#8 リュウガの店
大分遅れて申し訳ありません。m(_ _)m
「そういえば、シンバ国王。なんで商業人に化けてたんだ?」
「国王が城下を見て回ってはいかんのか?」
「いや、バレたら大変なことになるだろうに」
「そうならない為に、化けたのだよ」
……なんか、そんな感じの大河ドラマを見たような…徳川吉宗のドラマで。
「そうか。にしても、恐ろしく広いところだな、ここは」
「まぁ、王様の城ですからね。これで当たり前なんですよ、きっと」
「ふふふ、この程度で驚かれても困るぞ」
あんたの建てた家じゃなかろうに。威張ってどうするよ。
まぁ、廊下だけ歩いて広いだとか狭いだとか言ったところで、全体が見えたわけでもないし…確かに驚くポイントでも無いな。
「あ、ちょっとだけここで待っててくれ」
「ん?ここ、なんの部屋だ?」
「私の部屋…まぁ、王室だな」
「ここで待つって、どうしてです?」
「いいから、いいから」
シンバ国王……畏まらないでくれと言われたので、呼びやすい名前に国王と言うことにした……シンバ国王は、一人でいそいそと部屋の中に入る。しばらくして、入室許可が出たので中に入ると、シンバ国王は一番奥の立派な椅子に腰掛け、それを取り巻く様に初老の男性達が立っていた。恐らくは、うんたら大臣だとかナントカ内大臣みたいな人だろう。
「よく来たな、選ばれし冒険者よ」
「……………」
「……………」
「…よく来たな、選ばれし冒険者よ」
「あ、大丈夫だ。聞こえてる」
「やってみたかったんですよね、それ」
「うむ。しばらくこういうセリフは言ってなかったからな」
「恥ずかしくないですか?」
「…ん、む、まぁ、な」
「なんでそんな事やろうと思ったんですか?」
「………えぇと、だな」
もう、やめたげて。やめたげてよ、小子。国王様が半分泣いていらっしゃるだろ。
「シンバ国王、なんで僕をここに連れてきたんだっけ?」
「おう、そうだった、話を聞くためだ。改めて、聞かせてもらおうか」
「…そうだな、どこから話そう。じゃあまずは、人を構成する成分の事から」
僕は自分の知る限りの情報を、神父さんに話した様に噛み砕いて、シンバ国王に話す。途中、驚きを隠せない表情を見せつつも、黙って聞いてくれていた。つくづくいい人だと思う。
「なるほど、そうだったのか。だがまだわからん、事がある…本当にそれだけで、世界が変わると思うのか?」
「もちろん。さっきも言った通り、塩そのものが人の体に必要不可欠なのは理解できたと思う。そしてもう一つ、塩には保存性を高める効果があるんだ」
「それがあると、どうなるのだ?」
「長旅による死者が減る。食材の値段が安くなって経済が回る。平均寿命が延びて戦力が増える」
「……それ程までに変わるのか」
かつて、香辛料一つで戦争が起こった時代があった。もし、その時に航海時代が来なければ、それこそもっと多くの血が流れていただろう。そんな歴史を、僕は知っていた。
「他にも利用法はある…が、それはもう生活の知恵として見つけるしか無いな」
「ふうむ……ならば、尚更ヒコボシ殿にあの土地を渡すわけにはいかんな」
「えぇ……」
「得られる利益と不利益がアンバランス過ぎる。これは、我が国の国家作戦として進行させる。なに、心配はいらんぞ?その作戦主任にはヒコボシ殿を推薦しておこう。大臣よ、異存は無いな?」
シンバ国王の側で大臣が首を縦に振る。
なんか、国家プロジェクトに指定されたんだけど。大丈夫かなぁ?
