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#54 またな、ビースティア

獣人の国編、今回で終了です!

 後日談、というか、その後の事。

 僕たちを襲った狐と猫の獣人を森の中で見つけ、各種『因子の性質』を危険視した獣王は二名を地下牢獄に収容。狐の獣人は手足を縛られて壁に貼り付けられ、猫の獣人は宙吊りで管理される事になった。

 タイガは一度イマニティアに帰り、修行の終了を報告。レオナちゃんを婚約者にして、今度ビースティアに戻ってくるそうだ。僕の指名手配の件も調べて教えてくれるらしいから、近々戻ろうと考えている。

 そうそう、僕たち二人が人間だとビースティア全体にバレたわけだけど、嫁取り鬼ごっこの一件があってから普通の人と接するようになっていた。イメージと違うからなのか、時たま「あまり怖くないのね」と言われる事も多々ある。

 国を共に守ったという事実がある為か、獣王の計らいでビースティアの空き家を一件貰った。しばらく滞在すると言ったからなのか、三日に一度の頻度で王族の誰かが遊びに来たりする。ほとんど、オリヒメなのだが。

 それから悪友ことヴォリスはイマニティアとビースティアを行ったり来たりしていた。表向きは逃亡中の僕を探すため、実際はワイバーンとかいうドラゴンと狩りに行くためらしい。近々、イマニティアに連れて行こうとしているとも聞いた。


「……暇だ」

「この前の喧騒が嘘みたいですよね」

「かと言って図書館に来てみても、目を惹く物は置いてないしなぁ……」

「大体、女神の書に書いてありますよね…」


 そう言いながらも、小子は真面目に魔法の指南書を読み進めながら新しい知識を女神の書にコピペしている。よくもまぁ、こんなに未登録の魔法があるもんだな。


「……僕も、ちょっと探してくるよ」

「あ、はい、とうぞ」


 読書スペースを立ち、ぶらぶらと適当に歩いて本の壁を見る。ふと思いついて、練習がてら僕は『蝙蝠(こうもり)の力』を発動させてみた。


「えぇと、キッカケを作って、可能性を生み、その結末に直結させる……こうかな?」


 本を探す動作をして、発動。目を惹くような情報に当たるまで探し続けるというのを条件に、探し続けるという過程をすっ飛ばした。次の瞬間には、実際に目を惹く本を手に取っている僕がいて、思わずその場で開いて読んでしまった。


「…………へぇ、十二都市の隠された秘密、か…」


 それは、十二都市全てが楔となり、強大な悪の根源を封じているという事。天島にて都市を操作し、正しい並びにすれば、巨大な魔法陣を描く事になり、完全封印を果たすことが出来る……らしい。

 嘘か本当か配置図まで掲載されており。天島という、十二都市上空を飛行する島も見た事はないし、信憑性は薄かった。


「…まぁ、摂理の網に引っかかったんだ。配置図くらいは写して持って帰るとするか」


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「うむむむ……」

「ふふん、どうですか?手も足も出ないんじゃあないですか?」


 最近、小子がデュエスの腕を上げた。今現在、将棋で言うところの飛車角落ちで勝負しているのだが、追い詰められる事が多くなってきている。


「…負けだ。次は本気でやろう」

「良いですよ。負ける気がしません」

「……言ったな?じゃあ負けたらトイレ掃除よろしく」

「望むところです!」


 ボードのコマを初期配置に戻していると、家の呼び鈴が来客を知らせた。


「はいはい、どちらさんですかーっと」

「おう、遊びに来たでヒコボシ」

「トラか」

「トラちゃう!タイガや!」


 もはや天丼になりつつあるやり取りを交わし、タイガを家を入れようとすると。


「あぁ、そこで獣王のオッサン拾うて来たで」

「お前もか獣王」

「ユーヒコよ、我の扱い軽くないか?」


 こんなもんだろ。こっちは王権の国じゃ無かったしな、実力主義なんだよ。


「で?まさか遊びに来ただけじゃ無いんだろ?」


 お茶を出しながら、僕はタイガに問う。タイガ自身もお茶を啜りながらコクリと頷いた。獣王は小子とデュエスに興じているらしい……って、最近強いと思ったら指導を受けてたのか!ずりぃ!


