#7 夜明け
結局シンバさんは見つからず、再び一角馬の元まで帰ってきていた。
「もうさー、これ僕達が操縦して帰った方がよくね?」
「何をぶーたれているんですか。ダメに決まってるじゃないですか」
「あ、やっぱし?」
もうすぐ日も暮れて、完全な夜の闇が訪れる。道行く人々は、家に帰るか飲み始めるかのどちらかで、兎にも角にも表の大通りでさえ人気が無くなってきた。
「…なんだか飲みたい気分なんですけど」
「ダメです。どのみち今日は帰れない事は分かっているんですから、どこかで寝泊まりしないといけないんですよ?」
「飲み明かそうぜ?」
「ダメです。ダメったら、ダメなんです」
ちぇ、面白くもない。
「じゃあさ、どこに泊まるって言うんだよ。どうせほとんど無一文だろ?」
「ふっふっふ。甘いですよ、彦星さん。いい場所があるじゃないですか」
「どこに?」
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「いやぁ、まさかこんなに早く再会出来るとは。世の中は広いようで狭いもんですなぁ」
「本当に、そうですねぇ」
ここがいい場所かよ。さっきの孤児院じゃねぇか。
「いやいや、ただ単に戻ってきただけだし。狭いとか広いとか関係ないし」
「…それは言っちゃいけないと思うんですよね」
「…して、彦星殿はなぜまたここに?」
「ん?…あぁ、寝床を貸して欲しいんだよ。人探ししてたら日が暮れちまって…」
「それでしたら、構いませぬよ。ちなみに聞くのだが、探しておる人の名は?」
「シンバ、という人らしいです。偽名の可能性がありますけど」
「……」
シンバ、と言う名前を聞いた時、神父さんが一瞬だけ強張ったのを、僕は見逃さなかった。この人は、何か知っているのだろうか?
「…いや、心当たりありませぬな。申し訳ない。それで、部屋じゃが……二階の好きな部屋を使ってくだされ。階段は、この部屋を出て左の突き当たりじゃ」
「ありがとうございます…ところで、子ども達がいないみたいですけど」
「あの子たちは今、食堂で夕食を食べておるのじゃ。良かったら、彦星殿達も、どうじゃ?」
「…気持ちだけ受け取っとくよ。僕達は自分のがあるからな」
「そうか。それは残念じゃのう」
ついさっきお別れをした手前子ども達に会うのは面倒だったので、全員が食堂に固まっている隙に、階段を上って好きなな部屋に入って行く。どうせなら窓付きが良いと思い、朝日が差し込みそうな部屋を選んでおいた。
「なぁ、小子」
「なんですか?」
「…神父さんのあの反応、どう思う?」
「どう、とは?」
「シンバさんの名前を出した時の反応だよ。少しおかしかっただろ?」
「…そうですか?」
気付いてなかったのか。
「…はぁ……本当に、お前は…もっと相手の表情を見て、何考えてるかぐらいは分かれよ」
「出来ますよ。バカにしないで下さい」
「ほほぉ、じゃあ僕が今何を考えているか、分かるのか?」
「はい。えぇとですね…………お腹空いたなぁ、って考えてます」
「はいペチ」
「ペチ!?」
「答えはな…こうだよ」
なんの前触れもなく、自分の片手を小子の胸元に伸ばす。
「ひっひゃあ!?」
「僕が考えていたのはな、どうやって小子に罰を与えるかを考えてた、だ」
「ちょ、ひっ、彦星さんっ!?」
「いい加減な、小子は人を疑うって事を覚えろってんだ。これ何回目だよ、言うの」
「そんなっ、のぉ…覚えてませんっ」
伸ばしていた手と違う方の手も伸ばす。
「あっ…」