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王室とシンバ国王を後にし、そのまま来た道を戻って王家の紋章が刻まれた馬車に乗せられる。国家プロジェクト始動は、数日後に追って連絡すると言われたので、今日はとりあえず元の街に返してくれるそうだ。
「……あっ!」
「どうした、小子」
「私達、依頼の報酬貰ってませんよ!?」
「そういえば、そうだな」
「このままですと、タダ働きの上に食料費やらを請求されて、借金生活まっしぐらですよね!?」
「このままだと、な」
「どうするんですか!依頼達成出来ないじゃないですか!」
「ん……まぁ、どうにかなるだろ」
「なりませんよ!」
あぁもう、ぎゃあぎゃあと喚き散らすな。今対策を考えるから…いや、そもそも僕ってば働きたくないでござる派だから、むしろこれはラッキーなのでは?ほら、動かざること山の如しって言うし。
「…もう、シンバ国王に事情を説明して報酬を貰い受けるのが一番じゃね?」
とかなんとか言いつつも考える僕は、ヒキニートの鏡だね!単純に体動かしたくないだけだけど。
「シンバ国王様、に?それは無理じゃないでしょうか」
「なんで?」
「もう馬車に乗ってしまいましたし、戻ったところで王室にいるとも限りません。第一、一国の王が個人に金品を渡すなんて…国民の信頼はガタ落ちですよ?」
「あぁ、そうか……」
それは困る。今シンバ国王が王位剥奪になれば、僕の美味しいご飯計画が崩れ去ってしまうからな。
「あれ?じゃあまた金欠?おいおい冗談はよせよ……」
これなら、開拓発案者としての報酬を強請っておけば良かった。
なんて事を考えつつも時間は戻らない事に後悔をし始め、さらには一角馬に鞭が打たれようとしたその時。
「おーい、待ってくれ、ちょっと!おーい!」
王家の馬車を口頭で引き止めるなど、どこの阿呆だ。いや、しかしこの場合は例外に値する。何しろ、馬車を止めようとしたのは他ならぬシンバ国王なのだから。
「はぁ、ぜぇ、ふぅ……行ったかと思ったよ」
「これが元の世界だったら名言だったのにな」
「何が?ヒコボシ殿は、なんの話をしているんだ?」
「いや、なんでもない。それで?何か用なのか?」
「うむ。ヒコボシ殿にはこれを渡そうと思っていたのだ。積荷護衛の名目のもと、私を護衛してもらった、礼にな」
手渡されたのは、一通の手紙のようなもので、一目で王家の手紙だと分かる様に、封をしている紅色の押し印には馬車と同じ紋章が付けられていた。
「…これは?」
「依頼の報酬だよ。もうギルドには鳩を飛ばしてあるから、後はその手紙を見せるだけでいい」
「依頼の報酬…」
「…いらないのか?」
「馬鹿言うな、欲しいに決まってる。ただ少し、思考が追いついていないだけだ。それで……報酬って言うと、僕が受けた商業隊護衛のアレか」
「そうだな」
マジかよやったぜ。シンバ国王は歴代最高の王様だな。誰だよ愚王とか言ったやつ。
しかし、ここで必要以上にせがんでしまうと、なんとも不恰好な事になる。さも当然の様にして、受け取ろう。
「そうか。わかった、ありがとな」
「礼には及ばん。労働者に然るべき報酬を与えるだけだ」
「じゃあな、シンバ国王。あんたは良い王様になれるぜ。愚王だとかもう思うなよ」
「そろそろ行きますよ、彦星さん」
「おう、わかった。じゃあまた、シンバ国王」
よっしゃ、報酬ゲットだぜ。これで貧困生活ともおさらばだ。え、根端が腐ってる?それは気のせいだ。
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王城から馬車に乗り、途中のギルドホールで報酬を受け取る。シンバ国王から受け取った手紙の中身だけが消え、空になった封筒そのものは僕の手元に返って来た。ギルド役員曰く、押し印付きの手紙は中身のみを受け取る決まりですので。とかなんとか。
付け加えて、受け取った額は三千Yだった。小子に聞けば、壱Y十円の価値だそうだ。まぁ、国の代表を護衛したとするなら妥当な額だろう。
