#69 Aクラスの奮闘 その4
合同授業現在の得点
一年Aクラス三五点
一年Bクラス二九点
一年Cクラス十七点
一年Dクラス二八点
二年Aクラス六三点
二年Bクラス五八点
二年Cクラス六十点
二年Dクラス五九点
三年Aクラス九十点
三年Bクラス九一点
三年Cクラス九十点
三年Dクラス九十点
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電光掲示板ならぬ魔光掲示板に表示された得点一覧表を見つつ、授業の様子を空想する。
「……三年は一時的同盟、二年は多分大物狙いだな。一年のコレは……奇襲でも仕掛けたか?」
さすがと言うか、実際に見て来たように考察する彦星は、ひとり納得した表情をしてから自分の仕事に戻った。
「ええと、魔法陣の点検に閉会式の準備。成績評価と目覚めた生徒のアフターケア。加えて明日の授業の準備と小テストの採点……あぁ、忙しい忙しい!」
そこのアナタ、学校の先生って授業だけしてお仕事が終わりだと思ってません?とんでもねぇ、猫の手も借りたいんだ。やる事は山積みでブラック企業もお手上げ状態。いや、ブラック企業より真っ黒かもね、この仕事。何はともあれ、動かない事には永遠に終わらないので、あくせく働きましょうか。
「……っと、あれは小子かな?」
見覚えのある身長……げふんげふん、背格好を見つけて、思わず声をかけそうになる。その横で、薄ら笑いを浮かべながら小子に話しかけるモードレッド先生を見なければ。
「…なんの話をしてるんだろ」
興味本位で聞き耳を立ててみると、どうやら小子は口説かれているらしかった。
「ショウコ先生、なぜ貴女のように可憐な女性が下衆なあの男と共にいるのです?」
おうおう下衆とは言ってくれるじゃねぇかよアァン?簀巻きにして学校から突き落としてやろうかァン?
「別に彦星さんは下衆じゃないですよ。ちょっと頭のネジが全部飛んでいっただけの人です」
それ、かなりヤバイやつじゃないですかね小子さん?
「人が丹精込めたチョコを本人の目の前で『不味い』と言い放ったかと思えばホワイトデーのお返しは何も無いですし、デリカシーは無くて鈍感の極みです」
もうやめて!彦星のライフはゼロよ!
いや違うんだ聞いてくれ小子。ホワイトデーのお返しはしてあげたかったが諸事情により達成不可になってしまったんだ。今更弁明したところで効果なんか無いけど。
「でも彦星さんは誰よりも優しくて勇敢で、誰かの事を第一に考えられる人です。そんな彦星さんだからこそ、私は好きになったんです」
……どうしよう。とんでもないセリフを聞いてしまった。ニヤニヤが止まらない。
「ですから申し訳ありませんけど、私は彦星さんと別れるつもりはありませんし離婚もしません。モードレッド先生が私の能力を買っていらっしゃるのは知っていますが、私は私のためだけに、私の幸福のためだけに使います」
「……やはり私には理解できないよ。彼は異端だ。魔法書に選ばれた貴女なら、わかってくれると思ったのですがね」
そうボヤくと、モードレッド先生はその場を後にした。
……ふぅむ、詠唱崇拝か。たしかに、規律と文化を尊重するなら、必要な詠唱なんだが。無詠唱は一定の技術が必要だからなぁ…詠唱自体にも、何か意味があると思うが、今のところ検討もつかないし……。
「……呪文の研究、今度モードレッド先生とやってみるか」
いけ好かない人だが、能力はある。人格だけで全否定するほど、僕も破綻はしていないようだ。
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合同授業開始から一時間ほど経過、場所は学生寮。一部の生徒が転移直後に点数を取った以外は変動無しの状態で、寮の入り口に防護結界を張りつつその時を待つ。
……彼らは別に、無理をせずとも優勝をほぼ約束されたような位置にいるため、血眼になって得点漁りに行く必要がない。慢心かもしれないが、卒業後の進路も確約された三年にとって、この授業はクラスとの思い出作りに近のだ。
「……はぁ」
「どーしたのナオちん。いつに無く恋する乙女な顔をして?」
「だから違うってば!そうじゃなくて……ほら、最近赴任して来た先生がいるでしょう?」
「赴任……あ、ヒコちん先生とちび子先生の事?」
「……先生にもあだ名をつけてるの、メアリー?」
「私的な時だけね。さすがに、授業中じゃあヒコボシ先生とショウコ先生だよ?」
「私的な時でも言えるだけ肝が座ってると思うなぁ……」
ナオは以前、彦星と会ったことがある。覚えている方もそうでない方にもご説明しますと、武闘試合の際にインターンシップで闘技場近くの治療院へ赴いていたのだ。その時に、彦星の傷を治しているのだが、事の詳細は以前の話に任せるとする。
