#83 能力発動
モードレッド先生とタマの試合を結界の外から観戦した感想は「とにかくこの人やべぇ」だった。
「…なんだ今の」
「魔力っていう概念を、完全に捉えているんだナ…」
「全属性を操作しながら異なる合成魔法を操作して、さらに罠を同時に張るとか……えっぐぅ!」
いや、当然といえば当然だ。モードレッド先生は、研究や鍛錬の期間で言えば僕より遥かに熟練している。能力なんて無くても、もともと強いんだ。
「おデ、勝てるかナ……」
「……どう思う、ゲヒャ丸」
『あぁ?ンなもん思うままに剣振り回すだけよォ、いつもみてェにな。ゲヒャヒャヒャ!』
「ふん、所詮タマは私たちの中じゃ最弱……私の敵じゃありませんわ」
それ、フラグって言うんだがな。ま、面白そうだから黙っておこう。
そうする内に、タマがショボくれて結界の外に出てきた。負けたのが悔しいのかと思ったが、どうやら少し違うらしい。
「……ワイ、なんで負けたんだろ」
「知らないわよ。弱かったからじゃないかしら」
「いや、確かに三回とも避けられたはずなんだ。でも、なぜか四度目の体験で落とされた。落ちる位置は知ってたから、着地地点の調整も完璧だったのに」
おそらく、モードレッドは最初から複数の罠を仕掛けていたのだろう。そして、着地地点を操作して誘導し、複数ある落とし穴の一つへと落としたのだ。
……それ以上に、タマの場合は顔に全部書いてあるのだが、それは本人のあずかり知らぬ話である。
「さて、と。次は私が行ってもいいかしら?」
「……どうぞ」
「あらありがとう。それじゃあね、負け猫さん」
タマと入れ違いに、コンは結界の中に入って行く。その後ろ姿を見送りながら、タマは冷めた視線を送った。
「……アイツにも、勝てるとは思えねぇけどな」
「なんだ、負けた原因が分かったのか?」
「分かった……というより、知ってたの方が近い。その問題を直視していたかどうかだ」
チラリとザンキや彦星の方を見て、今度はじっと自分の肉体を見つめる。
「ワイとコンは、潜在能力は高い…と思ってる。けど、その力を存分に発揮しきれていないのも事実だ。要するに熟練度が足りないんだよ」
「……へぇ」
「さっき戦って理解したね。今のままだと、ワイもコンも、モードレッドには勝てない。もっと、強く……」
コイツもコンも、やる気はあるみたいだな。本人の希望次第だが、あとでガオウさんの所に預けるのも手だ。
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「次は貴女が相手なのか?」
「ええそうよ。ご不満かしら?」
「…いや、お手柔らかに頼もう」
「ふふふ、そうこなくっちゃね!」
軽く地を蹴り、コンはモードレッドに肉薄する。そのまま体躯に見合わぬ回し蹴りを繰り出し、吹き飛ばそうとするが。
「遅い、そして軽いな」
「受け止めた、わね…?」
「む?」
いとも簡単にその一撃は防がれてしまった。だが、コンにとってはそれで充分、仕掛けることに成功している。
「でもまだ、位置が悪いわ」
続く連撃も見切れぬ速さでは無く、しかし避けられるほど遅くもない。結局モードレッドは全て受けきり、少しづつ押され始めた。
「…もういいわね」
「何をしたかったのだ、貴女は」
「私の能力は『狐の力』と言いますの。見たところ、貴方の実力は卓越した魔法操作と魔力操作……それなら、私にも出来ますわ。そして……」
ぐにぐにとコンの肉体が変形を始め、その姿形はモードレッドと同じになる。これで、コンはモードレッドと同じ魔法を扱えるようになるのだ。
「貴方は私、私は貴方。欲にまみれた狐は全てを手に入れないと気が済まないのよ」
「……せめて、声も同じにしてもらえると助かるんだが」
「それは嫌よ。私、自分の声が一番気に入っているの」
手から五個の魔弾を発現させ、無詠唱で属性を発動させる。それらをまるでボールのようにジャグリングし、遊びながらコンはモードレッドに問いかけた。
