと開かれた翠玉の瞳が、優しげに微笑む彼を見る。途端、黄金の輝きにさえ劣らない、満面の笑みが咲き誇った。
夫の名は、ラズアル・アル・ルナンマギア。
妻の名は、フィオナ・フル・ルナンマギア。
妻は過去に、夫は現在も、この国の王城魔法使いとして活躍している有能な魔法使いであり、同時に伯爵の地位に立つ、貴族の一家の主夫妻であった。
「今日も眩い朝だね、フィオナ」
「えぇ――輝かしい朝ね、ラズ」
そう、互いに微笑み紡がれた言葉は、この国において〝最高の一日のはじまり〟を示す。
伸ばした対の手が頬を包み、穏やかな笑みが光満ちた――。
それは、この《宝石の国》レルーヴァ王国が誇る貴族のひとつ、月魔石伯爵夫妻の、優雅で甘い、一日のはじまりであった。