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#52 コンvsタイガ 決着

「…………」

「ん?どうした、また頭を抱えて。また痛むのか?」

「…いや、何でもない」


 僕の中の主人公という概念が、どこかの悪友に取られそうになったのだが……まぁ、あまり大したことじゃない…と、思っておく。それよりも、だ。


「獣王、奴への攻撃は任せる。どうも僕と奴じゃあ相性が悪いらしい」

「そうなのか?だが任せると言われたところで、我の攻撃も当たらんのだろう?」

「普通はな。いいか、奴の能力は事実の改変……獣王の攻撃が当たった事を無かった事にする能力だ。だから僕がその改変を無かった事にする」

「んん?……よく分からんが、我は今まで通りに戦えば良いのか?」

「あぁ、僕は補佐に徹する」


 作戦会議が終わる頃、ブラッドレイも頭痛から解放されたのか、星力防御壁を解除する。


「よし、作戦開始だ!」

「言われずとも!」

「くっ……!」


 獣王は何も考えずにまっすぐ殴りかかった。ブラッドレイは咄嗟に事実を捻じ曲げようとするが……彦星はそれを見逃さない。


「させるかよっ!」

「打リャアアアア!!」


 逃げない的ほど殴りやすい物は無し、とばかりに、獣王は殴りかかった。捻じ曲げを阻止されたブラッドレイはその一撃をまともに受ける。それでも倒れたりしないあたり、痛みにはそれなりの耐性があるんだろうな。


「フハハハハハ!逃げられぬとは不便なものよのう!」

「この……っ!能力だけが全てだと思うなぁっ!」


 ブラッドレイの星力が膨れ上がったかと思うと、僕と同じように体を星力で覆った。それだけで、身体力はかなり強化されている。


「はぁっ!」

「ぬぅっ!」


 手から星力が射出され、獣王は煌めきで迎え撃つ。こいつは遠近両方でも厄介だ。ここに能力が上乗せされるというのだからなお悪い。


「その星力を放出する方法……並大抵の努力では成し遂げられん筈だ。星域の固定化や、かつて星闘法と呼ばれた星力を纏う技術もそうだ」


 えっそうなの?割と僕、当たり前みたいにしてますけどねぇ?魔力を放出したり星域を固めたり飛んだり、体をコートするのは基本中の基本なんじゃないの?


「だが、なぜお前はその力を良き方向に使わぬ?我には分からぬのだ」

「……分かって欲しいとは思わないが…あえていうならばより良き世界を作るため。その為に、邪魔な存在は全て排除する」

「…………譲り合うことが出来ないのかと、聞いても良いか」

「無理だと、答えておこう」


 そう答えた瞬間、ブラッドレイは先程とは比べものにならない速度で『飛翔』して、正面に、正確に、正直に、獣王の急所に星力の塊を打ち込むのだった。


 ▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎▪︎


「るぁああ畜生ッ!この、真似女ッ!」

「あらあら、本当に読みやすいのねアナタ」


 タイガが右ストレートを繰り出そうとすれば、先読みされたようにカウンターを当てられる。完全獣化から擬獣化、その切り替えによるブラフ、回避、不意打ちすら、コンは真似てみせ、その上で、アレンジを加えて来た。


「くそっ……!同じ真似事する言うたかて、ここまで好感度が違うとは思わんかった…!」

「あら?私の他にも真似事が得意な人がいるのかしら?」

「あぁ、おるで。アンタより百倍マトモで頼りになる『漢』やっ!」

「あらぁ、羨ましいわねぇ」


 擬獣化から完全獣化になるんも慣れて来たな。今じゃ呼吸より楽やわ。


「本当に、羨ましいわねぇ。戦いながら成長する人なのねぇ?」

『師匠にも言われたわ。アンタも道さえ間違えへんかったら、ええ師匠になったんやろ、なっ!』

「そうねぇ……でも、私の獣生(じんせい)はシャロ君に捧げるって決めちゃったし、シャロ君が望む世界の為に私は生きる事を許されるのよ」

『頭オカシイんとちゃうか!?』


 いい師匠に、の(くだり)からタイガの猛攻が、上から下からその他諸々の位置より連撃を繰り出しているのだが、コンはその全てを話しながら避け切っている。巫山戯ているとも取れるが、それは同時に圧倒的な技量差を証明していた。