そうして、朝食を食べる時間より一回り遅い時間に、最初の街に送られる事になった。いや、この言い方は少し違うな…正確には、送ってもらったのは街の少し手前。つまりは人工林に入る寸前までだったのだ。
「申し訳ないが、送れるのはここまでだ。行きと帰りで乗る馬車が違えば門兵が困るからな」
「はい、ありがとうございました」
「シンバ国王に、よろしく」
降りた場所から門の入り口まで三十メートル程だろうか。開けた視界なら肉眼でも門兵の顔が見えるが、今は何しろ人工林が邪魔で門兵より大きな門すら見え難い。
幸いにして、人工林に住み着くモンスターは中立的で、こちらから攻撃しない限り敵対する事が無いのは何と無く察していた。なので、このまま真っ直ぐ突っ切っても良いのだが……問題は門兵なのだ。ギルドカードを持っているにしても、帰ってくるのが遅すぎては色々聞かれる可能性が高い。
「都合よく誰か通ると良いんだが…上手い言い訳が思い付くわけでもないし……」
「正直に話せば良いじゃないんですか?」
「そんな事してみろ。一気に特別待遇扱いになって命を狙われる危険があるんだぜ?そうなると、ギルドにかくまわれる事にもなるし、下手すりゃ頭の先から足の爪先まで調べられまくって召喚者だとバレるだろ?そうなって困るのは僕と小子なんだぜ?」
「そ、そんなに言わなくても……すみませんでした」
全く、恐ろし事を言い出すな、小子は……あ、そうだ。
「小子、ちょっと服脱げ」
「ファッ!?」
「良いから良いから」
「こんな朝早くから何を言っているんですか!流石に怒りますよ!?」
「別にとって食おうなんて思ってないから」
「それはそれでひどい!」
「小子のスタイルなら門兵に色仕掛けでどうにでもなるだろ」
「なりませんっ!何言ってんですか彦星さんっ!そんな恥ずかしい事…出来る……わけが………ない…です」
色仕掛けする自分を想像したのだろうか。小子の声が次第に尻すぼみしていく。おまけに耳まで真っ赤にして、あざとい。
「冗談だ。脱がなくて良い。仕方ないから、アドリブでどうにかしよう」
その場で地団駄を踏んでも意味が無いので、とりあえず僕達は人工林を抜けるのだった。
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さて、ここは裏路地のスラム街。彦星とマキが訪れた、例の鍛冶屋が建つ並びだ。
日付けとしては、小子と彦星が依頼を受けた翌日だ。
その鍛冶屋の頭領であるリュウガは一人、錬成釜の前に座り込み、うんうんと頭を捻らせていた。
「駄目だ。脆すぎて、あいつが見せた業物の足下にも及ばん」
あの時見たあの剣、恐らくは包丁と良く似た使い方だろう。従来の叩いて切る大剣とは違い、文字通り肉を分断する為に造られている。
「やっぱ強度が足りねぇ。持って歩く事に関して言えば支障は無い、が…いざ使うとなると、薄すぎで折れちまう。かといって、柔らかい金属を使うと切れん。どうしたもんか……」
もう何年も鉄を打ち続けるリュウガは、感覚的に焼けば焼くほど硬く、脆くなる事を知っていた。逆に言えば、純粋な鉄は柔らかい。
リュウガは一度、錬成釜の前を離れて店番をする事にした。考えが煮詰まったり、気が立って気分を変えたい時などに、リュウガはいつもそうするのだ。
「…ヒマだ」
いや、ヒマで当たり前か。ここの連中は貧乏だから、わざわざ刃が欠けたくらいで打ち直すなんて事はしない。
リュウガが店でする事と言えば鍋やフライパンの修理が主で、あとは十五センチ四方の砥石を売ることだ。少々包丁が欠けた程度なら自分で研げるし、打ち直しを頼むよりかは安く済む。もちろん、研ぎすぎて新しい包丁を買う奴もいるが、そんな客は一ヶ月に一人か二人だ。たまに来る大きな依頼は、大体がマキの武器修理。
「…まぁ、ヒマなのは良いことか。ここんところ、通りで喧嘩…なんてのも聞かねぇし」
と、一人でする事も無くうたた寝でもしようかと椅子を出す。腰を下ろし、いざ寝ようかとまぶたを閉じかけた時、店の鉄扉が開く音が聞こえた。
「リュウガってうわ!何、具合でも悪いの?」
「…んだよ、マキか。体調は最高だが、少し眠くてな」
「そうか、なら良かった。ところで、例のアレは出来たのか?」
