#42 五色戦隊ジュウセイジャー第50話『覚醒!五人の戦士!』
あ、すみません読む小説は合ってます。
とある獣人国の、とあるビースティアの、とある時計塔の、地下深く。そこに、彼等五人の戦士の秘密基地が存在した。
彼等の存在意義は、司令の出動命令を受け、迅速に成し遂げる事。決して悟られることは許されず、秘密裏に悪を滅ぼさなければならない。
「……そして何より、この役目は年に一度最強の使い手が選ばれて…」
そう説明口調で話す彼の名はシャロン。
「いやいや、秘密でもなんでも無いから。入り口に普通に『秘密基地』って書いてあるから」
シャロンのボケに、冷静に答える彼の名はラオガ。
「馬鹿ね、そういう設定なんでしょ。というか、アンタがリーダーなんだからそこは忠実に従わないと、ね?」
そんな彼等を見ながら、小馬鹿にするような彼女の名はフウ。
「や、やめなよお姉ちゃん。ラオガさんは真面目なんだよ…?」
フウを姉と呼ぶ、彼女の名はライ。
「あー、お前ら静かにしろよ。今週のケモキュアが読めねーだろ」
そんな四人に釘を刺して、趣味に没頭する彼の名はモグゾー。
秘密の………そう、秘密の……もう秘密でもなんでも無いんだけど…ともかく、実力『だけ』は確かな彼等は、今日も司令の出動命令を待つ。
「ちはー、郵便だメェー」
「あ、どーもお世話様です」
そんな平和な秘密基地に、一通の手紙が届いた。
「お?俺のケモキュアグッズかな?」
「秘境通販だっけ?違うみたいよ?」
「秘密基地なのに……郵便って…」
差出人は不明、真っ白な封筒には彼等のチーム名のみが記載されている。ペーパーカッターで封を切ってみると。
「誰から?」
「司令よ」
彼等は取り合うようにその手紙を覗き、文脈を読む。そこには、今開催されている嫁取り鬼ごっこの詳細と、腕章、それから出動命令が書かれていた。
「指令、現在逃亡中の人間を捉えよ、ただし生け捕りに限る。なお、煌めきの使用について当局は一切関与しない……だ、そうよ」
「えっそれってつまり……」
「祭りに参加してこい、って事じゃね?」
「よっし、もう暇だから行こうぜ!公然と暴れて良いんだろ?」
「落ち着けシャロン。ボク達は正義の味方なんだ、あまり乱暴は良くない」
「そーだそーだ、子どもには優しくしないと、ね?」
「子ども子どもうるっさいわね、アンタは穴蔵でポークビッツでもイジってなさい」
「お、お姉ちゃん……さすがにポークビッツは言い過ぎだよぉ…シシトウくらいあるよきっと」
どのみちヒドイ言われようだなおい。ポークビッツもシシトウも大差ないだろうに。
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「だぁぁぁもうっ!なんだってこんなに参加者増えてんですかねぇ!?」
「し、知りませんよぉ!イベント二日目って結構盛り上がりますし、その影響みたいな事じゃ無いんですかぁ!?」
今朝は時計塔で優雅な朝を迎えるかと思いきや、日の出前からの喧騒で僕たちは目を覚ます。騒ぎの正体は腕章を装着した獣人が複数人と、昨晩の猫獣人が戦う音だった。
おまけに、起きた僕たちに気が付いた猫獣人は「うるさくして悪いのにゃー」と、その身を犠牲にしながら言い放ち、「昨日の撫で心地は最高だったにゃー、だから助けてやるのにゃー」と逃がしてくれた。それからはもう走って隠れての繰り返しで、昨日よりも多くの獣人が僕たち二人を追いかけ回し、朝食もろくに食べていない。
「というか、どこだよここ!」
「それこそ知りませんよぉ!」
闇雲に走り回った結果、僕たちは路地の中を走り回っていた。曲がりくねった道に、細くて通れるかどうかも怪しいような細道。屋根の上に登れば迷う事も無いだろうが、それだと目立って他の獣人を寄せかねない。そうこうするうち、僕たちは路地の行き止まりに辿り着いてしまった。
「どどどどうするんですか!」
「おお落ち着け、落ち着いて素数を数えるんだ!」
何もこんな時までなんて思ったが、今はとにかく落ち着くべきだ。眼前の壁、背面の獣人。これらを一度に乗り切るには………!