「覚えてないって事はな、それだけ言ってるって事なんだよ。小子からすれば言われてるって事なんだよ」
「〜〜〜〜っ!」
小子は立っていられなくなり、膝から崩れ落ちる。
「…さて、もう一度聞くぞ?シンバさんの名前を出した時、神父さんは一瞬だけ強張りました。どう思う?」
「はぁ、はぁ…っはぁ……嘘を、ついて、いる…」
「はい、よくできました。では次の質問、なぜ知らないと、嘘をつく必要がある?」
「……私達に知られてはいけないと、判断したから」
「その通り。じゃあ追加で質問、国レベルで保護されている教会が嘘をつくのは、どんな時?」
「…国家機密性の高い時」
「だな。なら最後の質問…それに関わった僕達の、行く末は?」
「………最悪、死刑…ですか?」
「明日の早朝、日が昇るより早くここを出るぞ。一角馬を操縦して帰るつもりだが、一応徒歩で帰る事も頭に入れておけ。分かったら、さっさと寝ろ。僕はもう寝る、おやすみ」
ご丁寧に設置されているベッドに横たわり、さっさと寝息をたて始める。小子は、言われた事を一度噛み砕いて理解し、彦星と同じベッドで横になったのだった。
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翌、早朝。東の空が白ばみ始めるより、少し早い時間帯。
全身を白の防具で武装した五人の集団が、孤児院の二階…とある一室の前で待機していた。
そのうちの一人が、侵入の合図を送る。合図を受けた他の四人はゆっくりと扉を開け、足音を立てずにベッドを取り囲んだ。
二人分の膨らみを持った布団に手を掛け、一気にめくると同時に、それぞれの剣を突き刺した。
「「「「…!?」」」」
「……むにゃ」
まず、布団の中にいたのは女が一人。ただし、不思議な障壁に守られ、剣は通じなかった。もう一つの膨らみは、枕と女の胸を器用に合わせた形で、いわゆる偽物だったのだ。
「……“縛”」
四人の背後から、光のような線が襲いかかり、体の自由を奪う。
「よく訓練されてるなぁ…何が起きても声ひとつ出さないのか」
部屋の入り口、入ってすぐの壁際に、彼等の目標の一人が立っていた。孤児院の扉は押戸なので、開いた瞬間はそこだけ死角になるのだ。
「…っぐ……貴様ァ」
「悪いけどな、今お前らと殺り合ってる時間は無いんだわ。じゃあな。その拘束魔法、あと十分は解けないから、諦めろ」
「……〈煉獄より出でし漆黒の焔よ…その全てを焼き尽く〉…っ」
演唱が済むより早く、光の線が口をふさぐ。
「あっぶねぇ、そこは盲点だったわ。他の三人の口も、ふさいでおくか」
「……っ!…っ!!」
床の上でもがく四人を越えて、小子の体を揺さぶる。
「おい、起きろ。小子が寝坊するから襲われたじゃねーか」
「…むにゅう」
「……はぁ、仕方ねぇ、担いで出るか」
「そうはいかない」
後ろから声がし、振り返ると、扉の前にもう一人が立っていた。
「大人しく我々と来て頂こう〈ヒコボシ・ユーカワ〉。貴殿は国王陛下に呼ばれている。我々とて、血を流したくは無いのだよ」
「そういう割には、随分と物騒な朝這いじゃないかよ、えぇ?借り物の枕に穴まで開けてさぁ」
「…どうやら、力尽くで連れて行くしか無いようだ」
「僕としては、一分一秒でも早く帰りたいんだけどな」
狭い部屋の中を、男が凄まじいスピードで駆けたかと思うと、もう間合いを詰められた。横から飛んでくる斬撃を寸での所でかわし、尻餅を着く。今度は真上から振り下ろされる大剣を横回転で避けて、体勢を整える。
