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#92 女神の化身

投稿する日付間違えてた!!


ごめんなさい!!

 さて。

 彦星の彦星によるイマニティアのための復興作業は地味で地味で面白みもなくてあくびが出るので割愛しつつ、要点だけまとめる。

 まず、災害の時刻が夜中であり、各都市に住む住民は全員就寝中だったため、屋外で怪我をしたり亡くなったという話は無い。

 また、基本的に都市の建物は二階建か三階建のどちらかで、押し潰されるような家具もなく『動く事を前提に作られた古代の建物』をほとんどの住民が流用していたので、骨折や流血と言った大怪我をした住民もいたが、死者数は無しという結果に終わっている。

 傷ついた住民を小子や学校の生徒が治療し、彦星やモードレッドたちは、ライフラインの復旧を主な仕事として復興に尽力した。

 そして、各都市が完全に以前の姿を取り戻し、一部新しく建て替えたり調整したりして以前以上の都市に作り変えた、災害のおよそひと月後。


「まぁ、座りたまえ」

「紅茶はミノレクにしますか?リモンにしますか?」

「あ、ストレートで」


 彦星はシャフモントンネルを通ってビースティアに足を運んでいた。小子はもうすこし治療を続けている。イマニティアと違って静かなもので、おそらく休息らしい休息が取れたのは初めてだ。


「どうぞ」

「ありがとう……あぁ、美味い」

「……っ」


 いくら特訓でポーカーフェイスが上手くなっても、リメの尻尾が全力で喜びを表現している。可愛いやつめ。


「それで?貴様がここに来たと言うことは」

「あぁ、イマニティアの準備が整った。予定より早かったけどな」

「ではいよいよ、神とやり合うのだな!?戦えるのだな!?」

「おう落ち着けや戦闘狂。女王様に言いつけるぞ」

「……」


 やはり獣王も嫁には勝てないか。世知辛いぜ、全く。


「まだ戦える状況じゃ無い。言ったろ?イマニティアの準備が整ったって」

「……なら、あと何が必要なのだ」

「戦う人員は集めた。入り口は開いた。だが悪い事に、全人類が紙を目撃してしまった。これで紙は更に神格を成長させて、より神に近い存在となったわけだ」

「長ったらしい説明はキライだ。頭が痛くなる。要点だけ話せ」


 そんなんだから怒られるんだよなぁ……ほらぁ、もうリメさんご立腹で尻尾ぶんぶん振り回して…あ、だめだこの子。半分くらいポーカーフェイスが解けてニマニマしてらっしゃる。話もほとんど聞いてないんじゃ無いかな?


「ビースティアの女神を、全能神にする」

「……ん?」

「イマニティアの神は序列二位の副神、福の神として統括管理してもらうんだ」

「……んん?」

「とりあえず、紙の神としての信仰を薄れさせて、紙には元の魔王に戻ってもらう必要がある」

「ちょっと待て。戦って殴って終わりじゃ無いのか?」

「だから脳筋なんだよ獣王は。世界を形作る神がいなくなったら、いずれ崩壊するだろ?それを防ぐためには……はぁ。そもそもビースティアの書庫に資料があっただろうが。読めよ」

「読まぬわ、そんなもの。無くても問題無いからな、ガハハハハ!」


 もう頭が痛くなってきた。これで国の代表だってんだから、なお悪い。まぁ、求心力が高いのは認めるが。


「私、読みました」

「ほう?」

「大昔、一人の天才獣人が、国ごと異界に飛ばしたとあります。理由は、定かでは無いのですけれど。その際に、山やその土地を削り取ってしまった事も。そして、女神様も、獣人の信仰心によって生まれ、この世界の神と結ばれたそうです」

「……そうなのか?」

「概ね正解だな。撫でてやろう」

「えへへ……」


 あぁもうダメです。ポーカーフェイス完全に解けました。これは恋する乙女の顔ですわ。


「…それで?その神話がどうしたんだ?」

「分からないのか?この世界にとって、ビースティアは完全に異物。理を壊す元凶そのもの。魔力や魔法しか存在しなかった世界に、突然煌めきと呼ばれる技術が呼び込まれた。おかげで発展した事もあるが、バランスがぶっ壊れたのは理解しろよ?」

「しかし何千年も何もなかったのだぞ?今更……」

「それはイマニティアの男神とビースティアの女神が協力的だったからだ。実際、途中までは招かれざる客を丁重に扱い、この世界に適合させた。だが神が紙とすげ変わった途端、紙は女神を地に落とし、記憶を改ざんし、世界を我が物にしようと動き始めた」


 落とされた女神は完全に記憶が書き換わる前に、もっとも獣人と関わりを持ちつつも下手に紙に見つからぬよう、ある事をした。

 水と知識を司る女神は、自分の『過去』に向けてあるメッセージを送ったのだ。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「さて……と」

「我がここに来る意味はあるのか?」

「あの、彦星さん?私もまだやる事が残ってるんですけど……?」


 僕は現在獣王と小子を引き連れて、塩湖村の湖まで来ている。小子はともかく、ビースティアのトップを引き連れて来るのはどうかと思ったが、女王様に快く承諾してもらったので存分に引き連れ回す事にした。