「……で?その先生が何?」
「私も魔法、教わりたかったなって……」
「そういえばナオちんの家って武家貴族だったよね。回復しか使えないとなると……」
「うん…お嫁に出されちゃう。でも、ユーヒコ先生の所なら、戦える回復魔法使いになれるって聞いたの」
ふぅん、とメアリーはどうでも良さげな相槌を打つ。けれどナオの家の事情や、本人の悩みを一年の頃から知っている親友としては、何とかしてやりたいと思うのは自然な事だ。
「……ナオって、実戦とか見た事ある?」
「本当に戦っている人たちの事?無いなぁ」
「じゃあさ、今から行かない?」
「今から?どこに?」
にぱーっと八重歯の似合う輝かしくもイタズラ心にあふれた笑顔と共に、メアリーはナオの手を取って寮室を駆け出す。
「ね、ねぇ!本当にどこに行くの?」
「行けばわかるよ!大丈夫、この天才美少女メアリーちゃんに任せなさい!」
自分で天才美少女なんて言うと残念な子にしか見えないのはどこの世界も同じのようで。ナオは苦笑いを浮かべつつも、自分の世界がひっくり返るような事が起きるのでは、と静かに心を踊らせるのだった。
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「お、っるぁ!」
「いい太刀筋だな。だが、素直すぎる」
五班のリーチは二年のボルツと相対していた。他のクラスメイトは散り散りになって班長を探している。
細身の彼が放つ一撃はどれも鋭く重く、きっと服の下には極限まで鍛え抜かれた無駄の無い体をしていると思う。
「剣の才も流動術も身体強化も、潜在能力なら俺を遥かに上回っている。だが……」
かちり、と踵を打ち鳴らし、剣の切っ先は天を指した。その次の瞬間には、光速の乱撃が踊るようにリーチを襲う。
「うわ、わわっ!」
「……っ」
反撃に転じる技術はまだ無かったが、その乱撃を避ける才はあった。ボルツにはそれが、何より悔しく羨ましい。
「……っふ!」
更に乱撃は追加され、速度も数段上がった。その速さは、Dクラスのアレキといい勝負だろう。
「く……っ!」
剣と剣が触れ合い、甲高い音と火花がそこら中に飛び散る。身体強化と縮地を駆使し、ボルツの剣速はどんどん加速していった。やがて受け切れずに、リーチはついに自分の剣を弾き飛ばされ。
「もらったァ!」
「……仕方ない」
獲物を持たないリーチを切り裂こうと、ボルツは全力で一太刀を振るう、が。
リーチの姿がゆらりとゆれると、まるで残像を切るようにボルツの斬撃は空を切る。残っていたリーチの姿も、煙のように消えてしまった。
『本当はこの技を使いたく無かったんですけどね。先生にも止められているし』
「ど、どこだ!」
切るべき相手を見失い、ボルツは混乱しつつもリーチの姿を探す。だが上にも左右にも背後にも、リーチの姿は見えなかった。
「…魔力、展開!」
ボルツ自身の魔力を広げ、異物を洗い出す。他の人間や魔法の発動が確認されれば、違和感として感じる事が出来るからだ。
『無駄、無駄、無駄。その程度の密度じゃあ、見つけられませんよ』
声はすれども姿は見えず、いくら魔力を張り巡らせても、ついぞ見つける事は出来ない。
『背後には気をつけてくださいね?』
「っ!?」
慌ててボルツは自分の背後を振り返る。しかし何かいるわけでも無く、ただ刻々と緊張感が己の心を支配するのだ。
「………?」
なんだ?何か違和感が……ある。何かを、見落として……?
「……っ!剣が無いっ!」
あいつの落とした剣が。俺が弾き飛ばした剣が、どこにも見当たらない。
「いつだ?どの段階で無くなった?……いや、大事なのはそこじゃあ無い…問題なのは誰が落ちた剣を持っているかだッ!」
誰がなんて聞くまでも無い。この状況で拾い上げる人間はただ一人、一年のあいつだけだ。
「どこだ…どこにいる……ッ!」
もはや最初の余裕はなく、制服は冷や汗でべったりと濡れている。背中に張り付く転移服が、更なる悪寒と恐怖を呼び寄せた。
「っ!そこか!」
一瞬、ボルツの魔力に異物がチラつき、魔弾を打ち込んだ……刹那。
「惜しい。ここですよ先輩」
「かっ……!?」
背後から飛びつかれ、逆手に持った剣で首元を貫かれた。
「それでは先輩、ありがとうございました」
「…………っ!」
刺さった剣を引き抜き、しっかりと切断。その瞬間、ボルツは転移し、リーチの班に得点が入る。
……リーチ・サルトビ。それが彼の本名であり、実家は外交官。しかし裏では代々暗殺を生業とする殺人集団であり、その始祖は『シノビ』と名乗っていたそうだ。
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