「ほう、見掛けによらず素早いのだな」
「…大分ギリギリだけどな。悪りぃが、無力化させてもらう。“縛”」
宙に描いた文字から、複数の光の線が出て行く。それぞれが両手両足に絡みつき、更に上からグルグル巻きにされた。
「なんの」
瞬間、眉間に青筋が走ったかと思うと、光の線は粉々に砕け散った。
「…うそん」
「ヤワな鍛え方はしてないんでな。この程度、屁でもない」
「…あぁそうかよ。僕は平和主義だからな、こういうのはあんまり好きじゃないんだが……」
“刀”と宙に書くと、それが具現化して武器になる。だが、今回はその武器に追加で“重”を書き加えた。刀は少し重くなったが、果たして目的の能力は付いたかどうか……。
「お互い、痛い目見ないと分からない時ってあるよな」
「今がその時、だがな」
一定の距離を置いて、それぞれの剣を構える。丸い弧を描くように部屋を一周した時、床で拘束されていた人達の体に自由が戻り始める。それに一瞬目を奪われた隙に、男が斬りかかってくる。それを冷静に弾きつつ、彦星も突撃した。剣と剣が交じり合う度に、相手の装備は重みを増していく。
「…うぬっ…く……」
「おいおい、動きが鈍くなってるぜ?もう歳なんじゃねぇの?」
そうして、弾いた剣に大きなスキが生まれた時、真っ直ぐ相手の脇腹目掛けて突進し、そして…相手の背後まで走り抜ける。
「なにっ!?」
「じゃあの」
未だ眠っている小子を片手で肩に担ぎ上げ、振り向きざまに刀を振る。その切先を起点に、目的の能力…即ち“重”が発動した。やはり、一文字につき一つの意味…というわけでは無いようだな。
勢いに任せて、僕と小子は窓を蹴破り、そのまま壁面を走って逃走を始めた。元々そういう算段で立ち位置を調節していたのだ。生まれて初めて壁走りなどしたが、正直作り出した重力の範囲が狭く無くて良かった。
「…んぅ?あぁ、おはようございます、彦星さん」
「遅えよ!もっと早く起きてれば、襲われずに済んだってのに!」
「……襲われ…?誰にですか?」
「なんか白い装備した奴らだよ!っていうか自分で走れ!」
具現化させた刀を捨て去り、今度は自力で低い壁を乗り越える。捨てた刀は地に着く前に光の粒子となって消え去った。
「白い…って!それ直衛騎士じゃないですか!そんなのに襲われたんですか!?」
「そうだよ……ふぅ、とりあえずここまで来れば大丈夫かな?…っと」
肩から小子を下ろし、一息つく。
「…んで?騎士隊って?」
「…知らないのに頷いたんですか……良いですか?まず騎士隊は護衛する物や人物などによって色分けされています。見習い騎士は緑、国民を守る駐屯騎士は紫、街そのものを護衛する憲兵騎士は茶、そして王家の血筋を守る直衛騎士が白、という風に分かれているんです」
ただし例外もありますけど、と最後に付け加えて。
「…ってことはなんだ、僕達は国家反逆者か?」
「そういう事になりますね」
「うっわぁ、マジかよ面倒臭ぇ……」
そうと知ってれば黙って連行されたのに…無抵抗なら、命までは取られないだろうからな。
「…どうしますか?出頭しますか?」
「バカ言え。逃げるに決まっているだろう?とりあえず、あの一角馬の所まで走るぞ」
「…なんか、もう既に先回りされている気がします……」
その道中は、特に何事もなく一角馬の所まで来る事が出来た。そう、道中は。
「おはよう、ひこぼし。まってたよ」
「……リン」
「そっちのおんなのひとは、ひこぼしのしりあい?」
「…僕の嫁だ」
