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#64 班分け

 その日、魔法学校一年Aクラスの生徒たちは、本来ならもう用は無いはずの空間に整列させられていた。


「うん、言いたい事はなんとなくわかる。こんなトラウマしか感じないような場所に、しかも合同授業当日の朝に何の用かと」


 うんうん、と生徒は揃って心の中で頷いた。体育の授業専用服に着替えていた最中、突然教室に押しかけてきた彦星を見て嫌そうな顔をした生徒もいるのだから。……女子生徒は戻って来てから押し込まれていたが。


「なに、別に今から特訓するとは言わん。してもいいがな?本題は作戦会議というやつだ」


 あぁ、なるほど。確かに、いくら個々が強くとも連携が取れなければ獣と変わらない。策ある者に無策で挑むのは無茶を通り越して無謀とすら言えるからだ。


「作戦と言っても、今のお前たちの力量ならば油断しなければ負ける事はないだろう。本当に強くなったと思う……が、上には上がいるもんだ。上級生のうち特に注意すべきクラスと生徒を教えておく。まぁ、座れ」


 どこから引っ張り出してきたのか、小さなホワイトボードに専用のペンで情報を書きだしていく。


「さて、まず基本的な合同授業の規則だが。知っての通り、合同授業は三人一組(スリーマンセル)で他クラスと戦い、得点を稼ぐ方式を採用している。一年の持ち点が一点、二年は二点、三年は三点。最終的に各クラスの持ち点を合計し、一番多かったクラスが優勝だ。ここまで、理解したか?」

「センセェ、質問」

「アグラヴァ、どうぞ」


 アグラヴァは立ち上がり、彦星に問いかけた。


「それってぇ、三年生はぁ、同士討ちしかぁ、しないんじゃないですかぁ?」

「そうだな。勝つためなら他クラスを狙って高得点を目指した方が無難だ」

「それにぃ、持ち点があるってぇ、言ってましたけどぉ、無くなるんですかぁ?」

「そう!まさに、そこがこの授業の醍醐味だ!」


 一年生の持ち点が一点。他クラスの一組を倒すとそれに応じた得点が加算される。逆に倒されると、持っていた全ての得点が倒した側に『全て』譲渡され、点を失うと安全地帯に強制転移。これは転移服の効果だ。そして安全地帯で一定時間過ごした後、再び戦場へ。この時、持ち点はゼロ点から始まるのだ。


「つまりは得点の争奪戦!一対多数で生き残りをかけたバトル・ロイヤル!地上でも似たような大会があってな、先生もそこで優勝を……って、そんな話は今は関係無いか」


 いかんいかん、少し熱が入りすぎたみたいだ。深呼吸しておこう。


「…ま、そんなわけで。ここまで確認、ここから本題。特に要注意すべき生徒を教えておこう」


 ホワイトボードに、僕の教えたクラスと、その中でも才能があり手強い生徒の名前を書き出した。


「僕の教えていたクラスは二年AクラスとBクラス、体育はBとDだ。最も注意すべきはBクラスで、Aクラスは魔法に、Dクラスは武術に特化していると考えていい。三年生はインターンシップから帰って来たばかりで知識は二年生に毛が生えた程度だが、それを補うほどの現場経験が高く、技術的に言えばこのクラスよりも遥かに高い」


 百回の練習より一回の経験。本音を言えば先日の強化授業も、地上で行いたかった。


「三年生の誰が強いかは知らん。たが、二年に限定すればある程度絞れる。まずは……」


 二年Aクラスのうち、特に目を付ける生徒は二人。名前を『ラピス』『ラズリ』と言い、双子でありながら高い魔力を所持している。息の合ったコンビネーションは僕でも勝てるか怪しいほどだ。


 Bクラスは五人で『ダイヤ』『プラチナ』『クオーツ』『クリスタル』『アレキ』。魔法の得意な生徒はダイヤとクリスタル、プラチナとアレキとクオーツは武術を得意としている。