「……あの、タイガ君」

『うぉっ!びっくりした!?』

「ご、ごめん!驚かすつもりは無かったの……」


 完全獣化したタイガの上に、本人に気付かれる事も無くレオナはよじ登る。その背中で、コンには聞こえない様に話かけて来た。


『怒ってへんで。それより、危ないさかいに隠れときや』


 そう避難させようとタイガが声をかけたが、レオナはゆっくりと首を振った。


「…わ、私も……戦いたい。タイガ君の、力になりたいの」

『そんなん言うたって、レオナ……自分の煌めき、戦闘向きちゃうやろ?』


 レオナの煌めき。それは〈集の煌めき〉と呼ばれるもの。星域内外問わず、恵みを集める煌めきだ。膨大な星力を生成する煌めきだが、その集めた星力を拾う『(レオナ)』が小さく、また放出する才も適性も無く、本人とは全くソリの合わない煌めきだった。だからただ集めるだけ。それ以上でも以下でもない、没能力。


「分かってるの、分かってる…けれど、あの技が成功すれば、勝てるかもしれない」

『そら、アレが出来たら強いやろけど……今まで一回も成功せえへんかったやん?』

「………」


 そう言われて、レオナは黙り込んでしまった。失敗すれば、タイガだけで無く影響を受けた生物全てに星力が逆流しかねない。あの時は、ガオウの管轄下だった為に、大事にならずに済んだのだから。しかし、今この場で制御してくれる人は存在しない。

 もしかしたら、タイガが暴走して助けに行った人を襲ってしまうかもしれない。そんな事になったら、そんな事になれば、取り返しのつかない事になるかも……。


『ガアアアアアッ!』

「あら、どうしたのぉ?今更、咆哮?」

『あぁそうだよ、悪いかッ』


 本当はネガテイブになっとったレオナに向けて放ったんやけど、そんなんどうでもええわ。


『おいレオナッ!たらればの話なんかしてんやねぇぞ!やってみいひんかったら分からんやろがっ!』

「で、でも……」

『戦士ならッ!『でも』と『だって』は禁止やッ!言ったやつから死んでいく!俺は、レオナと一生一緒にいたい!死ぬまで一緒に生きていたい!戦いたいんやったら、カミサマでも奇跡でも何でもかんでも縋って頼って生きぬいて見やがれ!』


 こんな時に愛の告白をしたのだが、おそらく本人は全く気付いていない。せいぜい、レオナのやる気に火をつけてやったぜ、程度の認識だ。やる気では無く顔に火をつけてしまった様だが。


「……タイガ君…うん、そうだね!私、やってみる!」

『おう、そのイキや!』

「人の目の前で作戦会議かと思えば、いちゃいちゃいちゃいちゃと……私だって、シャロ君といちゃいちゃニャンニャンムフフフフな事シたいのにっ!」


 そんな光景を見せられて、絶賛恋する乙女のコンが嫉妬しない訳がなく。


「……あぁ、羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましい。羨ましくて羨ましくて羨ましくて羨ましくて羨ましくて羨ましくて羨ましくて羨ましくて羨ましくて…………」


 自称悲劇のヒロインは。その底なしの嫉妬心をさらけ出す。


「…………殺したくなっちゃった♡」

「『ッ!』」


 恍惚とした表情で、コンは隠し持った殺意をむき出しにした。


「うふ、うふふふ、あはははははは!」


 今までの事が茶番だったと言われても信じられるくらいに、コンは豹変する。体を星力で覆った状態で踏み込み、不可視の切り裂き攻撃を繰り出す。防ごうとしても攻撃性能が高すぎて、タイガの技術だと防いだ腕ごと斬り飛ばされた。


『ぐああああっ!!』

「あははは!すっごぉい!切っても切っても直ぐに治るのねぇ!」


 完全獣化は本物の肉体を使っている。頭を吹き飛ばされない限り、切り傷や打撲は強化された超自然治癒能力で塞がれるのだ。


『つっても痛えのは痛えんやけどなぁ!?』


 もうこいつは、さっきの奴とは違う。明確な殺意を持って、殺しに来とる。せやったら、こっちも覚悟を決めなあかん。


『レオナ!こっから先は殺し合いや!覚悟決めとけェ!』

「う、うんっ!」


 落ち着け、この相手は俺や。鏡に写った俺や。俺と同じ能力、俺と同じ体格で、俺以上の技量を持った俺。俺が概念崩壊しそうやけど、つまりは『この強さに俺はなれる!』っちゅう事や。


『…魔力を体に纏うんは、いっぺん見たしやった。下手くそやったけど、やらんかったら死ぬんや……人間、死ぬ気になったら何でも出来るんやっ!』


 想像するんや、ヒコボシもしれっとやっとったやろ。俺にも出来るはずや。想像、想像、想像……体の外に魔力を出す。広げ過ぎたら星域やから、もっと範囲を狭める想像で……薄い膜を作るみたいな…。