全身を黒で統一した、漆黒の勇者。その名も〈トウガキ・リン〉。僕達の乗るはずだった一角馬は一頭も残っておらず、代わりに勇者リンと僕達を乗せるために用意したのだろう、王家の紋章入りの馬車が一台止まっていた。
「ひこぼしってけっこんしてたんだな。いがいだよ」
「うるせえ。って言うかそこ、通してくれないか?」
「…ごめん、それはむり」
「何でだ」
「ひこぼし。きみは、国王陛下によばれているんだよ?いっしょにきてほしいな」
「断る。ついさっき直衛騎士に一泡吹かせてやったんだ。もう国家反逆者と同じだよ」
「…あいつら……つれてきてっていったはずなのに…」
「何だって?」
「なんでもないよ。そもそも、おれはもしものときにそなえて、はけんされているんだ」
なるほど、つまり初めからこうなる事は予測済み、と。こりゃあ勝ち目無いかもな。
「…例えば、ここでリンを倒して先に進んだ所で、僕達の罪が増えるだけ…だよな?」
「うん」
つまり、門の外には兵士が待ち伏せしている、と……。
「…なるほどなぁ……いいぜ、降参だ。拘束するなり首を跳ね飛ばすなり、好きにしろ」
「彦星さん!?」
「大丈夫だ。誰も殺していない以上、即刻死刑は無いだろうからよ」
「ありがとう、ひこぼし。じゃあ、このばしゃにのってくれるね?」
「…あぁ、いきなり崖から馬車ごと突き落とす、なんて事が無ければな」
彦星は意地悪を一つ吐いてから、大人しく馬車に乗り込んだ。小子も、僕と一緒に行く事にしたようだ。馬車は二人乗りだったので、リンには外の馬に乗ってもらう事になる。
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揺れる馬車の中、僕はポケットからある物を取り出し、どうするか考えていた。
「なんですか?それ」
「…ん、これか?アレだよ、伝達器具にしようとして失敗した石」
「あぁ…あの石ですか」
「あれから色々考えてな、新しく書き足してみたんだ」
持っている石を一つ渡し、書いた文字を見せた。書き足されていたのは “送” “受” の二文字で、今度はより具体的な使い方が想像できた。
「まぁ、さしずめ石ころケータイ改…って所だな」
「そうですね、これなら分かりやすいです。どうせなら、数字も書き足しませんか?」
「あ、なるほどな。ケータイみたいに入力ボタンみたいなのがあると便利だもんな」
早速、石に字を書き足す。一応、ただの数字じゃなくて漢数字を書いた。適当な位置の左上から壱、弐、参と記入し、今度は壱の下から四、五、六……と言った具合に並べ、最後の零は八の下に書き加えた。
「これでどうだ!」
「流石です、彦星さん!これなら私にも使えますね!」
「ふふん、褒めても、いいんだぜ?」
「…で、アドレスは?」
「…………………」
「肝心な所、抜けてますよね。いつも」
「いつも違うもん!たまにだもん!一日置きくらいだもん!」
「それを、頻繁と言うんです」
口を尖らせつつも、ひとまず適当な番号を七桁ほど考えて、それぞれの石に記入する。
「これなら文句無いよな」
「えぇ…あとは、通話テストですね」
小子の方からこちらに伝達しようとしている。数字ボタンから僕の番号を入力し、最後に“送”を押した。その数秒後、僕の持っている石が淡く光り輝き、ついでに“受”の文字も色濃く光る。光っている文字をタッチし、今度はその石を耳に当てた。
『…もしもーし』
僕のすぐ横にいるにも関わらず、まさかのそのチョイス…あれ、この子ひょっとして天然?