「実はな、向こう(イマニティア)で国王陛下と顔を合わせることがあってやな、その時にちょいと聞いてみたんや」

「顔合わせ……あぁ、実家の…」

「…癪に触るけどな。まぁ、定例会みたいなもんや。んで、指名手配されとる彦星を無罪放免にしてくれ言うたんや。ほら、彦星て国王陛下と知り合いやろ?コネでなんとかならんかなーって」


 知り合いと言えばそうなんだが。異世界に来てから割と最初に関わっただけなんだけどね。


「それで、結果は?」

「うん、なんでか知らんけどビースティアの事知っとったみたいでな。獣王さんから一言もろたら、なんぼでも手配を取り下げてくれるらしいんや」

「ん?我か?」


 呼ばれたと思ったのか、獣王がこちらを向いた。小子に教えるのは、ひとまず休憩らしい。


「おう、後でええんやけど、イマニティアの王様に一筆書いてほしいんや。ヒコボシは無罪ですってな」

「……もしやイマニティアの王とはシンなのか?」

「知り合いなのか?」

「ユーヒコよ、我を誰だと思っておる?獣の王ぞ?王が隣国の王族と知り合いでないわけが無かろう」

「それもそうか」

「しかし、あの臆病者が王とはなぁ……さぞ優しく慎重で、愛された国王なのだろうなぁ…」


 一人思い出に浸り始めたが、実際のシンバ国王を見れば落胆するだろうな。何しろ周囲からは愚王と罵られているのだから。


「まぁ、それは置いといて。やってくれるか、獣王」

「構わぬよ。だが一つ、ユーヒコに条件を求める」

「…なんだよ」


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「……全く…無茶言うよなぁ、獣王は」

「ほんでも受けたんやし、出来るんやろ?」

「まぁな」

「さすがヒコボシ!なんでも出来るんやな!」

「なんでもは出来ねぇよ……っと、来た来た…おーいこっちだ!」


 その大きな翼を折りたたみ、ワイバーンはゆっくりと背に乗った男を降ろす。


「お疲れテキーラ、また頼むぜ」

「グルルゥ……」

「うわぁ……おま、名前つけるとか…しかも名前が酒かよ…」

「だってメスなんだぜ?」

「関係ねーよ!つか、どうでもいいわ!」


 ワイバーンはヴォリスに頬ずりすると、名残惜しそうに空へと消えた。よく懐いていらっしゃる。


「で、どうしたんだ心友。わざわざ呼び寄せるなんて」

「あぁ、ちょっと力を貸して欲しくてな」


 預けていたイシケーを今更ながら返してもらい、頼み事を一つする。


「そんな事でいいのか?」

「そんな事が重要なんだ」


 その後、続々と人は集まり、僕が声をかけた人は全員集まった。タイガ、レオナちゃん、ヴォリスはもちろん、獣王と王女様、オリヒメも小子も、それから多分どこかの軒下に蝙蝠状態のブラッドレイとキスブラッド。その他見物客がぞろぞろと。


「じゃあ、始めるか。よろしく頼む」

「おう。ほんならレオナ、やるで」

「はいっ!」

「俺も準備完了だ」


 完全獣化したタイガの上にレオナが搭乗し、煌めきで周囲の恵みを搔き集める。あらかじめ僕の煌めきと繋げておいたので、その範囲は以前集めた量など足元にも及ばない。その間にヴォリスは自分の大剣に魔力を込めて、大きく振りかぶった。


「「【超新星咆哮スターバーストハウリング】ッ!」」「【龍脈割(ドラゴンクエイク)】ッ!」

「結べっ!」


 タイガから発射された極太レイザービームに龍脈の魔力が螺旋状に絡みつく。目の前の障害物を全て破壊しながら、どんどんと先に進んでいき……やがて発射されたレイザービームは障害物を貫通した。

 僕に課せられた条件とは『シャフモン山の抜け穴が狭いから何とかして』という事。それに対し、僕は『広げるのは面倒だから新しい穴を掘ろう』と言い出し、今回の作戦を思いついたわけだ。


「さ、穴は開けたぞ」

「……こんなに規格外というか、常識外れなのも、困ったものだな」

「僕がやったんじゃない。みんなでやったんだ。僕だけ異常だなんて心外だなぁ」


 何でも出来ちゃうウフウフ神様の万年筆を持ちながら何を言っとるんだお前は。と脳内でノリツッコミしてみたが特に面白くないからボツ。その後手紙を受け取って、僕と小子はイマニティア方面に空きたてホヤホヤの大穴を補強しつつ、数ヶ月に及んだ獣人国ビースティアの大冒険は、ようやく終わりを告げたのだった。

ご愛読ありがとうございます。

次回より、新章突入です!

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