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#77 神になった魔王

最近は伏線とか説明回とかで一枚のプロットがとんでもない大きさに……

というわけで、しばらくコマ割りのアイツは出て来ません!


▪︎<マジカヨ

「僕は神を殺す」


 まるで当たり前のように言い放たれた彦星の言葉を、それぞれがそれぞれの思考と意向で聞き、理解し、飲み込んで。全員が同じタイミングでティーカップの中身を飲み干し、ほうと一息。


「すまぬなユーヒコ。どうも年を取りすぎて耳が遠くなったらしい」

(わたくし)も、ヒコボシ様のジョークには慣れておりませんので」

「彦星さん、申し訳ありませんけれどもう一度聞きますね?」


『誰が誰を殺すって?』


「僕が神を殺すんだ」


 給仕係のメイドさんが新しいお茶をティーカップに注ぎ、お茶菓子のクッキーに僕は舌鼓をうちつつ、さらなる休息を満喫するのを確認して。


「皆さんどう思います?」

「うむ、アホとしか言いようが無い」

「大丈夫です。私はどんなヒコボシ様も受け入れます」

「いや、そんな突然可哀想な人を見る目はやめてくれませんかねぇ?」

『じゃあどうしてそんな発想に{なるんですか・なる・なられるんです}!!』

「……えぇ…」


 あ、あれぇ?もしかして誰も気づいていらっしゃらない?こんな『超不自然な』世界に??……あっ、アレか?ひとえに認識の違いってヤツぅ?


「あぁ、殺す神は獣人の知る神じゃねぇよ?人が今信じてる神だからな?……厳密には神じゃねぇんだが」

「問題はそこでは無い!そもそも神が実在しておるのか!?おとぎ話であろう、そのようなもの!」

「そ、そうです!それに、私達獣人が信仰している神は伝説です最強です誰も敵わないです!仮に人族の信仰する神が実在していたとしても、絶対に敵わないです!」

『あ、神は実在{する・します}』

『ショウコさぁん!?』


 神は実在する。この事実には僕と小子は確信を持って言えた。だって実際に会っているし。


「あと聞こえて無いみたいだからもう一度言うが、今人が信仰している神は、厳密には神じゃ無い……いや、挿げ替えられている。そもそも、神になるにはどうすればいいと思う?」

「……なれるわけ無かろう」


 残念ハズレ。なれるんだよ、簡単に。神や魔王や怪異にだって、簡単に。


「なれるんだよなぁコレが。ではここからは三分クッキングの時間だ。用意するのは依り代たる『器』と有象無象の『心』と大規模な『時間』。まず心を持った有象無象が、器は神であると『心の底から』思う。すると器は『神格』を宿し、あとは時間をかけて神格に『信仰』を注ぐだけ。で、完成した神が頭上に君臨しております」

「……意味がわからん」

「よーするに『信じる者は救われる』っつー話よ!しかぁーしッ!現実問題信じた所で救われるはずもなくッ!いつだって人は一人で勝手に助かっていやがるッ!実際そうだしそのとぉーりなのだがッ!な、の、だ、がァッ!!」


 本当にその事を理解して生きている奴は少なく、少ないからこそ詐欺師やペテン師という奴らが堂々とオテントサマの下を歩ける世の中になっている。


「……悲しきかな、神と呼ばれたそいつは『本当に助けてしまった』のサ。一人で出来る事をわざわざ負担して、やらなくてもいい事を全て背負いこんで。あげく、頼んでもいないのに横から口を出して……それこそ『悪魔の囁き』のように」


 神様はとても優しい。優しすぎた。助力を求めた人間が勝手に間違って勝手に恨んで妬んで『神』を『邪神』に挿げ替えた。神が不在となった世界は崩壊の一途を辿り、ついに概念から存在の消滅をしようとしたその時、新たな神が君臨する。もともとあった膨大な信仰をその身に受け、神と同等の権利を手に入れたそいつは神のように振る舞い、今もなお君臨している。


「だがそれはあくまで、信仰を手に入れ権利を取得した神とは別の生き物だ。本物より本物であろうとする偽物ならまだしも、本物にすらならないマガイモノは、容易に権利を剥奪できる」

「…その話が本当だとして、なら本物の神様はどこにおるのだ?」

「ずっと前からこの世界にいて、常に神と正反対の奴がいるだろう?」

「……わかりません」

「おいおい、僕は言ったよな?『信仰されれば神になれる』と。ならばその逆も然りだ」

「……まさか」

「そう、そのまさかだぜ小子。たとえ神だろうと虫だろうと『魔王の信仰をその身に受ければ魔王になる』」


 つまり天は地に、暗は明に。世界の理が真逆に反転し、それでも正しく世界は機能する。ありえるか?あり得るはずがない。正常に作動しながら機構は逆回転している機械は、いずれ不具合を起こして二度と動かなくなる。そうなったらオシマイだ。


「神を殺す。正しくは信仰を受けている神格を剥奪して魔王の信仰を受けた魔格を押し付ける」


 ここまで一気に話し終えて、僕はぬるくなったティーカップの中身を飲み干す。


「ところでこのハーブティー美味しいんだけど、何のハーブ使ってるの?」

「今そのような事を聞く流れでもなかろう!?」

「……え?」

「…ショウコ殿、おかしいのは我なのか?我の感覚が変なのか?」

「大丈夫です、彦星さんは空気とか読まない人ですから。あと真面目な話も空気も苦手で心の中では今すぐ逃げたがってます」


 えぇ?ひどいなぁそんなわけないじゃないか。おっと失礼膝がガクガク震え出したけど気にしないで下さいやがれます。


「……勝算は?」

「…んぐ、ごめんなんだって?」

「勝算はあるのか?」

「…………現状は無いよ。言ったろ?準備も作戦もまだだって。そもそもこの話を信じるかどうかも別の話だろ?」

「我は信じておらん」


 だよなぁ。僕だっていきなり神とか魔王とかの話をされたって信じないもの。


「信じておらんが……だが、我はユーヒコを信じておる。娘を預けるのだ、信頼して当然だろう?」


 獣王は席を立ち、客室の扉に手をかける。


「……だがまぁ、勝ち目の無い戦いをするほど我も阿呆では無いのでな。改めて話を聞かせてもらうとしよう」


 そう言って獣王は客室を出て行った。何か、やるべき事が出来たような顔をして。


「ではヒコボシ様、私もそろそろ席を外しますわ」

「そうか。じゃあ少し部屋を使わせてもらうよ?」

「はい、何かご用があれば外のメイドに申し付けてください。……ところで、夕食は召し上がって行かれますか?」

「……そうだな、頂くよ」

「っ……!腕によりをかけますわ!」


 腕によりを……?オリヒメが作るのか?僕も手伝った方がいいのか……?いや、ここはひとつお言葉に甘えるとしよう。

ご愛読ありがとうございます。

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