「煌めき、発動!」
【結の煌めき】を発動し、僕と小子と万年筆を結ぶ。即座に【煙】を発動させ、周囲を不可視にした。
「たのむ、間に合えっ!」
煌めきの糸を、一番高い位置の点……つまり、あの猫獣人まで伸ばす。
「借りるぜ、【隠の煌めき】!」
追っ手の獣人が煙を吹き飛ばす頃には彦星の姿は無く、またどこかへと探しにその場を去っていった。
「………ふぅ、行ったか」
「結ばれている私にも影響があるって、本当に反則じみてますよね…」
煌めきを解除し、その場を一歩も動かずにやり過ごした二人は、ひとまずの休息を取る。朝食用の食料を水で胃に流し込み、十秒チャージで糧とした。
「………あの、私思ったんですけど」
「………んん?」
「彦星さんの空間に潜んで、三日間やり過ごしちゃダメなんですか?」
「…実は、僕の空間はゆっくりと時間が流れていて……早い話が、外の一時間が中の一日とほぼ一緒なんだ」
「と言う事は、仮に今から引きこもっても一ヶ月はかかる……はぁ、普通に逃げましょうか」
魔力温存の為に煌めきを解除し、僕と小子はその姿を晒す。周囲の気配に注意しながら、屋根を伝って再び街中を走り回り………。
「そこまでだ、悪党!!」
「…は?」
呼び止められて振り向けば、腕章を装着した五人の獣人がいて。陣形でも取るかのように、横並びでこちらを向いていた。
「街のあちこちで見られる異変は全てお前の「逃げるぞ、小子」「はい」…ちょちょちょい!待て待て待って、ね?お願い、最後まで聞いて?」
なんだこいつ。腕章を持ってるくせに、ルールも無視して待ってとか、待つわけないだろ。しかしまぁ、襲う気配が無いのも事実だし、咳払いも済ませて準備してるし、聞くだけ聞いてもいいか。
「……どうぞ?」
「ありがとう。では改めて……そこまでだ、悪党!!」
あ、そこから?
「街のあちこちで見られる異変は全てお前の仕業か!成敗してくれる!みんな、変身だ!」
「「「「おう!」」」」
ヘンシン?何言ってんですかねこの人たち。
「「「「「衣装交換!」」」」」
五人がそれぞれの手に何かを持って叫ぶと、赤青黄緑茶の色を放って光り輝き、色に沿った炎や水に包まれる。
足の方から炎などが消えていくと、ヒーロー戦隊のような統一感を持ったスーツに早変わりしており、顔の部分にはフルフェイスのようなヘルメットを装着していた。
「燃ゆる火は星の情熱!フレイムレッド!」
「流るる水は星の清流!アクアブルー!」
「痺れる雷は星の電撃!サンダーイエロー!」
「荒れる風は星の暴風!ウインドグリーン!」
「揺れる土は星の地鳴!サンドブラウン!」
それぞれが、それぞれの種族を模したポーズを取り、必死に考えたであろう名乗りを唱え上げる。
「我ら五人揃って「「「「五色戦隊!ジュウセイジャー!」」」」」
………あ、そういう…ヒーロー戦隊のような、ではなく。ヒーロー戦隊そのもの、と?しかし、こんな組織があるなら過去の未来にもいそうなんだが………思い出した!確かにいた!出現率が低すぎて記憶の片隅に押し込んでた!