まぁ、それはともかくとして。通話テストは無事成功したようだ。
完成した石ころケータイ…長いので、イシケーとでも略そうか。完成したイシケーはそれぞれが一つ持つ事になった。盗難を避けるため、人前ではあまり使わないとの約束を交わして。
やがて馬車は止まり、乗車口が開かれる。外には、僕達を襲った白い装備の直衛騎士が数名と、漆黒の勇者であるリンが道を作っており、その中を一人の男が歩いてきた。
「…あっ」
「やぁ、悪いね。大分遅れてしまって」
「し、シンバさん?どうしたんですかその格好は」
「ん?どこか、変かな?」
「いや、変…と言われれば変ですけど」
その時シンバさんが着ていた服は、なんていうかトランプのキングをそのまま着せたような格好をしていて、正直に言うと全然似合っていなかったのだ。
小子は、今目の前で何が起こっているかを半分ほど理解していたので、それ以上は何も言わなかったのだが。
「なんだよ、その格好は。もう似合ってるとか似合って無いとかを通り越して悪寒が走るレベルだぜ?」
「ちょ、彦星さんッ!何て事を…」
「いいんだよ、ショウコ殿。似合ってないのは、私がよく分かっているのだよ」
「し、しかし…その……」
「…?……どうしたんだよ、小子。シンバさんの変な格好で腰でも抜けたか?」
「まだ分からないんですか、彦星さん。今目の前のこの方はシンバさんであってもシンバではないんです」
「……はぁ?何言ってんだよ」
とうとう頭が壊れたか?原因があるとすれば、僕が小子の胸を揉みすぎた事くらいか。ならば逆に、揉めば治るかな?ショック療法で。
「…そおい」
「……どうして彦星さんはこの状況で私の胸を揉むという行動に出たのでしょうか」
「いやぁ、ついに小子が壊れたかと思ってな。揉んだら治るかと」
「治りませんし壊れてません。私は至って正常です」
「じゃあ説明してくれ。この人がシンバさんじゃないなら、一体誰なんだよ」
「…この辺り全てをまとめる最高責任者、国王陛下……ですよね?」
「その通り。私が〈イマニティア王国〉の第十三国王〈シン・ドバッド〉だ」
へぇ…国王………へ?国王って言うと、あの国王?
「…いや、ちょっと待ってくれよ?少し頭の整理をさせてくれ……えぇと、それで、小子。そのイマ…ナントカって言うのはなんの事だ?」
「イマニティア王国、です。彦星さんが最初に目覚めたあの街も今いるこの街も、一つの国家として存在しているんです」
「…ふんふん、なるほどな。街の役割とか物資の都合で人の集まりに偏りが出てきたんだよな。その集落が時間をかけて都市に成長したのか」
「そうです」
「…んで、ここはその集落群の首都だと」
「はい」
「……で、シンバさんはそれらの頂点に君臨する国王、だと」
「君臨って……まぁ、そうですね」
「…ひょっとして今、僕って生命の危機にさらされてる?」
「………まぁ」
あ、これ死んだな。うん、もうダメだ。せめて死ぬ前にハンバーガー食べたかったな。ポテトLセットのプレミアムコーヒーで。
「はっはっは、心配しなくとも命は取らんよ」
「命はって…タマでも取る気かっ!?」
「いらぬわ!どうせ取るならショウコ殿の胸を取りたいわ!」
「えぇっ!?」
「諦めてくれ、小子。それで丸く収まる」
「私が収まりません!っていうかそろそろ私の胸から手を離して下さい!」
「女子が胸だのなんだの騒ぐなよ。男ウケはいいが同性ウケは取れないぜ?」
「誰のせいですか誰のっ!」
僕の手を手刀ではたき落とし、殺気立った猫のような声を上げる。かわいい。そして痛い。
「おぉ痛ぇ。冗談だよ、冗談。小子は、僕が守るから」
「ひ、彦星さん…」
「じゃないとサービスシーンが見せられないだろう」
「期待した私の心を返して」
「…あの、そろそろいいかの?」
え、あ、シンバさん…いや、シンバ国王…じゃなくて、シン・ドバッド国王様、忘れてました。
「な、なんでしょうかシン・ドバッド国王様」
「そんなに畏まらないでくれ。私は、今までの国王と比較しても、最低の愚王なのだから」
自分で言ってちゃ世話ねぇや。あまり自分を蔑むのは悪いことなんだぜ?
「聞いたぞ、教会の神父殿から。何やら世界を変えるなどと言っておったそうだが」
「え、えぇまぁ。そんな事も言ったような言ってないような……」
「ここは寒い。日もまだ昇っておらんからな。まずは中で話を聞かせてくれ」
「アッハイ」
東の空が、白く照らされ始めた。間も無く、夜明けである。
ご愛読ありがとうございます。