「止まってちゃ当たるわよぉぉぉぉぉ!?」

『……出来たっ!』


 高速とも取れるコンの攻撃が当たる寸前、タイガは魔力コートを習得する。あらゆる感覚を底上げするこの技術は、タイガの動体視力をも底上げさせ、次の一手を簡単に行わさせた。


「…な、何ですって!?」

「……擬獣化からの、殴り上げ。今のアンタは止まって見えとる」


 自分の数倍はある巨体を、ただのアッパーで空高く打ち上げられたのは、体を纏う魔力を拳に集中させると言う魔闘法、星闘法に通じる方法に、自力でたどり着いたからだ。


『完全獣化!チャンスは一度きり、俺たちならやれる!成功させんで!』

「分かった。行くよ、タイガ君!」


 完全獣化したタイガの背中に乗ったレオナは、両手をタイガに押し当てて煌めきを発動させる。星域内外、そのもっと広い範囲、世界を満たす恵みを引き寄せ、集め、星力に変換。膨大な量の星力を、そっくりそのまま完全獣化したタイガの肉体に注ぎ込む。器が小さ過ぎて注げないのなら、大きい(タイガ)に変えて注げばいい。その身で扱える限界まで星力を入れられたタイガの肉体は腹部が肥大化し、吐き出しそうになるのを必死に堪え、蓄える。


『ウウウウウ……やるで、衝撃に備えとけよ…』


 ガパリと大きく口を開けて、タイガは注がれた星力もとい魔力を口内の奥に移動させた。変なふうに溜まった力はその出口を目指して指向性を形作る。あとは、その指向性の方角を向くだでいい。


『…………前は、衝撃に耐えられず四方八方にブチまけた事が原因だった。だからッ!』


 両前脚を地面に強く打ち付けて埋め込み、後ろ足は畳んで『おすわり』のポーズ。その全てが終わった瞬間、溜まった力は臨界点を超えた。


「『食らいやがれ!超新星咆哮スターバーストハウリングッッッ!!!!!』」

「ひ、ぎゃああああああああああ!!!!!」


 半ば黒歴史に名を連ねそうな技名を叫びながら、解き放たれた魔力は一直線の光の線を描き、射線上の全てを焼き払う。避ける事は叶わない極太レイザー砲を直に受けたコンは、絶叫を上げて遥か彼方へと吹き飛ばされた。後に見つかったコンの姿はこんがりレアに焼け、元の美貌は見る影もなかったと言う。まぁ、化けるのが能力である彼女にとって、姿形など関係ないのだろうが。


「…………や」

『…………や!』


 飛んで行ったコンを見届けたタイガは完全獣化を解除して、もとの人に戻る。二人揃って満面の笑みを浮かべながら見つめ合うと、手を取り合って踊り出した。

 ……戦場の、ど真ん中で。


「「やったぁぁぁ!勝ったぁぁぁ!成功したぁぁぁ!!!」」


 クルクル踊って飛んで跳ねて、ある程度気持ちを落ち着かせると、今度は余韻を楽しむ。そんな中で、ふとレオナはある事を思い出す。


「そ、そう言えば……」

「ん?」

「…その、私と一生一緒に生きていたいとか、言ってましたよね……?」


 言われてタイガは自分の言動を思い返し、一瞬で赤面する。


「…………あ……いや、その……ほら、アレや、ええとな…」

「……タイガ君」

「……え?」


 言い訳を考えるタイガを呼び、レオナは少し高い位置にあるモノに、背伸びをしてそっと……口付けをした。


「……!?…!?!?」

「末永く、よろしくお願いしますね」

「タイガ君!レオナちゃん!」

「「うわぁぁぁぁ!?」」


 アツアツの二人のすぐそばに、その小さな魔法使いと巨漢の男はは現れる。


「はぁ、はぁ……び、びっくりするやんか!」

「わ、悪りぃ!だがよトラ、今すぐデカくなれるか?ヒコボシを助けにいかねぇと」


 あ、そうやった!こんな事しとる場合とちゃうやん!


「魔力が回復したら、私が転移をさせます。急いで!」

「お、おう!」


 完全獣化を果たしたタイガに三人乗り込み、素早く行動を起こすのだった。

二人は幸せなキスをして終了。


最終回じゃないからね!?

次回もあるからね!?


ご愛読ありがとうございます。

感想、ブクマ、レビューお願いします。


20171105→最期の加筆修正

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