「……あの、一つよろしいでしょうか?」
おそるおそると言った風に、小子はリーダーと見られるフレイムレッドに話しかける。
「変身の掛け声、もうちょっとなんとかなりません?」
「や、やめろぉ!それには深い事情が「あのな、小子。あの掛け声は男の子にも女の子にも馴染んでもらおうと可愛くした結果なんだ。他にも色々と裏設定があるから、探すと愛らしく憎めないチームなんだぜ?」……」
そう、例えばあのスーツを作ったのは超高齢のじいさんで耳が遠いとか、女性陣からは体のラインが出て嫌だと苦情が出ていたりと、中々に強烈なキャラクター達なのだ。
「どうしてそんな事を知っているんです?」
「それはな、重版も重版、大重版祭りの公式ファンブック『ジュウセイジャー大図鑑』の初版十五ページに書いてあるからだよ」
「マニアックすぎます!」
ちなみに、当のご本人達は赤面したり頭を抱えたり嬉し涙を浮かべたりと。黒歴史を掘り下げられた人のような反応をしていた。
「まぁ、そんなわけで……ここからはちょっとロールプレイしてみるかな」
「え?」
一度、深呼吸で心を落ち着かせ、僕は悪役を演じてみせる。
「ガハハハ!出たなジュウセイジャー!今日という今日は始末してやる!」
一瞬、呆けたジュウセイジャーはこの演技の意味を即座に理解し、僕の茶番に入り込んで来た。
「し、正体を現したな!」
「黙れぃ!貴様らを滅ぼすのはこの……ええと…〈オンナスキー〉様だ!」
「彦星さん……そのネーミングセンスはどうかと…」
「う、うるさい!…そうだ、小子ちょっと逃げ惑う街人Aを演って?」
「えぇ……『キャータスケテー』」
小子に演技は無理か。棒読みも棒読み、助けてほしい感が足りてない。しかしその演技を利用しなくてはいけないのも、また事実だ。
「ガハハハ!この少女は私がたぁっぷり可愛がってやるのだ!」
「お、おのれ…そんな年端もいかない乙女を手にかけるとは、この人でなし!」
そんな会話をしつつ、僕は万年筆で【土人形】を【複製】する。ゾンビのように召喚された土人形を、いかにも戦闘員な格好にさせた。
「やれ!やってしまえ!」
『ヴァー!』
レッド以外のヒーローひとりに、四体の土人形をあてがう。即刻倒される事も無いが、しかし強敵というわけでも無い。つまりは足止めだ。
「はぁああ!火炎拳!」
「甘いっ!」
レッドの炎を纏った拳を、刀の鞘で打ちはらう。すかさず鞘で刺突を繰り出し、レッドを遠ざけた。
「っぐう!」
突かれたミゾオチを抑えつつ、再びその手に炎を纏わせる。また同じようにはらってやろうと構えた瞬間、拍手が目の前で繰り出され、火の粉が爆ぜた。怯んだ瞬間、今度は僕のミゾオチに炎の蹴りがめり込む。
「ゔっ……」
「お返しだっ!」
こ、これはキツイ。殺さないように、傷つけないようにと、手加減をしすぎた。とはいえ、今持っている刀じゃあ殺傷力が高すぎてうっかり首が飛びかねないし、鞘を使っての攻撃もある程度限られてくる。
「…こ、こうなったら……!」
煌めきで万年筆と繋ぎ、僕は【刀】を作る。さらに刀の文字を念じながら、手元では【複製】【操作】を書いた。
「ガハハハ!どうやら私を本気で怒らせてしまったようだな!」
「な、なにっ!」
「そぉら、切り斬り舞えやぁ!」
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「はぁああ!」
「ヴェア!?」
ブルーの水流が刃のように飛び、土人形の首が切断される。しかし、一体でも残すと土を継ぎ目に盛られ、復活を果たすのだった。
「くそっ!倒しても倒してもキリがない」
ブルーの戦い方は、ヒットアンドウェイが主流となっており、こと一対一なら負け知らずなのだが、こういった対多数はどちらかと言うと苦手な分野だった。
「水流斬!」
手刀を振るって水の刃を飛ばし、一体を十字斬り。復活を果たす前に足を水の刃で包んで二体同時撃破。しかし、残る一体が十字切りされた土人形を修復し、気づいた頃にはまた同じ事の繰り返し。
「なんとか、一箇所に集めないと…」
土人形に厄介な攻撃方法がある訳でもなければ、高い耐久が備わっている訳でもない。しかし倒しても倒しても復活する様は、伝説の怪物のようだった。
……まぁ、彦星の想像した能力がゾンビのそれなので当たり前なのだが。
「一箇所に、一箇所に……どうすれば…そうだ、集めればいいんだよ!」
何を言っているかって?渦を巻けば物は中心に集まるだろ?