「まずはあいつを呼び出さなきゃならねぇな。まずは本人に仕掛けた遮音結界を解除させなきゃならない」


 アレは……そう、確か二文字に挑戦した時の事だ。防ぐ音と書いて『防音』にし、そこで初めて魔力の扱いを知ったんだっけ。


「あの、聞いてますか?」

「……まずは、魔法のイメージ。防音を解除するにはどうすればいいかを想像する。構造をイメージしろ…そう、音は振動だ。空気を伝わる振動だ。ならば音を遮断するには真空にするしかない。真空を解くには……」

「ダメだ。こやつ完全に入ってやがるぞ」

「出来た!」


 理論は完成した。ここに魔力を注ぎながら能力を発動させる。すると、過程をすっ飛ばして結果だけが現れるのだ。程なくして、湖の精霊は姿を現した。


『こらぁ!静かにしなさいっ!読めないでしょーがっ!……ってあれ?あなたどこかで見た顔ね?それに…獣人?』

「相変わらず本の内容以外は覚える気がねぇんだな。アンタに防音結界を施した本人だよ」

『あなたが?冗談でしょう?私に結界を施したのは古代の遺産をもつ人間よ?』

「あぁそれな、返したって言うか、強制的に戻されたんだよ。けどまぁ、成功して良かった。獣王の反応を見るに、やっぱりあんたは精霊じゃなかったんだな」


 僕の隣にいた獣王は自然と祈りを捧げる姿勢を取っている。それも、最上級のだ。


「我らが神よ、我らは貴女の御隠れになられた日から、ずっとお待ちしておりました」

『えっ、何こいつ。アンタの連れ?』

「そうだよ。けど、これでアンタは神として戻る事が出来る」

『アタシが?神?バカ言わないでよ。だって…だって、アタシは……アタシは…?』


 精霊だった体の輪郭がぼやけ、その存在が上書きされ始める。六千年以上、人間に精霊であると思われていた神は、たった一人の獣人の信仰心で神に戻る。だが、戻ったところで、かつての力は出せないだろう。失った力を取り戻すには、それだけ時間がかかるのだから。


「思い出したか?」

『……うる、さい』

「苦しいよな?だから一つ提案だ。お前の持ってる女神の書をこちらに渡せ。そうすれば、器を用意する」

『器……だと?』


 まずいな、時間がない。一人の信仰心では発生するのが限界だ。もっと多くの信仰心を集めなければ、意思の疎通を行うのも難しくなってしまう。


「よく見ろ。お前が記憶を改ざんされる直前に、過去の自分に器を召喚させただろう?今ならよく分かる。お前の魔力パターンと小子の魔力パターンは、極めて酷似しているんだよ。そして、己の知識を半分に分け、それぞれを本にした。それが女神の書〈アテナ〉と〈プロメテウス〉だ。もっとも、改ざんされていない記憶だけを抜き取ったから、女神の持つ知識には足元にも及ばないが」

『……っ』


 女神は頭を抱えて、必死に自我を保とうとしているが、それも時間の問題だ。もはや足は消え、胴に穴が空き、頭を抱えている手は少しずつ消えていっている。


「あの、彦星さん?いったい何がどうなっているんですか?器って何ですか?アテナとかプロメテウスとか……」

「よく聞け小子。お前はもう、人間じゃない」

「え?私人間ですよ?」

「……いや、その体は作りかえられている。女神の書を手にし、魔法を使い始めたその時から」

「そんな、だって……それじゃあ…!」

「気付くべきだったんだ、最初から……っ!僕が気付いてあげられたら、こんな事には…っ!」


 気付く箇所はいくらでもあった。最初に召喚された時、知らない言葉を話した時、何度も繰り返した世界で、紙が最初に小子を殺しに来ていた時。

 その全てが、示していたのだ。


 ーーー桂小子はもう人間ではないと。


「だが僕は諦めたりしない。今は神の器になるが、いつか絶対、小子の体から神格を抜き取って、人間に戻してやる」

「……出来なかったら?」

「僕も小子と同じになるよ。人間をやめて、神になるさ」


 小子はこぼれ落ちそうになった涙をぐっとこらえ、無理に笑ってみせた。


「私は幸せ者ですね、彦星さん」

「うん?」

「私の一番好きな人が、私を一番好きでいてくれて、私が大変な目に会うときは、私と大変な目に会ってくれる。こんなに幸せな事がありますか?」

「……いや、無いな」


 もう女神にかつての自我は無い。宙に浮かぶアテナと光る浮遊物だけが、そこに女神のいた事実を証明しているのだから。


「まずは、本を」


 小子が手を伸ばすと、ゆっくり女神の書が近づいてくる。吸い込まれるように、小子の女神の書と一体化し、新たなページが加えられた。


「……」

「怖いか?」

「そりゃ…もちろん」

「大丈夫だ。受け入れた所で、小子が突然うさぎになったりはしないさ」

「……もしうさぎになったら、どうします?」

「責任を持って、丁重に愛で……育てます」

「それを聞いて安心しました」


 小子は光る浮遊物……いや、女神の神格をそっと手に取り、飲み込んだ。


「新しい女神〈ショーコ〉の誕生だ」

ご愛読ありがとうございます。


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