#81 七人目の使徒
「やぁやぁヒコボシくん。元気してたぁ?死ぬぅ?」
「……はぁ…」
もうホントに関わりたく無い。エセ貴族ことノーナには、良いところなど一つもなく。ガチホモヤンデレ認定したくなるほど真っ黒ドロドロに性格は歪みきっているのだ。
「それでぇ?わざわざ自分の部屋に呼び寄せてまでぇ、何の用かなぁ?」
「…………あいつに会わせろ」
たったその一言で、ノーナはニヤついた顔を消し去り全力で嫌な顔をする。
「おっ、その顔の方がいいぞ。ついでに目と鼻と口と首ををそぎ落としたら完璧だ」
「あいつに、何の用なの」
「…あれ、無反応?……何のって事はないだろう?わかってるくせに」
あいつ……魔王になった神を呼び出してもらい、七人目の能力をとある人物に授けてもらおう。という事なのだ。
「早く呼んでくれ。あいつとの連絡はノーナの役割だろ?」
「……わかった」
わざわざいけ好かないノーナを呼び寄せ、空席となっている七人目の使徒を埋めて。それでも、紙に勝てるかどうか……。
前回の記憶を頼りに、紙の攻撃を予測したところで、それすら読み切って小子を殺された。
「…………?」
なんだ?今、とても大事な事に、矛盾が生まれた…?
「…まて、まてまておいおい。何かが変だ。なんで紙は僕じゃなくて、真っ先に小子を殺そうとしているんだ?」
そういえばそうだ。あの時も、あの時もあの時もあの時も、なぜか紙は僕を殺す前に小子を殺している。
何故だ?決まっている。殺すのは生きていると都合が悪いからだ。何に都合が悪い?小子の利点は?同じ使徒としての価値は一緒だろ?
「……価値?一緒?何を考えているんだ僕は。そもそも七つに分かれた時点で、万年筆を取られた時点で、使徒としての能力は半分も……!!」
「何をぶつくさ言ってるのぉ?」
「うっわぁ!?」
思考中に話しかけないでもらえませんかねぇ!?ノミの心臓が跳ね上がっちまうでしょーがっ!
「ところで、来たよぉ」
「……おう、久しぶり…か?それとも初めまして?」
瞬きをする間に現れた、どこにでも存在してどこにも存在しない、稀釈となった神が姿を表す。
「どちらでもあるし、どちらでもない。常に誰かのそばにいて、誰のそばにもいない。神とは、そういうものだろう?」
「……あぁ、だからこそ、アンタは色んな奴に加護や能力、時には目覚めさせて来た。けど、今は魔王だ。例えそうで無くても、魔王として振舞わなければ消えてしまう、史上最弱の……な」
「それで?何か用があると聞いたのだが」
「七人目の使徒……その候補を教えに来た。残っているのは『牛』だろ?ちょうどいい人材がいる」
▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎
今日も私の授業は生徒の睡眠場と化した。ユーカワ先生が無詠唱魔法を広めたお陰で、詠唱魔法を教える私の授業は鳴りを潜めたのだ。
「……確かに無詠唱は凡庸性が高く、威力も強い。しかし、術者の思考に影響されやすく、相当の実力者か熟練者……少なくとも練度の薄い者が集まる学校では教える者ではないのだ」
校長先生もそれを知っているため、生徒のカリキュラムに詠唱魔法の授業を組み込んでいるのだ。ユーカワ先生の論文の通り、詠唱魔法は術者の技量や才能に左右されない、魔法を適切に扱うための技術。それすら熟知していない者に、無詠唱などは早すぎるのだ。
「……もっと研究に没頭出来るほどの時間があれば。もっと疲れない体があれば。いっそのこと不老不死にでもなれば、詠唱魔法と無詠唱魔法の両立を図れるというのに」
……はぁ、人間に生まれていなければ、もっと時間があったのだろうか。
「その願い、叶えてあげましょう」
「……はい?」
突然現れたその男は、光る何かを素早く放出して私の中へと瞬時に沈めた。心臓を掴まれたような痛みが一瞬だけ全身を巡り、やがて猛烈な目眩と脱力感が襲いかかってくる。
「与えましたは牛の力。悠久の時を誰かと共に過ごす永遠の命。大切な誰かに自分の一部を預けないと、その脱力感は治らないよ」
「…ま……て、お前は、一体…」
「我は神。どこにでもいて、どこにもいない、今は魔王となった愚かな堕神さ」
「…………」
「考えるのも口を動かすのも面倒だろう?それが牛の力を持った代償。では、健闘と勝利を願って」
ぁー。
ご愛読ありがとうございます。