「まずは、水を生成……で、操作!」
大量の水の中に土人形を埋め、それをゆっくりと回し始める。自分もその中に入り、獣人本来の能力を行使した。
「回れ、回れ、回れ、回れ!」
次第に巨大な渦を巻き始め、土人形は逃れられずに中心へと寄せられた。
「……あんまし、遠距離は得意じゃねーんだけど」
水から飛び跳ね、渦を上から見下ろし、両の手の平で輪を作る。
「こんだけ動かなきゃ、当てやすい」
輪の中に水が生成され、その水は大量の星力を含んでいた。
「くたばれ!【ウォーターレイザー】!」
放たれた極太の水鉄砲は、見た目通りの威力を発揮し、土人形はおろかその下の建物、地面をもえぐり、深さ三メートルは掘り下げてようやく収まる。
「ふぅ、これだから遠距離は得意じゃねーんだよ」
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「あぁもう、なんなのよコイツら!」
「お、お姉ちゃん、普通の土人形だよ?」
「普通の土人形はこんなにキモく復活しないってーの!」
グリーンとイエローは共闘し、相手とする土人形は合計八体。彼女達は空へと一度避難し、戦略を練っていた。
「さっきの復活の仕方を考えると……」
「うん、ぜぇんぶ一緒に殺さないとダメなんだよね…」
「つまり、アタシらの得意分野って事じゃん?いつもみたくヤるよ」
「あ、うん」
グリーンは自分の羽を八枚引き抜き、煌めきの風を使って一枚づつ土人形に刺す。
「準備完了、やっちゃいな!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、死んでください、あ、生きてませんでしたね、ごめんなさい!」
イエローの煌めき、電撃が放電され、グリーンの準備した羽を避雷針にして直撃した。超高電圧の電撃を受けた八体の土人形は、その一撃でモクズと化す。
「さぁ、リーダーを助けに行かねーとな!」
「…お姉ちゃん、ラオガさんの事心配なの?」
「は、はぁ!?別に心配とかじゃねーし!どーせ苦戦してるだろうから助けてやらなきゃ可哀想かなーってだけだし!」
「………お姉ちゃん、それ、恋っていうんだよ?」
「ここここ恋じゃねー!!!アタシは恋なんかしてねー!!」
色恋はよそでやれよ、ちょっと壁殴り代行呼んで砂を吐くわ。
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「ふ、土使いの俺に向かって土人形たぁ、いい度胸してやがる」
ブラウンは四体の土人形を相手に、指一本で戦っていた。
「これじゃあ倒し甲斐が無いじゃん。もういっそ巨大化しちまえよ」
土人形を操作し、四体を一体にまとめ上げる。四倍の大きさになった土人形を見上げ、ブラウンはヒュウッと口笛を吹いた。
「いいね、迫力満点。でもそれだけじゃあ無理だな、勝てねーよ」
ブラウンが煌めきを行使すると、嫌な地響きが聞こえ始める。うろたえる土人形を土の棺桶が迫り来る音だ。
「捕縛、形成、形成、形成、研磨、研磨、生成、研磨、装飾、装飾、装飾」
足を囚われた土人形は迫る棺桶にゆっくりと閉じ込められ始める。その棺桶の中には、鋭く尖った巨大な針が何本も生えていて。
「即席必殺【鉄の処女】」
完全に棺桶が閉じると、演出なのかしっかり流血のエフェクトまでされる。もう、土人形はピクリとも動かない。
「…さて、レッドの様子を見てくるかな」
五色戦隊ジュウセイジャー Aパート終了
CM入りまーす。
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