 Dクラスには『ボルツ』『パール』『ベリル』の三人。ボルツは単純な剣の才能、パールは身体強化や縮地を得意とし、ベリルは流動術に長けていた。


「以上十名には特に気をつけておけ。束で来られたら僕でも勝てるか怪しい。まぁ、小子と組めば絶対に勝てるがな……っと、そろそろ時間だな。こっちも組み分けするか…」


 合同授業の三人一組は、事前に決めておくらしい。三十人いる生徒を振り分けるのは本人たちの自由意志らしいが、実際はどこのクラスも担任が分けているそうで。


「バランス良く三十人全員を遠距離(魔法使い)近距離(剣士)回復役なんて組むのは馬鹿のする事だ。これはチーム戦、特化型がある程度必要になる。一班から十班に分けるぞ」


 一班はアイリ、ペリノア、モトド。全員回復。

 ニ班はアグラヴァ、テルラム、ルキ。全員剣士。

 三班はオルトリート、ラグネル、ローラン。それぞれ剣士、魔法使い、回復。

 四班はフラウ、フェリオ、シュンレイ。魔法使い二名と魔法支援。

 五班はケイデン、ソフィード、リーチ。剣士二名と身体支援。

 六班はエタード、キュロ、ロウエナ。それぞれ魔法使い、剣士、回復。

 七班はムニラ、ジュジュ、エルザ。全員魔法使い。

 八班はガーロン、サーベル、ローンファル。剣士二名と身体支援。

 九班はキスモ、ブレウノーム、メレア。それぞれ魔法支援、剣士、魔法使い。

 十班はメーロー、フルール、ルーフィア。魔法使い二名と魔法支援。


「組み合わせで察したとは思うが、一応伝えておく。一班は互いを回復させながら負傷した他班を回復して回れ。ニ班、七班は一班の護衛と支援だ。三班、六班は撹乱と他班の補佐。四班、五班、八班、十班は遊撃隊。とにかく得点の獲得に回れ。九班は遠距離から狙撃、打ったら移動を繰り返せ」

『は、はいっ!』


 さて、そろそろ本当に時間が迫っている。この空間を出ると同時に移動しないと遅刻だな。空間の事は露見すると面倒だし、隠しておきたい。


「行ってこい、お前らっ!」


 空間の扉を開けて、生徒達は一斉に走り出す。廊下は走るなと注意されなければいいが。


「…………あっ!僕も行かないと小子に怒られる!」


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


 校庭に全学年がいつかの全校集会と同じように整列させられている。


「えー、本日はお日柄もよく……」


 毎度毎度、それしか言えんのかと思うほどの退屈な校長先生のお話が終わり。


「それでは得点の印を渡しまーす!各班の代表者は装着してくださーい!」


 一年生から三年生に向けて、大量の額当てが配られた。


「額当ての着いた代表者を倒すと、倒した班に得点が加算されます。代表者が安全地帯に強制転移されても、同じ班の方は転移されませんので油断はしないでください」


 額当ての金属部には現在の得点が記載されている。どんな魔法か、授業中は加算された得点が金属部に加算される仕組みだ。一年は白、二年は黄色、三年は青の帯を締め、班ごとに分かれ始める。


「間も無く授業を開始します。特別区に転移しますので、足元の魔法陣からはみ出ないようにしてください」


 そう言って複数の先生が呪文を唱え始めると、校庭の大部分が淡く光り始めた。

 眩むように発光し始め、生徒たちは揃って目を閉じる。次に開けた時には、学校とそっくりな場所へバラバラに転移させられていた。


『さぁ間も無く授業開始です!あなた達の奮闘は飛行型監視魔道具で各界の重鎮様方にお届けされます!有能ならヘッドハンティングがあるかも!?気を引き締めてまいりましょう!』


 何処かの拡声魔道具から聞こえるアナウンスが流れ、授業の開始を知らせるチャイムが鳴り響く。今この時より、合同授業が始まった。

ご愛読ありがとうございます。


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