「…まだだ。材料の問題か俺の腕の問題かは想像に任せる。それで、何か用か?」
「うむ。リュウガにこれを見てもらおうと思ってな。東の辺境から来た商人に買わされたのだが、どうやら鉄粉らしいんだ。確か、サテツと言っていたな…鉄の砂と書くそうだ」
「…見せてみろ」
マキは後ろに背負ったバックパックから茶色い麻袋をでん、とカウンターに置く。音からして、内容量は一キロ半から二キロ…と言ったところか。
椅子から立ち上がって、麻袋の中を覗き込む。中には黒い粉が入っており、ただの鉄粉では無さそうだった。
「…どうだ?」
「……鉄粉だな」
「あたしは、騙されたのだろうか?リュウガの工房に落ちているクズ鉄と、なんの違いも無さそうなんだが」
「いや、アレは一度溶けた鉄の粉だが、これは純鉄の粉だ」
「…アタリかハズレで言うと?」
「大アタリだな。普通の鉄ってのは、大体石と混ざって掘り出される。それを一度溶かして鉄塊にするわけだ。もちろん、その時点で純鉄じゃあ無くなるが。なぁマキ、この鉄粉譲ってくれねぇか?なんなら、買い取っても良いぜ?」
「いや、リュウガにやるよ。元々、そのつもりで持ってきているんだ。それで、例のアレを作ってやってくれ」
リュウガは二つ返事で引き受ける。しばらくカウンターに座っている間、ずっと作り方を考えていたのだ。そしてリュウガは思いつく…部分によって強度が違うなら、分けて打てばいいと。
つまり刃は刃、峰は峰で別々に打ち、それを後で繋げるという離れ業ではあるのだが。
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「…うし、やるか!」
錬成釜に火を入れ、時間を掛けて火力を上げる。火の色を見つつ、マキに貰った鉄粉を粘土の容器に入れて投入。溶けて一体化したら、一度出して固める。
固まったら、そこから卸し鉄をする。そのままでは打つのに適した強度にならないので、炭素を含ませたり抜いたりして調節するのだ。
それが終わったら、次は水減しをする。降し鉄で出来た鉄塊にも、良い所と悪い所があり、それを選別するわけだ。簡単に言うが、これが一番難しい。いきなり強く叩くと砕け散るから、低温でゆっくりと熱し、軽く打ちつつ馴染んできたと思ったら一気に火力を上げる。そうして薄く伸ばし、焼き入れすると、炭素を含みすぎた部分がはがれ落ち、使える部分だけが残るのだ。
その後は、小割り、積み重ね、積み沸かし、と言った作業をし、ひたすら鍛錬、鍛錬、鍛錬………。
気付いた頃には月が西に沈みかけ、新たな夜明けが迫っていた。
「もうこんな時間か……」
深いクマを目の下に刻みつける所を見ると、一睡もしていないのがよく分かる。
ちらりと、リュウガの目の前に置かれたソレに目線をやり、手を伸ばす。
「…もうマジで死にそう……だが、今ならなんでもやれそうな気がするぜ……」
まだほんのり暖かいソレは、つい三時間前に完成したのだが、本当の意味で言えば未完成である。だが、リュウガはフラフラと工房を後にし、別室に置かれた寝具の上で横になると、糸が切れたように眠るのだった。
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目覚めたのは、昼過ぎ。寝ぼけた眼を擦りつつ、工房に行く。まだ、鞘と鐔と柄が出来ていないのだ。
「リュウ兄ぃ!」
工房に人影が見え、その人はリュウガの名を呼んだ。リュウガの事をリュウ兄ぃ、などと呼ぶのは一人しかいないが。
「…トラか。久々じゃねぇか?」
「トラちゃう。タイガや。なんべん言うたら覚えてくれはりますか?」
「だからトラだろ。それで、今日は何の用だ?」
「えっとですね、この剣に属性を付け足して欲しいんですわ」
「あのな、何回も言うが、俺はその仕事はもう引退したんだよ」
「そない白状な事言わんといてくださいよ。フツーに売っとる属性剣やと合わんのですわ。リュウ兄ぃのやないと」
「……ったく、もうこれで最後だからな?」
「あざっす!」
「属性は?前と同じか?」
「…二属性同時付与とか、出来ひんやろか?」
このクソガキが…また無茶苦茶な要求しやがって……まぁ、今の俺なら出来そうだがな。