「さぁ先生、簡単な授業の時間ですわ。属性魔弾を相殺するにはどうすれば良いかしら?」
「……っ!【水よ、炎を打ち消せ】!」
放たれた火属性の魔弾を水の魔弾で相殺。その後連続して放たれる水、土、風、雷の魔弾を雷、風、火、土の魔弾で打ち消した。
「素晴らしいですわ」
「……バカにしているのか…っ!」
「とんでもございませんわ。これでも、敬意を払っていますのよ?」
再び手から八個の魔弾を発現させる。遊ぶように属性を発動させ、問いかけた。
「次は合成魔法の授業ですわ。どこまで対処出来るかしら」
「この……っ!」
火と水の魔弾で霧、水と雷の魔弾で麻痺、雷と土の魔弾で爆発、土と風の魔弾で砂嵐、風と火の魔弾で火炎、水と土の魔弾で泥、火と土の魔弾で溶岩、水と風の魔弾で氷結……という風に、モードレッドは放たれた属性魔弾と自分の魔弾で合成し続けた。
「はぁ、はぁ……」
「あら、もう息が上がっていますの?大変ですわね」
「っ……バケモノめ」
「褒め言葉として受け取っておきますわ」
合成魔法には異なる属性の魔弾を、同じ魔力量で合わせなければ発動しない。モードレッドの放った魔弾と寸分も違わない魔力量の魔弾を打ち出せるのは、コンの化け物じみた才能があってこそだ。
「最後の授業ですわ。同じ魔法、同じ属性と対した時、勝つ方法はご存知?」
「……っ」
答えは知っている。相手の魔法の魔力量を、上回ればいいのだ。しかし、先の攻防で私の魔力は尽きかけている。とてもではないが、防ぎきる事が出来ない。…………あぁ、なんだかもう…。
「これが私の、全力ですわぁぁ!!」
「…………めんどくせぇ」
コンの放った全力の一撃がモードレッドに炸裂する。轟音と爆炎と粉塵が結界の中に立ち込め、勝負あったかと彦星は中断の合図を出そうとするが。
「……あら?」
不思議な事に、モードレッドは平気な顔をして粉塵の中を歩いて来る。その体には、一筋の傷も無い。
「めんどくさい……めんどくさい……戦うのもめんどくさい……生きるのもめんどくさい……」
「何をボヤいていますの?直撃……いたしましたわよね?」
もう一度五個の魔弾を発現させ、それらを強化する。あるものは槍に、あるものは刃に、あるものは合わさって別の魔法に変化する。
「もう一度、ですわ!」
放った魔法は確実にモードレッドを捉え、直撃する。だが、やはり傷は一つも付かなかった。
「これでもですの!?」
「……傷付くのもめんどくさい」
おそらく、一切の攻撃が効かないのは『牛の力』に起因している。今は力が暴走しているだけだが、意図的に能力が行使出来るならば相当強い能力となるだろう。
「…こうなったら、奥の手ですわ!」
突然、コンの姿が消えて無くなり、気付いた時にはモードレッドの後ろへと移動していた。その手には、鋭利に尖った土魔法のナイフが握られている。
「驚きました!?私のもう一つの能力は相手の肉体の触れた箇所から『私自身を複製する能力』ですわ!生きとし生けるもの全ての肉体が、私の支配下ですのよ!」
本気で殺しに来たコンは、握ったナイフをモードレッドの首に突き立てる。本来なら肉を抉って血管を断ち切り、確実に絶命させる必殺の一撃となり得るはずが。
「……なん…ですって…」
ただの一ミリも、ナイフの刃先は食い込まない。何度も、何度も、何度も何度も繰り返し刺そうとしたが、全くの無意味。
「何なんですのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「知らん」
暴走から戻ったモードレッドはコンの首根っこを引っ掴み、地面に叩きつける。骨の響く鈍い音がして、コンは完全に意識を手放すのだった。
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