「ぶっ壊れても知らねぇからな。保険も下りねぇぜ?」
「そん時はリュウ兄ぃが新しいのを打ってくれると信じて疑わない。今までがそうやったからの」
「ほざけ。それで、属性は?」
「火と風」
「じゃあちょっと待ってろ」
工房を一度出て、さっきまで寝ていた部屋に戻る。ベッドの下に手を伸ばし、ホコリのかぶった小箱を取り出した。中には、年季が入って黄ばんだ一本の杖が入っている。
トラの口から属性がさらっと出るあたり、事前に考えてやがったな。抜け目のない奴だ。
再び工房に戻ると、トラは打ち台に置かれた例のアレを見つめていた。
「トラ」
「ん、リュウ兄ぃ。なんやこれ」
「依頼品だ。マキが連れてきた新人に頼まれてな」
「マキ姉ぇ……その依頼主、ヒコボシとか言うとらんかった?」
「あぁ、そうだ知り合いか?」
「ちぃとだけな。適性検査ん時にやり合った仲や」
「そうか」
リュウガは、もうそれ以上の事に興味がない。トラの持ってきた剣に属性を付ける事で頭がいっぱいなのだ。
まずは、手頃な大きさの鉄クズを二つ用意し、その一つに火の刻印を描いた。単純に言えば、その裏に描けばいいのかもしれないが……同じ物質に二つの魔法を掛けるのは、学問的に無理だと証明されているのだ。なら、違う物質に風の刻印を描いて貼り付ければいい。
刀の打ち方と同じように、リュウガは複数のパーツで一つの剣にするという事を、この時学んでいたのだ。
「…んで、ここをこうして……トラ、ちょっとここを支えてろ」
「おうわかった」
二枚目に風の刻印を描き、それを表と裏で刻印が外向きになるように、ハンマーで叩いて接合する。出来た双属鉄……今考えた……をトラの剣に、これまた無理矢理ハンマーで叩きつける。もちろん、予想通り剣が砕けた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!!」
「…やっぱ無理か……」
「ちょっと考えたらわかるやろ!なにすんのかなー思うて見てたら案の定やないか!」
「まぁ怒るなよ。新しく打ってやるから」
「ホンマやろな。嘘やったら承知せんで?」
「ああ。だが、こっちが先だ。ヒコボシの剣に鞘を作らねぇとな…」
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その後、色々と試行錯誤を繰り返し、鞘と柄が取り付けられた。鐔はどうしても作る事が出来ず、仕掛剣にする事になった。まぁ、こんなに珍しい形の剣を見せびらかすように歩かれても困る、と言う言い訳付きだが。
トラの剣は初めから作り直した。双属鉄の大きさを目安に、余った鉄粉を少々使いつつ仕上げる。こちらは作り方を熟知しているので、比較的早く出来た。
完成した双属剣……やっぱり今考えた……を背中に刺し、トラは代金を払ってリュウガの工房を後にする。
「……っあぁ…疲れた。依頼品は完成したし、一人で打ち上げ会しようそうしよう」
店の前にCLOSEの看板を立て掛け、リュウガは同じスラム街の立ち飲み屋に足先を向けた。
……さて、誰もいなくなったリュウガの工房。その鉄クズ置き場には、折れて使えなくなった剣や製造する過程で長さ調節に切られた鉄板などが置かれている。その中に、今日砕いてしまったタイガの剣があった。
ごとり、と音が聞こえ、持ち手の部分から徐々に刀身が生成される。周りには上質な鉄が沢山あり、それらを使って剣は自己再生を始めた。しばらくしてリュウガが戻って来る頃には、完全復活を遂げていたのだ。
「…ぅ-ぃ……とと、あぶねぇ、飲み過ぎちまっらで…へへ」
べろべろになるまで飲んできたリュウガは、火の元確認の為に工房を訪れる。ふと見た鉄クズ置き場に、元の姿を取り戻したタイガの剣の姿を見た。
「あんれ、なんでこんなトコに売り物が?置き場所間違ったかな?」
その剣を持ったまま千鳥足で店の陳列棚まで行き、飾る。
そして、そのままの足取りでリュウガは寝室でいびきを欠きながら寝入ってしまい、翌朝になれば昨夜の記憶など無く、元々のいい加減な性格もあってか、鉄クズ置き場から陳列棚に飾った剣の事を、思い出すことは無かった。
ご愛読ありがとうございます。